常から外れた者たちへ

春の豆腐屋

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暗闇に浮かぶ黒

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────世界最後の日、と聞いて人は何を思い浮かべるだろうか

 大隕石の衝突?
 核戦争の勃発?

 それとも未知の病原菌によるパンデミック?
 はたまた宇宙人の襲来か?

 滅びが訪れるというイメージは、視覚的な脅威を持って想起される事が多い。
 見えないものをイメージする方が困難であるとも言えるが、とにかく“世界最後の日”というものは大勢の人にとって眼に映る恐怖だと認識されている。

 違うのか?……って、大隕石の衝突も核戦争もバイオハザードも宇宙人も、どれも終わりではないだろう。

 世界における最大の傲慢は、人間の持つ自分たちの終わりと世界を結び付けている事だよ──────


 そう言うと、女は立ち上がった。
 今にも崩れそうな廃ビルの、今にも折れそうな錆びた鉄骨の上で、太陽に照らされる金色の髪は美しく揺れる。

 砂塵が舞う滅びの後の余韻にあって、それでも女は凛然と佇んでいた。

 唯一と言って良い文明の残滓で、女はここではないどこか遠くを見る目でジッと、ジィッとを見る。
 三界四方を囲むような真っ黒な壁が、滅んだ砂漠の世界を飲み込んでくる。

「ここも________」

 ポツリと、女の零した言葉は耳に残らなかった。
 いや、耳どころではなく、女のいた痕跡が何一つ残らなかった。

 ただ一人残されながら、それでも恐怖という恐怖をかなぐり捨てて来た私は、迫る黒壁の揺れることのない音を感じながらゆっくりと終わりを迎えた。

 飲み込まれる瞬間、崩れた鉄塔から落ちるその僅かな時だけ、いつ振りか風を一  身    に      








































 ある街の、とあるビルの屋上で、一人の女が街を見下ろしていた。
 日が登ろうとする暁の中、ゆっくりと1つ瞬き、グルリと視線を巡らせ街を一望する。

 ため息のような呼吸を零し、フィルムの切れた映像のように姿を消した。





「──滅びの能力ちから、既に芽吹いている────」


















 一陣の風が吹く。冷たく乾いた風は、秋を過ぎ冬に入ろうかという季節の変わり目を知らせるように、街中を駆け巡って。

 建てつけの悪いボロ窓が、ガタガタと震えている。
 隙間風が無作為に部屋を冷ます。

「ブェックション!」

 部屋の主が、大きなくしゃみで目を覚ました。

 憎々しげな目つきで窓を睨みながら、欠伸を1つ、布団から名残り惜しそうにゆっくりと這い出る。
 時計を見ると短針は5時





 すぐに布団の中へ潜り込んだ。
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