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14年目の永遠の誓い
24.永遠の誓い1
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結婚するとなったら、後は早かった。
カナはあっという間に、パパやママ他みんなに報告してしまい、わたしたちは繰り返し「おめでとう」の言葉を贈られた。
許してくれたはずのパパは、最初、やっぱりムスッとして、それがわたしをホッとさせる。
だけど、カナから
「おじさんをお義父さんって呼べる日が楽しみです」
なんて言われて、パパの頬はふわっと緩み、笑顔が浮かぶ。
そうか、こうやってパパに結婚の了解を取ったんだ……そんな事も垣間見えて、何だかとても楽しかった。
あの日以来、カナの部屋に遊びに行くことが増えた。
最近、お邪魔するたびに、おばさまがお菓子を用意して待っていてくれる。
「陽菜ちゃん、いらっしゃい! 今日はね、イチゴのタルトを作ったのよ」
おばさまが満面の笑顔でわたしを出迎えてくれる。
カナは、そんなおばさまを苦笑いで見ている。
「ごめんね、ハル。食べてやってくれる?」
「もう、失礼な子ね」
そう言いつつも、おばさまは楽しそう。
「あの、もちろん喜んでいただきます」
「ありがとう。後で持っていくわね」
カナの部屋にお邪魔した少し後、おばさまが出してくれたのは小さなカップ型のイチゴタルトとハーブティー。形の良い真っ赤なイチゴが綺麗に並んで、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「わあ、美味しそう」
「陽菜ちゃん、喜んでくれるから作りがいがあるわ。男の子なんてホントつまらないのよ」
おばさまの言葉にカナが隣から突っ込む。
「ちゃんと食べてるじゃん」
「一度はいらないって、必ず言うじゃない」
「だから、オレ、そんなに甘いもの好きじゃないし」
「……それがつまらないって言ってるのよ」
二人のやり取りに思わずクスクスと笑ってしまう。
おばさまも楽しげに笑う。
「今日はお昼も食べていってね? ランチは食堂で一緒に食べましょう?」
「はい。ありがとうございます」
「うふふ。張り切って作るから楽しみにしていてね」
「……お袋、ハル、そんなに食べられないから」
カナがわざわざ突っ込んでくれる。
でも、確かに、朝の十時におやつを食べたら、いつも以上にお昼が入らないのは確か。
「やーね。知ってるわよ。量じゃなくて質の方で張り切るんだから。……じゃあ、後でね」
おばさまはほがらかに笑いながら部屋を後にした。
わたしなんかがカナのお嫁さんで良いのかな……と正直、そう思う事もある。お料理もお洗濯もお掃除も……家事はほとんど一切できない。覚えようにも体力がついていかない。しょっちゅう体調を崩しては学校を休み、年に何回も入院をする。手術をすれば死にかけて、みんなに心労をかける。
その上……カナは、広瀬の姓を捨てて、牧村になる。
それでも、おばさまも、おじさまも、わたしたちの結婚を手放しで喜んでくれているのが分ったから、わたしは躊躇わずにカナとの人生へと進んでいける。
ありがたいなぁ……と、心から思う。
おばさまがわたしのために作ってくれたイチゴのタルトは、甘さ控えめでとっても優しい味がした。
「ところで、ハル、どんな式にしたい?」
カナはタルトを一瞬で食べてしまい、その後は、わたしが食べるのを楽しそうに見ていた。
そして、わたしが食べ終わると、待っていましたとばかりにローテーブルの上に雑誌の山をドサリと置いた。
「え? 結婚式、するの?」
「しない訳ないでしょうっ!?」
何言ってるのとでも言いたげに、カナは目を丸くした。
見ると、カナが置いたのは結婚情報誌らしく、わたしより大分年上の綺麗なお姉さんがウェディングドレスを着て満面の笑みを浮かべていた。
「そっか、パパやママたちも、きっと見たいよね」
パパやママだけじゃなく、きっと、おじいちゃんもおばあちゃんも……。
わたしが結婚するなんて、誰もそんな未来は予想していなかったと思う。快く結婚を許してもらえたのだし、花嫁姿を見せるのは親孝行の絶好の機会かも知れない。
「っていうかね、ハル。オレが一番、ハルのウェディングドレス姿を見たいんだからね?」
わたしの思考があらぬ方向に行っているのに気付いたのか、カナは苦笑いしながらわたしの顔を覗き込んだ。
「ハルはウェディングドレス、着たくないの?」
そう聞かれて、思わず首を傾げてしまった。
女の子なら、誰もがあこがれる……かも知れない結婚式。
でも、パパたち同様、わたしだって、そんな未来は想像もしていなかった。一生、自分には縁がないと思っていたんだもの。急に頭は切り替わらない。
カナだけが、そんな夢みたいなことを本気で考えて、実現への道を創ってしまった。
ウェディングドレスを着たくないのかと聞かれたら、着てみたいと思わないでもない。
……けど、現実問題、
「……ドレス、重そう」
と言う気がしてならない。
重そう……と言うか、実際、重いんだろう。
とても綺麗なんだけど……、素敵なんだけど……。
着られるものなら、着てみたいと、思わないでもないんだけど……。
どこかで、10キロ近い重さがあると聞いたことがある。そんな重いものを身につけて何十分も立っていられる自信がない。ううん。もし、ただ座っているだけだとしても、相当大変じゃないかなと思う。
しかも、教会でお式って言ったら、それを着て歩くんだよね?
考えただけで、心は浮き立つどころか、どうしようと狼狽えてしまう。
「あー、確かに。……それは替わってあげられないもんなぁ」
と、カナは気遣わしげに、わたしの顔をまじまじと見た。
「あ、それじゃあ、世界一軽いウェディングドレスを作ってもらおうか?」
カナが良いことを思いついたというように、にっこり笑った。
「着るにしても、もったいないしレンタルでいいよぉ。それに世界一ってなに?」
思わず笑ったけど、カナは苦笑いでわたしの髪に手を触れた。
「……ごめん、でも、ハル。オレの誕生日、真夏だし」
そう、カナのお誕生日は八月半ば。
夏の暑さにめっぽう弱いわたしは、その時期、学校にすらまともに通えなくなる。その日だけ運良く涼しくても、それ以前に体調を崩して寝込んでいると、体力は地を這うような状態。
正直、とても結婚式なんて行事はムリだ。
何のイベントもなくても、夏の暑さにやられると寝たきりに近い生活になるという、こんな身体のせいもあり、物心ついた頃から八月は毎年、体調管理も兼ねて避暑地の別荘に避難する。
長距離の移動は大変だけど、それでも滞在中の身体の楽さが違うから。だからこそ、ムリしてでも移動する。
春や秋に近い気候のその場所なら、わたしでも随分と楽に暮らせる。
いつからか、お兄ちゃんの他、晃太くんとカナも一緒に別荘に行くようになっていた。お盆休みには大人もみんな大集合する、広瀬家と牧村家の恒例イベント。
「あ、そっか」
カナも同じことを思い出したみたいで、
「ハル、リゾートウェディングは? 別荘の近くに、ちょうど良い教会があったよな?」
と満面の笑みを浮かべた。
「それか入籍はオレの誕生日にして、式はハルの体調が落ち着く秋口にするってのも良いかも」
カナは良いことを思いついたと言う感じで嬉しげに笑った。
「入籍日に結婚式を……って思ってたけど、別に多少ずれても良いよな?」
涼しくなってから改めて結婚式を……と言うカナの提案は確かに妙案。
けど、ごめん、カナ、それはしたくない。
「……ごめんね、できたら、お式をするなら入籍の日かその次の週末くらいまでがいい」
「え? なんで?」
カナは不思議そうに問い返す。
そうだよね。だって、式すらしなくても良さそうだったわたしが、なんで日にちにはこだわるか、カナだって不思議に思うよね。
「多分、手術する事になるから」
「……え?」
「ちょっと、大きな手術になりそうで」
「手術!? 大きな!?」
「うん。そうしたら、下手すると何ヶ月も入院しなきゃいけなくなるし。経過が良くても、ドレスを着られるようになるには、やっぱり何ヶ月か……半年とかかかるかも知れないし」
カナの顔は強張っていた。
ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ。
順を追って話せば良かった。隠すつもりはなかったんだから。ただ、まだ決定ではなくて、もしかして……って打診されたくらいだから、あえて言うことはなかった。
だけど、わたしが了解したらまず決まるのだと思う。だって、執刀医の先生がもう決まってるんだよ? 院外から招聘するのに……。
「……手術、するの?」
カナはわたしの目をじっと見つめながら、聞いてきた。
「多分」
「去年、したじゃん」
確かに今までは、開胸手術は何年かに一回程度だった。
「去年のは弁置換と血管の入れ替えだったかな? そう言う簡単な手術」
手術の内容なんて、カナともあまり話したことはない。
けど、これからはカナには伝えなきゃいけないんだ。結婚するって、そう言うことだよね?
わたしは息をスーッと吸い込み、ふうっと吹き出してから、グッとお腹に力を入れた。
カナはきっとショックを受ける。
けど、ちゃんと受け止めてくれるって、分かっている。
わたしは、あのね……と言葉を綴った。
「もうね、保たないんだって、このままじゃ」
「………え?」
「わたしの心臓、けっこう限界に来てるみたい」
「だけど……」
「うん。今のままでも大丈夫。自分の足で歩けてるし、常時酸素吸入しないでも動けるしね? けど、放置すると悪化するのは目に見えてるから、今の内に対処しましょうって」
カナはホッとしたような顔をした。
「驚かせてごめんね?」
そう言うと、カナは
「ホント、驚いた……」
とわたしに手を伸ばし、そっと抱き締めてくれた。
「じゃあ、オレの誕生日にリゾートウェディングに決定」
慈しむように、カナがわたしの髪を、背をなでる。
「ハルはどんな式がいい?」
「全然、こだわりないんだけど……」
と言ったのに、カナはわたしの言葉の続きを待つ。
ドレスの重さが憂鬱だとか思っていたのに、式を挙げる気になったら、やっぱり出てくるんだね。
幾ら涼しい避暑地でも、梅雨と七月の暑さにバテた後……とても万全とは思えない。
けど、もしできるなら……
「パパとバージンロード歩きたいな」
「……おじさんと!?」
カナが不満げにつぶやいたものだから、思わずクスリと笑ってしまう。
「パパと腕組んでバージンロードを歩いて、カナのところまで連れて行ってもらいたいな……」
パパの手を離れて、カナの手を取るってどんな感じだろう?
「それから、カナと一緒に神父さんのところに行って……」
永遠の愛を誓うんだ。
さすがに気恥ずかしくて、言葉にできなかった。
でも、カナには伝わったみたいで、わたしの代わりにカナがとろけるような笑顔で口にしてくれた。
「うん。……教会で、永遠の愛を誓おうね」
わたしはカナの腕の中で、こくりと小さく頷いた。
カナはあっという間に、パパやママ他みんなに報告してしまい、わたしたちは繰り返し「おめでとう」の言葉を贈られた。
許してくれたはずのパパは、最初、やっぱりムスッとして、それがわたしをホッとさせる。
だけど、カナから
「おじさんをお義父さんって呼べる日が楽しみです」
なんて言われて、パパの頬はふわっと緩み、笑顔が浮かぶ。
そうか、こうやってパパに結婚の了解を取ったんだ……そんな事も垣間見えて、何だかとても楽しかった。
あの日以来、カナの部屋に遊びに行くことが増えた。
最近、お邪魔するたびに、おばさまがお菓子を用意して待っていてくれる。
「陽菜ちゃん、いらっしゃい! 今日はね、イチゴのタルトを作ったのよ」
おばさまが満面の笑顔でわたしを出迎えてくれる。
カナは、そんなおばさまを苦笑いで見ている。
「ごめんね、ハル。食べてやってくれる?」
「もう、失礼な子ね」
そう言いつつも、おばさまは楽しそう。
「あの、もちろん喜んでいただきます」
「ありがとう。後で持っていくわね」
カナの部屋にお邪魔した少し後、おばさまが出してくれたのは小さなカップ型のイチゴタルトとハーブティー。形の良い真っ赤なイチゴが綺麗に並んで、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「わあ、美味しそう」
「陽菜ちゃん、喜んでくれるから作りがいがあるわ。男の子なんてホントつまらないのよ」
おばさまの言葉にカナが隣から突っ込む。
「ちゃんと食べてるじゃん」
「一度はいらないって、必ず言うじゃない」
「だから、オレ、そんなに甘いもの好きじゃないし」
「……それがつまらないって言ってるのよ」
二人のやり取りに思わずクスクスと笑ってしまう。
おばさまも楽しげに笑う。
「今日はお昼も食べていってね? ランチは食堂で一緒に食べましょう?」
「はい。ありがとうございます」
「うふふ。張り切って作るから楽しみにしていてね」
「……お袋、ハル、そんなに食べられないから」
カナがわざわざ突っ込んでくれる。
でも、確かに、朝の十時におやつを食べたら、いつも以上にお昼が入らないのは確か。
「やーね。知ってるわよ。量じゃなくて質の方で張り切るんだから。……じゃあ、後でね」
おばさまはほがらかに笑いながら部屋を後にした。
わたしなんかがカナのお嫁さんで良いのかな……と正直、そう思う事もある。お料理もお洗濯もお掃除も……家事はほとんど一切できない。覚えようにも体力がついていかない。しょっちゅう体調を崩しては学校を休み、年に何回も入院をする。手術をすれば死にかけて、みんなに心労をかける。
その上……カナは、広瀬の姓を捨てて、牧村になる。
それでも、おばさまも、おじさまも、わたしたちの結婚を手放しで喜んでくれているのが分ったから、わたしは躊躇わずにカナとの人生へと進んでいける。
ありがたいなぁ……と、心から思う。
おばさまがわたしのために作ってくれたイチゴのタルトは、甘さ控えめでとっても優しい味がした。
「ところで、ハル、どんな式にしたい?」
カナはタルトを一瞬で食べてしまい、その後は、わたしが食べるのを楽しそうに見ていた。
そして、わたしが食べ終わると、待っていましたとばかりにローテーブルの上に雑誌の山をドサリと置いた。
「え? 結婚式、するの?」
「しない訳ないでしょうっ!?」
何言ってるのとでも言いたげに、カナは目を丸くした。
見ると、カナが置いたのは結婚情報誌らしく、わたしより大分年上の綺麗なお姉さんがウェディングドレスを着て満面の笑みを浮かべていた。
「そっか、パパやママたちも、きっと見たいよね」
パパやママだけじゃなく、きっと、おじいちゃんもおばあちゃんも……。
わたしが結婚するなんて、誰もそんな未来は予想していなかったと思う。快く結婚を許してもらえたのだし、花嫁姿を見せるのは親孝行の絶好の機会かも知れない。
「っていうかね、ハル。オレが一番、ハルのウェディングドレス姿を見たいんだからね?」
わたしの思考があらぬ方向に行っているのに気付いたのか、カナは苦笑いしながらわたしの顔を覗き込んだ。
「ハルはウェディングドレス、着たくないの?」
そう聞かれて、思わず首を傾げてしまった。
女の子なら、誰もがあこがれる……かも知れない結婚式。
でも、パパたち同様、わたしだって、そんな未来は想像もしていなかった。一生、自分には縁がないと思っていたんだもの。急に頭は切り替わらない。
カナだけが、そんな夢みたいなことを本気で考えて、実現への道を創ってしまった。
ウェディングドレスを着たくないのかと聞かれたら、着てみたいと思わないでもない。
……けど、現実問題、
「……ドレス、重そう」
と言う気がしてならない。
重そう……と言うか、実際、重いんだろう。
とても綺麗なんだけど……、素敵なんだけど……。
着られるものなら、着てみたいと、思わないでもないんだけど……。
どこかで、10キロ近い重さがあると聞いたことがある。そんな重いものを身につけて何十分も立っていられる自信がない。ううん。もし、ただ座っているだけだとしても、相当大変じゃないかなと思う。
しかも、教会でお式って言ったら、それを着て歩くんだよね?
考えただけで、心は浮き立つどころか、どうしようと狼狽えてしまう。
「あー、確かに。……それは替わってあげられないもんなぁ」
と、カナは気遣わしげに、わたしの顔をまじまじと見た。
「あ、それじゃあ、世界一軽いウェディングドレスを作ってもらおうか?」
カナが良いことを思いついたというように、にっこり笑った。
「着るにしても、もったいないしレンタルでいいよぉ。それに世界一ってなに?」
思わず笑ったけど、カナは苦笑いでわたしの髪に手を触れた。
「……ごめん、でも、ハル。オレの誕生日、真夏だし」
そう、カナのお誕生日は八月半ば。
夏の暑さにめっぽう弱いわたしは、その時期、学校にすらまともに通えなくなる。その日だけ運良く涼しくても、それ以前に体調を崩して寝込んでいると、体力は地を這うような状態。
正直、とても結婚式なんて行事はムリだ。
何のイベントもなくても、夏の暑さにやられると寝たきりに近い生活になるという、こんな身体のせいもあり、物心ついた頃から八月は毎年、体調管理も兼ねて避暑地の別荘に避難する。
長距離の移動は大変だけど、それでも滞在中の身体の楽さが違うから。だからこそ、ムリしてでも移動する。
春や秋に近い気候のその場所なら、わたしでも随分と楽に暮らせる。
いつからか、お兄ちゃんの他、晃太くんとカナも一緒に別荘に行くようになっていた。お盆休みには大人もみんな大集合する、広瀬家と牧村家の恒例イベント。
「あ、そっか」
カナも同じことを思い出したみたいで、
「ハル、リゾートウェディングは? 別荘の近くに、ちょうど良い教会があったよな?」
と満面の笑みを浮かべた。
「それか入籍はオレの誕生日にして、式はハルの体調が落ち着く秋口にするってのも良いかも」
カナは良いことを思いついたと言う感じで嬉しげに笑った。
「入籍日に結婚式を……って思ってたけど、別に多少ずれても良いよな?」
涼しくなってから改めて結婚式を……と言うカナの提案は確かに妙案。
けど、ごめん、カナ、それはしたくない。
「……ごめんね、できたら、お式をするなら入籍の日かその次の週末くらいまでがいい」
「え? なんで?」
カナは不思議そうに問い返す。
そうだよね。だって、式すらしなくても良さそうだったわたしが、なんで日にちにはこだわるか、カナだって不思議に思うよね。
「多分、手術する事になるから」
「……え?」
「ちょっと、大きな手術になりそうで」
「手術!? 大きな!?」
「うん。そうしたら、下手すると何ヶ月も入院しなきゃいけなくなるし。経過が良くても、ドレスを着られるようになるには、やっぱり何ヶ月か……半年とかかかるかも知れないし」
カナの顔は強張っていた。
ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ。
順を追って話せば良かった。隠すつもりはなかったんだから。ただ、まだ決定ではなくて、もしかして……って打診されたくらいだから、あえて言うことはなかった。
だけど、わたしが了解したらまず決まるのだと思う。だって、執刀医の先生がもう決まってるんだよ? 院外から招聘するのに……。
「……手術、するの?」
カナはわたしの目をじっと見つめながら、聞いてきた。
「多分」
「去年、したじゃん」
確かに今までは、開胸手術は何年かに一回程度だった。
「去年のは弁置換と血管の入れ替えだったかな? そう言う簡単な手術」
手術の内容なんて、カナともあまり話したことはない。
けど、これからはカナには伝えなきゃいけないんだ。結婚するって、そう言うことだよね?
わたしは息をスーッと吸い込み、ふうっと吹き出してから、グッとお腹に力を入れた。
カナはきっとショックを受ける。
けど、ちゃんと受け止めてくれるって、分かっている。
わたしは、あのね……と言葉を綴った。
「もうね、保たないんだって、このままじゃ」
「………え?」
「わたしの心臓、けっこう限界に来てるみたい」
「だけど……」
「うん。今のままでも大丈夫。自分の足で歩けてるし、常時酸素吸入しないでも動けるしね? けど、放置すると悪化するのは目に見えてるから、今の内に対処しましょうって」
カナはホッとしたような顔をした。
「驚かせてごめんね?」
そう言うと、カナは
「ホント、驚いた……」
とわたしに手を伸ばし、そっと抱き締めてくれた。
「じゃあ、オレの誕生日にリゾートウェディングに決定」
慈しむように、カナがわたしの髪を、背をなでる。
「ハルはどんな式がいい?」
「全然、こだわりないんだけど……」
と言ったのに、カナはわたしの言葉の続きを待つ。
ドレスの重さが憂鬱だとか思っていたのに、式を挙げる気になったら、やっぱり出てくるんだね。
幾ら涼しい避暑地でも、梅雨と七月の暑さにバテた後……とても万全とは思えない。
けど、もしできるなら……
「パパとバージンロード歩きたいな」
「……おじさんと!?」
カナが不満げにつぶやいたものだから、思わずクスリと笑ってしまう。
「パパと腕組んでバージンロードを歩いて、カナのところまで連れて行ってもらいたいな……」
パパの手を離れて、カナの手を取るってどんな感じだろう?
「それから、カナと一緒に神父さんのところに行って……」
永遠の愛を誓うんだ。
さすがに気恥ずかしくて、言葉にできなかった。
でも、カナには伝わったみたいで、わたしの代わりにカナがとろけるような笑顔で口にしてくれた。
「うん。……教会で、永遠の愛を誓おうね」
わたしはカナの腕の中で、こくりと小さく頷いた。
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