継ぐマホウ 〜曇り所により片頭痛、気がついたら異世界〜

パキ・パキ

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来る征戦の騎士、明かされる聖剣の未知

45話 アイム・ウィナー

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 躰をうねらせ、白い竜がドラゴンに迫る。接近に抵抗するように吐き出された火球はしなりを加えた尾で叩き消された。

「その白い躰……またお前かッ!!」

 柳葉と竜にステルゥの恨みがましい声が届く。

「あやつがドラゴンを操っている者のようだが――」
「気にするな。今はドラゴンが先だ……それと、あんたの図体じゃ街を壊すかもしれない、縮めるか?」

 ステルゥには目もくれずにやや無茶な命令。だが竜は主の命令のすべてに従うつもりでいる。

「なるほど……やってみよう」

 柳葉の体が光の球体に包まれ、地面に降ろされる。ふと見上げると、竜は自らにマナの剣を向けていた。
 そして一息に突き立てる。剣の切っ先は竜を貫き地面にまで到達した。その技の威力に地面には亀裂が走り煙が上がる。

「――縮めと言ったのは街に被害を出させないためだったんだが……」

 その光景にぼやく柳葉。その言葉からは竜を心配しているような気配は感じることはできない。やがて煙の中から1人の男性が現れる。

 後ろに流された白い髪と深く刻まれた目元の皺。180以上はあろうかという高い身長。老いた見た目に似つかわしくない恵まれた体格のせいだろうか、その男は荘厳な雰囲気を纏っている。

「あんた、まさか」
「そのまさかだ、あるじよ。なんであれやってみるものだな」

 少し警戒しながら口を開いた柳葉。突如現れた男性、控えめに笑って見せた彼の正体は柳葉を主と呼ぶ白い竜だった。

 2人に漂う無言の時間。それをステルゥの声が引き裂いた。

「今度こそ……邪魔させない!!」

 どこからか現れた魔物達。柳葉がそれらに気づいた時、人の形をとった竜はすでに駆け出し、踏み込んでいた。
 彼の手には光る刀のようなもの。光でできているかのようなそれに、魔物達は一掃された。

 それは暗闇に射す光のようだった。

 続く第2波。竜の手から伸びる光の刀は魔物たちをいともたやすく切り裂いていく。すべての魔物を倒すのに、そう時間はかからなかった。

「なぁッ!? ……ま、まぁいい。今の私なら多少の無理をすれば無尽蔵に魔物を召喚できる」

 ステルゥは動揺を殺しながら余裕ぶった。

「足手まといを抱えながら魔物の相手をしている限り、ノン・エルケーエルを倒しに行くことなどできまい!」

 一方で勝ち誇ったように言われた竜はというと、目の前の男の態度など意に介さぬかのように冷静に主の指示を待っていた。

「して、どうする?」
「構わない。あのドラゴンを倒しにいけ。何もさせずに倒してこい。できるな?」

 竜は頷くと柳葉の右手をとる。

「では、主には力を持たせるとしよう。どうかその身は自分で守ってくれ」

 竜はそれだけ言うとノン・エルケーエルの下へ行ってしまった。柳葉の右の手のひらには優しい光が灯っている。それは彼を安心させるように温かいが、命を奪いうる熱も持っているように感じられた。

「召喚者をおいて行動するとは……素人が」

 吐き捨てるような、ステルゥの言葉。

 彼は今、自分が襲う柳葉よりノン・エルケーエルの討伐を優先されたことによる、侮られたような悔しさに苛立っていた。

 たしかに、煙の中から現れた男が以前ノン・フォンジオーナを倒した白いドラゴンだとするならば、ノン・エルケーエルも倒されてしまうかもしれない。だが、自分が白いドラゴンの召喚者である目の前の青年を殺すほうが何倍も早いだろう。

 彼は、これまで積み重ねた経験や自身の魔法の特別さからそう信じて疑わない。

「おい」

 柳葉はそんなステルゥを鋭く睨んで言い切る。

「この世界を見極めたい、まだ死ねないんだ」



「――勝つぜ。俺は」



――――――



 人に姿を変えた竜は街を破壊して進むドラゴンを倒すべく駆けていた。

 何もさせずに倒してこい、というのが主である柳葉の命令だ。彼は音もなく跳躍するとその躰は空を高速で移動し、ドラゴンと王城の間に割り入った。

 いきなり目の前に現れたそれに狙いを定めたドラゴンの瞳孔が収縮しきる前に、彼はいつの間にか抜いていた光の刀を勢いよく振り上げ、ドラゴンの顎に打ちつけた。

 白目をむくドラゴン。打ち上がった顎の下、その長い首に刀を突き刺す。

 そして一息に切り裂いた。

「ぬぅおぉぉぉぉッ!!」

 それは刀の名であり、伝承のドラゴンを沈める、その一振りの名である。

影断一門かげたちのいちもん

 縦に一筋入る線は、主の命令通りドラゴンに抵抗を許すことなくその命を奪った。地面には逆鱗を斬り裂かれても悲鳴を上げることしかできなかった爬虫類もどきの死骸があるのみだ。

「上出来だな。主のもとへ戻るとしよう」


 竜は1人、満足気に笑む。

 こびりついた血を振り払ったその刀は、柳葉の前で抜いてみせたときよりもその輪郭をはっきりとさせていた。



――――――



 腕を振り抜くとそれだけで胴が切れる。蛇のような怪物の大きな口が覆いかぶさったが、口の端から尾の先までが切り開かれ青年を呑み込むことは敵わない。彼は何事もなかったかのように歩いてくる。

――なぜ、子供一人を殺せない?

 ステルゥの思考を焦りと恐怖が支配する。自分に目の前の異世界人を止めることはできるのだろうか。

 1度湧き出たまま止まらないその忌々しい思考は、彼の高くに持ち上がったプライドを傷つけ続ける。

「ッ、来るなッ」

 火球を飛ばすが、それすらも光が灯る掌で両断される。

 霧散していく魔法を見ながら、ステルゥは理解できないと言い放つ。

「魔法すらも斬れるというのか……っ。私が野営をしていた貴様らを見つけ襲撃した時、お前に意識はなく、情けなく守られることしかできなかった!! 貴様ごときの歩みをなぜ、この私が止められないのだ‼」

 襲い来る魔物も、魔法すらも柳葉を阻む壁にはなり得ない。やがてステルゥの脚は魔法の過剰行使によって体を支えられなくなる。

 情けなく尻もちをついた彼の目に、遠くで声一つ挙げずに倒れていくノン・エルケーエルが映った。

「そ、そんな……終わりなのか、私の復讐は」

 ステルゥの命は消えかかっている。だが、走馬灯のように駆け巡る記憶に祖国への未練を、ウォークへの復讐心を思い出した。そして、それは。

――いや違う。まだ……。

「いや、まだだ! 私の、ヤイル王国への忠誠心はこんなものではないぞ!!」

 ステルゥの喉を枯らした叫びとともに、彼の頭上に巨大な熱源が生成されていく。そしてその中からは体が炎のみで構成された牛頭人身の怪物が這い出てきた。

 強大な炎魔法が行使されようとしている。炎はロベルタすべてを焼くためのもの。燃える怪物はこの国を怒りのままに焼き尽くすだろう。

 眼の前の光景は柳葉にこれから起きることを想像させた。

――斬れるのか?

 理解が追いつかないような超常的な光景の前で、彼は迷いの中に足を踏み入れた。

――俺は斬らなきゃならない。

 立ちはだかる魔物の悉くを右手に宿る光で切り裂いてきた。

――アイツはドラゴンを斬った。俺もできることをしなければいけない……。

 だが目の前の怪物を、男が灯す執念の炎を果たして斬ることはできるのだろうか。

「心配はいらない」

 どこからか声がする。白いアイツの声だ。

「主のその右手に宿る光は我の力。影を絶つ光を追う、ふた振り目」

 柳葉は自分の背中を押すため背後で囁く竜をすぐ側に感じていた。

 ならばもう怖いものはない。少年は右手を構える。手の中の光はその輝きと温かみを増す。

「――ッおぉぉぉぉッ!!」

 覚悟の雄叫び。できるかどうかではない、この世界で生きてみると誓ったのならやるべきだ。男の怨嗟である熱源ごと、怪物を斬り伏せるのだ。

――光追二門ひかりおいのにもん

 柳葉は怪物に向けてその一振りを放った。彼の右手は赤く燃える球体を削っていく。

 光追二門ひかりおいのにもん。それは見えずの凶刃。示された道をなぞっていくだけ。斬れぬものなどない、竜が貸し与えた柳葉の力。

 右手が完全に振り切られる。球体と怪物は2つに別れて消滅した。一連の事象の向こうで声を張り上げていかっていた男は倒れたまま動かない。

「はぁ……はぁ……ッ!」
「――その男は死んだようだ。先程の魔法は命を燃やしてのものだったのだろう」

 柳葉に人の姿の竜が並び立つ。彼は嬉しそうに調子の上がりそうになる声を強く抑えながら言った。

「命をかけて繰り出された技を下したのだ、誇ってよい。流石は我が主だ」

 柳葉にはそれが誇っていいことなのか分からなかった。だが、目覚めた世界での一先ずの目標であった破壊行動の阻止を達成した。その事実に高揚感と達成感とを感じ始めた。

「ッ!」

 肩で息をしていた彼は、やがて拳を天に突き上げる。そして自身とそばのよくわからない存在以外には聞こえないような声で笑ったのだ。

「アイム、ウィナー……!」


    
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