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しおりを挟む愛子には何の事かわからない。
罪人呼ばわりされる覚えはない……少年とはこの前会ったばかりだ。いや、もしかしたら幼馴染だったかもしれないが、それならそう言ってくれれば良いと思うのは愛子の傲慢だろうか…。
第一記憶がない事は話したはずだ。
ちゃんと説明してくれなければ、謝罪も出来ないとわからないのだろうか…?
愛子は素肌に冷えた嫌な汗が流れるのを感じながら、それでも無言で目の前の少年を責める。
責めるのだが、声は張り付いたように出ない。
どれほど時間が経っただろう……。
まるで蛇に睨まれた蛙の如く、ただただ固まっていた愛子だったが、睨み付けてくる少年が愛子に背を向け、社の脇から奥へ姿を消すと、呪縛が解けたかの様にその場にへたり込んでしまった。
支えを失った傘は石畳の上に転がって、自身の役目を果たせないでいる。
石畳の上にへたり込んだままの愛子の上に霧雨は降り落ちて、降り落ちて………いつの間にか止んでいた。
その頃、調べ物をしたいと出かけた伸子は、棚が並ぶ薄暗い場所で、今にも破れそうに脆くなった和綴じの冊子を開いていた。
上の方に換気用だろうか、小さな窓があるにはあるが、灯りとしては役に立たず、懐中電灯を持ち込んだのだが、照らし出された書面には、筆で書かれた走り書きのような線が、うねうねと波打っている。
一応旧家の嫁となったのだから、ある程度古い書簡も簡単な物なら読み解いたりも出来なくはないが、手にしている其れには太刀打ち出来そうな気がしない。
一部読める単語から、何とか文脈を探ろうとするのだが、わからない部分が多すぎてほとほと困り果てていた。
「はぁ、旦那が帰って来るまでお預けかしらねぇ…。
だけど、呑気にしてられない気がする。梅花藻の印は湖神様の印……それが真っ黒だなんて縁起が悪いじゃないか…」
誰に言うでなく独り言ちる。
伸子は手にしていた冊子も、脇の木机の上に広げた風呂敷に置いた。
関連してそうな冊子は、片っ端から風呂敷に重ねているのだが、本当に関係しているのかわからない。
あまり多く持ち帰っても…とは思うのだが、出来れば何度も通う羽目にはなりたくなかった。
それと言うのも、此処は糸畑の蔵ではなかったから。
愛子が訪れた神社と同じ敷地にあるものの、かなり離れた場所にある神社の蔵だった。
祭具なども収められた其処は、神職が居なくなって久しい為、幾つかの家が持ち回りで管理している。
昔の様な祭りもする事がなくなったので、神職が絶えても問題なくこれまでやってきたが、今は切実に続いてくれてさえいれば…と伸子は溜息を落とした。
伸子が小さい頃には既に無人となっていた神社だったし、掃除等手入れの手順は義母等から教わったものの、それ以外の部分に興味を持ったこともなかった。
尤も義母達も知っていたのかどうかはわからない。
とりあえずはっきりとしている事は、神職が途絶えた理由も、この神社が守り繋いできた諸々も、その多くが失われて久しいと言う事だけだ。
顔役の家の当主達なら、今も連綿と引き継いでいる何かがあるのかもしれないが、少なくとも伸子は大事な事は何も知らなかった。
粗方の棚の冊子に目を通し、10冊程度を風呂敷に包んで持ち帰ろうと纏めていると、蔵の一番奥、何も置かれていない一角からカタリと、少し硬質な音が耳に飛び込んできた。
一瞬伸子はビクリと身を震わせる。
しかし、ここは腐っても神社の境内で、悪いモノではないと、伸子は必死に自分を宥めた。
そうっと近づくと、漆喰の壁の前の床板が浮いていた。
滅多に人の入ることのない場所だったし、今日は雨だった事も相まって、もしかすると湿気の影響が床板に出たのかもしれない。
そうなら補修しなくちゃと、破損状況を確認する為にすぐ横に膝をついて覗き込んだ。
「あら…?」
膨張で割れたとか言う感じには見えず、元々外れるように細工されていたらしい事がわかる。
「何?
やだよ…床収納ってやつ? 神社の蔵で?」
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