継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

文字の大きさ
25 / 47
動いた運命、王都までの道程

25話 出発

しおりを挟む
 コウトが見つけた露店は昨日見た耳と尻尾のある少年がやっているもの。そしてそこでは果物のようなものを売っていたはずだ。街を離れる前になにか食べるのにちょうどいい。
 コウトはその少年のもとへ走っていく。

「君! 果物はあるかな。売って欲しいんだ」
「お客さん!? でもまだ準備中で――いや……でもせっかくのお客さんなんだから……」

 コウトを見て驚いた様子の少年は、何やらブツブツと呟いたあと顔をあげた。

「ありますよ! ってあれ? お兄さん、どこかで……」
「あぁ、よかった。じゃあここらへんのと……あとこっちの箱のやつをいくつか適当に。袋とかあるかな」
「あ、はい! あるます……あります! 今お入れいたしますね」
「ごめんね、お金の相場わからなくて……このぐらいあれば足りるかな?」

 コウトは果物を受け取ると、トイルから受け取っていた通貨が入った袋からジャラジャラと半分ぐらいを出し、急いで店をあとにした。

「じゃ、急いでるから! ありがとう!」
「え? ちょっとお兄さん、これ多すぎ……行っちゃった」

 コウトが手に袋を持ち、走って戻ってくる。マナオオカミはなにかの匂いに気づいたのか、鼻をヒクヒクさせながら袋に近づけている。

「お! お前たちも食べたいかー? 好きなのでも入ってたか」
「コウト君、俺はいらないと言っているだろう」
「じゃあ僕が食べるよ。もしお腹すいたら言ってな」

 笑って答えたコウトに七篠が近寄る。

「私もお腹すいたかも。なにか食べさせてー」
「たべ……! 食べさせるんですか。じゃあ、この小さめのを……」
「あ~ん、~!! 美味しい!」

 甘えるようにして果物をもらっていたマナオオカミに何故か対抗心が燃えてしまい、深夜の独特なテンションも相まってあーんをねだった七篠。コウトも袋から一つ取り出して食べる。

「鏡君もどう?」
「俺はいらないと何度も! それに黄泉竈食ひよもつへぐいの話を知らないのか!?」

 鏡が少しだけ顔を青くして叫ぶ。
 黄泉竈食ひよもつへぐい。古事記にある、イザナミが現世に戻れなくなった原因であり、「黄泉の国の食べ物を食べたものはこの世に戻れなくなる」といった話。ギリシア神話において、ペルセポネが食べてしまった柘榴ざくろなども当てはまる。

「ここは異世界、少なくとも俺らのいた世界とは違う世界だ。そんな世界のものを食べるなんて君たちは怖くないのか?」
「えぇ……なんでいきなりそれが出てくるんだよ」

 コウトはいきなりそんなことを言い出した鏡に面食らってしまっている。ふざけているようだが鏡はいたって真面目だ。

「ヴゥ」
「! しまった。時間がない、出発するぞ」

 鏡がマナオオカミの鳴き声ではっとして腕の時計を見る。表示されている時刻は3時50分。ドレッドにおける時間についてよく知らない鏡だが、そろそろ夜が明けるだろうということがなんとなくわかる。
 コウトと七篠もマナオオカミの上に戻って待機している。

「では行くぞ! 出発!」

 ハイ・ヨー! シルバー! マナオオカミが駆け出した。先程の露店の少年にもう一度お礼を言う。彼はマナオオカミに乗り街を疾走するコウト達を驚いたように見ている。

「街の中でマナオオカミに乗るなんて、やっぱりこの国の人じゃないのかな……にしてもこのお金どうしよう。しばらくは暮らせそうな額だけど」

 街を駆けていると前方に3人の騎士達が歩いて来るのが見えた。

「彼らは……谷嶋のことでさっきブレイグさんの宿に来るよう頼んでおいた騎士の人だな」
「うーん、この子達の大きさじゃ路地には入れないよね。このままだと見つかっちゃうけど」
「そうですね……しょうがない、突っ切ろう」



「ま、待て! 街の中でマナオオカミに乗るな!っていうかなんでマナオオカミがこんなところに? この街の騎士団にはマナオオカミなんて配備されてないぞ」
「マーク先輩、あのマナオオカミってもしかして!」
「あぁ。今この街にいるマナオオカミはトイルが連れてきた人間達が乗っていた奴だけだ。エル、あいつら怪しいぞ。取り押さえよう」

 騎士達が剣を抜いて構えた。しかしコウトらの乗ったマナオオカミにスピードを緩める様子はない。

「おい、止まれ!」
「あいつら、突っ込んでくる気じゃないだろうな……」
「もうムリっすよ先輩! 殺されるー!」

 ビビり散らかす騎士の目前。踏み込んだマナオオカミの体が騎士の頭上を跳んだ。続いてもう一頭のマナオオカミも跳ぶ。腰を抜かした若い騎士を置いてマークと呼ばれた騎士とエルと呼ばれた騎士が後を追う。

 そんな騎士たちを見て鏡がやきもきしている。

「クソッ、あいつら追ってくる。これじゃブレイグさんのところに駆けつけてもらえないじゃないか」
「七篠さん、僕降ります」
「え? 降りるって、そんなのダメだよ」
「大丈夫。ちょっと話すだけです。すぐ戻ってきます!」

 マナオオカミの背から飛び降りたコウトはきれいに着地。2人の騎士の前に立ち、叫んだ。

「ブレイグさんの宿で人を殺した! 死体はそのままだ。あんたらはその確認のために来たんだろう? 僕達を追うことに気を取られて本来の目的を忘れるな!」

 いつまでも死体がブレイグ達の部屋にあるという状態は彼らにとって不快なことだろう。一刻も早く谷嶋の死体をユーリ達の目の届くところから取り除きたかったコウトは、騎士達に「ブレイグの家に死体がある」という事を印象づけることにした。

「コイツ、人を殺したのか!?」
「見ない顔に見ない服装。歳は若いが彼は何者なんだ? まぁいい。エル、犯人確保が先決だ!」

 エルとマークはコウトを挟むようにして立つ。

「マーク、街の中だからなるべく魔法は使うなよ」
「わかっているッ」

 マークが斬りかかって来る。斬撃を間一髪で躱し、風をぶつけて吹き飛ばす。短く息を吐いたコウトは姿勢を低くして向かってくるエルを高く跳躍して避ける。

「コウト君!」

 七篠がマナオオカミに乗って駆けてくる。マナオオカミはコウトの前で減速しながら向きを変える。コウトは走るマナオオカミになんとか乗り込んだ。

「逃がすかァ!!」

 マークがマナオオカミめがけて投槍器のようにして剣を投げた。ねらいはマナオオカミの足に正確に定められている。宙を進むその剣が神速を生み出す足を貫こうとしたその時、剣は浮いたまま動きを止めた。

 コウトの魔法だ。マナ知覚を発動しいくつもの模様を瞳に携えたコウトは、その瞳にしか映らない隻手せきしゅで剣を止めていた。

「な……」

 マナオオカミは絶句するマークとの距離をみるみるうちに空けていく。エルがマークに駆け寄って怒鳴る。

「くそ、逃したか。にしてもマーク!! お前、街なかで剣を投げるとはどういう了見だッ。家や人に当たっていたらどうする!」
「……すまない」

 マークは唇を噛みながらこらえたような声を出す。

「おーーい! マーク先輩、エルさん!」

 やってきた若い騎士が息を乱すことなく話す。

「捕まえられなかったんですね……。どうします? 追いますか?」
「いや、他の騎士達も知らせずとも気づくだろう。俺達はブレイグの宿屋に行くぞ」

 エルの言葉に3人は踵を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...