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しおりを挟む「それは嬉しいけど、お婆ちゃんの家の片付けがあるとか言ってなかった?
誰も住まなくなるから、家具とか片付けるって言ってたよね?」
「それは…そうなんだけど…。
お義姉…伯母さんがちょくちょく掃除はするって言ってくれてるんだけど、だからってそれに甘えすぎるのも…ね。でも、それはほら、お父さんだけが戻ってきてもいいんだし…だから…。
それなのに…」
疲れや緊張のせい、目の錯覚……確かにそうかもしれないが、だからってあんな怖い思いをしたい訳じゃない。
折角の夏休みを陰鬱な気分で、震えて過ごすなんて真っ平だ。
「でも……道が通れないんじゃ…」
「はぁ、ほんとそれよね…」
母親とそんな話をしていると、父親と伸子がやって来た。
朝食をとりながら大人達の会話を聞いていると、今回崩れた箇所は以前から地面が緩んでいて、補強している最中だったそうだ。
暫く晴天が続きそうだと補強工事に着手したのに、運悪く昨夜から大雨になり、泣きっ面に蜂となったと伸子が説明している。
こうなっては仕方ないと、朝食が終われば、両親は祖母の家の片付けに向かう事にしたようだ。
愛子はと言うと、昨夜からの事もあるし、片付けは良いからゆっくりしておきなさいと言われてしまう。
心配してくれるのはとても嬉しいが、そうなるとまた暇を持て余すだろう。どうしたものかと口を噤《つぐ》んでいると、伸子が申し訳なさそうに話し出した。
「お母さんの家の片付けなんだけど、ちょっと調べたい事があってねぇ…。
済まないんだけど、任せてもいいかい?」
伸子の様子に、勝則が怪訝な表情で首を捻る。
しかし伸子はこの村の顔役の家の嫁で、普段から何かにつけて村人から相談等を受けたりしていると言うし、何より今は当主が不在状態だから、他にはわからない仕事があるのだろうと、愛子の両親は頷いた。
ずっと、諸々世話になりっぱなしだったし、掃除くらい任せて欲しいと言うのも本音だろう。
その後、未だ雨が降る中、両親は祖母の家の掃除へ出かけて行き、伯母も何処かへ行ってしまったらしく、姿が見えない。
案の定、暇になってしまった愛子は、渋々夏休みの宿題に手をつけることにした。
数学や英語は苦手だったので後回しは決定している。
勉強は全般的に嫌いで、得意というものはなく、消去法で国語に手をつける事にしたのだが、これも早々に飽きてしまった。
ぱたりとノートを閉じ、伸びをしてから窓の外に顔を向ける。
さっきまでより小雨になっているようだ。
その小雨が風に押されているのか、横へ横へと波状に見える。
「雨が歩いてるみたい…」
無意識に漏れた言葉だが、愛子は呟いた自分に違和感を感じる。
自慢にもならないが、そんな、何処となく詩的な言葉が浮かぶタイプではない。となれば、誰かが言っていたのを聞いたり読んだりしたのだろうが、付随する何かを思い出そうとすると、酷く頭が痛んだ。
「……ッ…」
この、底なし沼に引きずり込まれるような、言い知れぬ恐ろしさを伴う痛み等、何時以来だろうか…。
こんな時は、考える事を止めるように言われていたのを思い出し、愛子は気怠く息を吐いた。
そして閉じたノートと筆記具を鞄に仕舞う。
「小降りになってきてるし、そろそろ止みそうだし、散歩にでも行こっかな…」
気分転換に、それはとても良い案の様に思われた。
それに『そう言えば…』と、愛子は思い出す。
昨日の散歩の時、絶世の美少年に綺麗な石を貰ったのだが、いつの間にか紛失していたのだ――いや、本当は紛失と言うより霧散したと言った方が正しいのだが、それはあまりに荒唐無稽すぎてありえないと、愛子は考えていた。
それを探したいと思っていたのだからと、愛子は少し歩調を速めて部屋を出る。
今日はお洒落を楽しむ気分でもない為、大きめのTシャツとハーフパンツという、ラフな格好のまま出かける事に決め、愛子は玄関へと向かっていった。
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