銀河連邦大戦史 双頭の竜の旗の下に

風まかせ三十郎

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第47話 会議

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「やあ、貴官と共に戦えるとは、連邦軍人にとって名誉なことだな」

 第七艦隊指揮官R・フォスター中将はそう言って片手を差し伸べた。彼とは以前、双方の艦隊間で揉め事が起こった時、ビデオスクリーンを通じて面識を持ったことがある。四十にして既に勇将の誉れが高く、その姿は武断派の先鋒として常に連邦軍の最前線にあった。だがその精悍な顔に笑みはなかった。無理もないとウォーケンは思う。些かでも軍学の心得がある者なら、一万二千隻でマーキュリー要塞を落とすことは不可能と考えるはずだ。
 かつて連邦軍は二万五千隻の大軍を以て攻略を試みたが、結局三千隻以上の損失を出して撤退している。作戦本部の無理強いは今に始まったことではないが、もう少し他から部隊を転用できないものかと、ぼやきの一つも言いたくなる。

「諸君もこの要塞の重要性は承知していると思う。ここを拠点に未だ多くの同盟軍艦艇が健在だ。我が軍の侵攻計画が大幅に遅滞しているのも、敵のゲリラ部隊によって補給路を寸断されたからに他ならない。特にこの三か月における輸送船の損害は過去最高を記録している。この攻勢期においてだ。なんとしてもゲリラの巣を叩き潰し、兵站航路の安全を期さねばならない。それにここは宇宙航路の要衝でもある。同盟領に進攻するには是非とも確保すべき航路の一つなのだ。このクルニア星域を迂回すれば、侵攻計画は半年ほど遅れるだろう。マーキュリー要塞を陥落させれば、戦争は早期に集結するはずだ」

 フォスターは参謀に指示してマーキュリー要塞の図面をデータパネルに表示させた。会議に列席した幕僚たちから一斉にため息が漏れた。それは同盟軍が総力を挙げて建造した直径二十キロにも及ぶ巨大な人工天体だった。同時に四隻の戦艦を修理するための巨大な船渠ドックを装備しており、最大三千隻を駐留させることができた。また十万人規模の将兵を常駐させることが可能な兵站設備も備えており、外部からの補給なしでも優に一年は持ちこたえることができる。戦艦クラスの要塞砲だけでも二千門を有しており、その攻撃力は優に二個艦隊に相当すると考えられた。過去の戦略を分析すれば、第七艦隊だけではいかにも戦力不足の感は否めなかった。が、作戦本部は要塞の攻撃力を過少に評価しており、兵力増強の必要性を認めようとしなかった。

「二個艦隊で落とせなかった要塞だ。成功すれば手柄は独り占めか。作戦本部も粋な計らいをするものだ」

 フォスターの皮肉が虚しく会議室に響く。むろん誰一人として笑う者はいなかった。要塞の堅固な構造を知るにつけ、誰もが作戦の前途を悲観せずにはいられなかった。この場の重苦しい雰囲気が既に敗北感を醸成していた。

「力攻めが無理なことは明白です。要塞の周囲に艦隊を配置して包囲すれば、少なくとも駐留艦隊の動きは封じ込めることが可能です。我々は無駄な血を流すことなく当初の目的を達成することができるのです。攻略ではなく封鎖の方向で作戦を検討してみては?」

 第十二戦隊G・リットン少将の献策は多くの幕僚の胸中を代弁していた。彼はエリート畑を歩んできた文官で、実戦部隊を指揮するのは今回が初めてだった。無理難題を押し付ける軍上層部のやり方を間近に見てきた一人でもある。

「あの要塞を完全に包囲するには最低一万隻、いや二万隻は必要だろう。守勢から攻勢に転じた今、我が軍はより多くの戦力を必要といているのだ。強大とはいえ、一つの要塞に二万隻もの艦艇を割く余裕はない。それに貴官は無駄な出血と言ったが、戦争を半年一年長引かせるよりは遙かに少量の出血で済むのではないかな?」
「それは要塞攻略が成功したらの話ではありませんか?」
「貴官は作戦を立てぬうちから失敗を考えているのかね?」

 フォスターは飽くまで作戦本部の命令を実行する気でいるのだ。少なからぬ幕僚が不満も露に非戦論を唱えたが、彼の堅い決意を変えることはできなかった。

「提督は本気であの要塞を攻略できるとお思いですか? それもわずか一万二千隻という寡兵で」

 幕僚の一人が念を押すと、フォスターは断固とした口調で言い放った。

「所詮は人間の造ったものだ。いずれ滅びる時が来る。やり方はあるはずだ」

 人間に完全性を求めることはできない。必ずどこかに付け込む隙があるはずだ。かつて難攻不落といわれた要塞が、その名に溺れていくつ落とされたことか。多くの幕僚がその洗礼を兵学校などで学んでいるはずなのに、いざ自分が応用問題を解くとなると回答を拒んでしまう。彼らは兵学校で何を学んだのか? なるほど、学課の成績順に昇級させていたのでは戦果も上がらないわけだ。
 幕僚は尚も食い下がった。

「提督には何か腹案がおありですか?」
「うむ、ないことはない。もっともわたし程度の男が考えたことだ。諸君らの知恵で詳細に検討してほしい」
「閣下、ぜひお聞かせください」

 ウォーケンが好奇の目を寄せた。フォスターの謙遜ともいえる言葉に好意を持ったのだ。幕僚たちも耳目を傾けた。

「敵駐留艦隊を、囮の輸送船団によって誘き出そうと思うのだ」
「囮、でありますか?」
「そうだ、物資を積載しない空の輸送船で敵駐留艦隊を誘き出す。その隙に敵要塞に攻撃を仕掛けるのだ」

 参謀の一人が質問した。

「もし敵がこちらの誘いに乗らなければ?」
「その場合、我々は要塞砲以外に艦砲とも戦わねばならないことになる」
「……」

 会議室の空気が水を打ったように静まり返った。名将の言葉に誰もが失意を隠せなかった。ただ一人、ウォーケンを除いては。
 フォスターが徐に口を開いた。

「諸君、確かにマーキュリー要塞を陥落させるのは至難の業だ。だがろくに検討もせずに作戦を破棄するのはどうかと思う。議論を尽くそうではないか。一パーセントの可能性でも発見したら、それを信じて全力で戦おうじゃないか。幸いにもわたしの下には優秀な将官が配属された。これは作戦本部の期待の表れだと思う。諸君の双肩には祖国の運命がかかっているのだ。そのことを忘れないでほしい」
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