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第1章 異世界に転生しちゃいました?

第18話 始祖の守りを渡されて

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 ピロロロー ピロロロー
 小鳥のさえずりのような音がする。
 目をゆっくり開けると見知らぬ天井てんじょう…外はまだいくばくか仄暗ほのぐらいが、窓から少し光が差し込み始めていた。
 朝?あぁ、そうか昨日はソフィアの家にめてもらったんだ。
 私は眠りに落ちる前にソフィアからいた話を脳内のうない反芻はんすうした。

 エルフが人間と友達になるというのはきわめてまれなことらしい。ソフィア達ミュルクウィズ族はエルフの中でも社交的だが、それでも人間と友達になることは滅多めったにない。
 その理由は「エルフと人間との寿命じゅみょうの差が大きいから」だと言われている。エルフの寿命じゅみょうは約3000年。それに対して、ここ異世界の人間の寿命じゅみょうは約70年。
 エルフ側からすると、せっかく友達になってもすぐに死んでしまう…となるので、無意識むいしきの内に友達になることを拒絶きょぜつしているのだそうだ。

 では私はどうして大丈夫だいじょうぶなのかというと、一つは「ソフィアが私を好意的こういてきに思ってくれているから」そしてもう一つは「長命ちょうめいと思われるから」なのだそうだ。
 エルフ自身にもよくわからないらしいが、野生のかんとか種族しゅぞく維持いじ本能ほんのうとかそういうのだろう、何となく長命ちょうめいの者を察知さっちできるらしい。
 エルフたちはこうして長命ちょうめいの者同士で夫婦めおととなり子をさずかることで、みずからの種族しゅぞく長命ちょうめいたもっているのだろう。

 ここで私はふと思う。
 この寿命じゅみょう、もしかして生命力のことではないだろうか?確か神様の説明で生命力とは
・0になると死んでしまう
・何もしなくても徐々じょじょっていく
・病気などで大きく減少することもある
 だった。
 うん、間違まちがいなく寿命じゅみょうに関係しているのだろう。

 えっと。
 全能力値のうりょくち最大カンストの私は生命力も最大カンスト。ということは、不死ふしとまでは言わないけれど、とんでもなく長命ちょうめい!?
 ってどうしよう?
 そんなこと、考えたこともなかった。

「ん…おはよう、ユメ。早起きね。」
「おはよう、ソフィア。あはは、すごい寝癖ねぐせ。」
 ソフィアの絹糸きぬいとのような髪が爆発ばくはつしていることに、私は可笑おかしくて笑ってしまった。
「ちょっと、ヤダ。見ないで!」

 ソフィアとやりとりをしていると、先程さきほどなやみがうそのように晴れていく。
 今はじたばたしても仕方しかたがない。なるようになるしかないよね。

 ソフィアの家で美味おいしい朝食をいただいた後、外に出ると、村の中は沢山たくさん人夫にんぷさんっぽい人であふれかえっていた。その中に、昨日の会議かいぎの場で話をしたブラムスさんがいた。
「おはようございます、ブラムスさん。」
「おお、おはよう。ユメさんにソフィアおじょうちゃん。」
みなさん、朝早くからお仕事ですか?」
 ソフィアがブラムスにたずねた。
「いやぁ、実は昨日きのうからでしてね。夜通よどおしかけて工事をしたんですわ。」

 徹夜てつや明けだったとはおどろきだ。
 井戸水の水脈すいみゃくと温泉の水脈すいみゃくつながっていた件については、間に大量の粘土ねんどめることで解決かいけつしたらしい。
 なぜこんな急ピッチで工事したのか、ブラムスは最初のうちはモゴモゴと言葉をにごしていたが、どうやら私が村をはなれる前に工事を終えて、井戸の浄化じょうかをして欲しかったらしい。
 特にことわる理由も無いというかむしろそうしたかったので、私は手早てばやく井戸を浄化じょうかし、ついでに工事中に怪我けがをした人夫にんぷさんの手当てあてを終えると、さぁ出発という時間になった。

 昨日来たばかりだというのに、小さい村だからだろうか…私のことは部族ぶぞくすくった英雄えいゆうかのように持ち上げられてうわさになっていたらしく、一目ひとめ見ようと沢山たくさんの人達が見送りに来てくれた。
「ユメさん、本当に治療費ちりょうひはいらないのかい?」
「はい、まだ開業かいぎょう前ですから。おだい結構けっこうですよ。」
「これ、焼き菓子がしを焼いたの。旅の途中とちゅうし上がって?」
「ありがとう!うれしい!」
「次はいつくるの?」
「わからないけれど、新居しんきょが落ち着いたらまた来るわ。温泉おんせんに入りに。」
 なんだろう、田舎の親戚しんせきの家に遊びに行った帰りぎわに、おじいちゃんとおばあちゃんと話をしているようだ。
 まぁ実際、長命ちょうめいのエルフ達なので、16歳の自分よりははるかに年上なのだろうけれど…。

「ユメさん。」
「はい。」
 呼び止められて振り返ると、そこには村長むらおさがいた。
「もう、ソフィアからいておられるとは思いますが、我々は貴女あなたに本当に感謝かんしゃしております。」
「そ、そんな…。」
 村長むらおさにまで改めて言われるとずかしくて仕方しかたがない。
御謙遜ごけんそんなされますな。貴女あなたからいただいたごおんはとても大きなもの。エルフは種族しゅぞくとしておんを返さぬことを最大のはじとしております。どうぞこれを受け取って下さい。」
 そう言って村長むらおさ手渡てわたしてきたのは、青色の小さな宝玉ほうぎょくがついた、木彫きぼりのペンダントだった。羽模様はねもようがとても可愛かわいい。
「わぁ、可愛かわいくて素敵すてきなペンダントですね!ありがとうございます!」
 よくある観光地かんこうちのお土産みやげのようだ。
 高価こうかなものではなさそうだし、お気持ちを有難ありがた頂戴ちょうだいしよう。
 そう思って受け取ると、私の身体が一瞬いっしゅんポワッと光った。

「え!?何、今の!?」
「それは始祖しその守りと呼ばれている物でして、人間の方にはエルフの庇護ひごとも呼ばれております。」
 なんだかすご仰々ぎょうぎょうしい名前のペンダントだ。
「あの、これはどういう物なのでしょうか?」
「おや、ご存知ぞんじではありませんでしたか。」
 この異世界ではポピュラーな物なのだろうか?当然、私は知るはずもない。
「失礼。その守りを持つ者が何かしら困っているとき、それが公序良俗こうじょりょうぞくに反していない限り、エルフはその者を助けなければならない、そういう物でございます。」
「それは…すごい物…ですね?」
「はい。これは我々われわれエルフがエルフという種族しゅぞくに対して大恩だいおんありとみとめた人に対して、感謝かんしゃの気持ちとしてお渡ししている物です。」
 思った以上にとてつもないペンダントだ。
 私自身としては、ソフィアに呼ばれて立ち寄って、自分が使える魔法で出来できることをやっただけという認識にんしきなので、どうにも申し訳なさが先に立つ。
 ミュルクウィズ族だって、人間にうたがいを持ってはいたけれど、何かが起こる前に誤解ごかいけて、解決かいけつしたではないか。それなのに。
「こんな大切な物…」
 私の言葉に村長むらおさが力強い口調くちょうかぶせてくる。
「受け取れないとは言わないで下さいな?」
 ここまで言われては、受け取らざるを得ない。
「分かりました。有難ありがた頂戴ちょうだいします。でも村長むらおささん、やっぱり対価たいかとしていただきすぎだと思います。だから、私が医者を開業かいぎょうしたときには、ミュルクウィズ族の皆さんは治療費ちりょうひ半額はんがく、そして定期的ていきてきにこちらに訪問診療ほうもんしんりょうさせていただきますね?」
 村人からどよめきがおこる。
「やれやれ、よくのないこまったお人だ。であるからこそ、その守りをたくすに相応ふさわしいのですがな。しかし、訪問診療ほうもんしんりょう治療費半額ちりょうひはんがく有難ありがたいこと。村を代表して感謝いたします。」

 こうして私はエレンの村を後にした。
 なんだか短いようで長くた気もするが、しばらくはこの村とはお別れ。
 私はお土産みやげをたくさんカバンにめて一路いちろ、ミューレンの町を目指めざした。

 森をけ、丘を二つえたあたりから植生しょくせいが変わった気がする。
 ソフィアたちエルフの住むエレンの村は、広葉樹こうようじゅの森の中にあった。
 それに対してこのあたりの木々は、クリスマスツリーを巨大化したようなモミの木(なのかな?)のほか、針葉樹しんようじゅが目立つようになり、道端みちばたには大きな石がゴロゴロと転がっている。
 遠目とおめに見えていたホルン山脈さんみゃくの山々は今や間近まぢかに見え、かべのようにそびえ立っている。
 山のいただき雪化粧ゆきげしょうで真っ白。見渡みわたすと、今歩いているあたりにも溶け残った雪が見られることから多分、気温も低いと思うのだが、夜天やてん装備そうび保温ほおん効果こうかで寒さはまったく感じない。

 海と見間違みまちがえるような大きな大きな湖のほとりを歩き、3つめの小高い丘の頂上ちょうじょうにたどり着くと、少し先の山のふもとに集落しゅうらくが見えた。山側には人家が並び、ふもと側には牧場らしい柵で囲われた土地がある。
 町全体の外側にはモンスター除けの柵が設置されている。
 アレクサンドラにいていたとおりの町、ここがミューレンだ。

「見えたー!」
 達成感たっせいかんからか、思わずひとごとが出ていた。
 牧場ぼくじょうには牛のような動物、それとアルパカを足したような動物が放牧ほうぼくされていて、呑気のんきに草を食べては「ンムァアア」という鳴き声を上げていた。
 町の入り口には人ひとり入るのがやっとの大きさの小屋があり、自警団じけいだんなのか守衛しゅえいさんっぽい革鎧かわよろいを着た40代くらいの男性がいる。
 平和な土地柄とちがらなのだろう。午後の温かい日差しの中で、男性はとても気持ちよさそうに寝ていた。
 起こすのは躊躇ためらわれたが、声をかけずに街中まちなか不審者ふしんしゃあつかいされるのもよろしくない。意を決した私は男性の肩をトントンとたたいた。

――こんにちわ、起きてくださーい
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