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白黒もわからない
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白か黒かはっきりしてくれ。
白井は明らかに俺に気があるという振りをして、そのくせいざそういう雰囲気になると、一気にその雰囲気をぶち壊しにする。
意味がわからない。
というより、この俺に告白さえさせる隙間を与えない。
これが、俺が白井にそれ以上の感情を持ちつつも、友人関係という枠の中でくすぶるしかない理由だ。
だからこそ。
今日、白黒はっきりさせめやろうじゃないか。
そういうつもりで出社した。
「なぁ、動物園、行きてぇ」
「は?」
唐突に。
何を言っているんだ、この男は。
「やっぱさぁ、たまに行ってみたくなるじゃん。明日、行こ? 明日ならお前も休みだろ」
出社して、朝の挨拶もせずに、好きな男に動物園に誘われる。
これはどういう状態だ。出端挫かれた感じ。
「いや待って、なんで?」
「なんでって、なんか、こう、癒やされたくない?」
はあ?
「最近、部署替えあってピリピリしたてじゃん。俺、ストレス限界。パンダ見てほっこりする予定」
パンダって。
人気ある動物には長蛇の列っていうストレス付きまとうの、わかってないな、こいつ。
「ま、そうこった。じゃ、明日、十時に園の前で」
「お前! 勝手に決めるな!!」
「あ、本当に来た」
休日。
せっかくのフリーの日をこいつの突拍子なき行動に使われる。惚れた弱みというかここまでくると自分でも情けなくなる。
それなのに、この男は俺が今日来るとは思っていなかったような口ぶりで余計に悔しい。
「お前が来いって言ったんだろ」
「そだよ。けどマジで来るなんて、お前、バカだろ」
バカ。そうですか。
「とりあえず、チケット買って入ろうぜ」
「……おうよ」
くるりと俺に背を向ける白井。その優雅な仕草と男とは思えないきれいな肉体のライン。って、そんなのに見とれている場合か、俺は。
「お、並んでる並んでる」
パンダ行列。
みんなパンダ見たさに行列をつくって順番を待っている。
「人気者ってつらいよな」
「さも自分、パンダの気持ちわかります的なふうにいうなよ」
「実際にそうだろ?」
「白井」
「女でもなく男に言い寄られているんだから」
それって俺のことかよ。
「でもその人気とこの人気って質が違くね?」
「まー、そうだな。どーせならパンダみたいな人気が欲しいわ」
なんだよ、こいつ。
「なぁ、あんたさ。いつから男が好きなわけ?」
「んぶっ!! そういうこと、公衆の場で言うなよ」
「いーじゃん、教えろよ」
「白井は?」
白井の言いようにムッとして、やつに質問を返した。
「俺は中学のときから女が好きです」
「今は?」
「さーねぇ。近くに男しかいないからなぁ」
どっちなんだよ。
「意外といけるじゃないの?」
「うーわ、そういうこと言う!?」
だって、明らかにそうだろ。
「お、列、動いた。ようやくパンダに会えるわ」
「はいはい、良かったな」
白井はたった数分の面会に満足した様子だった。あれだけ並んだというのに、たった数分しか見られなかったのだぞ。それでいいのか。
まぁ、彼が楽しんでいるのなら、それでもいいかという気にもなる。
「なぁ、白と黒だったな」
「白井?」
「白と黒両方っていいよな。白熊でもなく黒熊でもなく」
「だからパンダって言われてるんだろ」
「そーゆもんか?」
「そーゆうもんだよ」
よっくわかっかんねぇ。
なんでここまでデリカシーなしのわがまま男に惚れたんだ、俺!!
「いきなりって怖いよな」
「は?」
「いきなり、未知のものがやってきて、それに答えるのって。断れなくても、そばに置いておきたいから、身近にある関係性で代用しときたい、まだ腹は決まってないんだ」
「え、ちょっとどういうこと?」
「白でも黒でもないなら、なんなんだろうな。俺ってパンダ? どちらかになっちゃったら、それだけで人気落ちちゃったりしてな」
白黒もわからない(了)
白井は明らかに俺に気があるという振りをして、そのくせいざそういう雰囲気になると、一気にその雰囲気をぶち壊しにする。
意味がわからない。
というより、この俺に告白さえさせる隙間を与えない。
これが、俺が白井にそれ以上の感情を持ちつつも、友人関係という枠の中でくすぶるしかない理由だ。
だからこそ。
今日、白黒はっきりさせめやろうじゃないか。
そういうつもりで出社した。
「なぁ、動物園、行きてぇ」
「は?」
唐突に。
何を言っているんだ、この男は。
「やっぱさぁ、たまに行ってみたくなるじゃん。明日、行こ? 明日ならお前も休みだろ」
出社して、朝の挨拶もせずに、好きな男に動物園に誘われる。
これはどういう状態だ。出端挫かれた感じ。
「いや待って、なんで?」
「なんでって、なんか、こう、癒やされたくない?」
はあ?
「最近、部署替えあってピリピリしたてじゃん。俺、ストレス限界。パンダ見てほっこりする予定」
パンダって。
人気ある動物には長蛇の列っていうストレス付きまとうの、わかってないな、こいつ。
「ま、そうこった。じゃ、明日、十時に園の前で」
「お前! 勝手に決めるな!!」
「あ、本当に来た」
休日。
せっかくのフリーの日をこいつの突拍子なき行動に使われる。惚れた弱みというかここまでくると自分でも情けなくなる。
それなのに、この男は俺が今日来るとは思っていなかったような口ぶりで余計に悔しい。
「お前が来いって言ったんだろ」
「そだよ。けどマジで来るなんて、お前、バカだろ」
バカ。そうですか。
「とりあえず、チケット買って入ろうぜ」
「……おうよ」
くるりと俺に背を向ける白井。その優雅な仕草と男とは思えないきれいな肉体のライン。って、そんなのに見とれている場合か、俺は。
「お、並んでる並んでる」
パンダ行列。
みんなパンダ見たさに行列をつくって順番を待っている。
「人気者ってつらいよな」
「さも自分、パンダの気持ちわかります的なふうにいうなよ」
「実際にそうだろ?」
「白井」
「女でもなく男に言い寄られているんだから」
それって俺のことかよ。
「でもその人気とこの人気って質が違くね?」
「まー、そうだな。どーせならパンダみたいな人気が欲しいわ」
なんだよ、こいつ。
「なぁ、あんたさ。いつから男が好きなわけ?」
「んぶっ!! そういうこと、公衆の場で言うなよ」
「いーじゃん、教えろよ」
「白井は?」
白井の言いようにムッとして、やつに質問を返した。
「俺は中学のときから女が好きです」
「今は?」
「さーねぇ。近くに男しかいないからなぁ」
どっちなんだよ。
「意外といけるじゃないの?」
「うーわ、そういうこと言う!?」
だって、明らかにそうだろ。
「お、列、動いた。ようやくパンダに会えるわ」
「はいはい、良かったな」
白井はたった数分の面会に満足した様子だった。あれだけ並んだというのに、たった数分しか見られなかったのだぞ。それでいいのか。
まぁ、彼が楽しんでいるのなら、それでもいいかという気にもなる。
「なぁ、白と黒だったな」
「白井?」
「白と黒両方っていいよな。白熊でもなく黒熊でもなく」
「だからパンダって言われてるんだろ」
「そーゆもんか?」
「そーゆうもんだよ」
よっくわかっかんねぇ。
なんでここまでデリカシーなしのわがまま男に惚れたんだ、俺!!
「いきなりって怖いよな」
「は?」
「いきなり、未知のものがやってきて、それに答えるのって。断れなくても、そばに置いておきたいから、身近にある関係性で代用しときたい、まだ腹は決まってないんだ」
「え、ちょっとどういうこと?」
「白でも黒でもないなら、なんなんだろうな。俺ってパンダ? どちらかになっちゃったら、それだけで人気落ちちゃったりしてな」
白黒もわからない(了)
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