ドラゴン・キル・ソード

空野 一春(あくや ひとはる)

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2話「試練の山」(7)

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「グフッ!」

俺は右手の拳でまた殴られ、倒れそうになったがなんとか両足の踵で踏ん張る。

「おら、さっさと剣士になるのを諦めてゴミ山にでも帰りやがれ!」

そしてまた殴られる。瞬きする間に拳が眼にも止まらぬ速さで飛んでくる。
しかしそれでも俺はまた踏ん張る。

(絶対に倒れてたまるか!)

もう一度倒れたら俺に立ち上がる気力はもうない。だから絶対に倒れるわけにはいかない。ここで倒れたら死んだと同じ。剣を手に納めるまでは絶対に諦めない。

「俺は絶対に、剣士になってみせる! だから気が済むまで何度でも殴ってみろ!俺はもう、絶対に倒れない!」

「弱いくせに諦めの悪い奴だ。お前と俺じゃあ鍛え方が違うんだよ!俺は体術もドラゴンを倒す術もガキの頃から講師に全て叩き込まれた。だがお前は底辺で臭いだけ。価値のないお前みたいな貧乏人とは生きる世界が違うんだよ!」

すると、また顔面に男の拳が勢いよく飛んできた。

(くそ、この男。戦ってるだけでわかる。日頃から相当鍛えている。全身がまるで鉄の塊みたいだ。それに殴る威力がとにかく強い。俺との力量にかなりの差がある。俺が攻撃を与える隙すらまったく与えてくれない。完全に俺の方が不利だ)

そのまま連発で顔面や脇腹に拳を強くぶつけてくる。
それでも俺は上手く攻撃を見切ってなんとかダメージを最小限に抑えるためにギリギリで交わしていく。
しかしあまりにも、顔を殴られ過ぎたせいで鼻から血が出て来た。

だけど俺は意識朦朧としながらもなんとか倒れる事無く、踏ん張り続ける。

(だけど、どんなにボコボコにされてもこの男にあの剣を譲る気は全くない。それにドラゴンの攻撃に比べれば、この男の攻撃なんかあの時より痛くない。それにまったく怖さもない。何発殴られても死ぬ気がしない。逆に殴られれば殴られるほど段々ちっぽけな攻撃に思えてくる)

「くそ、何故だ!弱い癖にどうして倒れない!?」

貴族の男は動揺してきている。汗も大量にかいている。呼吸も乱れている。
そして同時に拳の威力も段々と弱まってきている。
そして俺は少しずつ、この男の攻撃を冷静に見切れるようになってきた。

「その程度か!?もっと来い!」

俺は鼻血を垂らしながら、強気に言い放つ。

「くそ、貧乏人の癖に調子に乗るんじゃねぇ!」

俺は男の拳を顔面ギリギリまで引き付けて、横に避けて交わす。

(しっかり動きを見ていれば避けられる。ドラゴンと戦った時と同じ様に冷静に相手の動きを見て回避すれば、軽く交わせる攻撃だ。それにドラゴンよりも動きがノロい)

そして自分も右手を硬く強く握りしめる。

「うぉぉぉぉぉ!!」

貴族の男の右腹部に自分の右手拳をねじ込むように叩きつけた。

「ぐっ!? この野郎!よくも俺の腹を殴りやがったな……絶対にここで殴り殺してやる! 」

男は三歩程後ろに下がり、俺をさっきよりも鋭い眼差しで睨んできた。
俺はひたすら俊敏な動きで男の攻撃を交わす。

(やっぱり。この男も疲労で弱り切ってる。攻撃の命中率がさっきより低くなっている。そして俺の攻撃も交わせなくなっている。チャンスだ」

次第に息を切らしていく男は、体力が切れたのか遂に拳が止まり、膝に両手を置いた。

「はあはあ……くそ、どうしてだ。なんで倒れない?お前はなんなんだよ!貧乏人がぁぁぁ!!」

俺は奥歯を強く噛み締めると同時に、右手も今日一番固く握りしめる。

「お前との戦いに負けるぐらいなら、俺は既に死んでるよ!」

そして俺は男の顎を下から硬く握った右手の拳で力強くぶん殴った。

「ガハァ!」

宙を舞った巨大な男は、そのまま地面に倒れ込む。
男は白い泡をブクブクと口から噴き出しながら、白目で倒れている。

「本当にか、勝ったのか?」

苦しい戦いだったけど、なんとかこの太々しい貴族の男を殴り倒すことが出来たらしい。
それにあれだけ殴られたのに、なんとか鼻血だけで傷は抑えられた。

「はあはあ……」

俺は息を切らしながら、唯一真ん中の岩の上に残っている銀色の剣に向かって再び足を進める。
そして平らな岩の上へ足を掛けて登り、鼻血を左手で拭きながら、右手で銀色の剣をガシッと握りしめる。

(や、やったぞ。これでドラゴンキラーに一歩近づけた)

俺は安心し、少しだけ顔の頬を緩める。

「アンタ、中々やるわね!」

右側にいた銀髪の少女が俺に対して、明るく声をかけて来た。

「あ、ありがとう……」

俺は突然喋り掛けてきた白髪の彼女に対して、気弱な口調で言葉を返す。

「ちっ……」

左にいた緑髪の男は面倒くさそうな表情をしながら、舌打ちをしていた。
喧嘩が終わるまで暇だったのか、相当イライラしている様子だった。こちらを睨みつけているようでちょっと怖い。

すると鎧の男が自分達の目の前の地面に剣を突き刺した。

「今回の試練はこれで終了だ。銀色の剣を掴んだのはジャック・リトル。黄色の剣を掴んだのはシルゥ・ファーム。緑の大剣を掴んだのはレオル・マーガレット。今回の試練を乗り超えたお前達に私から敬意を表する。だがドラゴンキラーへの道のりはまだ始まったばかりだ。今後も油断せず鍛錬に励め!」

「はい!」

俺は真剣に返事を返す。
しかし鎧の男の堅苦しい言葉に対して、何故か両脇の二人は顔色一つ変えず黙ったまま立っているだけだ。

自分の横にいる二人。銀髪の少女がシルゥという名前で、緑色の髪をした鋭い歯を剥き出しにしている男がレオルという名前らしい。

二人とも自分と同年代みたいで同じぐらいの身長だが、メンタルも体力もかなりありそうだし、自信満々な表情と体つきをしている。シルゥは何かを考えているのか終始不気味な顔でニヤけているし、レオルはとにかくイライラした顔をしている。殺気がさっきよりもデカくなっている。

(両脇の二人、体力的にも精神的にもかなり強そうだ。それに比べて俺は全てにおいてまだまだだ……)

その二人に挟まれている俺は一人、勝手に劣等感を味わい、右手で拳を強く握る。

「今回、この試練を乗り越えたお前達三人に次の指令を与える。この試練を乗り越えたからと言って勘違いするなよ。これからが全ての始まりだ。次はお前達がドラゴンキラーとして生き残る為の訓練を行ってもらう。各自、今から私が指定した師匠の元に向かえ」

俺は地面に突き刺さっている銀色の剣を真剣な眼差しで見つめる。

(だけど何も落ち込む必要はない。これから絶対に強くなってドラゴンを倒せるぐらいの強さに成長して見せる!)

自分が持つ銀色の大剣は空から降り注ぐ真っ赤な太陽に照らされて、より綺麗に輝いて見える。

(俺は、ドラゴンを、必ずこの剣で仕留めてみせる。母さんとメイの仇を取る為に……)
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