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4章 小さな世界に集いしモノ
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辺境伯領から転移で飛んだその日の夕方、先んじて出立していたエリューシアの護衛騎士達も学院敷地内の借り上げ邸宅に到着した。
エリューシアも転移が使えるとは言え、まだ一度に運べる上限がそれほど大きくない。最も運べる人数、総量等よりも、騎士達にとっては道中や王都の様子、地形確認などの方が大事らしく、最初から転移と言う選択肢はなかったようだ。
そんな細々とした事はあったが概ね平穏で、その日は早めの夕食を終えた後、これから自室となる部屋であっさりと就寝した。
思ったよりも疲れていたのか、エルルノートは取り出したものの、何となく気が向かなかったのだ。
翌朝……といっても少々寝過ごしてしまったが、ちょっとした騒音で目が覚める。
恐らく父母とアイシアが到着したのだろう。
ささっと着替え他の準備も、一人で済ませるのも慣れたモノだ。
父母だけなら玄関の騒ぎが収まるのを待っても良いのだが、アイシアもいるはずなので、自室で大人しくしているという選択肢は存在しない。
ギリギリ走っていないと言い張れる歩き方で廊下に出て玄関へ向かえば、丁度外套を使用人達に渡しているところが、壁が途切れた階下の先に見えた。
父アーネストは勿論、姉アイシアとも手紙はずっとやり取りしていた。
2年の間に母セシリアは辺境領まで来てくれた。そんなに頻繁に来れるような距離ではなく、道中の安全面の不安などもあった為、控えてくれるように頼みこんだので2回だけだったが、それでも会いに来てくれた。
だからそんなに離れていた訳ではないのに、壁の端から姿が覗き見えた途端、張り付いたように足が止まり、堪え切れない涙がその目に浮かびあがる。
辺境伯邸では魔法、魔具、錬金、医薬等々だけじゃなく、礼儀作法や一般教養などの勉強もかなりこなしてきたので、こんな泣き顔など晒すべきではないと分かっている。
だけど、中身は兎も角、肉体年齢はまだ7歳でしかない。
前世日本で言うなら、やっと人間界に属せた年齢のお子様なのだ。今日だけは大目に見て貰おう。
それでも浮かんだ涙をこぼすまいと、グッと歯を噛みしめ、歩き出そうとした瞬間。
「ェ……エルル!!」
「あ"あ"あ"ああああぁぁっぁぁああああ"……エ"ル"ル"ゥゥゥ!!!!!」
「エルル!!」
階下からは、壁だけじゃなく階段の手すりなどが邪魔をして、エリューシアの姿は見え辛いだろうに、彼らは気付いて先に呼びかけてくれる。
アイシアなど、名を呼ぶなり階段を駆け上がってきた。
いつも上品で、穏やかで、幼いながらも完璧な淑女と言う噂は、辺境でも耳にすることがあった。
そんなアイシアが階段を駆け上がるなど、考えられない行動だが、まだ2階の廊下で立ち尽くしているエリューシアの前には、確かにアイシアが居た。
その花の顔をこれ以上ない程涙で濡らして。
そのまま開かれた両腕に、ガバリと抱き締められる。
掠れるように小さく『エルル』と紡ぎ出される声に、エリューシアも胸が詰まった。
2年の間にアイシアは更に美しくなっていた。
深青色の髪は艶やかで、以前よりも輝きが増したように見える。同色の瞳は透き通っていて、本物の宝石と言っても過言ではない。
そんな一流職人が丹精込めて作り上げたお人形のように整ったアイシアが、その頬を涙で濡らし、可憐な唇を噛みしめている。
アイシアの腕の中で、苦し気に歪められたその泣き顔を見上げ……。
「シアお姉様いけません!! そのように噛みしめては……お姉様の美しい唇が傷ついてしまうなんて世界的損失ですッ!!!」
感動の再会場面で、そんな言葉を叫んだエリューシアだった………だったが、きっと、多分、悪くない……はず。
その後、アイシアは言うに及ばす、父母もエリューシアを離さず、正直疲労困憊になる程揉みくちゃにされた。
何と言うか…そう、例えるならバーゲン初日の、赤札ワゴンでの一戦を終えた後かの様な…。
もう指先を動かすのさえ億劫そうなエリューシアの姿に、流石に使用人達がストップをかけて、一旦自室へ送ってくれた。
自室に着き、酷くなった顔や髪のケアを、専属メイドのオルガとサネーラから受ける。
ケア中、普段は能面オルガ、仏頂面サネーラと言われるほど表情が動かない二人も気を遣ったのか、エリューシアには微かに微笑みを見せてくれていたのだが、実は主人一家に静かな殺意を覚えていた事を後で聞いた時には、引き攣った笑いしか出なかった。
まぁケアを受けている最中はそんな事に気付くはずもなく、エリューシアが考えていた事と言えば…
(『能面』とか『仏頂面』とか……能楽文化ないし、神様はいても仏様なんてこの世界にはいないはずなのに、つくづく日本のゲームよねぇ)
……………であった。
公爵家執事であるハスレーまで公爵邸を留守にする訳にいかず、代わりにネイサンがこちらに居留する事になっている。
しかしエリューシアを揉みくちゃにするなと、流石に主人一家をあまり諫める訳にも行かずネイサンが困っていたところ、ナタリアを筆頭にメイド達がねちっこくお小言を零してくれたらしい。
父、母……南無。
だが、シアお姉様にお小言はいけません。えぇ、いけませんよ。
でもそのおかげか、夕食の頃には落ち着いており、ゆっくりと食事をすることが出来た。
入学式が終わるまでは父母もこの邸に留まるとの事で、一緒に持ってきてくれた制服のお披露目なんかをしている、ナウ(古ッ)。
「私達の頃と変わってないのね」
「そうだな。丈の長い、黒のローブタイプの上着はあの頃のままだ」
アーネストとセシリアが、真新しいアイシアとエリューシアの制服を眺めて微笑む。
制服として決まっているのはこの黒の上着と、所属を示すリボンとタイだけだ。後は女子は襟付きの薄い色のワンピースにショートブーツ、男子は同じく襟付きの薄い色のシャツにズボン、そしてショートブーツで、こちらは大きく外れて居なければ各自で好きなものの着用が認められている。
襟付きと決められているのは、所属を示すリボンやタイを結ぶ必要があるからだ。
「あら、でもフードが付くようになったのね」
「私達の頃にはなかったな」
広げて見れば黒のローブタイプ上着には、確かにフードが存在していた。何故デザインが変更になったのかはわからないが、エリューシアとしてはフードが付いているのはありがたい。
「他は……鞄や靴、他の消耗品の準備はどうなってる?
まだなら入学式までまだ日があるし、明日にでも商人を呼ぶかい?」
アーネストの言葉にアイシアもエリューシアも頷く。
ブーツは既に注文済みで明日には届くだろうが、それ以外は叶うならアイシアとお揃いのモノが欲しくて、まだ購入していなかったのだ。
どうやらアイシアの方もまだ未購入の様なので、一緒に選べるならとても嬉しい。
特製の瓶底眼鏡と特製カツラという新たに作った魔具の効果に、認識阻害を組み込んである事は手紙で伝えてあるが、入学式まではまだ静かに過ごしたいので、引き籠り大賛成である。
髪の発光も、特製カツラでしっかりと封じ込める事は出来る。
まぁ見た目だけで、発光そのものをどうこうする事は不可能なのだが、見えなくなるだけでかなり違うはずだ。しかしやはりというかなんというか……蒸れるのだ。なので出来れば着用する機会は少ないほうが助かる。
とは言え、それのおかげで辺境伯領で光魔法の熟練度上げに新兵たちを治療していた時は、全く気付かれる事はなかったので効果は完璧である。
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