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2019
11月④喧嘩腰/籠城戦/炭酸飲料/銀杏並木/こういう時/カップラーメン/隣
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喧嘩腰 2019.11.22
綺麗な言葉を吐きたい。
そう思っている。
だが身についた性はなかなか僕を離してはくれない。
特にあいつの前では。
「またあいつに喧嘩ふっかけたのかよ」
「そんなにいがみ合わなくてもいいのに」
そんなの分かりきっている。
でも、あいつを見ただけで、胸ら湧き上がってくる何かに
僕は勝てたことがない。
籠城戦 2019.11.23
こたつに潜るパジャマ人間も
今や社会人。
変わったのは肩書だけたが。
「早く着替えろ」
「無理」
頑固な鎖国に腹が立つ。
「お前、本当にウザいよ。早く出ていけ」
わざと冷たく言い放てば、
ショックを隠せてない表情を
布の隙間から覗かせた。
あどけない反応に思わず笑ってしまう。
馬鹿なのはどっちだ。
炭酸飲料 2019.11.24
ぷしゅっ。
炭酸飲料の開け方に失敗。
半分しか残らなかったペットボトルの残量に落胆する。
「それより、こっちの心配しろよ」と濡れた手首を掴まれた。
皮膚の上で泡が立ちで消えていく。
そんな指先にペロリと赤い彼の舌が這う。
「何してんだよ!」
振動によって目覚めた二酸化炭素がはじけそうになった。
銀杏並木 2019.11.25
シオンノーレの彩りは風に弄ばれ枝から離れていく。
黄色く染まるこの道にもいつかは終わりが来てしまう。
「寒いな」
「うん、寒いね」
中味の無い会話の後、
続きを言い出せずに残骸にした言葉を踏みしめて歩く。
この道が終わったら、
手を振らなくてはならない。
さよならを笑顔で言わなくてはならない。
こういう時 2019.11.26
風邪で布団の中。
こういう時にだけ何故か寂しくなる。
人間は弱ると他人を求めるのか、
元々が寂しがりやなのか。
隔離部屋を訪れる人はいない、のだが。
「おっす、お見舞い」
お前だけは軽々と線を飛び越える。
普段は鬱陶しいだけなのに。
きっとこういう時だから、
と言い訳みたいに自分に言い聞かせた。
カップラーメン 2019.11.27
湯を入れて待つ三分間。
手持ち無沙汰な彼が
うなじをくすぐるから、
こそばゆくて仕方がない。
やめろと言えば、
彼は首を横に振る。
「目の前にご馳走があるのに?」
「馬鹿! あと一分、もう離せ!」
振り払おうとしても離さない。
「まさかご馳走って……」
「そうこっち」
伸びた麺を啜ることになりそうだ。
隣 2019.11.26
白線の内側、
グレーのアスファルト。
触れて知る冷たい指先。
本当ならこのまま握りしめて
ポケットの中に突っ込んで
持ち帰りたい。
だが、そんなことが
できるわけもなく、
僕はただ君の隣を歩くだけ。
ぶらつく手先が
ぶつかりあう距離。
肩を寄せて歩くだけ。
眺める君の横顔に
ふと紅がさしたのを見た。
綺麗な言葉を吐きたい。
そう思っている。
だが身についた性はなかなか僕を離してはくれない。
特にあいつの前では。
「またあいつに喧嘩ふっかけたのかよ」
「そんなにいがみ合わなくてもいいのに」
そんなの分かりきっている。
でも、あいつを見ただけで、胸ら湧き上がってくる何かに
僕は勝てたことがない。
籠城戦 2019.11.23
こたつに潜るパジャマ人間も
今や社会人。
変わったのは肩書だけたが。
「早く着替えろ」
「無理」
頑固な鎖国に腹が立つ。
「お前、本当にウザいよ。早く出ていけ」
わざと冷たく言い放てば、
ショックを隠せてない表情を
布の隙間から覗かせた。
あどけない反応に思わず笑ってしまう。
馬鹿なのはどっちだ。
炭酸飲料 2019.11.24
ぷしゅっ。
炭酸飲料の開け方に失敗。
半分しか残らなかったペットボトルの残量に落胆する。
「それより、こっちの心配しろよ」と濡れた手首を掴まれた。
皮膚の上で泡が立ちで消えていく。
そんな指先にペロリと赤い彼の舌が這う。
「何してんだよ!」
振動によって目覚めた二酸化炭素がはじけそうになった。
銀杏並木 2019.11.25
シオンノーレの彩りは風に弄ばれ枝から離れていく。
黄色く染まるこの道にもいつかは終わりが来てしまう。
「寒いな」
「うん、寒いね」
中味の無い会話の後、
続きを言い出せずに残骸にした言葉を踏みしめて歩く。
この道が終わったら、
手を振らなくてはならない。
さよならを笑顔で言わなくてはならない。
こういう時 2019.11.26
風邪で布団の中。
こういう時にだけ何故か寂しくなる。
人間は弱ると他人を求めるのか、
元々が寂しがりやなのか。
隔離部屋を訪れる人はいない、のだが。
「おっす、お見舞い」
お前だけは軽々と線を飛び越える。
普段は鬱陶しいだけなのに。
きっとこういう時だから、
と言い訳みたいに自分に言い聞かせた。
カップラーメン 2019.11.27
湯を入れて待つ三分間。
手持ち無沙汰な彼が
うなじをくすぐるから、
こそばゆくて仕方がない。
やめろと言えば、
彼は首を横に振る。
「目の前にご馳走があるのに?」
「馬鹿! あと一分、もう離せ!」
振り払おうとしても離さない。
「まさかご馳走って……」
「そうこっち」
伸びた麺を啜ることになりそうだ。
隣 2019.11.26
白線の内側、
グレーのアスファルト。
触れて知る冷たい指先。
本当ならこのまま握りしめて
ポケットの中に突っ込んで
持ち帰りたい。
だが、そんなことが
できるわけもなく、
僕はただ君の隣を歩くだけ。
ぶらつく手先が
ぶつかりあう距離。
肩を寄せて歩くだけ。
眺める君の横顔に
ふと紅がさしたのを見た。
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