12年目の恋物語

真矢すみれ

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14年目の永遠の誓い

16.ガールズトーク2

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 春の校外学習は、家から一時間くらいのところにある万博跡地か何かの大きな公園だった。県内だし、その近所から通っている子もいるということもあってか、今回は現地集合。
 電車にするか、車にするか散々迷って、カナと相談して、乗り換え駅までは車、そこからは電車にした。電車の方が酔いにくいけど、乗り換え駅での移動距離が長いのがネックだった。
 朝、酔い止めを飲んで、カナと一緒に乗り込んだのは、いつも通学に使っている車。幸い乗り慣れた自分ちの車のおかげか、カナとおしゃべりしている内にうとうと……、気がついたらグッスリ眠ってしまっていた。

「ハル、着いたよ」

 カナの声で目を開けると、車は駅ではなく公園の広々したエントランスにいた。

「時間に余裕もあったし、ハル、よく寝てたから車で来ちゃった。ごめんね。電車が良かった?」

 カナが、

「聞かずに決めちゃってごめんね」

 と寝起きのわたしの頭をなでた。

「ううん。グッスリ眠れたおかげで、なんか身体が軽いよ」

 笑顔で言うと、カナも嬉しそうに笑ってくれた。
 本当に、過去すべての遠足の中でも身体の軽さは一、二を争うんじゃないかな? 少なくとも、乗り物に長く乗った後とは思えないくらいには、体調が良い。
 きっと鬼門は観光バスなんだろうな、と思う。いつも現地集合だったら良いのにな……と思うけど、高校三年生の今、校外学習という行事はもう最後かも知れない気もする。



 一度集合して、注意事項を言い渡された後は自由行動。
 わたしはカナと園内を散策。
 色とりどりの花が咲き乱れ、とても綺麗。ところどころに置かれたベンチに座り、休憩しながら春の庭園を楽しんだ。
 こんな、老夫婦のような事をしている人は少なくて、子どもみたいにアスレチックで遊んだり、斜面に作られた長い長い滑り台で遊んだり、広い芝生広場で、持参したサッカーボールやバドミントンを楽しむアクティブな人たちがほとんどだった。

「カナも行ってきたら?」

 そう言うと、カナは

「オレはハルといる方が良い」

 と、とろけそうな笑顔を見せて、わたしを抱き寄せた。



 自由時間が終わると、BBQコーナーに再集合。
 本日のメインイベント、班別の自炊ランチ。七~八人の班で、それぞれメニューを考えて材料も分担して持参きている。うちは炭焼きハンバーグとサラダ、豚汁、そして飯盒でご飯を炊く。
 手抜きして、お肉、ウィンナー、焼き野菜でBBQをしようという班は先生チェックで却下されていた。先生曰く「調理実習だと思え」だそうだ。確かに、ただ焼くだけじゃ調理実習にはならない気がする。

「ハルは立ち仕事はしなくて良いから、玉ねぎの皮むいてて」

 と、カナに玉ねぎを二個持たされ、ベンチへと追いやられる。
 って言うか、さすがにこれはないでしょう……と人参とジャガイモの皮むきも買って出ようと思っていると、カナが気合い全開で、

「じゃあ、今日は男の料理で行ってみようか!」

 と言った。
 すかさず、しーちゃんが

「よっ、叶太くん、カッコいい!」

 とはやし立てる。
 え? なに? なんで、いつの間にか男の料理?
 こんな話は初耳で、わたしは普通にみんなで料理すると思っていた。だから、ビックリして楽しげなカナをまじまじと見てしまった。

「広瀬くん、男前っ!」

 と、今年も同じクラスのりっちゃんも楽しそうに手を叩いている。
 何がどうなってるのか分からず混乱しつつも、そもそも……カナ、料理なんかできるの? なんて、どこかで冷静に考えていた。長い付き合いだけど、カナがお料理する話なんて聞いたこともない。
 わたしと同じ疑問を抱いた男の子がいたみたい。潮野くんは、焦った声でカナに突っ込んだ。

「おい、叶太、男の料理ってなに!? 大体、お前料理できるのかよ」

「できるよ?」

 カナは当然のように胸を張った。

「これくらい作れなきゃ、だろ?」

 別の男の子がその言葉に反応。

「え!? ダメ!?」

「ダメなことないかも知れないけど、やっぱポイント低いよな?」

 カナの言葉に、そうそう、お料理上手の男子って良いよね~と、りっちゃんはじめ、女子三人が力強く追い討ちをかけた。

「みんな知ってたの?」

 と、こっそり、しーちゃんに聞くと、

「ううん、面白そうだから、乗ってみただけ~」

 と満面の笑顔が返ってきた。
 潮野くんは、傍観していた斎藤くんにも声をかけた。

「斎藤だって、料理なんてできねーよな?」

「いや? オレもハンバーグや豚汁くらいなら作れるけど?」

 いかにも体育会系の斎藤くんのその言葉に、潮野くんは絶句、女の子たちがキャーッキャーッ大騒ぎ。
 そうなんだ、斎藤くんもお料理できるんだ。……わたしもほとんどできないもんなぁ。もしかして、今時は男子の方がお料理上手なのかな? なんてボンヤリしてると、潮野くんはわたしに矛先を向けた。

「ハルちゃんは気にしないんだ。そうだよね。男は料理じゃないよね?」

 それを見たりっちゃんが鋭く突っ込む。

「ハルちゃんちはお手伝いさんいるって」

 確かに、うちのママはお料理しないけど……。きっとそれって普通じゃないよ? あ、違うか。わたしがお料理しない事のが問題なんだ。
 そうだよね。普通は、いつかは家を出ないといけなくて、もし結婚したのだったら、自分か結婚相手のどちらかがご飯を作らなきゃいけないんだよね……。

「潮野、料理の腕か経済力、どっちか必要だってよ」

 別の男子が潮野くんの肩を抱いて、そんなことを言った。
 ……別に料理の腕でも経済力でもないと思うんだど。
 わたしも、別にお料理が嫌いという訳でもない。調理実習は楽しいし、作ったものを喜んで食べてもらえたら、純粋に嬉しいと思う。
 けど、手芸みたいに疲れたら休憩して休み休み……って訳にはなかなかいいかなくて、お手伝いさんが二人もいるのに甘えて、家で何かしようと思った事はなかった。
 なんて、わたしの内心を知る訳もなく、潮野くんは大げさに頭を抱えて見せた。

「マジかー!?」

 楽しげな空気の中、

「ってかさ、叶太くんは本当に料理できるの?」

 今更ながらしーちゃんが聞くと、カナは驚くようなことを答えてくれた。

「できるって。オレ、今、料理修行中だし」

 おおっとか、ええっと口々に驚きの声が出る。
 わたしも思わず「え?」と小さな声をあげてしまった。そんな話、初耳だもの。
 そして、カナが近寄ってきたと思った次の瞬間、突然背中からギュウッと抱きしめられた。

「カナ?」

 見上げると、カナは得意げに爆弾発言。

「ハルの婿にふさわしい男になるべく、花婿修行の一環?」

 その言葉に、わたしを除く全員が大歓声。

「さすが叶太くん! 根本的に発想が違うわ!」

「やだー、もうハルちゃん、愛されてるね~!」

「お前、ほんとブレないよな~」

 あまりの騒ぎに「なになに?」と聞きに来た隣の班の子に、みんなが口々にカナの発言を伝えて、結局、気が付くとクラス中で大騒ぎになっていた。
 何が起こったのか、事情徴収に来た先生までもが話を聞いて吹き出した。

 カナの発言を言葉通りに受け取るような人は誰もいなかったけど、わたしはその真意を知っている訳で……。
 花婿修行でお料理って……。みんなにからかわれて真っ赤になって俯いて、そこからしばらく顔を上げられなかった。
 手に持っていたのはタマネギだし、荷物はみんなのと一緒に隅っこに置いてあって……、顔を隠す場所がどこにもなくてカナにしがみついていたら余計にからかわれてしまい、

「カナのばかぁ」

 と小声で言うと、

「ごめんごめん」

 と全然悪びれない声が降ってきて、ついでに

「ホント、ハルはシャイだよな」

 と、頭をなでられたり、抱きしめられたりしたものだから、さらに大騒ぎ。
 わたしがシャイなんじゃなくて、どう考えても、カナが構わなすぎなんだと思う……。



 その日、カナたち男子が四人で作ってくれた炭焼きハンバーグは外側がこんがり焼けて中はジューシー、本当に絶品だった。ポテトサラダに豚汁もとっても美味しくてビックリ。
 カナがわたし用に小さなハンバーグを作ってくれたおかげで、わたしも全部食べることができた。

 今日の自炊ランチでは、わたし他、女子は全員、本当にサラダ用の野菜を洗うとか、レタスをちぎるとか盛り付けとか、簡単な作業ばかり。後片付けまで、四人でやってくれたものだから、他の班の女子からは羨望の眼差しで、他の班の男子からため息が出る有様。
 潮野くんは、

「いや、ホント、料理の威力、すげー! オレ、マジで料理習おうかな」

 なんて言っていた。
 この日以降、うちのクラスの男子の間では男の料理が大流行した。
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