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第7章 キング・ダモクレス編
第130話 ダモクレスの剣の行き先
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シアにおめでたくない顔でおめでとうと言われた俺は、何かの間違いかもしれないと、念のため自分のアイテムウインドウを確認する。
【ダモクレスの剣】
……マジで手に入ってる。
しょぼい俺の所持アイテムの中で、そのアイテムは圧倒的な存在感を放っていた。
だが、違和感が拭えない。俺のロット数値は895だった。悪くはない数値だが、16人中トップになるような高い値ではない。思い返せば、俺は六人パーティで950を叩き出したときでさえ、平然とロット負けしたことがあるくらいだ。
――もしかして、俺が見間違えただけで、アタッカー以外全員パスしていたとか!?
急に背筋が寒くなり、焦る気持ちが湧き上がってきた。もしそうなら、俺は恩を受けておきながら、とんでもないことをやらかしてしまったことになる!
そんな罪悪感が頭をよぎり、心臓がバクバクと音を立てているのを聞きながら、ダモクレスの剣のロット履歴を確認してみる。
――よかった! 誰もパスはしてない!
うるさかった心臓の響きが急速に収まり、安堵が胸に広がる。
だけど、同時に「それじゃあ、なぜ俺がゲットできたんだ?」という疑問が湧いてきた。
みんな、どんなロット数値を出したんだ?
俺はほかの人のロット数値を追いかける。
845、821、876、811、882、806……
高い数値を見てみれば、800台がいくつも並んでいたが、900台の数値は一つもなかった。ロット数値はあくまでランダムだから確率的にはあり得る話だが、それにしても偏りすぎじゃないか? 900台がないのも不自然だが、800台が多すぎるのもおかしい。俺と同じ800台でダモクレスの剣を逃した人達は、きっと悔しくてたまらないだろう。
882を出したのは誰かと思って見たら、シアだった。こんな惜しい負け方をしておいて、俺に祝福の言葉をかけてくれるなんて、とてもいい人だった。
「……さて、どうしたものか」
アイテム欄に輝く「ダモクレスの剣」の名前を見つめながら、小さくつぶやく。
サーバーにまだ数本しか存在しないと言われるダモクレスの剣だが、正直言って、俺には宝の持ち腐れだ。もしこれが修羅の兜や女神の首飾り、宵闇のマントだったら、文字通り小踊りして喜んでいただろう。
だが、料理スキル特化の俺にとって、剣は飾り同然。料理スキルの通用しない敵相手に活躍する場面もあるだろうが、そもそも俺にはそんな敵を相手にする理由がない。
視線を仲間達に向ける。
この剣は俺にとって意味が薄いが、仲間に渡せば違うかもしれない。誰かがこの剣の真価を発揮できれば、ギルド全体としてプラスになるはずだ。
まず頭に浮かんだのはクマサン。頼れるタンクであるクマサンなら――と考えて、すぐに首を振った。
クマサンは攻撃力が高くないうえに、ヘイトの仕組み上、この剣の特性を活かすのは難しい。ダモクレスの剣の2回攻撃は、ダメージ量は増やせても、攻撃行動としては1回しかカウントされない。そのため、ヘイトを稼ぐというタンクの役割には大して寄与しないのだ。総ダメージ量が増えれば、多少ダメージヘイトは稼げるが、もともと火力が低い以上、この剣を渡しても劇的な効果は望めないだろう。
次に思い浮かべたのはミコトさんだが、彼女はヒーラーだ。彼女の役割は、仲間の回復と支援。ヘイトを稼がないよう立ち回りながら、チーム全体の生命線を守る立場にある。そんな彼女にダメージを上げるための剣を持たせるのは本末転倒というものだ。
そして、メイに至っては、そもそも戦闘職ですらない。
……なんてこった。俺達のギルドには、ダモクレスの剣を真に活かせる奴が一人もいないじゃないか!
ぼんやりとアイテムウインドウを眺めていると、不意にシアが話しかけてきた。
「ショウさん、今度またダモクレスの剣を使ってるところ見せてくださいね」
無理して明るい声を出してくれているのはわかる。本当は自分が手に入れたかったのだろう。それでも、俺に気を遣って優しい言葉をかけてくれる。だが、その表情にはまだ未練の色が残っているのがわかり、見ていると少し胸が痛くなる。
「いや、使いたいけど……俺、料理人だから包丁を使ってるほうがダメージ出るんだよね。……えっと、シアさん、良かったらダモクレスの剣、使う?」
「――えっ!?」
シアの目が見開かれ、驚きと喜びが一瞬にして表情を覆った。だが、次の瞬間、彼女は首と両手を激しく振り出した。
「だ、だめですよ、そんな貴重なもの!」
「でも、俺が持ってても多分使うことなさそうだし」
「ですけど……ショウさんは使わなくても、ギルドのほかの人なら……」
「いや、うちのギルドのアタッカー、俺しかいないんだよ」
俺の言葉に、シアは周囲をちらりと見回した。おそらく、俺のギルドメンバーであるクマサン、ミコトさん、メイの顔ぶれを改めて確認しているのだろう。
「……確かに、そうかもですね」
「でしょ?」
理解してもらえたようだが、シアは申し訳なさそうな顔を浮かべたままだ。俺としては、遠慮深い彼女にこそ、この剣を使ってほしいと思う。だが、この調子では、素直に受け取ってもらえなさそうだ。
そこで俺は一計を案じる。
「だったら、所有権は俺のままで、シアさんに貸すってことでどうかな? シアさんが自力でダモクレスの剣を手に入れたら、その時に返してくれたらいいし」
あげるのではなく貸す――これならシアも少しは気が楽になるだろう。
「そういうことなら……」
しばらく考え込むような表情をしていたシアが、ゆっくりとうなずいた。
その顔には、まだ申し訳なさそうな影が残っていたが、それでも嬉しそうな笑顔が少しだけ混じっている。そんな様子がちょっと可愛い。
「あ、でも、ショウさんが必要になった時はすぐに言ってくださいね! すぐにお返ししますので!」
「そうだね、その時はよろしく頼むよ」
そう答えながら、俺には返してもらうつもりなんてない。俺にはメイメッサーがあるんだ。ダモクレスの剣を必要とする時なんて、きっとないだろう。でも、こうしておけば、シアはきっと気が楽になるだろう。
俺はシアにトレードを申し込み、ダモクレスの剣の受け渡しを完了した。
これでダモクレスの剣を持ち逃げされたら、きっとほかの人には笑われるだろうけど、その場合でもヘルアンドヘブンの戦力強化になることは間違いない。ねーさんをはじめ、ヘルアンドヘブンのみんなには貴重な経験をさせてもらったし、ヘルメスの靴も譲ってもらった。俺としてはもともとあげるつもりだったので、持ち逃げされたってちっとも後悔はない。
そんなことを考えながら満足げにうなずいていると、シアが少し恥ずかしそうに顔を伏せながら俺の服の袖をそっと引っ張った。視線を向けると、どこか落ち着かない様子だ。
「……あのぅ、ショウさん、フレンド登録いいですか?」
シアの頼りなげな声に、一瞬キョトンとしてしまった。意外なお願いだったが、すぐに理由を理解する。
――ああ、そうか。彼女としては、俺からダモクレスの剣を返してほしいと言われた時に、連絡が取れないと困ると考えたのだろう。俺としては、半分あげたつもりだったので、そこまで気が回らなかった。
「もちろんだよ」
軽く返事をすると、シアの肩がほんの少しだけ緩むのがわかった。貸し借りの連絡用のフレンド登録なんて、特に問題のない話だ。彼女が妙に緊張した様子だったのが、むしろ不思議に思える。
「あっ、別に変な意味とかじゃないですからね! これは、えーっと……、そう! ダモクレスの剣を返す時に連絡が取れないと不便じゃないですか! その時のためにです!」
急に慌てだしたシアが、言い訳めいた言葉を重ねる。顔を赤らめながらも必死に弁解する彼女がちょっと微笑ましい。
「うん、大丈夫、それくらい俺もわかってるから」
彼女に言われるまでもなく、そんなことは承知している。むしろ、それ以外にシアが俺とフレンド登録をする理由がないからな。
そう思って、安心させるように答えてシアの顔を見たのだが――
「…………」
なぜだろう。シアが拗ねたような顔で黙って俺の顔を見つめていた。まるで責められているようで、なぜか彼女に何か酷いことをしたような罪悪感さえ覚えてしまう。
「……シアさん?」
恐る恐る声をかけると、彼女は突然、まるで意を決したように口を開いた。
「報告します」
「え?」
「ダモクレスの剣を使ったら、毎回ショウさんに報告します!」
「いや、別に手間だしそんなことしなくても――」
「いえ! 所有権はショウさんにあるんですから、報告義務があります! 一日一回はお話する必要があると思うんです!」
先ほどまで奥ゆかしげだったシアが、なぜか今は驚くほど強情だった。
彼女はきっと律儀な人なんだろうが、どうにもそれ以外にも理由がありそうな気もするが――そのあたりは深く考えてもしょうがないだろう。とにかく、彼女の気持ちが落ち着くのなら、俺としても断固拒否するほどの理由もない。
「わかったよ。それじゃあまた使用感とか教えてよ」
俺がそう言うと、シアの顔がパッと明るくなった。
「はい! これからよろしくお願いしますね!」
元気よく返事をする彼女の笑顔を見て、俺もほっと胸を撫で下ろす。彼女が納得したのなら、それでいい。俺はフレンドが少ないから、報告だけでも、話し相手が増えるのは嬉しいことだ。
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……マジで手に入ってる。
しょぼい俺の所持アイテムの中で、そのアイテムは圧倒的な存在感を放っていた。
だが、違和感が拭えない。俺のロット数値は895だった。悪くはない数値だが、16人中トップになるような高い値ではない。思い返せば、俺は六人パーティで950を叩き出したときでさえ、平然とロット負けしたことがあるくらいだ。
――もしかして、俺が見間違えただけで、アタッカー以外全員パスしていたとか!?
急に背筋が寒くなり、焦る気持ちが湧き上がってきた。もしそうなら、俺は恩を受けておきながら、とんでもないことをやらかしてしまったことになる!
そんな罪悪感が頭をよぎり、心臓がバクバクと音を立てているのを聞きながら、ダモクレスの剣のロット履歴を確認してみる。
――よかった! 誰もパスはしてない!
うるさかった心臓の響きが急速に収まり、安堵が胸に広がる。
だけど、同時に「それじゃあ、なぜ俺がゲットできたんだ?」という疑問が湧いてきた。
みんな、どんなロット数値を出したんだ?
俺はほかの人のロット数値を追いかける。
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882を出したのは誰かと思って見たら、シアだった。こんな惜しい負け方をしておいて、俺に祝福の言葉をかけてくれるなんて、とてもいい人だった。
「……さて、どうしたものか」
アイテム欄に輝く「ダモクレスの剣」の名前を見つめながら、小さくつぶやく。
サーバーにまだ数本しか存在しないと言われるダモクレスの剣だが、正直言って、俺には宝の持ち腐れだ。もしこれが修羅の兜や女神の首飾り、宵闇のマントだったら、文字通り小踊りして喜んでいただろう。
だが、料理スキル特化の俺にとって、剣は飾り同然。料理スキルの通用しない敵相手に活躍する場面もあるだろうが、そもそも俺にはそんな敵を相手にする理由がない。
視線を仲間達に向ける。
この剣は俺にとって意味が薄いが、仲間に渡せば違うかもしれない。誰かがこの剣の真価を発揮できれば、ギルド全体としてプラスになるはずだ。
まず頭に浮かんだのはクマサン。頼れるタンクであるクマサンなら――と考えて、すぐに首を振った。
クマサンは攻撃力が高くないうえに、ヘイトの仕組み上、この剣の特性を活かすのは難しい。ダモクレスの剣の2回攻撃は、ダメージ量は増やせても、攻撃行動としては1回しかカウントされない。そのため、ヘイトを稼ぐというタンクの役割には大して寄与しないのだ。総ダメージ量が増えれば、多少ダメージヘイトは稼げるが、もともと火力が低い以上、この剣を渡しても劇的な効果は望めないだろう。
次に思い浮かべたのはミコトさんだが、彼女はヒーラーだ。彼女の役割は、仲間の回復と支援。ヘイトを稼がないよう立ち回りながら、チーム全体の生命線を守る立場にある。そんな彼女にダメージを上げるための剣を持たせるのは本末転倒というものだ。
そして、メイに至っては、そもそも戦闘職ですらない。
……なんてこった。俺達のギルドには、ダモクレスの剣を真に活かせる奴が一人もいないじゃないか!
ぼんやりとアイテムウインドウを眺めていると、不意にシアが話しかけてきた。
「ショウさん、今度またダモクレスの剣を使ってるところ見せてくださいね」
無理して明るい声を出してくれているのはわかる。本当は自分が手に入れたかったのだろう。それでも、俺に気を遣って優しい言葉をかけてくれる。だが、その表情にはまだ未練の色が残っているのがわかり、見ていると少し胸が痛くなる。
「いや、使いたいけど……俺、料理人だから包丁を使ってるほうがダメージ出るんだよね。……えっと、シアさん、良かったらダモクレスの剣、使う?」
「――えっ!?」
シアの目が見開かれ、驚きと喜びが一瞬にして表情を覆った。だが、次の瞬間、彼女は首と両手を激しく振り出した。
「だ、だめですよ、そんな貴重なもの!」
「でも、俺が持ってても多分使うことなさそうだし」
「ですけど……ショウさんは使わなくても、ギルドのほかの人なら……」
「いや、うちのギルドのアタッカー、俺しかいないんだよ」
俺の言葉に、シアは周囲をちらりと見回した。おそらく、俺のギルドメンバーであるクマサン、ミコトさん、メイの顔ぶれを改めて確認しているのだろう。
「……確かに、そうかもですね」
「でしょ?」
理解してもらえたようだが、シアは申し訳なさそうな顔を浮かべたままだ。俺としては、遠慮深い彼女にこそ、この剣を使ってほしいと思う。だが、この調子では、素直に受け取ってもらえなさそうだ。
そこで俺は一計を案じる。
「だったら、所有権は俺のままで、シアさんに貸すってことでどうかな? シアさんが自力でダモクレスの剣を手に入れたら、その時に返してくれたらいいし」
あげるのではなく貸す――これならシアも少しは気が楽になるだろう。
「そういうことなら……」
しばらく考え込むような表情をしていたシアが、ゆっくりとうなずいた。
その顔には、まだ申し訳なさそうな影が残っていたが、それでも嬉しそうな笑顔が少しだけ混じっている。そんな様子がちょっと可愛い。
「あ、でも、ショウさんが必要になった時はすぐに言ってくださいね! すぐにお返ししますので!」
「そうだね、その時はよろしく頼むよ」
そう答えながら、俺には返してもらうつもりなんてない。俺にはメイメッサーがあるんだ。ダモクレスの剣を必要とする時なんて、きっとないだろう。でも、こうしておけば、シアはきっと気が楽になるだろう。
俺はシアにトレードを申し込み、ダモクレスの剣の受け渡しを完了した。
これでダモクレスの剣を持ち逃げされたら、きっとほかの人には笑われるだろうけど、その場合でもヘルアンドヘブンの戦力強化になることは間違いない。ねーさんをはじめ、ヘルアンドヘブンのみんなには貴重な経験をさせてもらったし、ヘルメスの靴も譲ってもらった。俺としてはもともとあげるつもりだったので、持ち逃げされたってちっとも後悔はない。
そんなことを考えながら満足げにうなずいていると、シアが少し恥ずかしそうに顔を伏せながら俺の服の袖をそっと引っ張った。視線を向けると、どこか落ち着かない様子だ。
「……あのぅ、ショウさん、フレンド登録いいですか?」
シアの頼りなげな声に、一瞬キョトンとしてしまった。意外なお願いだったが、すぐに理由を理解する。
――ああ、そうか。彼女としては、俺からダモクレスの剣を返してほしいと言われた時に、連絡が取れないと困ると考えたのだろう。俺としては、半分あげたつもりだったので、そこまで気が回らなかった。
「もちろんだよ」
軽く返事をすると、シアの肩がほんの少しだけ緩むのがわかった。貸し借りの連絡用のフレンド登録なんて、特に問題のない話だ。彼女が妙に緊張した様子だったのが、むしろ不思議に思える。
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急に慌てだしたシアが、言い訳めいた言葉を重ねる。顔を赤らめながらも必死に弁解する彼女がちょっと微笑ましい。
「うん、大丈夫、それくらい俺もわかってるから」
彼女に言われるまでもなく、そんなことは承知している。むしろ、それ以外にシアが俺とフレンド登録をする理由がないからな。
そう思って、安心させるように答えてシアの顔を見たのだが――
「…………」
なぜだろう。シアが拗ねたような顔で黙って俺の顔を見つめていた。まるで責められているようで、なぜか彼女に何か酷いことをしたような罪悪感さえ覚えてしまう。
「……シアさん?」
恐る恐る声をかけると、彼女は突然、まるで意を決したように口を開いた。
「報告します」
「え?」
「ダモクレスの剣を使ったら、毎回ショウさんに報告します!」
「いや、別に手間だしそんなことしなくても――」
「いえ! 所有権はショウさんにあるんですから、報告義務があります! 一日一回はお話する必要があると思うんです!」
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彼女はきっと律儀な人なんだろうが、どうにもそれ以外にも理由がありそうな気もするが――そのあたりは深く考えてもしょうがないだろう。とにかく、彼女の気持ちが落ち着くのなら、俺としても断固拒否するほどの理由もない。
「わかったよ。それじゃあまた使用感とか教えてよ」
俺がそう言うと、シアの顔がパッと明るくなった。
「はい! これからよろしくお願いしますね!」
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