裏切られた英雄を救うのは俺な件

七曜

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12.「肉」

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「ソル、起きられそうか?」

 ハッと意識が覚醒して、気持ち良すぎる微睡みから抜け出るとマーレスが上から覗き込んでいた。
 マーレスも髪を洗ったのか黒髪がさらさらと揺れ、室内着らしき黒いシャツとズボンが似合っている。暫く見つめ、漸く頭が起動した。

「俺、寝てたか?」

「それはもう、気持ち良さそうに。」

 にこりと悪戯が成功した子供のように笑われて虚をつかれながらも起き上がると、また服を着て無かった…。
 下着は辛うじて穿いてるが俺は断じて露出狂じゃない。

「包帯替えてる途中で寝たか?」

「ああ、布団があったからそのまま寝かせた。勝手に収納鞄マジックバックを開けて良いなら、次からは服を着せようか?」

「次が無いことを願いたいところだが、全然構わないから遠慮無く、頼む。」

「分かった、任せろ。」

 力強く頷いてくれたマーレスに収納鞄マジックバックを取って貰って俺も室内用の麻のシャツとズボンを身につける。綺麗に畳まれてた旅用の服と防具は一旦、中に収納し、落ち着いた所でマーレスが食堂に夕飯を取りに行ってくれてた事に気がつき、経過時間に驚いていると怪我をしながら旅をして来たんだから疲れてるだろうと諭された。
 納得してテーブルに置かれている夕飯を目にすると黒パン四つに肉と野菜のスープ二つと何故か小さく切ってくれてはいるが、大きめの焼いた肉が大皿に一つ。

「なんで肉が一つなんだ?」

「ソルが寝ている間に夕食の内容を聞いてから追加で頼んだんだ。ソルの主食は肉だろ?食べられるだけ食べて、残ったら俺が食べるから好きに食べてくれ。」

「え…、嬉し過ぎるんだが?」

「いや、そんなに喜んで貰えると思わなかった。もっと、元気になったら分厚い肉をそのまま用意するからな。」

「マーレス…ありがとう、すげぇ嬉しい。」

 感動で涙が滲む。好物ってのもあるが、何より気遣ってくれる気持ちが嬉しい。マーレスを拝み倒す気持ちで感謝し、一緒に席に着くとフォークを渡してくれたので有り難く受け取る。
 一切れ刺して口に運んでる間にマーレスがカップを取り出して魔石から水を出して入れてくれた。

「あんがとな、マーレスも遠慮せず肉も食って?温かい方が美味いし。」

「そうか?じゃあ、頂こうかな。ソルも肉以外も食べるなら遠慮なく食べてくれ。」

「ん、りょーかい。」

 マーレスもフォークを取って肉を食べ始めたんで、適度な塩加減と焼き加減の肉の味に集中する。濃厚な肉汁が染み出して来て口の中が幸せ過ぎる。部屋も綺麗だし、料理も美味くてかなり良い宿に泊まれたと思う。
 そんな事を考えながら肉を半分ぐらい食べた所でマーレスと視線が合って、目を細められた。

「ソル、口端についてる。」

 ここと、自分の左の口端を指して教えてくれたんで俺も左の口端をべろっと舐め取ったんだが何故かちょっと固まられた。
 なんだ?と、首を傾げると気を取り直したマーレスが今度は右の口端を指で示す。

「すまない、対面だったから逆になるな。ソルからすると右の口端だ。」

「そうなのか、分かった。」

 気まずそうに言われ、はしたなかったかと今度は小さく右側を舐めると満足したように頷いてくれた。
 結局、肉を半分と少し、スープは全部入る気がしなかったんで中途半端に飲むよりはと、俺からしたら柔らかく感じる黒パンをがじがじとそのまま一個食べて後はマーレスが片付けてくれた。改めて礼を言い、食器を片付けて戻って来たマーレスがホットミルクを手土産に帰って来た時はそれだけで心が温まった。

 また、二人して椅子に座わりながらホットミルクを飲みつつ、一先ずさっきの代金を払おうとしたんだが、頑なに断られた。食い下がってはみたものの、実は入町料を俺が二人分さっさと出した事を引き合いに出された。
 うん、額がこっちの方が圧倒的に安かったんだが、ここで争っても仕方ないなと共同金の方に話を移した。
 宿代や武器防具代、アイテムと魔道具なんかも旅に必要であればそこから出すから今みたいな…普通は、お前もっと金出せよになる揉め事が多いんだが、問題防止になる。
 因みにグナートルが共同金を管理してたんで、二人になった今、絶対に新しく作らなければならないのだが、なんで不服そうなんだマーレス…。

「…絶対に作らないと駄目か?」

「絶対に作らないと駄目な気がするから、駄目だな。」

 なんか、作らなかったら俺が金を出す隙が無さそうな気がする。折角、仲間になれたんだからそんな不健全な事はしたくない。うんうんと悩んでるマーレスに分かるように説明しとこう。

「例えばさ、これから俺が自分とマーレスの分の生活費と宿、武器防具、アイテム、魔道具代、何なら家も馬も買ってやるってなったら流石に気が引けるだろう?」

「確かに、一緒に住めるのは嬉しいが…ソルにそこまでの負担を掛けたくない。」

「お…おう、だから共同金は作ろう。良いか?」

「…分かった。」

 一応、納得してくれたようで良かった。本当、金の事はしっかりしとかないと縁が切れたりするからな。マーレスとは出来るだけ長く一緒にいたいから余計にしっかりしとかねぇと。
 その場で収納鞄マジックバックから共同金用の袋を取り出し、同額になるように金貨と銀貨、銅貨を入れてマーレスに預かって貰う。
 一安心しながらも、もう少し話がしたかった。

「マーレスはこの先、何がしたい?」

「この先?勿論、ソルと一緒にいたいのと…」

「うん、どうした?」

「実は、俺が造られた研究所の事が気にはなっている。只、安易に破壊しても、次の魔王がまた何十年後かには現れるだろう?後、壊した時に生きているのが知られるのは厄介だ。だから、どうするか迷っている…。」

「ああ、確かにそうだな。勇者様はやっぱり戻っては来られなさそうだし、そもそも、代々働かせ過ぎだったとも思う。なんか、誰かが犠牲になって生まれる仮初の平和ってのが…もうなんかな。分かった、ちょっとそれについては解決策が無いか調べてみよう。どの道、時間もあるし。」

「ありがとう、ソル。俺ももう少し考えてみる。」

「ああ、後、気になってる事は無いか?」

「今の所は。ソルこそ大丈夫か?」

 マーレスに尋ねられてサルワトール帝国の上層部の事が思い浮かんだが、それこそ今直ぐに答えが出るものじゃない。

「俺は…無い訳じゃ無いんだが、それも、直ぐにどうこう出来る話じゃない。また、事情は話すから今日はもう休もう。あんまり難しい話ししてっと眠れなくなりそうだ。」

「そうだな…ソルの話はまたゆっくり聞かせてくれ。これでも力には自信があるから、必要なら言ってくれれば全力で戦う。」

 冗談ぽく言われたんだが、正直、マーレスが本気を出したら国ごと余裕で落とせる。
 可笑しくなって、右腕を伸ばし…。

「マーレス、頭撫でるぞ。」

「ソル?」

 そのまま、触り心地の良い髪をゆっくりと撫でる。先に言ったお陰か、暫くされるがままに撫でさせてくれた。
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