竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中

秋月一花

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1章:旅人として

海の近くの街で ☆20☆

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「クラーケンがいなければ、もう少し粘れるような気はするんだけどなぁ」
「あんな大きな魔物、倒してくれる人がいないと漁だって危険だろ」
「いつ出遭うかわからないからな。毎回心臓バクバクいってる」
「そりゃ大変だ」

 どうやら漁師たちもいるらしい。リーズは髪と身体を洗ってから、湯船に浸かり会話をしている人たちに近付き、声をかける。

「あの、もしもクラーケンを倒す人がいたら、どう思いますか?」

 いきなり声をかけたリーズだったが、話をしていた二人組は彼に視線をやると、にっと明るい笑顔を見せた。

「神だ! って思うね」

 あまりにもきっぱりと言い切られて、リーズは目を丸くする。

「神、ですか?」
「クラーケンのせいで魚たちも逃げちまうからな。漁師のオレとしては、もっと魚を獲ってみんなに食ってもらいたいわけよ。それができるようになれば、ほんっとうに助かるのさ」

 ぐっと拳を握って熱く語る男性に、リーズはふむ、と口元に手を置く。

 どうやら本当に困っているようだ。

「もしもクラーケンを倒したのが、小さな女の子だとしたら?」
「そんな子がいたら、女神として崇めるね!」
「でもよぉ、小さい女の子が魔物と戦うとなれば、オレらちっと情けなくねぇ?」

 リーズたちの会話を聞いていたのか、他の人も寄ってきた。

 クラーケンに困っている人たちは多いようで、なかなか倒せない魔物相手に鬱憤も溜まっているようだ。

「クラーケンの影に怯えながら過ごすのも、もうごめんだぜ」
「だが、海兵も薙ぎ払っているじゃん、クラーケン」
「もっと強い人がいればなぁ」

 次々に飛んでくる会話に耳を傾けながら、リーズは明日のことを考える。

 シュエが倒したら、感謝はしてくれるだろう。

 そのあと、どういう目で彼女を見るのかを真剣に考えた。

 海の近くの比較的暖かい街のようで、街に暮らす人々も大らかな人たちが多いように見える。

「なるほど。とても参考になりました」

 リーズがにっこりと微笑むと、集まってきた人たちは首を傾げた。

「クラーケンはいつ現れるのか、わかりますか?」
「え? あー、いつだろうな? 最近だと結構頻繁に出てくるから、明日も出るんじゃないか?」

 リーズはふむ、と小さくうなずき、彼らに向かい微笑みを浮かべて「わかりました、ありがとうございます」と頭を下げる。

 そしてそのまま湯船から上がり、シュエが眠る部屋まで戻った。

「どうやら大活躍の予感ですよ、姫さま」

 すやすやと穏やかに眠るシュエにぽつりと声をかけ、リーズも寝る支度を整えて隣のベッドに潜り込む。

 ――明日、きっと街は歓声に包まれることになるだろう――

 シュエの活躍はきっと街中に広がり、彼女を見る目がどう変化するのか。

 小さな不安を抱きつつ、リーズは目を閉じて睡魔に抗うことをせず、心地良いまどろみの中に身を投じた。
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