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庭園めぐり
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毎年、薔薇の咲く季節になると騒ぐ心が落ち着かない。
この専門学校の近くにある庭園のチケットを持っていると、友人にいつもからかわれる。お前が植物を愛でるなどありえないと。確かにそうだ、とも思ってしまう。
花を見るためにというのが目的であり口実でもあるのだが、一番の目的は「彼」なのだから。
「いやぁ、今年もよく咲きましたなぁ」
顔見知りになってしまった写真好きのおじさんに声をかけられてふりむいた。
元カノに連れられて高校二年の頃初めて庭園に来た。そこで彼に出会ってから、薔薇の時期に通いだしたので花の季節に顔を合わせて三年目になる。すっかり顔なじみといった雰囲気が醸し出されているのは薔薇の持つ引力が俺と他の観覧者たちを引き合わせているからかもしれない。
「そうですね」
首からつりさげたカメラをすでに戦闘態勢にしている彼からは、喜びと幸福感があふれている。美しき花だけではなく、人間の笑顔さえ咲かせてしまう魅力が彼らを虜にしているのだろう。そして薔薇の花を囲んでできる人間関係というものも――。
「あ、茨城くん」
「庄司さん」
半円型の蔓薔薇のアーチを潜り抜ければ、小さな広間状の空間が見えてくる。そこに待っていた彼こそが俺の目的なのだ。
「はやくおいで。今年もよく咲いたよ」
今日何度目かの台詞に思わず口元を緩めながら駆けよれば、にっこりと満面の笑みで迎えてくれる。
細い手足、可憐で美しいまなざし、淡いイメージの彼は花について博識で、知識も鑑賞についても未熟な俺のガイドをしてくれる。もちろん庭園関係者ではなく、ただの鑑賞客だ。
「相変わらず、綺麗ですね」
「うん。今年も一緒にまわろっか」
「はい、よろしくお願いします」
世間話で知ったこと。庄司さんは俺よりも一つ年上。それから近くの大学に通っている。それから――。
たったそんなことしか知らない彼の案内でめぐる庭園の初夏が楽しい。だが、めぐり終えてしまえば、それでお別れなのだ。
だったら連絡先くらい交換しろと思うかもしれないが、なかなか言い出せないでいる。まだ三回目だ。彼と直接話をするのは。それも一年という期間の空白が開く。そう考えるとずうずうしくなってしまって、なかなか連絡先をとは言い出せない。
「次はミニ薔薇のコーナーを見に行こうよ」
「あ、はい」
一通り今いる場所を眺め終えて、庄司さんが提案した。だが、何かを思い出したように「あっ」と短く声をあげて庄司さんが立ち止まる。
「どうしたんですか」
尋ねると、少しぎこちない動作で庄司さんが何かを取り出した。
「あ、そうだ、これ、俺の連絡先」
庄司さんが丁寧に折りたたまれたメモを手渡してきた。
「え、あ……」
「花のこと、もっと知りたいでしょ。よかったらどうぞ登録しておいて」
な……なんというか。
こういう人を惑わせてしまう言動は、薔薇の香りのように魔性じみてはいないか。
(了)
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✿当作は2020年06月25日に創作BL版ワンライ・ワンドロさまよりお題「庭園」をお借りして一時間で創作したものです。
この専門学校の近くにある庭園のチケットを持っていると、友人にいつもからかわれる。お前が植物を愛でるなどありえないと。確かにそうだ、とも思ってしまう。
花を見るためにというのが目的であり口実でもあるのだが、一番の目的は「彼」なのだから。
「いやぁ、今年もよく咲きましたなぁ」
顔見知りになってしまった写真好きのおじさんに声をかけられてふりむいた。
元カノに連れられて高校二年の頃初めて庭園に来た。そこで彼に出会ってから、薔薇の時期に通いだしたので花の季節に顔を合わせて三年目になる。すっかり顔なじみといった雰囲気が醸し出されているのは薔薇の持つ引力が俺と他の観覧者たちを引き合わせているからかもしれない。
「そうですね」
首からつりさげたカメラをすでに戦闘態勢にしている彼からは、喜びと幸福感があふれている。美しき花だけではなく、人間の笑顔さえ咲かせてしまう魅力が彼らを虜にしているのだろう。そして薔薇の花を囲んでできる人間関係というものも――。
「あ、茨城くん」
「庄司さん」
半円型の蔓薔薇のアーチを潜り抜ければ、小さな広間状の空間が見えてくる。そこに待っていた彼こそが俺の目的なのだ。
「はやくおいで。今年もよく咲いたよ」
今日何度目かの台詞に思わず口元を緩めながら駆けよれば、にっこりと満面の笑みで迎えてくれる。
細い手足、可憐で美しいまなざし、淡いイメージの彼は花について博識で、知識も鑑賞についても未熟な俺のガイドをしてくれる。もちろん庭園関係者ではなく、ただの鑑賞客だ。
「相変わらず、綺麗ですね」
「うん。今年も一緒にまわろっか」
「はい、よろしくお願いします」
世間話で知ったこと。庄司さんは俺よりも一つ年上。それから近くの大学に通っている。それから――。
たったそんなことしか知らない彼の案内でめぐる庭園の初夏が楽しい。だが、めぐり終えてしまえば、それでお別れなのだ。
だったら連絡先くらい交換しろと思うかもしれないが、なかなか言い出せないでいる。まだ三回目だ。彼と直接話をするのは。それも一年という期間の空白が開く。そう考えるとずうずうしくなってしまって、なかなか連絡先をとは言い出せない。
「次はミニ薔薇のコーナーを見に行こうよ」
「あ、はい」
一通り今いる場所を眺め終えて、庄司さんが提案した。だが、何かを思い出したように「あっ」と短く声をあげて庄司さんが立ち止まる。
「どうしたんですか」
尋ねると、少しぎこちない動作で庄司さんが何かを取り出した。
「あ、そうだ、これ、俺の連絡先」
庄司さんが丁寧に折りたたまれたメモを手渡してきた。
「え、あ……」
「花のこと、もっと知りたいでしょ。よかったらどうぞ登録しておいて」
な……なんというか。
こういう人を惑わせてしまう言動は、薔薇の香りのように魔性じみてはいないか。
(了)
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✿当作は2020年06月25日に創作BL版ワンライ・ワンドロさまよりお題「庭園」をお借りして一時間で創作したものです。
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