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.温泉もどき入浴剤
「たまにはさ、いいと思うんですよ。こういうの」
買い物中。門倉の住処から徒歩十分の場所にある複合型薬局の店内を歩く門倉史明の後ろをてくてくとついてくる松宮の姿があった。
「別にお前、何を買うわけでないし、ついてこなくてよかったんだぞ」
と、いうより、なぜお前がいるのだ、と門倉は尋ねたい。今日の買い出しは門倉にとって日々の生活品補充のための買い出しであって、松宮にはなんら関係ない。トイレットペーパーとティッシュペーパーと掃除用品。目的があるのはそういう品々なのだ。
「いーじゃないですか、ふたりでお買い物。まるで新婚さんみたい、ね、ダーリン」
「誰がダーリンだよ、くそが」
「そこはハニーでしょ、ハニー」
「誰が言うか」
「それにしてもティッシュいっぱい買わなくていいんですか? ワンセットだけじゃ毎晩、足りないと思うんですよ」
「お前なぁ。お前と違って俺はまともな回数してるからな」
「ああー、なるほど。普段、我慢してガス抜きしてないから、穴切れるくらいにしてくれるってわけですね!」
門倉は自分の失態を思い出してガクッと肩を落とす。
「そういうのは言わないでほしい」
「あ、言っちゃった。落ち込んでますねぇ」
「誰かさんが何気なく心をえぐってくるからな」
「えへへ。俺です。ハートをどっきゅん」
「死ぬ。別の意味で死ぬ。ほら、近寄んな、あっちいけ」
ほらほらと追い払うような仕草の門倉に松宮がつまらなさそうな顔をした。
「えー、ひどーい」
そう言いながらも彼は門倉から離れていく。素直な奴め、というよりは他に興味のあるものを発見したらしい。隣に松宮の姿がなくなって、門倉はほっと胸をなでおろす。なんだか知らないが松宮の近くにいると、どっと疲れる。
松宮の気がそれている間にざっと買い物を進める。もう、これで十分だろうと膨らんだ買い物籠の中身をレジに持っていこうとしたとき、松宮が小走りに近づいてきた。そして、門倉の持つ籠のなかに松宮が何かをどっさりと入れる。
「え、何コレ」
松宮が籠のなかに放り込んだものを見て門倉が尋ねる。
「世界の名湯シリーズ。ザ・箱根」
「入浴剤じゃねぇか」
「そうですけど。これからの季節にぴったりじゃないですか」
「俺、普段、シャワー派」
「俺はお風呂派。薔薇か泡か死体が浮かんでないと萎えます」
「どうでもいい情報ありがとう、ゴージャスだな」
「俺の家に来れば、門倉さんも毎日豪遊ですよ。レッツ湯煙殺人事件!」
「夜中に何されるか不安なのでご辞退させていただきます」
「ごうゆー!」
「はいはい、じゃ、これは戻してきましょうね、松宮くん」
「えー、いいじゃないですか、温泉きぶーん。あ、今度、一緒に温泉でも行かないっすか」
「湯煙の中で何されるのか不安だからパスな」
「えー、ひどい」
「信用のないお前が悪い」
「次の取材に箱根に行くんすけど、門倉さんがいかないと他の男とふたりっきりになっちゃうんですよねぇ」
「あー、担当さんと?」
「そう。男同士裸の付き合いっていうけれど、俺の裸を他の男に見せてもいいんですか、門倉さん」
「……はあ、お前なぁ」
門倉は大きなため息をついた。
「それ、買っていいから、寄越しなさい」
「え、本当ですか!?」
ぱあっと松宮の表情が明るくなる。
「門倉さんのお風呂で入ってもいい?」
「いや、そこまでは許可してない」
「何度か入ったことあるけれど、狭いっすよねぇ」
「悪かったな、狭くて。ほら、レジ並ぶから話はあとでな。先に入り口の前に行って待ってろ」
「ラジャー。あ、でも俺、好きですからね。門倉さんも門倉さんの狭い風呂も」
「あいあい」
困ったやつめ。また彼に一点取られた。
(了)
買い物中。門倉の住処から徒歩十分の場所にある複合型薬局の店内を歩く門倉史明の後ろをてくてくとついてくる松宮の姿があった。
「別にお前、何を買うわけでないし、ついてこなくてよかったんだぞ」
と、いうより、なぜお前がいるのだ、と門倉は尋ねたい。今日の買い出しは門倉にとって日々の生活品補充のための買い出しであって、松宮にはなんら関係ない。トイレットペーパーとティッシュペーパーと掃除用品。目的があるのはそういう品々なのだ。
「いーじゃないですか、ふたりでお買い物。まるで新婚さんみたい、ね、ダーリン」
「誰がダーリンだよ、くそが」
「そこはハニーでしょ、ハニー」
「誰が言うか」
「それにしてもティッシュいっぱい買わなくていいんですか? ワンセットだけじゃ毎晩、足りないと思うんですよ」
「お前なぁ。お前と違って俺はまともな回数してるからな」
「ああー、なるほど。普段、我慢してガス抜きしてないから、穴切れるくらいにしてくれるってわけですね!」
門倉は自分の失態を思い出してガクッと肩を落とす。
「そういうのは言わないでほしい」
「あ、言っちゃった。落ち込んでますねぇ」
「誰かさんが何気なく心をえぐってくるからな」
「えへへ。俺です。ハートをどっきゅん」
「死ぬ。別の意味で死ぬ。ほら、近寄んな、あっちいけ」
ほらほらと追い払うような仕草の門倉に松宮がつまらなさそうな顔をした。
「えー、ひどーい」
そう言いながらも彼は門倉から離れていく。素直な奴め、というよりは他に興味のあるものを発見したらしい。隣に松宮の姿がなくなって、門倉はほっと胸をなでおろす。なんだか知らないが松宮の近くにいると、どっと疲れる。
松宮の気がそれている間にざっと買い物を進める。もう、これで十分だろうと膨らんだ買い物籠の中身をレジに持っていこうとしたとき、松宮が小走りに近づいてきた。そして、門倉の持つ籠のなかに松宮が何かをどっさりと入れる。
「え、何コレ」
松宮が籠のなかに放り込んだものを見て門倉が尋ねる。
「世界の名湯シリーズ。ザ・箱根」
「入浴剤じゃねぇか」
「そうですけど。これからの季節にぴったりじゃないですか」
「俺、普段、シャワー派」
「俺はお風呂派。薔薇か泡か死体が浮かんでないと萎えます」
「どうでもいい情報ありがとう、ゴージャスだな」
「俺の家に来れば、門倉さんも毎日豪遊ですよ。レッツ湯煙殺人事件!」
「夜中に何されるか不安なのでご辞退させていただきます」
「ごうゆー!」
「はいはい、じゃ、これは戻してきましょうね、松宮くん」
「えー、いいじゃないですか、温泉きぶーん。あ、今度、一緒に温泉でも行かないっすか」
「湯煙の中で何されるのか不安だからパスな」
「えー、ひどい」
「信用のないお前が悪い」
「次の取材に箱根に行くんすけど、門倉さんがいかないと他の男とふたりっきりになっちゃうんですよねぇ」
「あー、担当さんと?」
「そう。男同士裸の付き合いっていうけれど、俺の裸を他の男に見せてもいいんですか、門倉さん」
「……はあ、お前なぁ」
門倉は大きなため息をついた。
「それ、買っていいから、寄越しなさい」
「え、本当ですか!?」
ぱあっと松宮の表情が明るくなる。
「門倉さんのお風呂で入ってもいい?」
「いや、そこまでは許可してない」
「何度か入ったことあるけれど、狭いっすよねぇ」
「悪かったな、狭くて。ほら、レジ並ぶから話はあとでな。先に入り口の前に行って待ってろ」
「ラジャー。あ、でも俺、好きですからね。門倉さんも門倉さんの狭い風呂も」
「あいあい」
困ったやつめ。また彼に一点取られた。
(了)
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