41 / 157
4章 小さな世界に集いしモノ
2
「あ……お嬢様、お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございません」
オルガの声にハッと顔を上げ、すぐに姿勢を正してから頭を下げた。
「私の方こそごめんなさい。転移とか言われても困るわよね」
申し訳なく思いそう言えば、ナタリアが首を振った。
「お嬢様、どうかお気になさらないで下さい。ただ、そうですね……外では言わないほうが宜しいかと思います」
慣れ親しんだナタリアでさえ、これほど驚くのだから確かに言わない方が良いだろう。元々魔法の習熟に本を貸してくれたり手助けしてくれた辺境伯家と、自家にしか言うつもりはなかったが。
「えぇ、驚かせるのは申し訳ないもの、元より言いふらすつもりなんてなかったから安心して」
「お嬢様、驚かせるからではございません。そんな希少な魔法が使えるとなれば更にお嬢様を狙う輩が現れます! そうでなくとも王家などお嬢様を利用しようとする輩が……」
あぁ、そっちかと、微笑んで頷くと、ナタリアは安心したように肩の力を抜いた。
「こんな所にお嬢様を立たせておくわけにはいきませんね。お部屋の方へご案内いたします。オルガ、サネーラ、鞄はそのまま持ってきて頂戴」
ナタリアの言葉に、その場にいた全員が、未だ絶賛掃除中の邸に足を向けた。
雑巾をかけたり家具を運び入れたりしている使用人達は皆見覚えがあり、彼らもエリューシアの姿に気付けば笑顔で挨拶をしてくれる。中にはナタリアのように涙を堪え切れない者達も居た。
忘れられていなかったんだなと思い、誰にも言いはしないが胸が暖かくなった。
それにしても、エリューシアとしては前世の影響か、学校の敷地内に家があるというのがどうにも違和感があった。
寮ならわかるのだ、寮なら。しかし、ここは小さくともしっかりとした邸宅で、当然ながら使用人や警護の騎士を置くこともできる。厨房もあり料理人達も当然のように常駐させられる。
それを道すがら訊ねれば、歩きながらではあったがナタリアが説明してくれた。
寮は遠方の者や、金銭的にあまり余裕のない者達の為にあるので、基本的にこの国では高位貴族は寮ではなく、所有する王都の邸から通うのだそうだ。
勿論望めば寮に入れなくもないが、警備体制の面等からあまり良い顔はされない。
それに他国の王族が留学してきた事も過去にあり、そう言う場合人の出入りの激しい王城では、落ち着いて勉学に励めないし、何より無駄に社交に引っ張り出された結果、余裕がなくなるという弊害もあったらしい。
何よりそう言う方々は、自国の騎士団なんかもしっかり連れて来るので、それならば自国の流儀で警備をして貰った方が安心できるだろうとの配慮もあり、学院の敷地内に寮とは別で、在学期間中に貸し出せる邸宅を建ててあるという話なのだそうだ。
借り上げ期間中は魔具なども、邸宅敷地内に限ってではあるが、それぞれの借主の意向に沿って自由に使って良い。勿論、敷地外に影響のある物等は却下らしいが。
ラステリノーア公爵家の場合、父母もアイシアも、エリューシアが一緒に入学するというなら、ガチガチの警備を敷かないと安心できないという事で、在学期間中は敷地内邸宅を借り上げる事に決めた。
しっかりとした領経営をしているので金銭的な問題はないのだが、王都に邸宅を購入した場合、そこから馬車での通学となり、その移動中が危ないと言い出す始末であった。
その両親と大大大好きなアイシアの到着は、予定では明日になるらしい。
エリューシア用に整えられた部屋に着き、ナタリアが扉を開けてくれた。
何と言うか……2年前の記憶そのままの公爵邸の自室が再現されており、思わず途方に暮れるエリューシアだった。無駄金かけてるんじゃねぇ……と、もし、この場に父母が居たなら凄んでいた事だろう。
オルガとサネーラも早速お仕着せに着替えて、エリューシアにお茶を用意してくれている。ナタリアもまだ整い切っていない厨房からお菓子を持ってきてくれた。
「それにしても、アイシアお嬢様の御入学に合わせずとも良かったのではございませんか?」
お菓子の乗った皿をテーブルに置きながら、ナタリアが心なし心配そうに声を曇らせる。
そう言うのも理解はできる。何しろエリューシアとアイシアでは2年の差があるのだ。だが学院への入学は、その年齢前であっても学力他が合格ラインに達していれば認められる。
「お姉様と一緒が良かったのだもの。でも、まさかこんな邸宅まで借り上げるとは思ってなかったわ……てっきり寮か宿になると思ってのだけど、これならこれで、一緒に入学して一緒に卒業の方が、無駄なお金がかからずに済むってものでしょう?」
エリューシアとしては愛するアイシアの警護を、自分がする気満々だっただけなのだ。昔から『お姉様大好き』とアピールしてきただけの事はあり、『一緒に入学したいから入試受けます!』と言いだしても、誰も不審にも思わず、すんなりと受け入れてくれた。
過去の自分、グッジョブ!!
ナタリアもオルガ、サネーラも下がって、これから暫く自室となる部屋に一人残ったエリューシアは、少しの間ぼうっとしてから何もない空間に手を伸ばし、一冊の本を取り出した。
もう何代目になるかわからないエルルノートである。
その前に何もない空間にさらりと手を伸ばすなと言われそうだが、辺境領に居た2年間、ひたすら勉強し魔法も磨いてきた賜物だ。
辺境伯邸には公爵邸に負けず劣らずの図書室があったのだが、そのラインナップは大きく異なり、魔法や魔具、錬金や医薬等の本で埋め尽くされていて、公爵家でも及ばないほどの蔵書量があったのだ。そのおかげで転移魔法だけでなく、収納も当然の如く習得する事が出来た。
光魔法についても、辺境伯領は良い環境だった。
何しろ被検者がわんさかいるのだ。日々魔物や隣国の警戒をしつつ訓練にも余念がない辺境伯軍は、結構な頻度で新人たちが怪我をする。
その治療等をさせて貰えたので、習熟度を上げる事は難しい事ではなかった。勿論、瓶底眼鏡、そして特製カツラ着用の上でだけれど。
先にも言ったように辺境伯邸の図書室には膨大な、だけどとんでもなく偏った蔵書があり、その中に魔具や錬金、医薬に関する物も多く、魔法以外のそれらもエリューシアは只管読み込んでいった。
医薬に関しては前世のささやかな知識の記憶でも、あるだけでかなり違い、然程苦労せずに読み込めた。
苦労したのは魔具や錬金の知識を得る事の方だった。
何分前世の知識は全く役に立たない。魔法そのものは最早本能レベルかと思う程、すんなりと習得できたのだが、これは自分自身が持っている力だったからなのではないかと考えている。
ただ魔具や錬金となると、自分の中にある力などないし、知識もゼロ!
これでてこずらない方がおかしいだろう。
しかし、それも最初の山場を越えれば、そこそこ順調に習得できた。とはいえまだ変装用の特製カツラ等、簡単なものに限られているのだが、生暖かく見守って頂ければ幸いである。
あなたにおすすめの小説
【完結】カノン・クライスラーはリンカネーション・ハイである。~回数制限付きでこの世界にある魔法なら何でも使えるという転生特典を貰いました
Debby
ファンタジー
【最終話まで予約投稿済み】
カノン・クライスラーは、辺境に近い領地を持つ子爵家の令嬢である。
頑張ってはいるけれど、家庭教師が泣いて謝るくらいには勉強は苦手で、運動はそれ以上に苦手だ。大半の貴族子女が16才になれば『発現』するという魔法も使えない。
そんなカノンは、王立学園の入学試験を受けるために王都へ向かっている途中で、乗っていた馬車が盗賊に襲われ大けがを負ってしまう。危うく天に召されるかと思ったその時、こういう物語ではお約束──前世の記憶?と転生特典の魔法が使えることを思い出したのだ!
例えそれがこの世界の常識から逸脱していても、魔法が使えるのであれば色々試してみたいと思うのが転生者の常。
リンカネーション(転生者)・ハイとなった、カノンの冒険がはじまった!
★
覗いてくださりありがとうございます(*´▽`人)
このお話は「異世界転生の特典として回数制限付きの魔法をもらいました」を(反省点を踏まえ)かなり設定を変えて加筆修正したものになります。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?
だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。
七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。
え?何これ?私?!
どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!?
しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの?
しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高!
ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!?
悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。