21 / 157
3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
4
警備を厚くし、エリューシアの護衛騎士選定も現在進行している。
邸の内外の警備に魔具もこれでもかと金に糸目をつけずに導入した。
今出来ることは思いつく限り行った。勿論これで気を抜く事は出来ないが、だからと言って日々戦々恐々ともしていられない。
本日の朝食を終え、何時ものように家族全員でお茶の時間を楽しんでいる。すっかり寒くなり、お茶の温かさにホッとしていると、ネイサンが幾つかの封書をトレーに乗せて近づいてきた。
トレーに乗せられた封書をアーネストが手に取り、差出人を確認する。
「おや、ネネランタというと…」
「エリューシアのドレスを頼んだ服飾店ですわ。後幾つかアクセサリーなんかの小物も頼んでおりますの」
「アクセサリー? ルダリー伯爵に頼んだだろう?」
「えぇ、竜心石を使った首飾りはお願いしましたが、他の髪飾りなどですわ」
「あ~そうか、確かに竜心石を見せた途端にとんでもなく興奮していたようだったね。なるほど、だから首飾り以外の手配が出来ていなかったか」
「ふふ、あの様子には笑いを堪えるのが大変でしたわ」
その時の様子を思い出したのか、両親が楽しげに笑っている。手にした封書を開き、さっと目を通してからセシリアに渡す。
「どうしましょう、もう準備は出来ているようですから、いつでも持ってきてくれるとありますが…」
「ん? どうした、何か不都合があったのか?」
「いえ、アイシアの時もドレスの受け取りを初お出かけにしましたでしょう?」
「あぁ、そうだったな。お披露目会から暫くは町も賑わって、初外出には向かなくなってしまうからな…警護も大変になるし」
両親の話にアイシアが顔を上げた。
「エルルの初お出かけですの? 私も一緒に行きたいですわ。エルル、良いかしら?」
妹の初外出と聞いては、アイシアも黙っていられない。自分も一緒に行きたいと主張した上で、エリューシアにも了承を取る。
「シアお姉様と御一緒できるのですか? 本当に? 嘘じゃなく?………ぁ……ですが…」
アイシアとお出かけと聞いて一気にテンションの上がったエリューシアだが、言葉にしているうちに、みるみる萎れて行った。
きゅっと右手を握り、それを躊躇うように唇に押し当てる様子に、皆の表情が曇る。
「エルル?」
「エルル、どうしたの?」
「ごめんなさい、エルルが嫌だったら私は良いの、お留守番しているわ」
「違います!」
家族が心配してかけてくれる言葉、特に最後のアイシアの言葉は堪えた。嫌なはずがない、それはもう天にも昇る気持ちになったのだから。
だから誤解されたのが悲しくて、つい言葉の調子が強くなってしまい、エリューシアは恥ずかし気に顔を俯かせた。
「嫌なんかじゃ…ありません。お姉様と御一緒できるならしたいです。だけど……良いのですか? 私が外に出ても…護衛も大変になるでしょう?」
最後の方は少し涙声になってしまったが、何とか言い切り、皆の返答を待つ。
「エルル……ずっと我慢させていたからな、済まない」
「あぁ、どうしてこの子ばっかり……こんな時まで良い子にならなくて良いのよ?」
「エルルがしたいなら、そうして良いの。私も一緒が良いって言ってくれて、とても嬉しいわ」
家族も、使用人達も何処か苦しげな表情をしていて、それを見回したエリューシアは唇に押し当てていた拳を解き、両手を軽く組み合わせた。
「お外、行ってみたいです。お姉様と、ううん、皆で……我儘言ってごめんなさい、警備大変だってわかってるのに……でも」
我儘を言っている自覚はあるので、ぎゅっと両目を瞑って『ごめんなさい』と思いながら言葉にすると、途端にふわりと温かさに包まれた。
そっと瞑っていた目を開ければ、何時の間に近づいてきていたのか、アーネスト、セシリア、そしてアイシアに包み込むように抱きしめられていた。
「エルルの可愛いお願いくらい叶えさせておくれ」
「そうよ、ちっとも我儘なんかじゃないわ」
「とても楽しみだわ! いつ行きますの? 今日? 明日?」
「まぁ、シアったら。そうね。準備出来次第いきましょうか」
「一応変装するか何かはした方が良いか」
アーネストがそう呟きながらふと顔を上げれば、ナタリア達女性使用人達が任せろといわんばかりに胸元でこぶしを握っていた。
そこからは早かった。
何処から探し出して来たのか、見た事のないつば広の帽子と、後は大きな眼鏡をノナリーが持ってきた。
帽子の方は何の変哲もない普通の帽子だったが、眼鏡の方は魔具らしく、それをかければ髪色を茶色限定ではあるが変えることが出来るらしい。
実際使ってみたが、どうやらエリューシアには魔具としての効果は発揮されないようで、髪色も何も変化はなかった。
試しに掛けたセシリアは見事に茶色に変わって見えたので、壊れているわけではない様だ。
魔具の効果さえ無効にする精霊の愛し子の証、あなどれぬ……というか、はっきり言って怖い。
とはいえ嘆こうが恐れようが、効果が出ないのだから仕方ない。髪色は変わらないが、大きなその眼鏡は前世で言うところの瓶底眼鏡だったので、精霊眼は覗き込まれでもしなければ隠せるだろう。
とはいえ、準備は出来たが既にお昼を回っている。冬は日が落ちるのも早いので、今日は断念すべきだろう。陽が落ちてしまえば、如何に治安のよい公爵領とはいえ危険がない訳ではない。
店側としても予め連絡を貰っていれば対応もしやすいだろうと、少し日を開けて3日後に伺うと伝えて欲しいと言えば、馬丁のマービンが馬を出して請け負ってくれた。
普段は大人以上に静かなエリューシアだったが、余程楽しみなのか、準備が整って以降、ちょっぴりそわそわとしている。
そんな彼女の様子に邸の皆も嬉しい様で、笑顔が絶えなかったのだが、1通の封書によってその笑顔に陰りが生じた。
ネイサンがトレーに乗せて持ってきた封書には金の封蝋が施されていた。
金の封蝋は王家からの封書を示している。
それを視認した途端、アーネストの美顔がわかりやすく歪んだ。それだけでなく舌打ちまで聞こえ、隠す気さえない様だ。
セシリアも双眸を細めながら片眉を跳ね上げている。
両親の様子に、いつも通り何処吹く風とばかりな様子かと思ったが、静かながらアイシアの表情も不機嫌が滲んでいる。
家族をここまで下降させる王家って……とエリューシアが思ったのは仕方のない事だった。
あなたにおすすめの小説
【完結!】国外追放された公爵令嬢は静かにやり直す――戦えば最強、そして勇者は彼女を離さない
雨音 休
ファンタジー
王国に捨てられた令嬢は、王国の魔法より強かった。
婚約破棄。国外追放。
すべてを失った公爵令嬢ノクティア。
彼女には魔力がない。
だが――魔法を斬る力を持っていた。
追放された先で再会したのは、異世界から召喚された勇者マコト。
世界から居場所を失った二人は、小さな町メルメイユで静かな生活を始める。
やがて二人は町の人々と出会い、日常を取り戻していく。
少しずつ――恋も。
だがその裏で、魔王軍は動き始めていた。
ノクティアの中に眠る、ある秘密。
魔王すら関わる世界の因果。
平穏な町に迫る影。
揺らぐ灯り。
それでも勇者は言う。
「世界が敵になってもいい。君がいるなら」
これは、
魔法を斬る最強令嬢と、
彼女を選んだ勇者の物語。
第一巻完結‼️
第二巻完結‼️
(この作品は小説家になろう様でも同時投稿しております)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します
・めぐめぐ・
ファンタジー
※完結保証※
エクペリオン王国の国王レオンは、頭を打った拍子に前世の記憶――自分が井上拓真という人間であり、女神の八つ当たりで死んだ詫びとして、今世では王族として生まれ、さらにチート能力を一つ授けて貰う約束をして転生したこと――を思い出した。
同時に、可愛すぎる娘が【白雪姫】と呼ばれていること、冷え切った関係である後妻が、夜な夜な鏡に【世界で一番美しい人間】を問うている噂があることから、この世界が白雪姫の世界ではないかと気付いたレオンは、愛する家族を守るために、破滅に突き進む妻を救うため、まずは元凶である魔法の鏡をぶっ壊すことを決意する。
しかし元凶である鏡から、レオン自身が魔法の鏡に成りすまし、妻が破滅しないように助言すればいいのでは? と提案され、鏡越しに対峙した妻は、
「あぁ……陛下……今日も素敵過ぎます……」
彼の知る姿とはかけ離れていた――
妻は何故破滅を目指すのか。
その謎を解き明かし、愛する家族とのハッピーエンドと、ラブラブな夫婦関係を目指す夫のお話。
何か色々と設定を入れまくった、混ぜるな危険恋愛ファンタジー
※勢いだけで進んでます! 頭からっぽでお楽しみください。
※あくまで白雪姫っぽい世界観ですので、「本来の白雪姫は~」というツッコミは心の中で。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。