ドラゴン・キル・ソード

空野 一春(あくや ひとはる)

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3話「地獄の特訓」(5)

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真実を聞いたマネラはショックを受けた。そして椅子に座るドログから後退りをする。

「そ、そんな。じゃあいままでの特訓はなんだったの?貴方だっていままで前向きに特訓の事ばかり考えていたじゃない。あの子や貴方がいままでやってきた努力には一体何の価値があったの?」

「最初から何の価値もないさ」

すると、ドログはマネラの方に視線を向けてきた。マネラの目に映ったのは片目から涙を流すドログの姿だった。

「あ、貴方...」

「マネラ、また息子のようにドラゴンに無惨な姿にされる犠牲者が見たいか?私のように片腕や目を奪われて不自由な身体にされる人間が見たいか?」

「そ、そんな......」

マネラは言葉を失い、地面に膝を付く。そして、ドログは逆に椅子から再びゆっくりと立ち上がった。

「俺はただジャックを救うだけだ。絶対ドラゴン共の餌にはさせない」

すると2人の会話に気づいたジャックが背後を振り返る。

「ど、どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。気にするな」

「じゃあ、持ち上げますね」

「あぁ、やってみろ」

登ってきた山道の下から追い風が吹く。ジャックの身につけていたマフラーが揺れた。

「母さん、メイ。俺は剣士になるよ」

夕日に照らされた巨大な岩の下にゆっくりと両手を入れた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ジャックはいままで生きてきた中で上げた事のない声量を喉の奥から出しながら、岩に力を加える。

「ジャック、無理だけはしないでね」

「心配は有難いですけど、今日だけは無理させていただきますよぉぉぉぉ!!」

ジャックは汗が止まらないくらいかきまくる。しかしそれでもジャックは顔を膨らませて、全身の筋肉に力を込める。

「くそぉぉぉぉぉ!」

しかし、岩はまったくビクともしない。

「その岩は我が家と同じ重さだ。お前には無理だ、もう諦めろ」

「ジャック、もうやめて!」

しかし、ジャックは岩を持ち上げる事しか頭になかった。

「嫌だぁぁぁぁぁ!死んでも諦めないぃぃぃぃぃ!」

「あの馬鹿......」

ドログは諦めの悪いジャックを見て、呆れてため息を吐いた。しかし、その時だった。突然、地面が揺れ始めた。

再び椅子に座っていたドログは驚きまた勢いよく立ち上がる。

「そんな、馬鹿な......」

「す、凄い......」

岩が地面から離れて少しづつ浮き始めた。ドログとマネラは驚いた表情でジャックを見守る。

(自分の身体を信じろ。自分の精神を信じろ。師匠とマネラさんの思いを信じろ。今の俺に不可能はない!)

そしてジャックは遂に巨大な岩を頭の上に持ち上げた。

「俺は絶対ドラゴンキラーになる!!」

そしてジャックはそのまま足をゆっくり動かして、岩を下に向けて谷底に放り投げる構えを取った。

(この岩を自分の村を襲ったドラゴンだと思え。俺はこの岩を今ここで倒してやる!)

「持ち上げたのか、本当に....?」

ドログは一瞬、自分の目を疑った。

「ジャック!!」

マネラは涙を流し、笑みを浮かべながらジャックに叫んだ!!

「いくぞ!」

マネラさんの叫び声が聞こえた。その声に背中を押されるように、俺は。

「うぉぉぉぉぉ!!!飛んでけぇぇぇぇ!!」

手前に落とすどころか、はるか遠くまで勢いよく放り投げた。風を切り岩ははるか遠くまで飛んでいく。

「はぁはぁはぁ......」

岩は遠くまで飛んでいき、下に落ちて見えなくなった。落ちた音もまったく聞こえなかった。そして俺は額の汗を袖で拭いた。

(身体が折れるかと思った......というか身体が全身麻痺してまったく動かない。このままじゃ倒れる.....)

俺が白目を剥いて意識が呆然と立ち尽くしていると、マネラさんは涙を流したまま自分に抱きついてきた。

「ジャック、ジャック、ジャック!!価値はちゃんとあったんだね!!」

俺は顔を真っ赤にしてマネラさんに身体を支えてもらう。

「ははははは、価値?何の話ですか?あ、勝ち?って勝利って事ですか?」

「ジャック」

すると、ドログも近づいてきた。

「やりましたよ、ドログさん。俺!!」

するとドログさんの顔がいきなり歪み、怖くなった。

「遠くまで飛ばす奴がいるか!この馬鹿!」

「いだぁぁぁ!」

その後、俺はドログ師匠に岩を遠くまで投げ過ぎて頭を叩かれて、酷く怒られた。そして、その後、何事もなかったかのように素早く3人で家に戻った。






——————





「さぁ今日はご馳走よ!ジャックも貴方もたーくさん、食べてねぇ!」

家に帰るとマネラさんは普段よりも大量の料理を振る舞ってくれた。普段はスープとパンだけだったが、今日だけは大きな白い皿に骨付きの焼かれた肉料理が山積みにされている。

「今日はジャックの為にお肉をたくさん焼いたわよ!」

「じゃあ、遠慮なくいただきます!」

俺は焼かれた肉を手に取り頬張る。そしてあまりの美味さに手が止まらなくなる。

「ジャック、焼き加減はどう?」

「OKです!」

俺はマネラさんに親指を立てた。

「それなら良かった!仲良くみんなでお腹いっぱい食べましょう!」

するとドログさんはまったく食事に手をつけずに椅子から立ち上がる。

「俺はもう寝る。2人だけで食べろ」

「えー、せっかく貴方の分も作ったのにぃ!あ、もしかしてジャックに気を遣って自分の分も食べさせてあげたいの?それならもっとたくさん振る舞っちゃうのに」

「良いから俺の事は気にするな」

そう言って、ドログさんは自分の部屋に行った。

「ジャック、旦那の分もあるけど全部食べれる?」

「はい、ぜひ任せてください!」

ジャックは両手に骨付き肉を持ち、星の様に目を輝かせながら答えた。

「ジャック、ちょっと話があるんだけど良い?食事中だけど」

「ふぁい?ふぁんですか?」

「耳を貸して、あんまり大きい声で言いたくないから」

口をモゴモゴさせているジャックの顔にマネラは自分の顔をギリギリまで近づけた。

「ジャック、今日はありがとうね」

そう言って、マネラはジャックの頬にキスをした。

「えぇぇぇぇぇひょぇぇぇぇ!?」

ジャックはそのまま椅子に座ったまま背後に倒れて気絶してしまった。

「あ、ちょっと刺激が強過ぎちゃったかな?はははは」

マネラが照れた顔で床に倒れたジャックを見る。しかし、ジャックは気絶しながら起き上がり、立ったまま肉を再び食べ始めた

「ジャ、ジャック!?」

「モグモグモグモグモグモグ......」

「やっぱり疲れてたんだね......」

マネラは白目で気絶したまま食事をするジャックを後ろから抱き締めて、頭を撫でる。

「私達に希望をくれてありがとうね、ジャック」

マネラさんは気絶したまま食事を続けるジャックを椅子に座って笑顔で見守っていた。



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