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第2章 恐怖の残渣

第45話 能力値カンストで異世界転生したので…

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 ほわん ほわん
 私とメアリーは光に包まれる。
 その光がすーっと消えると、そこは自宅のリビングだった。

「帰って…きたの?」
「帰って…きたよ!」
 お互い顔を見合わせてにっこりほほ笑む。
 ほっとしたらどっと疲れが押し寄せてきた。今日一日、何もやらずにボーっと過ごしたい…ところだけれど!
「よし、町長さんに挨拶に行きますか!」
 と体に鞭を打って町長さんの家に向かった。きっと心配していると思うから。

「フリーダ町長さん!ユメとメアリー、ただいま帰りました!」
 元気よく町長の家を訪ねると、ライアンとフリーダ町長が玄関まで迎えに来てくれた。
「よく無事で…無事に帰ってきてくれたね…。」
 豪儀ごうぎで快活な町長だけれど、今は目にうっすらと涙を浮かべている。
 積もる話が多すぎて、その日は夜御飯まで町長の家でお世話になった。
「そうかい、アヴァロンに行ってきたのかい。」
「はい。いろいろとありましたけれど、きちんとお墓参りもしてきました。」
「なるほどねぇ。メアリーの顔が別人のように明るくなっているもんねぇ。メアリー、パパとママに挨拶してきたんだね?」
「うん、きちんとお別れの挨拶をしてきたよ。」
「そうかい、そうかい。」

 フリーダは温かいまなざしでメアリーを見つめる。
 フリーダの言う挨拶は墓参り的なニュアンスで、メアリーはパパとママの霊体への挨拶というニュアンスだと思うのだけれど…いや、言わないよ?そんな無粋なこと。

 それからの日々は穏やかな日常そのもので、ようやくのんびり過ごすことができました…と言いたいところですが、色々とありまして。ええ…。
 夏にはオルデンブルク伯爵一家が避暑に来られて、いやそれ自体は良いのですが、観光客が増えるのにあわせてけが人も増えて仕事は大忙しだし、よくわからないけれど町の近くの大きな湖が干上がりかけるし、冬には大規模な雪崩が発生して町が呑み込まれそうになるし…。
 まぁそこは私の能力値最大カンストで乗り切ったんですけれど。

 翌年の春、ミューレンの町はまるでお祭りでもするかのような賑やかさに包まれた。
 今日はメアリーの誕生日。そう、娘が成人になる日、なのです!
「メアリーちゃん、可愛いわよ!」
 ご近所の奥様達から、まるで着せ替え人形のようにドレスを着せられ、ほんのりお化粧を施されたメアリーは、恥ずかしさに顔を真っ赤にしている。でも、メアリーはちゃんとお礼が言える子。
「皆さん、ありがとうございます!」
 とびっきりの笑顔でメアリーが応えた。

 ここ、ミューレンでは町を挙げて成人の誕生日を祝うという風習がある。
 娯楽の少ない田舎あるあるだ。
 主賓の成人者を囲んで、町の大人たちみんな飲めや歌えや踊れやの大騒ぎ。
 前世でも務めていた会社では何かと理由をつけて飲み会があって…あれは正直言うと参加するのが嫌だったなぁ。
 でも、この町のお祭りは楽しい。理由をつけて飲むところは同じだけれど、心がすごく通ってて暖かいから…かな?

 実は、この誕生日のお祭りはもう一つ目的があって…異性の人へのお披露目みたいなところ。これも田舎あるあると言いますか…。
 しかしメアリーに彼氏ができるかもですか!?…これは親としても気になるところ。町の若い男性たちが数人ソワソワしながらメアリーを見ているのを私は見逃さなかったよ?
 でも、ごめんね。もうすぐこの町とはお別れなんだ。

 私は昨晩、メアリーから相談を受けていた。
「ねぇ、ユメ。お願いがあるんだけど。」
「うん。なぁに?」
「私ももう成人するし、今のように診療所の雑用係じゃなくて、できればちゃんとしたお医者さんになりたいの。ユメは回復系魔法が使えないから、そっち系統の魔法を使えるようになったら、役に立てるかなって。」
 う、うん、そうだね。どストレートに突っ込まれたので少し狼狽うろたえたけれど、確かに私は回復系が使えない。能力値最大カンストのため、回復量が多すぎて、魔法をかけた人の許容量を超える回復量になってしまい、相手を殺してしまうのだ…。
「メアリーは魔法使いになりたい、ということね?」
「うん。」
「でも、私は正しく魔法を勉強してこなかったから、私じゃ何の参考にもならないわよ?」
 実際、適当に呪文を唱えても、私の魔法は発動してしまうのだ。

「王立魔法学院に入る?メアリーは魔法の才能があるから余裕で入学試験に合格すると思うけど?」
「ううん…できれば…」

 なるほどね、確かにあそこ以上に「医者になるための魔法使いの勉強場所」としてうってつけの場所はないわ。
「いいよ、ママがお願いしておきましょう!」
「ありがとう!」

 それにしても驚いた。
 一人前の医者になるまでという期間限定とはいえ、メアリーが私と離れて暮らすことを選んだのだ。これまでのメアリーはどんなことがあっても私と離れるのは嫌!それがたとえ危ない所だったとしても!とかたくなに離れることを拒んできたというのに。
 これが成長ということなのだろうか。嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもある。子供を産んで育てた経験はないのだけれど、私はしみじみと「こうやって子供って自立していくんだなぁ」と思った。

「はい、メアリー。これは私からの誕生日プレゼント。」
 そう言って私は大きめの袋を渡す。
 ガサゴソ…中身を取り出したメアリーは「うわぁ!」と感嘆の声を上げた。
 プレゼントの中身は服とマント。
 そう、かつて私が夜天の装備一式を先生から貰ったように、私もメアリーに魔女の装備一式をあげたのだ。
 メアリーの秋桜コスモス色の髪にあうように、杏色と若芽色を基調とした服とマント。
 実はメアリーが魔女になることを希望した時のために、こっそり用意してたんだけれど、本当に渡す日が来ちゃうなんて…。
「ねぇ、ユメ。これって名前とかついてるの?」
「そうねぇ…。春のイメージなんだけれど…春…春らしくて温かい…そう、木漏れ日のマントってどうかしら?ということは、これは木漏れ日の帽子ね。」
 袋に入りきらなかった帽子を衣装棚から取り出し、メアリーにかぶせる。
「素敵な名前ね!ちょっと着替えてみる!」
 言うが早いか、メアリーは服を次々と脱いで木漏れ日の装備一式を身に纏った。
「とってもよく似合ってるわ!」
 ほんと可愛い。いや、親バカとかそういうのじゃなくて、本当にかわいい。
「あれ?ユメ、なんだか不思議な感じがするんだけど…?」
「うん。実はね、木漏れ日の装備は一式身に纏うと物理・魔法攻撃の完全耐性、雨・風を防いで、炎や雷からも身を守ってくれて、暑さ・寒さを感じなくて、水に溺れることもないの。」
「す…すっごいね。」
 私の最大カンスト魔法を何度も見ているはずのメアリーをドン引きさせてしまった。
 付与魔法の経験は無い私だけれど、そこはもう能力値最大カンストですから。なんとかなっちゃったんですよ。
 で、調子に乗りすぎて、超高性能防御付与になっちゃったけれど…おそらく世界最強の装備になったけれど…うん、まぁいいよね?

 3日後の良く晴れた日。爽やかな風と春の花たちの香りがかすかに漂っている。
「メアリー、準備はいい?」
「うん。」
「じゃぁ、行きましょうか。転移!オルデンブルク伯爵邸!」

 そう、メアリーが魔法を学ぶにあたって、希望したのはアレクサンドラ先生。
 お姉さんのロザリアさんいわく「アレクサンドラ先生は弟子をとらない主義」らしいのだけれど、なぜだか私は弟子にとってもらえた。あれ?もしかして、一番弟子だったりして?
 ともあれ、その弟子からのお願い。アレクサンドラ先生も無下に断れず「しょうがないわねぇ。最近忙しいから早々に実地研修してもらうけど、それでいいのなら。」との返事だった。
 実地研修はむしろメアリーにとっては願ったり叶ったりだろう。

「まぁ、何かあったら魔法で呼んでちょうだい?すぐに駆け付けるから。」
「うん、大丈夫。もぅ、過保護なんだから…。」
 おやおや?アレクサンドラ先生の前では甘えてこないのかしら?大人になっちゃって…。
「それではアレクサンドラ先生、よろしくお願いします。」
「お別れの挨拶は済んだ?じゃぁ、早速なんだけれど、午後から病院に一緒に来てね。どこかの誰かさんが紹介状をいっぱい書くもんだから、こちとら大忙しなのよ!」
「あ、あはは…。お願いします!」
 そう、どこかの誰かさんは私だ。

「じゃあ、またね。転移!」
 ミューレンのマイホーム、最初住み始めた頃は一人で、その頃は広いなんて思わなかったけれど、メアリーがいないと広く感じちゃう。
 なんだかんだで子離れできてないのかな、私。

 でも、今度こそのんびりとした日々を過ごすんだ。
 大冒険なんていらない。このミューレンの町で静かに、そう静かに暮らして行こう。

『ユメさん!聞こえますか!?』
 不意に脳内に声が響く。
 アレクサンドラ先生?いや、この声はロザリアさんだ。
 脳の声に意識を集中する。
『ロザリアさん、どうしました?』
『お願い!ユメさんにしか頼めない事なの。詳しくは王宮で話すから、今すぐ来られるかしら?』
『わ、わかりました。』

 うっわー…ぜったい厄介事だよ、これ。
 私のこういう時の勘は当たるの。トイフェルさんの頼みとかだったら絶対に嫌だけれど、ロザリアさんのお願いだったら行くしかないよね…不本意だけれど!
 んもう。

 ――能力値最大カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
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