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14年目の永遠の誓い
22.隠された願い2
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それからしばらくはシャーベットをゆっくり味わって、その後は晃太くんの最近の彼女の話。カナ曰く、久々に一年近く続いているらしい。
楽しくて、久しぶりのカナの部屋は、懐かしくて、妙に落ち着いて……。
今日の本題をうっかり頭から追い出したくなる。
けど、ちゃんと向き合わなくちゃと、ふと訪れた沈黙の瞬間に大きく息を吸い込んでから一気に言った。
「ねえ、カナはなんで結婚したいの?」
「え?」
カナは突然の話題変更に面食らったような顔をした。
けど、わたしがわざわざ数年ぶりにカナの部屋を訪れたことで、何かあるのだろうと覚悟していたみたいで、すぐに返事が返ってきた。
「一緒にいたいから」
「今だって、十分に一緒にいると思う」
予想外の答えに、行動の動機なんて人それぞれだと分かっているのに、思わず言い返してしまった。
だけど、カナは驚いたように声を上げ、わたしを見つめた。
「え!? だって、朝起きてから学校に行くまで、ハルに会えないんだよ!?」
え? それ、普通だよね?
「夜だって、基本、夕飯前には帰らなきゃいけないし」
それだって、普通だと思うんだけど……。
「ねえ、なんでそんなに一緒にいたいの?」
「……え!?」
当たり前の疑問を口にしたつもりだったのに、カナはショックを隠せないという顔で、頭に手をやった。
「ハル、それはオレ、ちょっと傷つくんだけど」
「……なんで?」
本当に分からない。
「オレ、ハルが好きで好きで好きで好きで仕方ない。朝目が覚めた時、隣にハルがいたら幸せだなぁと思うし、夜は一緒に飯食って、一緒に風呂入って、それから同じベッドで眠れたら、最高に幸せだと思う」
カナは真顔で説明していたのに、最後の方でなぜか顔を赤くした。
「抱きしめたいと思った時にいつでも抱きしめたいし、キスしたいと思った時にいつでもキスしたい」
続いた言葉に、今度はわたしが赤くなる。
「愛してるよ、ハル」
カナは身を乗り出して、わたしの頰に手を触れた。
「オレ、何かおかしいこと言ってるかな?」
聞かれたけど、答えられなかった。
学校に行く時だって、敷地内に入った瞬間から出る直前まで、ほとんどずっとカナと一緒だ。元気だったら同じ教室で勉強して、具合が悪くて保健室で休んでいても、休み時間ごとに顔を見に来てくれる。
わたしが寝ているだけの土日でも、カナはわたしの部屋に訪ねて来てくれる。付き合い始めてからは、月に数回の通院にも付き合ってくれるようになった。
カナは入院中でも、毎日会いにきてくれる。
これだけ一緒にいられるんだよ?
どうして、これ以上なんて考えられるの?
「今でも、十分一緒にいると思うんだけど……」
多分、わたし、家族の誰より、……他の誰よりもカナと一緒にいると思う。
「カナ?」
「ハルはこれで足りてるんだ。……そっか、ハル淡白だもんな」
「え? なに?」
「いや、オレが欲張りなのかな……それか、……オレが男だから?」
とカナが困ったように頭を掻いた。
しばらく言いにくそうに口を開いては閉じを繰り返した後、とうとう、真っ赤になったカナは途切れ途切れに話し出す。
「ハルはぜんぜん気づいてないけど……さ、オレ、さっきから、もうどうにかなりそうで、……自分を抑えるので必死なんだけど……」
「え? ……なんで?」
カナの言葉の意味が取れずにいるわたしに答えることなく、カナは続ける。
「オレの部屋にハルがいる。それだけでも興奮するのに、ハル、平気でベッドに座るし、オレに触れてくるでしょう?」
「……あの……興奮って……何に?」
カナがふうーっと疲れたように、大きく息を吐いた。
「ハルは、そう言うの……………まあ、知らない……よな」
カナは困ったように、頭を抱えるようにしてテーブルに伏せた。
……カナ?
十秒ほどの沈黙の後、カナはほんの少し顔を上げて、上目遣いにわたしを見た。
「あのね、ハル。オレ、一応男なのね?」
「……うん。知ってる」
「えーっと、そう言う意味じゃなくて……」
カナはさらに困った顔をした。
「……なんか、すっげーいけないことしてる気分。侵しちゃいけない聖域に踏み込んでるっていうか何て言うか……」
カナはボソリとつぶやいた。
……いけないこと? 聖域? いったい何の話?
「オレさ、ハルとは、その……婚前交渉は絶対ダメだと思ってて」
……婚前交渉? 結婚前に何か交渉する必要があるの?
カナはわたしの反応を見て、困ったように眉をひそめた。
「……ハル、意味、分かってない……よな。……あのさ、ハルはぜんぜん気づいてないけど、……オレ、さっきから、もうどうにかなりそうなくらい、ハルが欲しいよ?」
「え? ……なに?」
わたしが欲しい? ……それってどういう意味?
そのまま、カナはずいぶんと長い間沈黙した。
何も言わないままに、視線を彷徨わせて窓の方を見たり、ドアに目をやったり、それからチラッとわたしを見たり……。
何かに悩んでいるようで、口を挟むのも申し訳なくて、わたしはじっとカナの言葉を待った。
「……あのさ、」
「うん」
「えーっと、」
「うん」
「ハルは……」
カナはそこでまた、一分近く沈黙。
その後、意を決したように両手の拳をギュッと握りしめた。
「あのさ、ハルは赤ちゃんを……どうやって作るか、知ってる?」
「……え?」
一瞬、何を聞かれているのか分からなかった。
けど、カナが真っ赤になっているのを見て、ようやく、いわゆる男女の営みについて聞かれたのだと悟る。
その瞬間、今度はわたしが首まで赤くなった。
聞かなかったことにしたい。
……けど、答えなきゃ、カナに申し訳なさすぎる。だってカナは、ずいぶんと勇気を振り絞ったという様子だったから。
「……あの。……はい」
なぜか丁寧語でわたしは答えていた。声がちょっとうわずっていたかも知れない。
「そっか! 良かった!」
カナは目に見えて、ホッとしたという顔をした。
それから、そのまま、カナははあーっと大きく息を吐く。
「ごめんね、ハル。……これも自然な気持ちだって、分かってもらえたら嬉しいんだけど、」
カナは最初に謝ってから、続きを話した。
「オレ、実のところ………ハルを抱きたいと、……かなり……切望してる」
言ってから、カナはさらに赤くなって目を逸らした。
カナの反応同様に、言われたわたしも真っ赤になって目を逸らす。
付き合っていると、そういうことをすることもあるというのは、わたしだって一応知っていた。
だけど友だちとは、その手の話はしたことがない。だから、わたしの知識はとっても乏しいもので……、保健の授業で教わったのと、たまたま読んだ小説に出てきたものと、そんな程度のもので……。だけど一応、授業では行為から避妊法に至るまで教わりはした。
だから、それが恋人同士や夫婦の自然な営みだと言うのは知っている。……知っては、いた。
……けど、……だけど、まさか、カナの口からそんな台詞が出てくるなんて、思ってもいなかったから!
だから、わたしは混乱して、動揺してしまって……。
「本当はオレ、けっこう我慢してるんだよ? ハル、知らなかっただろう」
「え……と、……し、知り、ませんでし…た」
思わずどもる。言葉がひっくり返る。
「……あの、」
何か言おうと思うのに何も出てこない。
頭の中は真っ白だった。
「触れるだけじゃない、もっと恋人同士のキスをしたい……とかも思うよ? けど、止まらなくなりそうで……。怖くてできなかった」
それ、ディープキス……ってやつ?
小説で読んだだけでは、どんなものか正直想像もつかない。
「ハルにはさ、ぜったい、結婚してからしか、しちゃダメだと思ってて、」
そ……それ、行為のことだよね?
「だから結婚をしたいって思いも……正直、少しはある訳で……」
カナはちょっと後ろめたそうな顔でわたしをちらりと見た。
「ハルも聞いてるかも知らないけど……、オレさ、ハルの家の事情とか、ハルの身体のこととか引き合いに出して、結婚の了解取った」
「……そうなの?」
「そっか、聞いてないか」
カナは意外そうにわたしを見た。
それから少しためらった後、わたしの顔をじっと見て言った。
「ねえ、なんでハルは結婚したくないの?」
と口にしたすぐ後、カナはははっと笑った。
「ごめん。最初に聞いたね。ハルは今の状態で満足してるんだよな」
尋ねておきながら、わたしが答える前に自分で答えを出したカナ。
カナは少し寂しそうで、なんだかとても、……本当にとっても申し訳なくなってしまう。
カナの願う通りにしてあげたいのに。
こんなにカナが好きなのに。
……こんなにも好きなのに、なんで結婚って言われると、こんなにも嫌なのかな?
楽しくて、久しぶりのカナの部屋は、懐かしくて、妙に落ち着いて……。
今日の本題をうっかり頭から追い出したくなる。
けど、ちゃんと向き合わなくちゃと、ふと訪れた沈黙の瞬間に大きく息を吸い込んでから一気に言った。
「ねえ、カナはなんで結婚したいの?」
「え?」
カナは突然の話題変更に面食らったような顔をした。
けど、わたしがわざわざ数年ぶりにカナの部屋を訪れたことで、何かあるのだろうと覚悟していたみたいで、すぐに返事が返ってきた。
「一緒にいたいから」
「今だって、十分に一緒にいると思う」
予想外の答えに、行動の動機なんて人それぞれだと分かっているのに、思わず言い返してしまった。
だけど、カナは驚いたように声を上げ、わたしを見つめた。
「え!? だって、朝起きてから学校に行くまで、ハルに会えないんだよ!?」
え? それ、普通だよね?
「夜だって、基本、夕飯前には帰らなきゃいけないし」
それだって、普通だと思うんだけど……。
「ねえ、なんでそんなに一緒にいたいの?」
「……え!?」
当たり前の疑問を口にしたつもりだったのに、カナはショックを隠せないという顔で、頭に手をやった。
「ハル、それはオレ、ちょっと傷つくんだけど」
「……なんで?」
本当に分からない。
「オレ、ハルが好きで好きで好きで好きで仕方ない。朝目が覚めた時、隣にハルがいたら幸せだなぁと思うし、夜は一緒に飯食って、一緒に風呂入って、それから同じベッドで眠れたら、最高に幸せだと思う」
カナは真顔で説明していたのに、最後の方でなぜか顔を赤くした。
「抱きしめたいと思った時にいつでも抱きしめたいし、キスしたいと思った時にいつでもキスしたい」
続いた言葉に、今度はわたしが赤くなる。
「愛してるよ、ハル」
カナは身を乗り出して、わたしの頰に手を触れた。
「オレ、何かおかしいこと言ってるかな?」
聞かれたけど、答えられなかった。
学校に行く時だって、敷地内に入った瞬間から出る直前まで、ほとんどずっとカナと一緒だ。元気だったら同じ教室で勉強して、具合が悪くて保健室で休んでいても、休み時間ごとに顔を見に来てくれる。
わたしが寝ているだけの土日でも、カナはわたしの部屋に訪ねて来てくれる。付き合い始めてからは、月に数回の通院にも付き合ってくれるようになった。
カナは入院中でも、毎日会いにきてくれる。
これだけ一緒にいられるんだよ?
どうして、これ以上なんて考えられるの?
「今でも、十分一緒にいると思うんだけど……」
多分、わたし、家族の誰より、……他の誰よりもカナと一緒にいると思う。
「カナ?」
「ハルはこれで足りてるんだ。……そっか、ハル淡白だもんな」
「え? なに?」
「いや、オレが欲張りなのかな……それか、……オレが男だから?」
とカナが困ったように頭を掻いた。
しばらく言いにくそうに口を開いては閉じを繰り返した後、とうとう、真っ赤になったカナは途切れ途切れに話し出す。
「ハルはぜんぜん気づいてないけど……さ、オレ、さっきから、もうどうにかなりそうで、……自分を抑えるので必死なんだけど……」
「え? ……なんで?」
カナの言葉の意味が取れずにいるわたしに答えることなく、カナは続ける。
「オレの部屋にハルがいる。それだけでも興奮するのに、ハル、平気でベッドに座るし、オレに触れてくるでしょう?」
「……あの……興奮って……何に?」
カナがふうーっと疲れたように、大きく息を吐いた。
「ハルは、そう言うの……………まあ、知らない……よな」
カナは困ったように、頭を抱えるようにしてテーブルに伏せた。
……カナ?
十秒ほどの沈黙の後、カナはほんの少し顔を上げて、上目遣いにわたしを見た。
「あのね、ハル。オレ、一応男なのね?」
「……うん。知ってる」
「えーっと、そう言う意味じゃなくて……」
カナはさらに困った顔をした。
「……なんか、すっげーいけないことしてる気分。侵しちゃいけない聖域に踏み込んでるっていうか何て言うか……」
カナはボソリとつぶやいた。
……いけないこと? 聖域? いったい何の話?
「オレさ、ハルとは、その……婚前交渉は絶対ダメだと思ってて」
……婚前交渉? 結婚前に何か交渉する必要があるの?
カナはわたしの反応を見て、困ったように眉をひそめた。
「……ハル、意味、分かってない……よな。……あのさ、ハルはぜんぜん気づいてないけど、……オレ、さっきから、もうどうにかなりそうなくらい、ハルが欲しいよ?」
「え? ……なに?」
わたしが欲しい? ……それってどういう意味?
そのまま、カナはずいぶんと長い間沈黙した。
何も言わないままに、視線を彷徨わせて窓の方を見たり、ドアに目をやったり、それからチラッとわたしを見たり……。
何かに悩んでいるようで、口を挟むのも申し訳なくて、わたしはじっとカナの言葉を待った。
「……あのさ、」
「うん」
「えーっと、」
「うん」
「ハルは……」
カナはそこでまた、一分近く沈黙。
その後、意を決したように両手の拳をギュッと握りしめた。
「あのさ、ハルは赤ちゃんを……どうやって作るか、知ってる?」
「……え?」
一瞬、何を聞かれているのか分からなかった。
けど、カナが真っ赤になっているのを見て、ようやく、いわゆる男女の営みについて聞かれたのだと悟る。
その瞬間、今度はわたしが首まで赤くなった。
聞かなかったことにしたい。
……けど、答えなきゃ、カナに申し訳なさすぎる。だってカナは、ずいぶんと勇気を振り絞ったという様子だったから。
「……あの。……はい」
なぜか丁寧語でわたしは答えていた。声がちょっとうわずっていたかも知れない。
「そっか! 良かった!」
カナは目に見えて、ホッとしたという顔をした。
それから、そのまま、カナははあーっと大きく息を吐く。
「ごめんね、ハル。……これも自然な気持ちだって、分かってもらえたら嬉しいんだけど、」
カナは最初に謝ってから、続きを話した。
「オレ、実のところ………ハルを抱きたいと、……かなり……切望してる」
言ってから、カナはさらに赤くなって目を逸らした。
カナの反応同様に、言われたわたしも真っ赤になって目を逸らす。
付き合っていると、そういうことをすることもあるというのは、わたしだって一応知っていた。
だけど友だちとは、その手の話はしたことがない。だから、わたしの知識はとっても乏しいもので……、保健の授業で教わったのと、たまたま読んだ小説に出てきたものと、そんな程度のもので……。だけど一応、授業では行為から避妊法に至るまで教わりはした。
だから、それが恋人同士や夫婦の自然な営みだと言うのは知っている。……知っては、いた。
……けど、……だけど、まさか、カナの口からそんな台詞が出てくるなんて、思ってもいなかったから!
だから、わたしは混乱して、動揺してしまって……。
「本当はオレ、けっこう我慢してるんだよ? ハル、知らなかっただろう」
「え……と、……し、知り、ませんでし…た」
思わずどもる。言葉がひっくり返る。
「……あの、」
何か言おうと思うのに何も出てこない。
頭の中は真っ白だった。
「触れるだけじゃない、もっと恋人同士のキスをしたい……とかも思うよ? けど、止まらなくなりそうで……。怖くてできなかった」
それ、ディープキス……ってやつ?
小説で読んだだけでは、どんなものか正直想像もつかない。
「ハルにはさ、ぜったい、結婚してからしか、しちゃダメだと思ってて、」
そ……それ、行為のことだよね?
「だから結婚をしたいって思いも……正直、少しはある訳で……」
カナはちょっと後ろめたそうな顔でわたしをちらりと見た。
「ハルも聞いてるかも知らないけど……、オレさ、ハルの家の事情とか、ハルの身体のこととか引き合いに出して、結婚の了解取った」
「……そうなの?」
「そっか、聞いてないか」
カナは意外そうにわたしを見た。
それから少しためらった後、わたしの顔をじっと見て言った。
「ねえ、なんでハルは結婚したくないの?」
と口にしたすぐ後、カナはははっと笑った。
「ごめん。最初に聞いたね。ハルは今の状態で満足してるんだよな」
尋ねておきながら、わたしが答える前に自分で答えを出したカナ。
カナは少し寂しそうで、なんだかとても、……本当にとっても申し訳なくなってしまう。
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