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4章 SYUUI
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しおりを挟むどすどすと、飛び跳ねる様にしてはしゃぐ植原を何とか落ち着かせ、越川宅の呼び鈴を押す。
直ぐに応えがあり、程なくしてドアが開かれた。
出てきたのは太輔だ。
滝子老婦人はどうしたのだろうと、視線を奥へ向けると、それに気づいた太輔が苦笑いを浮かべる。
「すみません、母は奥です。
ポンの事伝えたら、昨夜から大喜びで……身体も覚束無いのに走って玄関まで行きそうだったものですから…」
なるほど。
それは引き留めるのも止む無しだ。はしゃいだ挙句、捻挫や骨折…では笑えない。
先にペットキャリーを抱えた植原、その後に陽月が続いてドアを閉める。
昨日と同じ客間に通された。
奥には滝子が落ち着かない様子で座っている。
まずは対面だ。
つい今しがた、月佳にも本猫に聞いて貰って、間違いなくポンちゃん自身である事を確認しているが、これは伝える事の出来ない情報である。
ペットキャリーから出された白猫に、滝子は滂沱の涙で頬を濡らしながら手を差し伸べた。
それに応える様に、ポンちゃんは植原の腕からするりと抜け出し、滝子に近付いていく。
そんな白猫を、滝子は優しく抱き締めた。
植原の方はその様子に安堵の笑みを浮かべているが、何処となく寂しそうで、掛ける言葉が見つからない。
その後は挨拶や状況の説明をする事になる。
予め、植原から獣医代等、かかった費用の事を聞きだして伝えていたので、言葉と実質的な御礼の遣り取りをしとなったが、最初は植原が遠慮していた。
しかし太輔が柔和に笑む。
「ポンが無事やった御礼ですし、何よりこうして出来た御縁を大切にしたいと思っています。
これから忌憚なく母もお付き合いさせて頂ければ、とても嬉しいと言っていますので、どうか…」
そこまで言われ、植原も苦笑いで受け取ると帰って行った。
穿った見方かもしれないが、もしかすると母滝子に友人が出来れば、甥に必要以上に目を向けなくなると考えたのかもしれない。
陽月の前にも御礼と書かれた封筒が差し出されたが、陽月はそれに手を伸ばす事無く、一旦姿勢を正した。
「御礼と言ってくださるのであれば、少々お訊ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
陽月がそう切り出すと、ポンちゃんとベッタリしていた滝子と太輔も座り直す。
黙ったまま写真とチラシを並べ置いた。
【結局聞いてみるんや?】
(えぇ、伯爵に倉庫は探って貰えそうですが、それ以外にも傍証は出来る限り集めておきたいんです。
最終的には警察に動いて貰わないといけませんからね)
【それはそうやけど…最終的に警察言うんやったら、谷嶋のおっちゃんとかに声掛けたらええのに…】
(父の繋がりは、あまり…)
そんな無言の会話は、太輔の声に打ち切られた。
「これは?」
滝子も覗き込んでくる。
そして写真の方に手を添えた。
「これ……行方不明の…?」
どうやら滝子の方は覚えているらしい。
だが、太輔も滝子の言葉で思い出したようだ。
「あぁ、そう言えば警察が何回か聞きにきよりましたわ」
話を聞くと、10年程前警察が聞き込みに訪れた事を話してくれる。
だが、特にこれと言った情報は提供出来なかったと、太輔は首を横に振った。
「そこの中学の制服やし、こっちは文具店やから、お客として来てくれた事は何度かあったやろとは思います。
でも、あんまし記憶に残ってなくて…」
他の生徒達と違って、林田はこの文具店の前を通る事は少なかったと思われる。
ここを通る前に東の方に折れるのが、彼女の通学路だったからだ。
それこそ行方不明となった当日、駅方面に歩いて行った時くらいかもしれない。
まぁ、得られるものがなくても仕方ない。空振りは想定内の事だ……が…思わぬところから声が掛かった……ようだ。
【ハル……】
(月?
どうしました?)
目の前で、滝子の腕から抜け出た白猫が、テーブルの上に乗って写真に鼻を寄せている。
【見た事ある…て……。
覚えてるて……ポンちゃんが言うてる…】
思い切り想定外の方向からの情報だ。
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