8 / 8
✿ぷちっと
✿
しおりを挟む
雪。
持っていたイメージは白くて綺麗だとか、溶けてしまうから儚く切ないだとか、そんなつまらないものばかりだった。
しかし、ここN県に引っ越してきてから、木村柚希はそんな甘い考えを捨てた。
まず、重たい。降ったそれはいくえにも重なって屋根を圧迫する。それに空も重たい。灰色がかったグレーがずっと冬の間、街の上に乗っているのだ。
雪に囲まれた場所。だからといって嫌な気分にならないのは、彼、飯田紳がすぐ近くにいるからに違いない。彼は木村にとって太陽のような温かい存在である。今にも彼切りそうだった木村の心に差し込んだ一筋の光のような人間だった。
しかし。
だからといって、彼のすることなんでもかんでも許せるわけではない。ときおり、やらかす彼のとんちんかんなミスがどうしても許せない。
例えば、今現在、直面している苛立ちだとか。
「臭い」
狭い雪穴のなかで木村は鼻を摘んだ。
この場所は昨夜降った雪で作った彼らの秘密基地だった。大きな雪山を作ってその内側を掘り固めたかまくらだ。二人が入ってぎりぎりというサイズではあったが、この中に飯田と入っているとなんだか二人だけの世界が突如できたみたいで、心が弾んでいた。それなのに。
「えー、そう?」
なんとでもないとばかりに飯田が首をかしげる。木村は彼をキッと睨んだ。
「出すときは、外でやってくれ」
「えー、無理だよ。出ちゃったもんはしかたないだろ」
「無理。臭い、吐く」
木村は我慢の限界を迎えた。慌てて、かまくらの外に飛び出した。グレーの空の下、新鮮な空気をいっぱい肺に送って、体の中にいれてしまった、あの悪臭をなんとか忘れようとした。
「そんなに臭かった?」
飯田が木村の行動を中から見て不安そうに尋ねてくる。
「ああ、臭かったね」
「うわ……ごめん」
屁だなんて何でもないとばかりの態度だった飯田が急にしゅんと肩を落とした。その行動がなんとも、自分を慕ってくる子犬のようで木村は思わず笑ってしまう。
「え? 今なんで笑った?」
「いいだろ、別に」
「ええー?」
お前には分からないだろうな。木村は飯田の隣に戻った。しかし、まだ飯田の放った屁の匂いが充満していて、彼は結局、外に逃げた。
(了)
✿初出:即興小説トレーニングお題『くさい雪』
#
持っていたイメージは白くて綺麗だとか、溶けてしまうから儚く切ないだとか、そんなつまらないものばかりだった。
しかし、ここN県に引っ越してきてから、木村柚希はそんな甘い考えを捨てた。
まず、重たい。降ったそれはいくえにも重なって屋根を圧迫する。それに空も重たい。灰色がかったグレーがずっと冬の間、街の上に乗っているのだ。
雪に囲まれた場所。だからといって嫌な気分にならないのは、彼、飯田紳がすぐ近くにいるからに違いない。彼は木村にとって太陽のような温かい存在である。今にも彼切りそうだった木村の心に差し込んだ一筋の光のような人間だった。
しかし。
だからといって、彼のすることなんでもかんでも許せるわけではない。ときおり、やらかす彼のとんちんかんなミスがどうしても許せない。
例えば、今現在、直面している苛立ちだとか。
「臭い」
狭い雪穴のなかで木村は鼻を摘んだ。
この場所は昨夜降った雪で作った彼らの秘密基地だった。大きな雪山を作ってその内側を掘り固めたかまくらだ。二人が入ってぎりぎりというサイズではあったが、この中に飯田と入っているとなんだか二人だけの世界が突如できたみたいで、心が弾んでいた。それなのに。
「えー、そう?」
なんとでもないとばかりに飯田が首をかしげる。木村は彼をキッと睨んだ。
「出すときは、外でやってくれ」
「えー、無理だよ。出ちゃったもんはしかたないだろ」
「無理。臭い、吐く」
木村は我慢の限界を迎えた。慌てて、かまくらの外に飛び出した。グレーの空の下、新鮮な空気をいっぱい肺に送って、体の中にいれてしまった、あの悪臭をなんとか忘れようとした。
「そんなに臭かった?」
飯田が木村の行動を中から見て不安そうに尋ねてくる。
「ああ、臭かったね」
「うわ……ごめん」
屁だなんて何でもないとばかりの態度だった飯田が急にしゅんと肩を落とした。その行動がなんとも、自分を慕ってくる子犬のようで木村は思わず笑ってしまう。
「え? 今なんで笑った?」
「いいだろ、別に」
「ええー?」
お前には分からないだろうな。木村は飯田の隣に戻った。しかし、まだ飯田の放った屁の匂いが充満していて、彼は結局、外に逃げた。
(了)
✿初出:即興小説トレーニングお題『くさい雪』
#
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる