12年目の恋物語

真矢すみれ

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14年目の永遠の誓い

26.永遠の誓い3

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 カナと二人で別荘に戻ると、沙代さんが出迎えてくれた。

「お嬢さま、とっても綺麗です!」

 沙代さんは目を細めて、本当に嬉しそうにわたしの頰に手を触れた。

「ありがとう」

 沙代さんにはどうしてもこの姿を見せたかったのに、結婚式への参列は固辞されてしまった。だから、向こうで着替えることはせず、カナと一緒に戻って来たんだ。

「ねえ、沙代さん、一緒に写真撮ろう?」

 そう言うと、沙代さんはなぜかカナの方を見てニコリと笑い、

「じゃあ、お庭で撮りましょう」

 と言った。
 わざわざ庭で?
 でも、涼しい土地柄、真夏だけど花盛り。沙代さんがそう言うのなら……と、カナに手を引かれてリビングから庭に向かう。

「……え?」

 開け放たれた窓の向こう、何百坪もある広々とした庭では、なぜか制服を着た人たちが何人も立ち働き、ガーデンパーティの準備が整っていた。
 朝、別荘を出た時には、そんな様子は欠片もなかったのに。

「おめでとうございます!」

 忙しそうに立ち働く制服姿のスタッフたちが、一瞬手を止め口々にお祝いを言ってくれる。
 ホテルかどこかのケータリングサービスなのかな?
 左右に配置された大きな長細いテーブルには、幾つもの銀色の蓋をした料理らしきものが、シャンパングラスやワイングラスが並び、色とりどりの華やかなカービングフルーツが飾られていた。
 木々の間を縫うように配置された幾つもの丸テーブルには、オフホワイトのクロスにワインレッドのクロスが重ねられ、色とりどりの花が飾られている。
 驚いてカナを見ると、カナはにこりと笑った。

「びっくりした? この後、ここでささやかな結婚披露パーティの予定」

 わたしが驚いて言葉をなくしていると、カナは頬にキスを落とす。
 人前でとか、そんな事を思う余裕もなかった。

「あれ? 怒らない? ……ハル? 大丈夫?」

 わたしがあまりに呆然としているので、カナは逆に心配になったらしくて真顔になった。

「お嬢さま?」

 沙代さんからも心配そうな声をかけられる。
 ……そうか、だから、沙代さん、お式に来られなかったんだ。
 この準備をしてくれてたんだよね?

「……わたし、今日、朝から驚いてばかり」

 目をつむり胸を押さえて深呼吸をすると、カナが本気で慌てて、わたしの肩を掴んで顔を覗き込んだ。

「大丈夫!?」

 こくりと頷く。

「大丈夫」

 笑顔を見せると、カナはホッとしたように息を吐いた。

「ごめん。ハルに負担かけたくなくて、内緒で進めちゃった」

 そう。誰も招待したくないと言ったのは、わたしなんだ。
 結果的に結婚式もできたけど、体調次第でキャンセルだった。それを最初から伝えて了解をもらった上での教会での結婚式。
 そんな状態で、遠方から誰かに来てもらうのは嫌だったんだ。
 言ったら、しーちゃんなんかは気にしなくても良いって言うに決まってる。しーちゃんだけじゃなく、みんなそうかも知れない。
 けど、何とか元気にこの日を迎えなきゃ、と言うストレスすら避けたかった……。だから、不義理は許してもらおうと、そう思っていた。
 カナは心配そうに、わたしの顔を覗き込む。

「ごめんね?」

「ううん。ありがとう。……とっても、……とっても嬉しかった」

 みんなの笑顔。贈ってもらったたくさんの「おめでとう」。
 女の子たちがキャーキャー言いながら手を伸ばすブーケトス。
 たくさんの参列者と一緒に撮った賑やかな記念写真。
 そして、そんな華やかな場で、満面の笑顔でわたしたちを見守ってくれるパパやママや、おじいちゃんやおばあちゃん、お義父さまやお義母さま、お兄ちゃんや晃太くん……大切な家族の姿を思い出すと、もう感謝の気持ちしか浮かびようがなかった。
 その上、あり得ないと思っていた披露宴までできるなんて……。

「本当に……ありが…とう」

 カナはふわりと笑い、

「なんか、今日はホント泣き虫だな」

 と、ポケットから取り出したハンカチで、わたしの涙をぬぐってくれた。

「じゃ、写真撮っちゃおう。急がないとみんな来ちゃうよ?」

「みんな?」

「そう。オレたちの家族とクラスのみんな、プラスアルファ」

 満面の笑顔の二人に手を取られ、庭に降りる。

「写真、撮りますよ~」

 どこからともなく現れたカメラマンの男性。
 ああ……さっき、教会でもこの人が写真を撮ってくれていた気がする。

「お願いしまーす」

 カナの笑顔につられて、わたしも笑顔を作る。

「奥さん、緊張してる? ……あ、良いですね~! 照れた顔、可愛いですよ~」

 奥さんと言う言葉に反応して真っ赤になったわたしは、照れた顔が可愛いなんて言われると、もうとても冷静ではいられなくて……。
 思わずカナの後ろに隠れたら、

「あ、それも初々しくて可愛い!」

 なんて回り込んで来てシャッターを切られてしまい、今度は沙代さんの方に逃げた。

「え……っと、あの沙代さんと……撮ってください」

 沙代さんは腕にしがみついたわたしを笑顔で迎え入れてくれて、カメラマンさんは、そんなわたしを見て、クスクス笑いながら何度もシャッターを切る。

「さ、旦那さんも入って!」

 威勢のいい声を受けてカナがわたしの横にピタリとくっつき、それでもわたしは恥ずかしくて、沙代さんにくっついていた。

「奥さん、それも可愛いらしいけど、一度ピシッと立ってみて」

 カメラマンさんの言葉に、いい年して逃げ回っている方が恥ずかしいことに気付き、慌てて沙代さんの腕から手を離すと、カナがすかさず反対の手を取った。
 カシャカシャと何度もシャッター音が鳴り響いた。

「良いですね~。綺麗に撮れましたよ!」

「ありがとうございました!」

 カナのその言葉を合図に写真撮影は終了した。
 沙代さんは眩しそうにわたしを見て、それから、そっと抱きしめてくれた。

「本当に大きくなって。……あの小さかったお嬢さまが、こんな綺麗な花嫁さんになるなんて」

「……沙代さん……ありがとう」

 沙代さんはわたしが生まれる前、お兄ちゃんがまだウンと小さい時に家に来たという。 最初は通いで、わたしが生まれて自宅で過ごせるようになった時、住み込みになったと聞いた。
 それから、ずっと……多分、ママよりも長く一緒にいた。
 わたしは、沙代さんのご飯で育ったんだ。

「あらあら、本当に今日は泣き虫ですね」

 沙代さんはポケットから出したハンカチで、わたしの目元をそっと押さえる。

「わたしはどこにも行きませんし、同じ家に帰るんですよ?」

 沙代さんは愛おしげに、わたしの頰に手を触れた。

「そうそう。ハルの部屋に、オレが住むんだから」

 カナがすかさず口を挟んだ。

「あ……そうだった」

 そう言うと、二人はクスクス笑った。

「ハル、疲れたね? 一度、中に入ろうか。少し休憩しよう」

 カナはスッとわたしの背中に手を回し、

「……え、カナっ!?」

 気がつくと、カナに抱き上げられていた。
 カシャカシャ……と、どこからともなく聞こえてくるシャッター音。
 思わず赤くなり、カナの胸に顔を埋めて隠れてしまいたくなる。けど、そんな子どもっぽい仕草は……と躊躇いもあって……。けど、やっぱり恥ずかしくてたまらなくて……。
 一体、どんな顔をすれば良いのか困っていると、カナとカメラマンさんが同時に吹き出した。
 沙代さんも笑いながら、

「じゃあ、わたしは仕事に戻りますね」

 と一足先に、家の中へと入っていった。



「はい、お水」

 リビングでソファに下ろされ、お水の入ったグラスを渡された。
 ……美味しい。
 思えば、朝から何も飲んでいなかった気がする。
 純白のドレスを汚すのも嫌だったし、緊張して、それどころではなかったと言うのもある。
 わたしが水を飲み終わるのを待ち、カナは何かをうかがうように、わたしの顔を覗き込んだ。

「ねえ、ハル、もう一つあるんだけど、許してくれる?」

「え? 何が?」

「ハルの調子がイマイチだったら、出さないつもりだったんだけど……」

 と、カナは言い淀む。
 歯切れが悪いカナに、今度は何が飛び出すのかと身構えていると、

「えーと、次のも軽いから」

「軽い?」

「お色直しのドレス、作っちゃった」

「……え?」

「着てくれる?」

 カナはわたしの手を取り立たせると、そのまま一階の和室へと案内した。



 カナが用意してくれた膝下丈のドレスはウェディングドレスよりも更に軽くて、幾重にも重ねられた淡い色は光の加減でピンクにも水色にも色が移ろいキラキラと輝く。
 賑やかな場で、わたしはほとんどを用意されたソファで座らせてもらい、カナと一緒に、入れ替わり立ち替わり、家族やクラスのみんなと写真を撮った。

「陽菜~、本当に叶太くんのものになっちゃったんだね~」

「ものって何よ、ものって」

 しーちゃんの言葉に突っ込むのは田尻さん。

「そうそう。それを言うなら、オレがハルのものになったんだし」

 カナがわたしを抱き寄せて、こんなところで爆弾発言。

「オレ、今日から牧村叶太だからね?」

 カナの言葉に大きなどよめきが起きた。

「住むのだって、ハルの家だし」

「婿になるための修行って本当だったんか!!」

「叶太、マジで、すげー!」

 興奮状態で叫ぶ男の子たち。

「え? ハルちゃんって、お兄さんいるよね?」

 誰かの冷静な突っ込みに、カナも冷静に答えた。

「目に入れても痛くない愛娘でしょ? 嫁にはもらえなさそうだったから、婿にしてもらった」

 その瞬間、どよめきが爆笑に替わった。
 それからしばらくして、

「ハルちゃん、叶太、少し貸してね」

 なんて言って、男の子たちがカナを連れていってしまった。
 わたしがいる前では話しにくいのかな?
 カナが行ってしまったから、わたしの隣は空いているのだけど、当然ながら誰もそこに座ろうとはしない。
 誰かが入れ替わり立ち替わりやってくるけど、何だかとても寂しくて……。
 そんなところへ、お兄ちゃんと晃太くんが来てくれた。

「ハルちゃん、本当におめでとう」

「ありがとう」

「なんか、元気ない?」

「ううん。元気だよ」

 笑顔を浮かべたつもりだったけど、うまく行かなかったのかな?
 お兄ちゃんは眉をひそめて、

「叶太のヤツ、陽菜を放って、どこ行った?」

 と、ぐるりと庭を見回した。
 晃太くんも、「あの人垣の向こう?」とか遠くを見ながらつぶやいた。
 ……喉、乾いたなぁ。
 そう思った瞬間、ソファの隣のテーブルに置かれた葡萄ジュースが目に入った。
 お水の方が良いんだけど……と思いながら、とにかく何か飲みたくて、ごくごくっと一息に飲んだ。
 ……なに、これ。
 勢いでグラス半分くらい飲んでしまったけど、とっても綺麗な葡萄色だったのに全然美味しくなくって、喉の乾きもまるで満たされなかった。
 でも、口着けちゃったし、最後まで飲まなきゃ……ダメ?

「……お、おい! 陽菜、それジュースじゃな……っ!」

 やっぱり、変な味。
 もう飲んじゃったものを吐き出す訳にもいかず眉をひそめていると、なぜか慌てた様子のお兄ちゃんにグラスを取り上げられてしまった。

「え!? ハルちゃん、これ飲んだの!?」

「バカ晃太、なんでこんなとこに置くんだよ。早く誰か呼んで来い!」

 口の中が変な味でいっぱい。

「……お兄ちゃん」

「ん? 大丈夫か!? 気持ち悪くないか?」

「このジュース……美味しくない」

「あー、ジュースじゃないからなぁ」

 お兄ちゃんは通りかかった人から何かを受け取ると、わたしの口元に当てた。

「陽菜、水飲んで?」

 ……水?
 そう、わたしが飲みたかったのはお水だったんだ。
 言われるままに、ごくごくと飲み干すと、なぜかお兄ちゃんがホッとしたような顔をした。

「なに? 陽菜、ワイン飲んじゃったの!?」

 気が付くと、目の前にママがいた。

「……なんで、ママなの?」

「え?」

「……カナが……良い」

 口をとがらせてうつむくと、ママがお兄ちゃんと目を見合わせた。
 ママじゃないし、お兄ちゃんじゃないもん。

「陽菜、部屋で少し休もうか」

「……や。……寂しい」

 カナがいない。
 どうしていないの?
 今日はずっと一緒だと思ったのに。
 今日からは、ずっと一緒だよって言ってたのに。
 ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「ハルッ!?」

 呼ばれて顔を上げると、目の前にカナがいた。
 ぎゅっとしがみつくと、カナが驚いたように息をのんだ。

「ハル、大丈夫?」

 カナが背中をトントン、トントンと優しく叩く。ドレスを替えてからは下ろした髪を優しくなでる。

「……寂しかったんだもん」

 つぶやくと、またカナが動きを止めた。
 なんか、わたし、変なこと言った?

「……ずっと一緒にいるって、言ったのに」

「ごめん! オレが悪かった!」

 カナは言い訳もせずに謝った。

「いいよ。……もう、どこも行かない?」

「ああ、行かないよ」

 カナはとろけそうな笑顔を見せてくれる。
 わたしも同じように笑顔を返す。

「ハル、……少し、中で休もうか?」

「カナも、一緒に?」

「そうだね、一緒に行くよ」

 それから、カナはわたしを抱きしめる腕をほどいた。
 思わずカナの腕を掴むと、カナはまた、大丈夫だよというようにトントンとわたしの背中を叩いた。

「……えーと、それじゃあ、オレたち中に入るけど」

「ええ、後は適当にやっておくから、大丈夫。何かあったらすぐ呼んで?」

「了解っ!」

 なんだか頭にもやがかかったみたいで、ふわふわして、なぜかやけに身体が熱かった。
 視界が急に高くなって、木々の葉っぱの間から青い空が目に飛び込んできた。
 いつの間にか、カナに抱き上げられていた。
 ビックリしてしがみついた。

「それじゃ、オレたち部屋に戻るけど、みんな、ゆっくり楽しんで行ってね」

 二人っきりで何するんだよ……とか何とか言われて、カナは、

「バカ、ハルを休ませるだけだろ」

 となぜか真っ赤になっていた。
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