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130.「出口のない回廊XVI」
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何も起こっていない内から帰りたいと心底思ってしまった。一体、何人に目撃されたんだと気力を奪われながらも急いで肩を押して距離を取ると、頭の痛そうな顔をした彼がいた。
「すいません、コウセイ…。」
「いえ、シュヴァルト様が悪い訳ではありませんので…。」
直ぐに抱き上げた状態から地面に下ろして下さったので余計にほっとするが、このまま躍り続けるには気力がもたないと思っていると手を引いて足早に躍りの輪から抜け出して下さる。
流石、シュヴァルト様だと感涙しそうな気持ちになりながら雑貨屋らしき店先の前で立ち止まり、設置されている椅子へと促されたので座るとちょうど追い掛けて来てくれた、心労仲間のメンシュさんとにこやかに笑っているデンファレさんが近づいて来た。
「疲れた…。」
「全くです…。」
間違いなくメンシュさんと以心伝心しながら頷き合う横でデンファレさんが俺とシュヴァルト様へと順番に視線を向けた。
「何かお飲み物でも購入してお持ち致しましょうか?」
「そうですね。私は良いので、コウセイに何か、何が良いですか?」
「あ、はい…何かさっぱりするような冷たい飲み物があれば、頂きたいです。後、良ければメンシュさんにも何かと、デンファレさんも喉が渇いていましたら遠慮せずに飲んで下さい。」
「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですが、マスターにも何かお持ち致しますね。」
「…いや、まあ…分かった、助かる。甘すぎ無ければ何でも良い。」
「はい、畏まりました。少々、お待ち下さいね。」
一瞬、メンシュさんがシュヴァルト様の方を見て確認を取り、どうぞとばかりに頷くと素直に飲み物を頼んでくれたようで安心した。
店に目星をつけていたのか、その場を離れたデンファレさんが数分で直ぐに戻って来ると手に青みがかった透明な瓶を二本持っており、差し出されたのでお礼を言って有り難く受け取るととても冷たくてそれだけで気持ちが良かった。
「凄く冷えてますね。」
「ええ、氷らせるのは得意ですので。マスターもどうぞ。」
メンシュさんに瓶を手渡す様子を見て、質問をする前に一口飲むとオレンの味がする。偶然だろうが、好物で、しかもとても冷えているのですっきりとした味わいになっていて美味しい。
本当にデンファレさんはモテるだろうなとついつい思いながら渇いた喉に二口、三口と飲んでから気になった事を質問した。
「デンファレさんは氷魔法が得意なんですか?」
「ああ、ええ。元々、水魔法が得意で…使っている内にと言った感じでしょうか。」
「そうなんですね。氷魔法を使える方には初めてお会いしました。珍しいですよね?」
「そうですね。才能が有るか、研鑽を積まなければ中々習得はできませんので。因みに私は、研鑽を積んだ方です。」
「努力の方ですか。才能も勿論、素晴らしいですが努力の結果と言うのは喜びもひとしおですね。」
言外に凄いと伝えると何処か困ったように、けれども柔らかく微笑まれた。
「そう言って頂けると、報われるものもございます。」
「……?」
何だろうか、少しの違和感を感じながらも言葉に出来ない。喜んではくれたようなので怒らせてしまったとかでは無いのだがと考えても答えは出ず、そうこうしている内に、音楽が途切れてリリー様とメイさん、フリージアさんとスノーフレークさんがダンスを終えてこちらに向かって歩いて来た。
「素敵でしたわ~。」
「その…やっぱり、その…私、お…応援致しますので!」
「だから、しなくて良いし、違う!」
リリー様の反応はともかく、スノーフレークさんまで毒されているのは何だか頂けない。
メンシュさんが声を荒らげるのも分かるなと頷く頃にはデンファレさんはフリージアさんと一緒ににこにこと楽しそうに笑っていた。
さっきのは自分の気のせいかなと首を傾げるとまた、音楽が演奏され始めた。先程とは違ってテンポの緩やかな曲だ。
確かにずっと早い曲調では弾き手も躍り手も疲れてしまうだろう。考えられているなと感心していると飲み物に気がついたリリー様が自分の分と女性人の分を買おうと、店を知っているデンファレさん、護衛のメイさんと手伝いを申し出たフリージアさんを伴って歩いて行く。
「何処か、空いている店を押さえましょうか?」
「あ…そうですね。シュヴァルト様もリリー様もお座りになって寛がれた方が良いと思います。」
旅と言うことで羽目を外す部分も多いが、お二人とも貴族だ。自分一人が座っているのもなと賛成するとメンシュさんが四人が戻って来たら移動しようと提案してくれ、デンファレさんは勿論、メンシュさんも店なら何軒かは知っているので大丈夫だろうと言ってくれた。
何だか、少しずつ距離が縮まって来ているのではと嬉しく思い、そしてそれは遠くから突然上がった轟音と悲鳴にあっという間に掻き消された。
「すいません、コウセイ…。」
「いえ、シュヴァルト様が悪い訳ではありませんので…。」
直ぐに抱き上げた状態から地面に下ろして下さったので余計にほっとするが、このまま躍り続けるには気力がもたないと思っていると手を引いて足早に躍りの輪から抜け出して下さる。
流石、シュヴァルト様だと感涙しそうな気持ちになりながら雑貨屋らしき店先の前で立ち止まり、設置されている椅子へと促されたので座るとちょうど追い掛けて来てくれた、心労仲間のメンシュさんとにこやかに笑っているデンファレさんが近づいて来た。
「疲れた…。」
「全くです…。」
間違いなくメンシュさんと以心伝心しながら頷き合う横でデンファレさんが俺とシュヴァルト様へと順番に視線を向けた。
「何かお飲み物でも購入してお持ち致しましょうか?」
「そうですね。私は良いので、コウセイに何か、何が良いですか?」
「あ、はい…何かさっぱりするような冷たい飲み物があれば、頂きたいです。後、良ければメンシュさんにも何かと、デンファレさんも喉が渇いていましたら遠慮せずに飲んで下さい。」
「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですが、マスターにも何かお持ち致しますね。」
「…いや、まあ…分かった、助かる。甘すぎ無ければ何でも良い。」
「はい、畏まりました。少々、お待ち下さいね。」
一瞬、メンシュさんがシュヴァルト様の方を見て確認を取り、どうぞとばかりに頷くと素直に飲み物を頼んでくれたようで安心した。
店に目星をつけていたのか、その場を離れたデンファレさんが数分で直ぐに戻って来ると手に青みがかった透明な瓶を二本持っており、差し出されたのでお礼を言って有り難く受け取るととても冷たくてそれだけで気持ちが良かった。
「凄く冷えてますね。」
「ええ、氷らせるのは得意ですので。マスターもどうぞ。」
メンシュさんに瓶を手渡す様子を見て、質問をする前に一口飲むとオレンの味がする。偶然だろうが、好物で、しかもとても冷えているのですっきりとした味わいになっていて美味しい。
本当にデンファレさんはモテるだろうなとついつい思いながら渇いた喉に二口、三口と飲んでから気になった事を質問した。
「デンファレさんは氷魔法が得意なんですか?」
「ああ、ええ。元々、水魔法が得意で…使っている内にと言った感じでしょうか。」
「そうなんですね。氷魔法を使える方には初めてお会いしました。珍しいですよね?」
「そうですね。才能が有るか、研鑽を積まなければ中々習得はできませんので。因みに私は、研鑽を積んだ方です。」
「努力の方ですか。才能も勿論、素晴らしいですが努力の結果と言うのは喜びもひとしおですね。」
言外に凄いと伝えると何処か困ったように、けれども柔らかく微笑まれた。
「そう言って頂けると、報われるものもございます。」
「……?」
何だろうか、少しの違和感を感じながらも言葉に出来ない。喜んではくれたようなので怒らせてしまったとかでは無いのだがと考えても答えは出ず、そうこうしている内に、音楽が途切れてリリー様とメイさん、フリージアさんとスノーフレークさんがダンスを終えてこちらに向かって歩いて来た。
「素敵でしたわ~。」
「その…やっぱり、その…私、お…応援致しますので!」
「だから、しなくて良いし、違う!」
リリー様の反応はともかく、スノーフレークさんまで毒されているのは何だか頂けない。
メンシュさんが声を荒らげるのも分かるなと頷く頃にはデンファレさんはフリージアさんと一緒ににこにこと楽しそうに笑っていた。
さっきのは自分の気のせいかなと首を傾げるとまた、音楽が演奏され始めた。先程とは違ってテンポの緩やかな曲だ。
確かにずっと早い曲調では弾き手も躍り手も疲れてしまうだろう。考えられているなと感心していると飲み物に気がついたリリー様が自分の分と女性人の分を買おうと、店を知っているデンファレさん、護衛のメイさんと手伝いを申し出たフリージアさんを伴って歩いて行く。
「何処か、空いている店を押さえましょうか?」
「あ…そうですね。シュヴァルト様もリリー様もお座りになって寛がれた方が良いと思います。」
旅と言うことで羽目を外す部分も多いが、お二人とも貴族だ。自分一人が座っているのもなと賛成するとメンシュさんが四人が戻って来たら移動しようと提案してくれ、デンファレさんは勿論、メンシュさんも店なら何軒かは知っているので大丈夫だろうと言ってくれた。
何だか、少しずつ距離が縮まって来ているのではと嬉しく思い、そしてそれは遠くから突然上がった轟音と悲鳴にあっという間に掻き消された。
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