良い子オーディション2019

片隅カケラ

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良い子オーディション2019

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 大手プロダクション主催の『良い子オーディション2019』の日がやってきた。
 超有名「良い子」を幾人も輩出している由緒あるオーディションだ。
 オーディションはあくまでプロの「良い子」になるための登竜門にすぎないが、それでもグランプリを取ればエリートコースに乗るのは間違いない。
 プロの「良い子」になると得るものは大きい。「良い子」になればお母さんに「良い子だね」とホメてもらえるし、頭ポンポンもしてもらえる。サンタさんにクリスマスプレゼントももらえるし、全国の子供たちの見本として憧れの存在になれる。あと大きな信用が付くから一流企業並の融資も受けられるし、大手企業がスポンサーとして「仮親」になって生活費を全額負担してくれる。売れっ子の「良い子」ともなれば、億単位の年収を手にするという。
 今日のオーディションを受けられるのは、全国3万人を超える応募者のうち、書類審査を通った300人。
 この俺、田中良夫(11)もまたその300人の一人、選ばれし一握りだ。
 二次審査は集団面接。
 まずは下っ端とはいえ業界人の審査員の前で、「良い子」アピールをするのだ。
「かえったらすぐうがい、おてあらいをします!」
「おさらあらいのおてつだいをします!」
「おとうさんのかたたたきをします!」
 同グループの応募者たちの初々しいアピールが順々に続く。
 ふっ、ぬるい、二次審査はもらったな。俺は心の中でニヤリと笑い、自分のアピールを開始する。
 父は激務の営業職で出張が多いこと。母は看護師で夜遅くに帰宅すること。晩御飯を自分で作り幼い弟妹たちに食べさせること……。
 辛そうな状況をきっちり伝えつつも、その辛さを表情で出してはNGだ。つらいです、と訴えてはだめで、つらそうだな、けなげだな、と相手に思わせなければならない。根暗な「良い子」なんて要らないのだ。 
 狙いはハマったようだ。周りの単純なアピールとのギャップもあり、審査員の反応は良好だった。
 だが……。
「しつれいしましたー!」
 元気よく挨拶し、二次審査の会場から廊下に出ると、
「お、田中じゃん、元気?」
「おお、吉田か、まあぼちぼちさ」
 古馴染みの吉田武文(11)と鉢合わせた。こいつとは5年前のオーディションからの腐れ縁だ。どのオーディションでも、出るとだいたいコイツと会うのだ。
 会場の裏手に回り、喫煙所で一服するのも恒例で、
「やべ、タバコ切らしてたわ、一本めぐんで、な!」
 そして吉田はいつもの通りタバコをたかってくるのだった。
「お前タバコ切らしてなかったことね―じゃねーか!」
「まーまー、さんきゅー」
 二人で紫煙を青空に向かって吐く。
「で、どうよ、今回の調子は?」
 吉田が聞いてくる。
「まあ、二次審査は楽勝だな、だが……」
「だが?」
 聞き返す吉田に、俺は煙と一緒にため息をつく。
「今までウケてたネタの反応がいまいちだったわ、三次審査以降はキツそうだな、アレは」
「まじで、おまえも? 俺もだわ! やっぱあれかな――」
 年齢。
 俺も吉田もあえて口にしなかったが、その要因は大きい。
 この業界、一番売れる「良い子」は7歳から10歳までと言われている。
 モノのわからぬほど子供過ぎず、かといって小賢しく知恵を働かせ過ぎないちょうどいい年齢帯の「良い子」が、世間からは求められているのだ。
 当然、オーディションで勝ち上がるのもその年頃が主流だ。
「良い子の賞味期限は10歳説って本当なんだなー」
 吉田もため息をついた。「良い子」の華は短い。もとが短命の存在なのだ。
 もう俺たちより年下の「良い子」がたくさん売れている。仮に今から「良い子」になれたところで、どれだけの間「良い子」で食べていけるかというと、厳しいものがある。
「ま、言うたってしゃーねーな」
 吉田はニカッと笑い、チビたタバコをもみ消した。
 俺も苦笑して応じる。
「そーそー、しゃーねーわ。むしろ今まで積み上げてきたオーディション受験100回超えの経験をぶつけてこいよ」
「うるせーよ、おまえだって100回超えてんだろ!」
 言い返してガハハと笑い、三次審査の準備があるからと吉田は去っていった。
 100回受けて100回合格しているなら誇れるが、100回とも落選だからもう笑うしかない。だがそんな奴らがゴロゴロしているのがこの業界だ。
 そうだ、苦労してオーディションを受け続け、落ち続けている、というのを逆にアピールポイントにするのもいいな、と俺は思いつく。今は亡き両親との約束、絶対に叶えたい夢……。うんうん、ちょっと味付けすればドラマになるな、いいかもしれない。俺は実家で健在な両親へ心の中で親指を立てる。
 オーディションを受けるのも場数を踏んでくると、だんだんあざとくなり、計算高くなるのだ。
 このあざとさのせいで逆に合格しないのかもな、と自嘲しつつ、俺はオーディションを勝ち抜き「良い子」になるべく、「設定」を考え始めた。
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