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前史3
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G・べリックは一八一八年二月未明、メントホーラム星系の惑星タッカーで生を受けた。
母ハリエットはグローク人奴隷、父エアロムは彼女の所有者であり、一人の兄と四人の姉妹があった。彼は解放奴隷となる二十歳までに何人かの主人の下で働き続けた。その苦難に満ちた少年時代、彼は他の奴隷にはない幸運を一つだけ授かった。女主人のS・オトールから奴隷の身分でありながら読み書きを教わったのだ。彼女がキリスト教徒で平等と教養を尊んでいたのが幸いだった。彼はこの知識を無駄にすることなく、貪るように新聞や本を読み漁った。そして人を主人と奴隷に分かつものへの大いなる疑問が、彼を熱烈な奴隷廃止論者へと駆り立てていった。そんな彼が「解放者」を購読し始めたのは、解放奴隷となって間もなくのことだった。
わたしの魂は火のように燃え上がった。奴隷を所有する者に対する仮借なき非難。奴隷制度の様々な悪の暴露。この制度を擁護する者に対する強烈な攻撃。この新聞はわたしの血となり肉となった。
彼が「解放者」のコラムニストとして初めて筆を執ったのは、一八三四年三月の事だった。それは一部の奴隷廃止論者によるグローク人のバーナード星系送還案に反対する記事であった。彼はこの記事によりカーソンの信頼を得、やがて連邦反奴隷協会で重要な地位を占めるようになる。だがべリックは三年後、独自に「北極星」という新聞を発刊することで、二人は袂を分かつことになる。政治と結び付こうとするべリックの思想が、政治とは距離を置くカーソンの思想と相容れなくなったのだ。
権利は性に拘りなく、真理は人種に拘りなく、神は我ら万人の神であり、我々はみな平等である。
彼はグローク人という範疇を超えて、あらゆる社会差別に立ち向かう決意を創刊号のトップに書き記した。
「解放者」や「北極星」は多くのグローク人奴隷を啓蒙し、彼らをサポタージュという手段へと導いた。また人類社会でもグローク人奴隷の悲劇を描いたJ・ショルツの「セイリムの大地」やW・デリックの「猿と人」などが広く読まれるようになり、それらの小説は旧世紀の名作H・ストーの「アンクルトムの小屋」の再来と評価された。
グローク人奴隷の中にはもっと積極的な策として、逃亡や暴動に走る者も少なくなかった。
有名な逃亡組織としてH・マイヤーの「地下航路」を上げておこう。辺境から中央へ網の目を潜るように設けられた宇宙航路によって、一八三〇年から銀河大戦に至る三十年の間に、約五百万人の奴隷を逃亡させることに成功した。だが国政を根幹から揺さぶったのは、主人と奴隷が血を流しあう暴動だった。
宇宙歴一八〇〇年代に入ると、強権化された奴隷制度の反動として、各地でグローク人による暴動が頻発した。
主だった首謀者を上げれば、一八〇〇年のG・ブロス、一八二二年のD・バイヤー、そして奴隷暴動としては連邦最大といわれる一八三一年のN・モーリーなどがある。いずれも警察及び軍隊によって鎮圧され、首謀者は処刑もしくは戦死しているが、これらは何も辺境星域に限ったことではなく、奴隷制度あるところ必ず暴発すべき被抑圧者の欲求だった。これらの暴動はグローク人奴隷や奴隷廃止論者の胸に火種となって燻り続け、ついに人類の奴隷廃止論者であるJ・ブラウヒッチによるハーバリークエスト襲撃事件で再び発火をみることになる。
「平和主義者どもは口先だけだ! 我々に必要なのは行動なのだ!」
彼は熱心なキリスト教徒で、奴隷制度の残忍性を憎みながらも、暴力的手段による問題の解決には大きな抵抗を感じていた。だが先のN・モーリーの暴動に影響を受け、武力闘争なくして奴隷解放はならずと認識するようになり、兵学、特にゲリラ戦を熱心に研究し、グローク人、白人による同志二百名からなる部隊を結成、一八五九年十月、兵器庫のあるハーバリークエストで武装蜂起を決行したのだ。
彼はこの少人数で一週間に渡り軍隊と銃火を交えた。彼は自分たちの壮挙に共鳴して、全辺境の奴隷たちが一斉に蜂起することを願ったが、その希望は実現することなく終わりを告げた。彼は負傷して軍隊に捕らえられた後、裁判で国家反逆罪により死刑判決を言い渡された。
「わたしこと、J・ブラウヒッチは罪深いこの星系の奴隷制度は、流血によってのみ洗い清められると確信している。以前は血を流すことなく、それが可能ではないかと考えていたが、それは怯懦な恥ずべき思想なのだ」
彼の英雄的行為とその毅然たる死はたちまち連邦全惑星を震撼させ、多くの同胞の勇気と涙を喚起せずにはおかなかった。
作家のJ・バルジャンは「奴隷制度は近いうちに必ず消滅する。辺境が処刑したのはブラウヒッチではなく奴隷制度そのものであった」といみじくも予言したが、それから一年数か月後、中央星系の政治家たちは「J・ブラウヒッチの遺骸は朽ちるとも、彼の魂は進軍する」と彼の意思を大儀に掲げて、奴隷制度打倒の戦争を開始することとなる。
これら歴史の息吹は当然政治にも影響を与えずにはおかなかった。
奴隷制度の存廃を巡って各党は分裂再編を繰り返し、奴隷制度擁護派が各星系の利権に拘り結束を弱めていく中、奴隷制度反対派は宇宙歴一八五四年に結成された共和党へ糾合されてゆく。歴史上、特に注目度の高い宇宙歴一八五九年の大統領選挙の最大の焦点は、紛れもなく奴隷制度の存廃だった。結成後、四年に満たない共和党が堂々と民主党に挑戦し、下院においては主権を掌握するまでに成長した。そしてついに共和党は宇宙歴一八六〇年、K・ランベルトを大統領に当選させるに至る。民主党が奴隷制度擁護派と奴隷制度反対派に分裂したことを受けての結果だが、ここに奴隷制度廃絶を目指す最大勢力が誕生した。
母ハリエットはグローク人奴隷、父エアロムは彼女の所有者であり、一人の兄と四人の姉妹があった。彼は解放奴隷となる二十歳までに何人かの主人の下で働き続けた。その苦難に満ちた少年時代、彼は他の奴隷にはない幸運を一つだけ授かった。女主人のS・オトールから奴隷の身分でありながら読み書きを教わったのだ。彼女がキリスト教徒で平等と教養を尊んでいたのが幸いだった。彼はこの知識を無駄にすることなく、貪るように新聞や本を読み漁った。そして人を主人と奴隷に分かつものへの大いなる疑問が、彼を熱烈な奴隷廃止論者へと駆り立てていった。そんな彼が「解放者」を購読し始めたのは、解放奴隷となって間もなくのことだった。
わたしの魂は火のように燃え上がった。奴隷を所有する者に対する仮借なき非難。奴隷制度の様々な悪の暴露。この制度を擁護する者に対する強烈な攻撃。この新聞はわたしの血となり肉となった。
彼が「解放者」のコラムニストとして初めて筆を執ったのは、一八三四年三月の事だった。それは一部の奴隷廃止論者によるグローク人のバーナード星系送還案に反対する記事であった。彼はこの記事によりカーソンの信頼を得、やがて連邦反奴隷協会で重要な地位を占めるようになる。だがべリックは三年後、独自に「北極星」という新聞を発刊することで、二人は袂を分かつことになる。政治と結び付こうとするべリックの思想が、政治とは距離を置くカーソンの思想と相容れなくなったのだ。
権利は性に拘りなく、真理は人種に拘りなく、神は我ら万人の神であり、我々はみな平等である。
彼はグローク人という範疇を超えて、あらゆる社会差別に立ち向かう決意を創刊号のトップに書き記した。
「解放者」や「北極星」は多くのグローク人奴隷を啓蒙し、彼らをサポタージュという手段へと導いた。また人類社会でもグローク人奴隷の悲劇を描いたJ・ショルツの「セイリムの大地」やW・デリックの「猿と人」などが広く読まれるようになり、それらの小説は旧世紀の名作H・ストーの「アンクルトムの小屋」の再来と評価された。
グローク人奴隷の中にはもっと積極的な策として、逃亡や暴動に走る者も少なくなかった。
有名な逃亡組織としてH・マイヤーの「地下航路」を上げておこう。辺境から中央へ網の目を潜るように設けられた宇宙航路によって、一八三〇年から銀河大戦に至る三十年の間に、約五百万人の奴隷を逃亡させることに成功した。だが国政を根幹から揺さぶったのは、主人と奴隷が血を流しあう暴動だった。
宇宙歴一八〇〇年代に入ると、強権化された奴隷制度の反動として、各地でグローク人による暴動が頻発した。
主だった首謀者を上げれば、一八〇〇年のG・ブロス、一八二二年のD・バイヤー、そして奴隷暴動としては連邦最大といわれる一八三一年のN・モーリーなどがある。いずれも警察及び軍隊によって鎮圧され、首謀者は処刑もしくは戦死しているが、これらは何も辺境星域に限ったことではなく、奴隷制度あるところ必ず暴発すべき被抑圧者の欲求だった。これらの暴動はグローク人奴隷や奴隷廃止論者の胸に火種となって燻り続け、ついに人類の奴隷廃止論者であるJ・ブラウヒッチによるハーバリークエスト襲撃事件で再び発火をみることになる。
「平和主義者どもは口先だけだ! 我々に必要なのは行動なのだ!」
彼は熱心なキリスト教徒で、奴隷制度の残忍性を憎みながらも、暴力的手段による問題の解決には大きな抵抗を感じていた。だが先のN・モーリーの暴動に影響を受け、武力闘争なくして奴隷解放はならずと認識するようになり、兵学、特にゲリラ戦を熱心に研究し、グローク人、白人による同志二百名からなる部隊を結成、一八五九年十月、兵器庫のあるハーバリークエストで武装蜂起を決行したのだ。
彼はこの少人数で一週間に渡り軍隊と銃火を交えた。彼は自分たちの壮挙に共鳴して、全辺境の奴隷たちが一斉に蜂起することを願ったが、その希望は実現することなく終わりを告げた。彼は負傷して軍隊に捕らえられた後、裁判で国家反逆罪により死刑判決を言い渡された。
「わたしこと、J・ブラウヒッチは罪深いこの星系の奴隷制度は、流血によってのみ洗い清められると確信している。以前は血を流すことなく、それが可能ではないかと考えていたが、それは怯懦な恥ずべき思想なのだ」
彼の英雄的行為とその毅然たる死はたちまち連邦全惑星を震撼させ、多くの同胞の勇気と涙を喚起せずにはおかなかった。
作家のJ・バルジャンは「奴隷制度は近いうちに必ず消滅する。辺境が処刑したのはブラウヒッチではなく奴隷制度そのものであった」といみじくも予言したが、それから一年数か月後、中央星系の政治家たちは「J・ブラウヒッチの遺骸は朽ちるとも、彼の魂は進軍する」と彼の意思を大儀に掲げて、奴隷制度打倒の戦争を開始することとなる。
これら歴史の息吹は当然政治にも影響を与えずにはおかなかった。
奴隷制度の存廃を巡って各党は分裂再編を繰り返し、奴隷制度擁護派が各星系の利権に拘り結束を弱めていく中、奴隷制度反対派は宇宙歴一八五四年に結成された共和党へ糾合されてゆく。歴史上、特に注目度の高い宇宙歴一八五九年の大統領選挙の最大の焦点は、紛れもなく奴隷制度の存廃だった。結成後、四年に満たない共和党が堂々と民主党に挑戦し、下院においては主権を掌握するまでに成長した。そしてついに共和党は宇宙歴一八六〇年、K・ランベルトを大統領に当選させるに至る。民主党が奴隷制度擁護派と奴隷制度反対派に分裂したことを受けての結果だが、ここに奴隷制度廃絶を目指す最大勢力が誕生した。
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