12年目の恋物語

真矢すみれ

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番外編4 花火大会

2.

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 今日は待ちに待った花火大会当日。
 ここのところ、日に日に暑くなってきていたから、陽菜の体調が心配だったけど、昨日の終業式では元気だったし、今日も問題ないと叶太くんから連絡があった。

「ちゃんとご挨拶してね」

「うん。送ってくれてありがとう!」

 川沿いのホテルのエントランスまでは、お母さんの車で来た。

「手土産持った?」

「大丈夫、ちゃんと持ったよ」

 お母さんお勧めの和菓子屋さんの袋を持ち上げて見せる。
 いつまで経っても子ども扱い。でも、自分がそう気の利くタイプだとも思えないので、素直に従っておく。
 だって、陽菜のおじいさんとおばあさんって、つまり牧村総合病院の院長先生と院長婦人でしょう? 陽菜の家のお隣の大きな和風のお屋敷や幾つも並ぶ蔵、池まである立派な日本庭園を見ても、ちょっと別世界の方だなって思うもの。

「帰りは十時半でいいのね?」

 交通規制が終わるのが、十時だそうで。直後は混むからと、その三十分後がお迎えの時間。
 陽菜からは泊って行けば良いのにと誘われたけど、さすがにそれは申し訳なくてお断りした。

「うん。遅くにごめんね」

「年頃の娘を一人で帰って来させる方が心配だもの」

 お母さんはほがらかに笑う。
 子ども扱いだけど、大事にされてるなーと思う。
 ホント、ありがたい!

「楽しんでいらっしゃいね」

「はーい。行ってきまーす」


   ◇   ◇   ◇


 教えてもらっていた部屋でインターホンを押すと、すぐにドアが開いた。
 出てきたのは、思いもかけず……。

「え、叶太くんも浴衣!?」

 思わずマジマジと見てしまう。

「ジロジロ見過ぎ。もう少し慎み持てよ」

 叶太くんはそんな風に笑うけど、これはちょっと予想外。
 紺の縦縞。和装はよく分からないけど、正直、かなり似合ってる。

「や、でもさ~」

 何て言おうか言葉を探している間に、

「カナ、しーちゃんだった?」

 と、奥から陽菜の声。

「ああ、志穂だった! ……入れよ」

 叶太くんは振り向いて奥に向かって声をかけると、ドアを大きく開いて横にずれた。

「……え? なに、この部屋」

 一歩中に入ると、目に映ったのは広々とした明るいリビング。一番奥の大きな窓からは日差しが差し込む。
 ……ホテルの客室、よね?

「広いだろ? プルデンシャルスイートルーム」

「広いってか……広すぎじゃない?」

 スイートルームって初めて入った。こんなにすごいんだ。
 リビングには5~6人は座れそうなソファ、右手奥にはダイニングルームまで見える。
 ドアは幾つある?
 この他に、寝室もあるんだよね……?
 呆然としていると、リビングのソファから陽菜が立ち上がったのが目に飛び込んできた。

「しーちゃん、いらっしゃい!」

「陽菜、え、うそ、可愛い!」

 陽菜はもう浴衣に着替えていた。
 牡丹色に朝顔の柄。黄色い帯がアクセントになっていてすごく可愛い。
 いつも下ろしている髪は、緩くまとめてアップにしてあって、とても女の子らしくて。

「ありがとう」

 陽菜は恥ずかしそうに笑う。

「ホント、すごく可愛い! 浴衣、似合ってる! ね、お化粧もしてる?」

「ほんの少しだけ」

 うん。口紅と、ファンデを少しくらいかな?
 ナチュラルメイク以前に本当に少しのお化粧だけど、ただでさえ可愛い顔立ちが、目を見張るくらい可愛くなってる。
 長い髪の毛は着物と同じ牡丹色の髪飾りでふわりとアップにまとめられていて、抜けるように白く細いうなじが綺麗だった。
 テレビの中にいてもおかしくない可愛さだ。多分、そこらの芸能人より、陽菜の方がずっと可愛い。しかも、陽菜は抜群に性格もいいんだ。
 こんな子が自分の親友って言うんだから嬉しくなってしまう。

「陽菜、紹介してちょうだい?」

 陽菜に続いてリビングに入ると、和装の素敵なご婦人が目に飛び込んでくる。
 陽菜のおばあちゃん。つまり、牧村総合病院の院長夫人。

「あ、おばあちゃん、わたしの大切なお友だち、寺本志穂ちゃんです」

 陽菜が花がほころぶように優しい笑顔を見せるものだから、思わず見とれてしまった。

「初めまして。陽菜の祖母です。志穂さんのお噂は陽菜からかねがね伺っているのよ? いつも、陽菜と仲良くしてくれてありがとう」

 いかにも貴婦人然とした姿勢の良さと品の良い笑みに、なぜか頬が上気する。
 別世界の人みたい。実際、別世界なのかなとも思う。

「初めまして! 寺本志穂です。いつも、こちらこそ陽菜には仲良くしてもらってます。今日は水入らずのところをお邪魔してしまって、すみません!」

 勢いよく挨拶してぺこりと頭を下げるのだけど、きっと、お作法なんてまったくなってない。
 ううん。仕方ない。そういうタイプじゃないもの、私。
 頭を下げた拍子に自分が手に持った和菓子屋さんの紙袋が目に入る。

「これ、つまらないものですが」

 手土産を差し出した。

「あらあら、そんなお気遣い良かったのに」

「いえ、あの浴衣も着せていただけると伺って、母が持って行くようにと」

 そう。今日は私も浴衣を着せてもらうのだ。買ってもらったばかりの新しい浴衣は大きめの鞄の中に風呂敷に包んで入れてある。

「うふふ。それじゃあ、うんと綺麗にしなくっちゃね」

 おばあさんはにこやかに笑いながら、手土産を受け取ってくれた。

「じゃあ、早速着付けましょうか。陽菜、志穂さん、先にお借りするわね」

「あ、お願いします」

 ペコリと頭を下げる隣で、陽菜が

「行ってらっしゃい」

 と笑顔で手を振ってくれた。
 叶太くんが幸せそうに、とろけそうな笑顔で陽菜を見ていた。
 いつもの事なのに、非現実的な場所だったせいか、2人が浴衣姿だったからか、何だかとても印象に残った。
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