継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

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動いた運命、王都までの道程

20話 谷嶋の暴走

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 宿屋に戻ってきたコウトはちょうど準備ができたと言われ、そのまま食事をとることにした。
 出されたものは肉料理やパンなどで特に変なものはない。異世界の食事がどんなものなのか心配していたが、どうやらそれも杞憂だったようだ。彼は疲労した体が求めるままに食べ始める。

「いただきます。……ん! 美味しい!」
「ははは、そうですか。作ったかいがあるってもんです。どんどん食べてください」
「これも美味しいですね。他の料理とも合います」
「これを作ったのはユーリなんですよ。この国の料理についてよく知らないようだから、せっかくなら美味しいものを食べてもらいたいと言って」

 話していると顔を赤らめたユーリが慌てて飛んで来て、ブレイグの胸をポコポコと打つ。

「もう、お父さん! 余計なこと言わないで!」
「ユーリの作るシチューはこの街で一番だと評判なんですよ。ってちょっ、ちょっとユーリ、悪かったって」
「本当に美味しいです。ユーリちゃん料理上手いね」

 コウトが言うと、ユーリは嬉しそうに笑ったあと、思い出したようにうつむく。その仕草がとても可愛らしく、なるほど彼女はこの店の看板娘というやつなのだろうとひとり納得する。

「よぉ、騎士様~。ブレイグを助けてくれてありがとうな。オレたちからも礼を言うぜ」
「おい、お前たちやめろ! みっともない」
「いいじゃねーか。ほら、騎士様も飲もうぜ」

 急にテーブルを移ってきた男たちがコウトの肩を組んだ。ここに来たときに集まって飲んでいた人とは別の人たちだが、もうすでに酔っ払っている様子でジョッキに入った飲み物を勧めてくる。

「なんですか、それ?」
「あれ、騎士様、レッド酒知らねぇのか?」
「かぁーッ、もったいねぇー! レッド酒知らないなんて人生損してるぜ」
「えぇ……」

 元の世界でもなかなか遭遇することのなかったテンションに少し引き気味のコウトだが、男たちは構わずに説明を始める。

「レッド酒ってのはうちの国の第2王女様が嫁いでったレッドっつー国で作られてんだけどな」
「これがうめぇーんだわ。あの国の騎士共、特に征戦騎士はバカだが、酒はうめぇんだよな」

 「1杯どうよ?」と勧められる酒を断り水を頼んだ。この世界の決まりは分からないが、彼はまだ未成年なのだ。
 腹を満たした後、鏡がいないことに気付いた。

「鏡君はまだ部屋で寝ているんですか?」
「そのようです。お声がけしたのですが反応がなく……」
「そっか。疲れている様子だったし無理もないかな」

 食事もしたし、自分もそろそろ休もうと考え部屋に戻ることにした。

「ごちそうさまでした。この国に来て初めて食べる料理なんですけど、最初にここで食べれてよかったです」
「あ、ありがとうございます……!!」

 お礼を言うと、ユーリが顔を赤らめていた。

 自室に戻るコウトは途中、鏡の部屋をノックしてみたが反応はなかった。本当に寝ているようだ。七篠達もまだこの街に到着していないようだった。

 その後は自室に入り、すぐに眠ってしまった。ベッドに入った途端、体が今までの疲れを一息に癒すかのようにぴくりとも動かなくなってしまう。
 意識は、心地の良い微睡みへと引きずり込まれていった。


 夜も深まり誰もが寝静まった頃。コウトは大きな物音に目を覚ました。音は1階から聞こえてくるようだ。

「なんの音だろ。1階にはたしか、酒場の他にはブレイグさんたちの部屋があるって言ってたけど」

 翌日の仕込みでもしているのだろうか。不思議に思い降りてみることにした。
 階段を降り酒場へ来ても、暗いばかりで誰もいない。

 気のせいかと考えたその時、一際大きな音がした。何かが破壊されたような音とうめき声。
 音のした方向には通路があり、その通路は酒場とブレイグさんたちの家を繫いでいる。

「まさか……!!」

 通用口のドアが空いていた。通路の先のドアも開いており、淡い光に照らされた部屋で何かが蠢いている。

――また魔物が現れたのか? だとしたらブレイグさんやユーリちゃんたちが危ない!

 息を殺して慎重に進むコウト。次第に蠢くものの正体かランプの光に照らされる。

「――!! 谷嶋さん、なんで……」

 それはコウトと同じ転移者。谷嶋だった。自分が寝ているうちにコールンに到着していたのだろうか、などと考えていた彼は、谷嶋の近くに誰かが倒れていることに気付く。

「ブレイグさん、ミーラさん!!」

 2人とも気絶しているようで、ブレイグは額から血を流している。先程聞こえたうめき声は彼のものだったのかもしれない。

「谷嶋さん、どうしてこんなことを!!」

 谷嶋を睨んだコウトだったが、彼の異変に気がつく。

――目の焦点が合っていない? それだけじゃない。体もユラユラと揺れている。

「…………」

 谷嶋は不気味な雰囲気を纏っている。コウトを一瞥したがすぐに目線を移す。谷嶋が見ている先にいるのは、腰を抜かしてしまって動けないでいるユーリだ。
 彼女は怯えた表情で谷嶋を見つめている。声も出せないようだ。

「ぁ……ぁぁ……いや…………ッ!!」

 突如、ユーリの体が浮いた。足はフラフラと宙をさまよっているが、反対に腕はあげたまま動かすことができないようで、まるで何かにぶら下がっているようだ。

 コウトはマナ知覚を発動した。瞳に模様が浮かび見える世界が変わる。ユーリは光る鎖のようなもので手を縛り上げられ、吊るされていた。


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