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後日談
後日談2:死が二人を分かつまで※
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ヴェルが館に来て、早いもので三か月が経とうとしている。
先日、一度村に帰ることができた。オメガ狩りはカイの仕業ではなかった事や、今は城砦で無事に暮らせている事を伝えた。
復興資金に、と。カイからの詫びの金を村長に渡すと、微妙そうな顔をして言った。
「ヴェル……騙されてないか? 大丈夫か?」
「ええ? 大丈夫だよ」
村長の横から、ガドも「そうだそうだ」と口を出す。
「横柄そうなアルファだったぞ。ヴェルのことを言いくるめておいて、後から豹変するかもしれん」
「本当に大丈夫だって! そういう感じの奴じゃなかったんだよ! それを言うなら、俺の方が……」
ヴェルはおずおずとした様子で、村長とガドに、自分の身の上を打ち明けた。しかし、打ち明ければ打ち明けるほど、村長とガドは顔を見合わせてしまう。
「いや……お前がザディオス人なのはなんとなくわかってはいたぞ……」
「はい!? じゃ、じゃあ何で俺を村に置き続けたの……!?」
「そりゃあ、よく働いてくれるし。子どもの世話もしてくれるし。なあ?」
「うんうん。助かっていたよ。このまま村人として生きてくれると良かったんだがのう……、しかし、そうか。ラジナ城砦で暮らすのか……」
村長は金の入ったずしりとした革袋をやや見つめていたが、複雑そうに言った。
「どうにも……。結納金のようで受け取りたくないのう……」
「ヴェル。やっぱり騙されてないか?」
「騙されてないって!」
王宮でのごたごたがあることを伝えるのはまずいだろう。
なんとか、言える範囲で、必死にカイの潔白を証明しようとするヴェルの様子に、村長とガドは思わず笑みをこぼした。
「わかったわかった」
「城砦での暮らしが嫌になったら、いつでも村に帰っておいで」
そのような言葉が掛けられると思わず、ヴェルは涙交じりに「ありがとう」と返すほかなかった。
◇
ファレンの花は満開を過ぎ、庭は盛夏を迎えていた。
夕暮れのオレンジ色に照らされる木々をガゼボのベンチから眺めていたヴェルは、無意識にチョーカーをさする。
先月、チョーカーに貯め込んでしまった毒の魔力は無事に移し替えることができた。
魔力は、物質の中に長くは貯めておけない。放っておけば自然消滅しただろうが、ヴェルは一刻も早くチョーカーをつけなければならない理由もあった。
そろそろヒートを迎えそうなのだ。
「うう……」
つがいになりたい、というカイの申し出を受けたのは事実だ。
しかしどうにも、とうとうこのうなじが噛まれてしまうのかと思うと、気恥ずかしいやらむず痒いやら。緊張するやら、申し訳ないやら。さまざまな感情が渦巻いてしまう。
一方的に奪われるのではない。無理やりに食い破られるのではない。
自分の意思を持ってチョーカーを外し、うなじを晒すのである。
この所、ダオンが大人しくなったせいか、カイは随分と動きやすくなっているようだ。
以前とは異なり、毎日のように館に帰ってくることができている。
恐らく今日も——
そう考えたところで、庭の壁に魔力が通る感覚があった。
元々ヴェルは魔力経路を読み解くのが得意な魔導士だ。数か月を過ごしたことで、この館全体が、カイという人間を守る魔力に満ちていることはよく分かっている。
カイというよりは王族に反応しているのだろう。
先祖が、子孫を守るためにかけた温かく優しい魔法で、この庭は包まれているかのようだ。
だからきっと、ヴェルにとっても居心地が良いのかもしれない。
カイが帰ってきたことで、庭が喜ぶかのような感覚がヴェルにも伝わる。
壁を通り抜けて戻ってきたカイは、魔導士ではないから、きっとこの感覚は分からないだろう。
微笑ましさを感じながら、ヴェルは立ち上がり、カイを出迎えた。
「お帰り、カイ」
ヴェルの姿を見るなり、カイの顔がぱ、と明るくなる。例の長い脚で庭を横切り、ヴェルの元まで一直線に来ると、両腕を伸ばしてヴェルを抱き締めた。
「今帰った」
初めて出会った時は野性動物と対峙したような恐怖があったのに、今は大型犬にでも懐かれているような感覚である。
カイの腕の中で、ヴェルも肺いっぱいにカイの匂いを吸う。
「はー……落ち着く」
「ヴェルはいつも俺を吸うが……そんなにか?」
「カイも俺のこと吸っていいよ」
「俺が吸うと変態っぽいだろう」
「俺が吸っても変態だよ」
促されるままにカイはヴェルのこめかみに鼻を寄せ、すう、と息を吸い込む。と、その瞬間、カイは何かに気付いたように眉根を寄せた。
「……ヴェル。違っていたらすまないが」
「ん?」
言いにくそうにカイは続けた。
「ヒート、来てるか?」
ぎくり、とヴェルの肩が跳ねる。
「え。わ、分かるの……?」
「他の人間には分からないと思うが。いつもと香りが違う」
「俺より高精度じゃん……」
普通、ヒートが来るとオメガは自分で「来た」と分かる。抑制具をつけていても、風邪とは違う重怠い熱が、腹の奥に溜まるのだ。アルファがほしい、と切なく疼くこの感覚はオメガにしか分からないだろう。
にも関わらず、ヴェルが「そろそろ来るかな」と思っていたヒートを先に嗅ぎつけたのである。
カイの鼻の良さに驚きつつも、ヴェルは苦笑した。
「多分あと1、2時間で本格的に始まると思う。……どうする?」
少し身体を離し、ヴェルは伺うようにカイを見上げた。本当に自分をつがいにするのか。本当に噛もうとしているのか。
しかしカイは何の躊躇もなく頷いた。
「ああ。では今夜お前を噛もう」
即答だ。ヴェルはじわりと頬が熱くなるのを感じた。少しくらい躊躇するかと思ったのだが、カイには全くそんな発想はないらしい。
ヴェルは小さな声で「わかった」と返した。
◇
「あっ、ぁ、う、ッ……んン……ッ!」
一番太い所がずちゅん、と内部に入り込んでしまうと、ヴェルの肩がびくびくと跳ねた。みちみちと内壁を満たしながら亀頭で前立腺のしこりをこすられ、感じ入ったような甘い喘ぎが漏れてしまう。
「やぁ、ッ、ぁ、……ッんあっ! あ、ぅ、……ッ」
カイはヴェルの細い腰を掴んだまま、前後に揺らすようにしながらゆっくりと自身を埋めていった。
半分ほど入れたら、今度はカリでイイ所の膨らみを押し上げながら引き抜いていく。じゅぷ、と潤滑剤を泡立たせながら、後孔の縁がめくりあげられ、ヴェルは切なげに眉を寄せた。
「んっ、ぁ、あうッ、あ、っぁ」
ヴェルの首にチョーカーはなく、始まったヒートのせいで全く押さえられていないフェロモンが主寝室の空気を満たしている。
カイ自身、フェロモンに当てられ、くらくらとした状態だろう。今すぐこの首筋を噛んでしまいたいという欲求に苛まれ、それを必死に押しとどめているようだった。
いつもよりも腰を掴む力が強い。
突きあげられるような動きにヴェルは反射的に身を捩って快楽を逃がそうとするものの、その身体をぐい、と引き寄せられ、奥まで突き立てられる。
「あっ!? ぁ、うッん……!」
「すまん、ッ……抑えが……」
後ろから圧し掛かられるようにしてヒクつく内部を屹立に強く擦り上げられ、逃げ場のない快楽にヴェルは身悶えた。
カイの食いしばった歯の隙間から、ふ、と熱い息が漏れているのが、背後から伝わり、ヴェルの腹奥がぞくぞくと疼く。
「ひぅッ、あ、ンン~~~ッ!」
結合部が音を立て、内壁を擦り上げられるたび、ヴェルは喉を逸らして喘いだ。指が切なくシーツを掻き、熱に翻弄される身体がビクビクと震えた。
息を切らせるヴェルをなおも責め立てるように揺さぶられる。
「あっ、う、ぅ」
カイは身を屈め、赤く染まるヴェルの耳殻に口付ける。そして、ゆっくりとうなじへと舌を這わせた。
「っ……!」
今まで誰にも暴かれたことのないそこにカイの吐息を感じ、ヴェルは身を震わせる。
カイは腰の動きを止めないまま、ヴェルのうなじにそっと歯を立てた。
いよいよ噛まれてしまうのか、とヴェルは僅かに身を硬くする。
「……噛むぞ」
カイの吐息を感じながら、ヴェルは必死に「ッ、う、うん……!」と頷いた。
つぷり、とカイの犬歯がヴェルの皮膚に突き立てられる。痛みを感じたのは一瞬で、それを上書きするかのような快感がぶわりと身体中を駆け巡った。
「んっ、~~~!?」
舌が敏感な傷跡を優しく、丹念に舐める。じゅ、と滲んだ血を啜られ、ヴェルは小さく喉を震わせた。
「ふ、ぁッ、あう……っ」
二度、三度、と場所を変えて噛まれ、舐められる。噛まれた傷口が熱いのは、痛みの所為だけではない。
噛まれる度に、突かれる腹奥が軽くイってしまい、ひっきりなしに目の前が明滅し、びくん、と爪先がしなる。
「へ? ッぁ、ああッ……! ぁ、ッうぁ、んッ」
一度止めてほしいのに、気持ち良すぎて言葉も出ない。
この一か月で何度かカイに抱かれてきたが、こんな、思考回路が奪われるような多幸感は初めてだ。
中のものを締め付けてしまい、カイも限界が来たようだ。「うぐ……」と呻きながら、中で果てる。
最奥に出したものを擦りつけるように小さく揺さぶられ、がぶがぶと何度もうなじを噛まれながら、ヴェルは言葉にならない喘ぎを漏らす。
ようやくずるり、とカイ自身が引き抜かれヴェルは名残惜しむかのように「ぁ……」と小さく零す。
そんなヴェルをそっと仰向けにし、カイは、ヴェルの赤らんだ目尻や頬にキスを落としていった。
「——……ありがとう、ヴェル」
「へ……?」
はて。ありがとうと言われるようなことを何かしただろうか、と目を瞬かせるヴェルの唇に、カイは軽く口付けた。
「俺を、お前のアルファにしてくれて。礼を言う」
ヴェルは思わず目を見開くが、ふにゃりと嬉しそうに微笑んだ。
「……こちらこそ。ありがとう」
まだ快楽に震える手を必死に伸ばし、ヴェルはカイの頭を引き寄せ、頬に口付けた。
「あんたが俺のアルファで、……俺があんたのオメガで、すごく幸せ」
カイは一瞬きょとんとした。しかしすぐ、その丸くなった目の端に涙がじわり、と溜まり、赤みがかった瞳が緩む。揺蕩うような赤色から、ぽろりと一筋の雫が零れ落ちた。
ヴェルはぎょっと、慌ててカイの髪を撫でた。
「ど、どうしたの?」
「え? あ……。いや」
泣くつもりなどなかったのだろう。本人も戸惑った様子で、頬を伝い落ちた雫を拭う。
「……っ」
その様子にヴェルも胸がいっぱいになり、たまらず、引き寄せたままのカイの頬や目尻に何度も口付ける。
口付ける事に愛しさが溢れて止まらない。
カイはヴェルの口付けを受けていたが、その手を取り、ヴェルの痩身を抱き締めた。
「これから先も、お前にそう思って貰えるように努力する」
「はは。さすが真面目」
少し身を離せば、二人の視線が交わる。
世界は暗く、恐ろしい。争いがひっきりなしに起こり、人が人を貶める。
それでも、今この瞬間、この人がいるのなら。
自分の隣に、この人がいてくれるのなら。どれほど心強いだろうか。
願わくばこれからもどうか、この人とずっといられますように。
いつの日か、死が二人を分かつまで。
幸せに、温かく笑って、過ごすことができますように。
どちらともなく重ねられた唇は甘く、離れがたかった。
先日、一度村に帰ることができた。オメガ狩りはカイの仕業ではなかった事や、今は城砦で無事に暮らせている事を伝えた。
復興資金に、と。カイからの詫びの金を村長に渡すと、微妙そうな顔をして言った。
「ヴェル……騙されてないか? 大丈夫か?」
「ええ? 大丈夫だよ」
村長の横から、ガドも「そうだそうだ」と口を出す。
「横柄そうなアルファだったぞ。ヴェルのことを言いくるめておいて、後から豹変するかもしれん」
「本当に大丈夫だって! そういう感じの奴じゃなかったんだよ! それを言うなら、俺の方が……」
ヴェルはおずおずとした様子で、村長とガドに、自分の身の上を打ち明けた。しかし、打ち明ければ打ち明けるほど、村長とガドは顔を見合わせてしまう。
「いや……お前がザディオス人なのはなんとなくわかってはいたぞ……」
「はい!? じゃ、じゃあ何で俺を村に置き続けたの……!?」
「そりゃあ、よく働いてくれるし。子どもの世話もしてくれるし。なあ?」
「うんうん。助かっていたよ。このまま村人として生きてくれると良かったんだがのう……、しかし、そうか。ラジナ城砦で暮らすのか……」
村長は金の入ったずしりとした革袋をやや見つめていたが、複雑そうに言った。
「どうにも……。結納金のようで受け取りたくないのう……」
「ヴェル。やっぱり騙されてないか?」
「騙されてないって!」
王宮でのごたごたがあることを伝えるのはまずいだろう。
なんとか、言える範囲で、必死にカイの潔白を証明しようとするヴェルの様子に、村長とガドは思わず笑みをこぼした。
「わかったわかった」
「城砦での暮らしが嫌になったら、いつでも村に帰っておいで」
そのような言葉が掛けられると思わず、ヴェルは涙交じりに「ありがとう」と返すほかなかった。
◇
ファレンの花は満開を過ぎ、庭は盛夏を迎えていた。
夕暮れのオレンジ色に照らされる木々をガゼボのベンチから眺めていたヴェルは、無意識にチョーカーをさする。
先月、チョーカーに貯め込んでしまった毒の魔力は無事に移し替えることができた。
魔力は、物質の中に長くは貯めておけない。放っておけば自然消滅しただろうが、ヴェルは一刻も早くチョーカーをつけなければならない理由もあった。
そろそろヒートを迎えそうなのだ。
「うう……」
つがいになりたい、というカイの申し出を受けたのは事実だ。
しかしどうにも、とうとうこのうなじが噛まれてしまうのかと思うと、気恥ずかしいやらむず痒いやら。緊張するやら、申し訳ないやら。さまざまな感情が渦巻いてしまう。
一方的に奪われるのではない。無理やりに食い破られるのではない。
自分の意思を持ってチョーカーを外し、うなじを晒すのである。
この所、ダオンが大人しくなったせいか、カイは随分と動きやすくなっているようだ。
以前とは異なり、毎日のように館に帰ってくることができている。
恐らく今日も——
そう考えたところで、庭の壁に魔力が通る感覚があった。
元々ヴェルは魔力経路を読み解くのが得意な魔導士だ。数か月を過ごしたことで、この館全体が、カイという人間を守る魔力に満ちていることはよく分かっている。
カイというよりは王族に反応しているのだろう。
先祖が、子孫を守るためにかけた温かく優しい魔法で、この庭は包まれているかのようだ。
だからきっと、ヴェルにとっても居心地が良いのかもしれない。
カイが帰ってきたことで、庭が喜ぶかのような感覚がヴェルにも伝わる。
壁を通り抜けて戻ってきたカイは、魔導士ではないから、きっとこの感覚は分からないだろう。
微笑ましさを感じながら、ヴェルは立ち上がり、カイを出迎えた。
「お帰り、カイ」
ヴェルの姿を見るなり、カイの顔がぱ、と明るくなる。例の長い脚で庭を横切り、ヴェルの元まで一直線に来ると、両腕を伸ばしてヴェルを抱き締めた。
「今帰った」
初めて出会った時は野性動物と対峙したような恐怖があったのに、今は大型犬にでも懐かれているような感覚である。
カイの腕の中で、ヴェルも肺いっぱいにカイの匂いを吸う。
「はー……落ち着く」
「ヴェルはいつも俺を吸うが……そんなにか?」
「カイも俺のこと吸っていいよ」
「俺が吸うと変態っぽいだろう」
「俺が吸っても変態だよ」
促されるままにカイはヴェルのこめかみに鼻を寄せ、すう、と息を吸い込む。と、その瞬間、カイは何かに気付いたように眉根を寄せた。
「……ヴェル。違っていたらすまないが」
「ん?」
言いにくそうにカイは続けた。
「ヒート、来てるか?」
ぎくり、とヴェルの肩が跳ねる。
「え。わ、分かるの……?」
「他の人間には分からないと思うが。いつもと香りが違う」
「俺より高精度じゃん……」
普通、ヒートが来るとオメガは自分で「来た」と分かる。抑制具をつけていても、風邪とは違う重怠い熱が、腹の奥に溜まるのだ。アルファがほしい、と切なく疼くこの感覚はオメガにしか分からないだろう。
にも関わらず、ヴェルが「そろそろ来るかな」と思っていたヒートを先に嗅ぎつけたのである。
カイの鼻の良さに驚きつつも、ヴェルは苦笑した。
「多分あと1、2時間で本格的に始まると思う。……どうする?」
少し身体を離し、ヴェルは伺うようにカイを見上げた。本当に自分をつがいにするのか。本当に噛もうとしているのか。
しかしカイは何の躊躇もなく頷いた。
「ああ。では今夜お前を噛もう」
即答だ。ヴェルはじわりと頬が熱くなるのを感じた。少しくらい躊躇するかと思ったのだが、カイには全くそんな発想はないらしい。
ヴェルは小さな声で「わかった」と返した。
◇
「あっ、ぁ、う、ッ……んン……ッ!」
一番太い所がずちゅん、と内部に入り込んでしまうと、ヴェルの肩がびくびくと跳ねた。みちみちと内壁を満たしながら亀頭で前立腺のしこりをこすられ、感じ入ったような甘い喘ぎが漏れてしまう。
「やぁ、ッ、ぁ、……ッんあっ! あ、ぅ、……ッ」
カイはヴェルの細い腰を掴んだまま、前後に揺らすようにしながらゆっくりと自身を埋めていった。
半分ほど入れたら、今度はカリでイイ所の膨らみを押し上げながら引き抜いていく。じゅぷ、と潤滑剤を泡立たせながら、後孔の縁がめくりあげられ、ヴェルは切なげに眉を寄せた。
「んっ、ぁ、あうッ、あ、っぁ」
ヴェルの首にチョーカーはなく、始まったヒートのせいで全く押さえられていないフェロモンが主寝室の空気を満たしている。
カイ自身、フェロモンに当てられ、くらくらとした状態だろう。今すぐこの首筋を噛んでしまいたいという欲求に苛まれ、それを必死に押しとどめているようだった。
いつもよりも腰を掴む力が強い。
突きあげられるような動きにヴェルは反射的に身を捩って快楽を逃がそうとするものの、その身体をぐい、と引き寄せられ、奥まで突き立てられる。
「あっ!? ぁ、うッん……!」
「すまん、ッ……抑えが……」
後ろから圧し掛かられるようにしてヒクつく内部を屹立に強く擦り上げられ、逃げ場のない快楽にヴェルは身悶えた。
カイの食いしばった歯の隙間から、ふ、と熱い息が漏れているのが、背後から伝わり、ヴェルの腹奥がぞくぞくと疼く。
「ひぅッ、あ、ンン~~~ッ!」
結合部が音を立て、内壁を擦り上げられるたび、ヴェルは喉を逸らして喘いだ。指が切なくシーツを掻き、熱に翻弄される身体がビクビクと震えた。
息を切らせるヴェルをなおも責め立てるように揺さぶられる。
「あっ、う、ぅ」
カイは身を屈め、赤く染まるヴェルの耳殻に口付ける。そして、ゆっくりとうなじへと舌を這わせた。
「っ……!」
今まで誰にも暴かれたことのないそこにカイの吐息を感じ、ヴェルは身を震わせる。
カイは腰の動きを止めないまま、ヴェルのうなじにそっと歯を立てた。
いよいよ噛まれてしまうのか、とヴェルは僅かに身を硬くする。
「……噛むぞ」
カイの吐息を感じながら、ヴェルは必死に「ッ、う、うん……!」と頷いた。
つぷり、とカイの犬歯がヴェルの皮膚に突き立てられる。痛みを感じたのは一瞬で、それを上書きするかのような快感がぶわりと身体中を駆け巡った。
「んっ、~~~!?」
舌が敏感な傷跡を優しく、丹念に舐める。じゅ、と滲んだ血を啜られ、ヴェルは小さく喉を震わせた。
「ふ、ぁッ、あう……っ」
二度、三度、と場所を変えて噛まれ、舐められる。噛まれた傷口が熱いのは、痛みの所為だけではない。
噛まれる度に、突かれる腹奥が軽くイってしまい、ひっきりなしに目の前が明滅し、びくん、と爪先がしなる。
「へ? ッぁ、ああッ……! ぁ、ッうぁ、んッ」
一度止めてほしいのに、気持ち良すぎて言葉も出ない。
この一か月で何度かカイに抱かれてきたが、こんな、思考回路が奪われるような多幸感は初めてだ。
中のものを締め付けてしまい、カイも限界が来たようだ。「うぐ……」と呻きながら、中で果てる。
最奥に出したものを擦りつけるように小さく揺さぶられ、がぶがぶと何度もうなじを噛まれながら、ヴェルは言葉にならない喘ぎを漏らす。
ようやくずるり、とカイ自身が引き抜かれヴェルは名残惜しむかのように「ぁ……」と小さく零す。
そんなヴェルをそっと仰向けにし、カイは、ヴェルの赤らんだ目尻や頬にキスを落としていった。
「——……ありがとう、ヴェル」
「へ……?」
はて。ありがとうと言われるようなことを何かしただろうか、と目を瞬かせるヴェルの唇に、カイは軽く口付けた。
「俺を、お前のアルファにしてくれて。礼を言う」
ヴェルは思わず目を見開くが、ふにゃりと嬉しそうに微笑んだ。
「……こちらこそ。ありがとう」
まだ快楽に震える手を必死に伸ばし、ヴェルはカイの頭を引き寄せ、頬に口付けた。
「あんたが俺のアルファで、……俺があんたのオメガで、すごく幸せ」
カイは一瞬きょとんとした。しかしすぐ、その丸くなった目の端に涙がじわり、と溜まり、赤みがかった瞳が緩む。揺蕩うような赤色から、ぽろりと一筋の雫が零れ落ちた。
ヴェルはぎょっと、慌ててカイの髪を撫でた。
「ど、どうしたの?」
「え? あ……。いや」
泣くつもりなどなかったのだろう。本人も戸惑った様子で、頬を伝い落ちた雫を拭う。
「……っ」
その様子にヴェルも胸がいっぱいになり、たまらず、引き寄せたままのカイの頬や目尻に何度も口付ける。
口付ける事に愛しさが溢れて止まらない。
カイはヴェルの口付けを受けていたが、その手を取り、ヴェルの痩身を抱き締めた。
「これから先も、お前にそう思って貰えるように努力する」
「はは。さすが真面目」
少し身を離せば、二人の視線が交わる。
世界は暗く、恐ろしい。争いがひっきりなしに起こり、人が人を貶める。
それでも、今この瞬間、この人がいるのなら。
自分の隣に、この人がいてくれるのなら。どれほど心強いだろうか。
願わくばこれからもどうか、この人とずっといられますように。
いつの日か、死が二人を分かつまで。
幸せに、温かく笑って、過ごすことができますように。
どちらともなく重ねられた唇は甘く、離れがたかった。
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