12年目の恋物語

真矢すみれ

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後日談

1.夜中の電話

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 夜十一時。
 風呂上がり、部屋でやりたくもない宿題を片付けているとスマホが鳴った。

『着信 牧村明仁』

 思いもかけない名前に、一瞬出るのを躊躇う。

「……明兄?」

 明兄は恋人ハルの五つ上の兄貴。
 そもそもハルとは隣同士の家に住む幼なじみで、オレの兄貴と明兄は同い年で仲が良い。だから、明兄もオレにとっては兄貴みたいなもんだ。
 ……けど、遠方の大学に行ってからは、年数度の帰省の時にしか会わない仲でもある。
 メールや電話はたまに来るけど。

「はい」

「叶太?」

「うん、どうしたの。珍しいね」

 と言いつつ、多分、ハルに関する話だとは当たりをつける。
 明兄は、溺愛している妹ハルに直接聞けないことがあると、オレに電話をかけてくる。

「週末、帰るから空けといて」

「え? 週末こっち来るの!?」

 電話の向こうの明兄の言葉に、思わず大きな声を出すと、

「声でかい」

 と少し遠くなった声で、冷静に文句が返ってきた。
 って言われても、ハルじゃなくてオレに予定を空けておけって言う段階で穏やかじゃない。声だってでかくなるってもんだ。

「あ、ごめん。えっと、だけど学校は?」

「週末まであるかよ」

 そうですよね。
 相変わらずの明兄に、こっそり内心ため息を吐く。
 ハルには激甘、ハルの前では他の人間にも少し優しい口調になる明兄も、夜、絶対にオレしかいないと分かっている電話では本性丸出しだ。

「えーと。で、土日の何時を空けておけばいい?」

「陽菜との約束は?」

 他の予定は気にしないけど、ハルとの予定だけは考慮する、その一本筋の通った姿勢には恐れ入る。ってか、ある意味、オレのお手本。

「土曜の朝、通院に付き合う約束してる」

「じゃあ、金曜日の昼と土曜の夕方以降と日曜日、空けといて」

「え? 金曜日の昼!?」

 それって平日だと思うんだけど。

「たまたま空いた。お前は昼休みだけ付き合え」

 昼休みはハルと弁当食べるんだけど、明兄、知ってて言ってるよな?
 じゃ、きっと拒否権はなしだ。

「了解~」

「場所は追って連絡する」

「分かった。……けど、本当に金土日、三日もいるの?」

「相手がある話だからな。金曜日は確定。土日はどっかで一~三時間。余った時間はリリースしてやるから安心しろ」

「てか、一体何やんの?」

 と至極もっともな質問をしたら、いかにも不機嫌な声が帰って来た。

「……お前、それ本気で言ってる?」

「え!? えーっと……」

 待て待て待て待て。
 オレが知ってる用事で、明兄に関係するもの?
 いや、明兄がわざわざ数時間かけてまで帰省して何かするってのは、間違いなくハル関係だ。となると……。
 二週間前にハルが保健室から救急搬送されて、そのまま入院する羽目になった、あの事件しかないだろう。

「一ヶ谷と篠塚?」

「良かったな、思い出せて」

 明兄、声が怖いって。

「間に合った?」

「ギリギリでセーフだな」

「ってかさ、一体何やるつもり?」

 ハルに何もしないで欲しいって言われてたよな?

「何、ちょっと反省してもらうだけだ」

 ……反省って。
 具体的に何をやるとか、締めてやるとか言わない分、逆にやばい方面の人っぽくて怖いし。

「叶太にも、陽菜に勘付かれない程度には動いてもらうから」

「了解」

 ハルがあんな目に合わされたのには、オレもはらわた煮えくり返ってるんだ。ハルが何もしないでって言うから、大人しくしてたけど。

「でも、オレ、ハルが嫌がるようなことはしないよ」

「分かってるよ。オレだって、そこまではしない」

 心なしか、電話の向こうの明兄の声が優しく聞こえた。

「ちょっとケジメを付けさせてもらうだけだ」

 前言撤回。
 明兄の冷たい笑顔が目に浮かんだ。
 やっぱり、明兄は相当怒っていて、やる気満々だ。
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