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優しい山賊と不思議なギルドマスター
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「どこだここ…」
ファラのいた空間から出た俺は異世界に転送されたはいいもののわけの分からない場所に飛ばされていた。
森の中とかではないが岩と岩と岩ばっかりのところだ。
「周りを見ても岩ばっか…」
人どころか村の一つすら見つからない。
完全に秘境中の秘境といった感じだ。
こんなことならファラに王国の近くまで転移させてもらうべきだったかもしれない…
まぁここで文句を言ってても仕方ないから街を探して先に進むことにしよう。
「さてどうやって人のいる街を探すかだが…」
「おうおう兄ちゃん!こんなところで何してんだよ!ここは人の立ち入る場所じゃねぇぞ!」
どうやって街を探そうかと考えているとガラの悪い男に話しかけられた。
声は日本語に聞こえる…。
自動的に変換されているらしい。
しかしこんなところで話しかけてくるなんて…。
これは…いわゆるあれだろうか?
「こんな人気のないところでナンパか?悪いが他を当たってくれ。」
「違う!なんで俺がこんなところでしかも男を口説かないといけないんだ!俺は山賊だ!」
「山賊…」
聞いたことがある。確か山の中で略奪行為を行う山の海賊みたいな感じだったか。
「それで…その山賊さんが俺に何の用で?剥ぎ取り?」
「いやそんなことしないけど…?」
「山賊って海賊の山版じゃないのか?」
「山賊にもいろいろあるんだよ。俺たちの一味は悪徳商人か金持ちのクソ貴族しか襲わないんだよ。」
「ほへぇ…とりあえずあんたがいいやつってことはわかったよ。」
「厳密にはいいやつではないんだが…まぁいいか。それで改めて聞かせてくれ。なんでお前はこんなところにいるんだ?観光って雰囲気じゃないが。」
「うーん。なんて言えば良いのか…」
この世界の人間に『別の世界から来ました』なんて言えるわけがない。
ここは適当に言っておくか…。
「ここらへん幻の動物がいるって聞いてな。それを探してたんだ」
「幻の動物…?ここらじゃ聞かない噂だな…騙されたんじゃないか?」
「ふむ…」
「さて俺はそろそろ行かなきゃならねぇんだが…お前はどうするんだ?」
「王国に行かなきゃいけないんだ。そのためにまずは最寄りの街に行きたい…だがここら辺は全く分からなくてな。」
「なら近場の街まで案内してやろうか?」
「いいのか?」
「ああ。ちょうど俺も山から下りる用事があるんだ。途中までなら案内してやるよ。」
「それは助かる。」
「ついでだからいいさ。」
「あんた…見かけによらずいい奴だな?最初に見たときは怖い人かと思ったよ」
「見かけによらずは余計だ。ほら。さっさと行くぞ」
山賊はそう言って俺の前を歩く。
俺はその後ろについて歩く。
その道中山賊が話しかけてきた。
「あんたの名前を聞かせてくれるか?」
「そう言えば名乗ってなかったか…。俺は…」
いや。よく考えたら日本名を名乗っても相手には全く分からないだろう。
ここは本名から取って…ナギとでも名乗っておこう。
「俺の名前jはナギとでも呼んでくれ。」
「分かった。ナギ。俺の名前はゴーガだ。」
「よろしく頼む。ゴーガ。」
「さて…とりあえず俺の隠れ家に案内するから着いてきてくれ」
「…そのまま街の近くまで連れてってくれるんじゃないのか?」
「それでもいいんだがな…この時間は盗賊団が出るからな。」
「盗賊団?」
「ああ。近くの盗賊村を根城にしてるやつらなんだが追っ払っても追っ払ってもキリがねぇんだよ。
だからあいつらが出てこない時間帯に出る。」
「なるほどな…」
「っと着いたぞ…。ここが俺の隠れ家だ。」
そう言われてゴーガに案内されたのは洞窟のような場所だった。
「ココか?」
「ああ。とりあえず適当に座ってくれ」
ゴーガに言われた通りに俺はとりあえずそこら辺の地面に座る。
尻が少し冷たいがまぁそれは我慢しよう。
「それで…これから何を話すんだ?何か言いたいことがあるからここに連れてきたんだろ?」
「ああ。それでこれから行く街…レセンティアについての説明なんだがな…
街に入る際に一つだけ注意して欲しいことがあるんだ。」
「注意して欲しいこと?」
「ナギのいた場所はどうか分からないがあの街では奴隷制度が容認されている。
新しい領主の判断でな。」
「奴隷制度…」
嫌な響きだ。
日本にはなかったからあまり馴染みはないが…
漫画なんかではよく聞く単語だ。
「そうだ。だから鎖に繋がれている獣人やエルフを見ても見てみぬふりをしてほしいんだ。」
ゴーガは納得してなさそうな顔でそう言ってくる。
「それはいいが…ゴーガはそれでいいのか?」
ゴーガの性格的にはそう言うのは許さないと思ったんだが…
「…よくないとは思っている。だが打開策が見えないんだ。流石にただの山賊の俺が直接何か言うわけにもいかないしな」
「そうか…」
「そんな顔するなよ。いつかはどうにかしたいと思ってるからさ。今は準備の段階って所だ。仲間が情報を集めに行ってくれてる。
あいつを追い詰めて倒すための情報をな」
「それでどうにかなる…のか?」
「それは俺にも分からない…運しだいってとこもあるしな。」
「まぁ…準備段階の間に誰かが領主をぶっ飛ばしてくれりゃ話は別だがな?」
そう言ってゴーガはチラリと俺の方を見る。
「それは俺に領主をぶっ飛ばせって言いたいのか?」
「さぁな?そう受け取ってもらっても構わねぇぜ。」
さっきは奴隷のことは見てみぬふりをしろとか言ってたのに…
つまり自分で手を出すのは慎重にやるけど他の奴が簡単にぶっ飛ばす分には問題ないってわけか。
「まぁ…ぶっ飛ばすかどうか決めるのは街の様子とその領主とやらを確認してからだな。俺にもやることがあるわけだし」
女神からの依頼…暴走した勇者の処理という仕事が俺にはある。
「ああ。それでいい…っとそろそろいい時間だ。街の近くまで送る。少し手前の分かれ道までは一緒に行けるからな。」
「ありがとう。近くまで送ってくれるだけでも助かる。」
俺はゴーガの後について山を下りてしばらくすると大きな道に出た。
「王道に出たな…ここから真っすぐ行けばさっき言ってた分かれ道だ。」
「王道?」
「王国が整備してる道のことだが…そんなことも知らなかったのか?」
「…興味のないことは切り捨てるタイプなんだ。」
「なんだそれ…まぁいいか。とりあえずさっき言ったこと約束だからな?」
「ああ善処はする。」
「俺はここまでだから案内はここまでだな。もうちょい真っすぐ行けばレセンティアに着くからさ」
話していたらいつの間にか分かれ道に着いていた。
ゴーガとはここでお別れらしい。
「案内ありがとう。助かった。」
「報告楽しみにしてるぜ」
「…期待しないで待っててくれ。」
俺がそう言うとゴーガは『またな』と言いつつ手を振りながら別の道へと歩いて行った。
「さて…俺も行きますかね…このまま真っすぐって言ってたよな…お…あれか?」
ゴーガに言われた通りにしばらく歩いていると大きな街が見えてきた。
おそらくあれがレセンティアだろう。
「ずいぶんと大きな街だな…。」
「そこの君!止まりたまえ!」
街に近付くと鎧を着た男が話しかけてきた。
おそらくここを守っている門番みたいな感じだろう。
「俺に何か用なのか?検問が必要なのか?俺は見ての通りの無一文だが?」
「無一文かどうかは聞いてないのだが…まぁいい。荷物だけ調べさせてもらいたい」
「荷物なんてないが?」
「ないだと?金も荷物もなしでどうやってここまできたんだ?」
「親切な人たちがここまで送ってくれたんだよ。」
「ほう?」
「そこはいいだろ。早く中に入れてくれ。」
「…まぁいい。くれぐれも問題は起こすなよ?」
「わかった。」
門番は渋々了承して門を開けてくれた。
あの顔は絶対納得してない顔だったな…。
「まぁ俺には関係ない話だな。」
とりあえず街に入った俺は辺りを見渡す。
ゴーガの言っていた通り鎖に繋がれた獣人やエルフっぽい女の人たちがちらほらといた。
「…今はスルーしよう。」
俺はそれらを見てみぬふりして街を歩く、
「領主の屋敷は…分かりやすいな。」
奥に見える無駄にデカい趣味の悪そうな建物がゴーガの言っていた領主のいる屋敷だろう。
外見から見て持ち主もやばい奴なんだろうということが伝わってくる。
「あそこに行くのはあとだな…とりあえず冒険者ギルドを探してみるか…。」
ボス戦は準備を色々と整えてからにしておこう。
今の俺ではまだ色々と足りないからな。
それに冒険者ギルドなら色々と情報が手に入るはずだ。
勇者たちの情報だったりとか王国の現状とか。
それにある程度金も稼がなければならないからな。
「さてとどこにあるんだろうな…冒険者ギルド…」
こういう大きな街ならあるとは思うのだが…。
「どれが冒険者ギルドなんだ…」
それっぽい建物がいくつもあってどれなのか分からない…。
こんなことならゴーガにもっといろいろ聞いておくべきだったかもしれないな…。
「とりあえず誰かに聞いてみるか…すまん。ちょっと聞きたいことがあるんだかいいか?」
俺はとりあえず近くを通りかかった黒髪の少女に声を掛ける。
「はい?なんでしょう?」
「冒険者ギルドに行きたいんだが」
「でしたらご案内しましょうか?ちょうど私も行くところだったんです。」
「それは助かる。」
「では行きましょうか。こっちですよ。」
そう言って親切な少女に案内されて着いたのは大きめだが少しぼろい建物だった。
「…ほんとにここは冒険者ギルドなのか?」
「はい。…まぁ外はぼろいですけど…中はちゃんと綺麗なんですよ?」
「そうか。案内助かった。」
「では改めまして…ようこそ!我がギルド、グランクロスへ!」
「我がギルド?」
「私はこのギルドでギルド長をやっているんです。」
「ここで一番偉いってことか」
「そうなりますね、あ、名前をまだ名乗ってませんでしたね。私の名前はエルアです。」
「俺はナギだ。」
「ナギさん!いいお名前ですね!それで今日はどのようなご用件でギルドをお探しになっていたんですか?」
「この国の王都に召喚された勇者の情報を集めている。その情報を探しに来た。」
「勇者の情報…ですか…それなら西側で見かげたという話を聞きましたよ」
「西側…ここから遠いのか?」
「そうですね…この街からだと数日は掛かると思いますよ。ちょっと待っててくださいね」
そういうとエルアは奥から地図を引っ張り出してきた。
「ここがこの街......レセンティアです。
勇者の目撃情報があったのはこのルクスタリアという街です。」
「......確かに遠いな」
レセンティアからルクスタリアまでの間は砂漠が広がっているらしい。
普通の準備じゃここは突破できなさそうだな......。
「ラクーラで移動するって方法もあるんですけどね......値段が高いから貴族様限定なんです。」
ラクーラって言うのはおそらく異世界のラクダのことだろう。
金がないから歩くしかないな…。
「依頼をこなせばお金が手に入るんですけどね…あいにくうちで仕入れてた初心者用の依頼は切らしてまして…」
難しい依頼しかないってわけか…。
まぁただいますぐ西側に行くってわけでもないからな…。
まぁ受けといても問題はないか…。
「西側でこなせる依頼をいくつか選んでくれないか?旅の途中での路銀は稼ぎたいからな」
「…いいんですか?西側の依頼はかなり難しいものばかリですけど…」
エルアは少し心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「問題ない。」
「では何枚か依頼を受注しておきますね。達成の報告はこれを使ってください。」
そう言ってエルアが渡してきたのは白い紙だった。
何も書いていない真っ白な紙だ。
「何も書いていないが…どう使うんだ?」
「これには私の魔力が込められていて倒した魔物の魔力を浴びせるとこちらにあるもう一つの紙にハンコが押されるようになってるんです」
「どういう仕組みか分からんがすごいな」
「まぁとりあえずそんな感じで戻ってこなくても達成の報告はできます。それとこれもどうぞ」
エルアはもう一つ袋みたいなものを渡してきた。
「これは?」
「それは報酬を渡すための小袋です。こうやって…こっちの袋に金貨を入れるとそっちに転送されるんですよ。私が頑張って作りました」
「…あんた。ほんとにただのギルドマスターかよ」
「さぁ…どうでしょうね…フフフ…」
絶対この人は何か隠している…が今はそのことを考えている場合じゃない。
「じゃあ…俺は行くから」
「はい。これからのあなたの旅路に幸多からんことを」
俺はエルアに別れを告げてギルドを出た。
ファラのいた空間から出た俺は異世界に転送されたはいいもののわけの分からない場所に飛ばされていた。
森の中とかではないが岩と岩と岩ばっかりのところだ。
「周りを見ても岩ばっか…」
人どころか村の一つすら見つからない。
完全に秘境中の秘境といった感じだ。
こんなことならファラに王国の近くまで転移させてもらうべきだったかもしれない…
まぁここで文句を言ってても仕方ないから街を探して先に進むことにしよう。
「さてどうやって人のいる街を探すかだが…」
「おうおう兄ちゃん!こんなところで何してんだよ!ここは人の立ち入る場所じゃねぇぞ!」
どうやって街を探そうかと考えているとガラの悪い男に話しかけられた。
声は日本語に聞こえる…。
自動的に変換されているらしい。
しかしこんなところで話しかけてくるなんて…。
これは…いわゆるあれだろうか?
「こんな人気のないところでナンパか?悪いが他を当たってくれ。」
「違う!なんで俺がこんなところでしかも男を口説かないといけないんだ!俺は山賊だ!」
「山賊…」
聞いたことがある。確か山の中で略奪行為を行う山の海賊みたいな感じだったか。
「それで…その山賊さんが俺に何の用で?剥ぎ取り?」
「いやそんなことしないけど…?」
「山賊って海賊の山版じゃないのか?」
「山賊にもいろいろあるんだよ。俺たちの一味は悪徳商人か金持ちのクソ貴族しか襲わないんだよ。」
「ほへぇ…とりあえずあんたがいいやつってことはわかったよ。」
「厳密にはいいやつではないんだが…まぁいいか。それで改めて聞かせてくれ。なんでお前はこんなところにいるんだ?観光って雰囲気じゃないが。」
「うーん。なんて言えば良いのか…」
この世界の人間に『別の世界から来ました』なんて言えるわけがない。
ここは適当に言っておくか…。
「ここらへん幻の動物がいるって聞いてな。それを探してたんだ」
「幻の動物…?ここらじゃ聞かない噂だな…騙されたんじゃないか?」
「ふむ…」
「さて俺はそろそろ行かなきゃならねぇんだが…お前はどうするんだ?」
「王国に行かなきゃいけないんだ。そのためにまずは最寄りの街に行きたい…だがここら辺は全く分からなくてな。」
「なら近場の街まで案内してやろうか?」
「いいのか?」
「ああ。ちょうど俺も山から下りる用事があるんだ。途中までなら案内してやるよ。」
「それは助かる。」
「ついでだからいいさ。」
「あんた…見かけによらずいい奴だな?最初に見たときは怖い人かと思ったよ」
「見かけによらずは余計だ。ほら。さっさと行くぞ」
山賊はそう言って俺の前を歩く。
俺はその後ろについて歩く。
その道中山賊が話しかけてきた。
「あんたの名前を聞かせてくれるか?」
「そう言えば名乗ってなかったか…。俺は…」
いや。よく考えたら日本名を名乗っても相手には全く分からないだろう。
ここは本名から取って…ナギとでも名乗っておこう。
「俺の名前jはナギとでも呼んでくれ。」
「分かった。ナギ。俺の名前はゴーガだ。」
「よろしく頼む。ゴーガ。」
「さて…とりあえず俺の隠れ家に案内するから着いてきてくれ」
「…そのまま街の近くまで連れてってくれるんじゃないのか?」
「それでもいいんだがな…この時間は盗賊団が出るからな。」
「盗賊団?」
「ああ。近くの盗賊村を根城にしてるやつらなんだが追っ払っても追っ払ってもキリがねぇんだよ。
だからあいつらが出てこない時間帯に出る。」
「なるほどな…」
「っと着いたぞ…。ここが俺の隠れ家だ。」
そう言われてゴーガに案内されたのは洞窟のような場所だった。
「ココか?」
「ああ。とりあえず適当に座ってくれ」
ゴーガに言われた通りに俺はとりあえずそこら辺の地面に座る。
尻が少し冷たいがまぁそれは我慢しよう。
「それで…これから何を話すんだ?何か言いたいことがあるからここに連れてきたんだろ?」
「ああ。それでこれから行く街…レセンティアについての説明なんだがな…
街に入る際に一つだけ注意して欲しいことがあるんだ。」
「注意して欲しいこと?」
「ナギのいた場所はどうか分からないがあの街では奴隷制度が容認されている。
新しい領主の判断でな。」
「奴隷制度…」
嫌な響きだ。
日本にはなかったからあまり馴染みはないが…
漫画なんかではよく聞く単語だ。
「そうだ。だから鎖に繋がれている獣人やエルフを見ても見てみぬふりをしてほしいんだ。」
ゴーガは納得してなさそうな顔でそう言ってくる。
「それはいいが…ゴーガはそれでいいのか?」
ゴーガの性格的にはそう言うのは許さないと思ったんだが…
「…よくないとは思っている。だが打開策が見えないんだ。流石にただの山賊の俺が直接何か言うわけにもいかないしな」
「そうか…」
「そんな顔するなよ。いつかはどうにかしたいと思ってるからさ。今は準備の段階って所だ。仲間が情報を集めに行ってくれてる。
あいつを追い詰めて倒すための情報をな」
「それでどうにかなる…のか?」
「それは俺にも分からない…運しだいってとこもあるしな。」
「まぁ…準備段階の間に誰かが領主をぶっ飛ばしてくれりゃ話は別だがな?」
そう言ってゴーガはチラリと俺の方を見る。
「それは俺に領主をぶっ飛ばせって言いたいのか?」
「さぁな?そう受け取ってもらっても構わねぇぜ。」
さっきは奴隷のことは見てみぬふりをしろとか言ってたのに…
つまり自分で手を出すのは慎重にやるけど他の奴が簡単にぶっ飛ばす分には問題ないってわけか。
「まぁ…ぶっ飛ばすかどうか決めるのは街の様子とその領主とやらを確認してからだな。俺にもやることがあるわけだし」
女神からの依頼…暴走した勇者の処理という仕事が俺にはある。
「ああ。それでいい…っとそろそろいい時間だ。街の近くまで送る。少し手前の分かれ道までは一緒に行けるからな。」
「ありがとう。近くまで送ってくれるだけでも助かる。」
俺はゴーガの後について山を下りてしばらくすると大きな道に出た。
「王道に出たな…ここから真っすぐ行けばさっき言ってた分かれ道だ。」
「王道?」
「王国が整備してる道のことだが…そんなことも知らなかったのか?」
「…興味のないことは切り捨てるタイプなんだ。」
「なんだそれ…まぁいいか。とりあえずさっき言ったこと約束だからな?」
「ああ善処はする。」
「俺はここまでだから案内はここまでだな。もうちょい真っすぐ行けばレセンティアに着くからさ」
話していたらいつの間にか分かれ道に着いていた。
ゴーガとはここでお別れらしい。
「案内ありがとう。助かった。」
「報告楽しみにしてるぜ」
「…期待しないで待っててくれ。」
俺がそう言うとゴーガは『またな』と言いつつ手を振りながら別の道へと歩いて行った。
「さて…俺も行きますかね…このまま真っすぐって言ってたよな…お…あれか?」
ゴーガに言われた通りにしばらく歩いていると大きな街が見えてきた。
おそらくあれがレセンティアだろう。
「ずいぶんと大きな街だな…。」
「そこの君!止まりたまえ!」
街に近付くと鎧を着た男が話しかけてきた。
おそらくここを守っている門番みたいな感じだろう。
「俺に何か用なのか?検問が必要なのか?俺は見ての通りの無一文だが?」
「無一文かどうかは聞いてないのだが…まぁいい。荷物だけ調べさせてもらいたい」
「荷物なんてないが?」
「ないだと?金も荷物もなしでどうやってここまできたんだ?」
「親切な人たちがここまで送ってくれたんだよ。」
「ほう?」
「そこはいいだろ。早く中に入れてくれ。」
「…まぁいい。くれぐれも問題は起こすなよ?」
「わかった。」
門番は渋々了承して門を開けてくれた。
あの顔は絶対納得してない顔だったな…。
「まぁ俺には関係ない話だな。」
とりあえず街に入った俺は辺りを見渡す。
ゴーガの言っていた通り鎖に繋がれた獣人やエルフっぽい女の人たちがちらほらといた。
「…今はスルーしよう。」
俺はそれらを見てみぬふりして街を歩く、
「領主の屋敷は…分かりやすいな。」
奥に見える無駄にデカい趣味の悪そうな建物がゴーガの言っていた領主のいる屋敷だろう。
外見から見て持ち主もやばい奴なんだろうということが伝わってくる。
「あそこに行くのはあとだな…とりあえず冒険者ギルドを探してみるか…。」
ボス戦は準備を色々と整えてからにしておこう。
今の俺ではまだ色々と足りないからな。
それに冒険者ギルドなら色々と情報が手に入るはずだ。
勇者たちの情報だったりとか王国の現状とか。
それにある程度金も稼がなければならないからな。
「さてとどこにあるんだろうな…冒険者ギルド…」
こういう大きな街ならあるとは思うのだが…。
「どれが冒険者ギルドなんだ…」
それっぽい建物がいくつもあってどれなのか分からない…。
こんなことならゴーガにもっといろいろ聞いておくべきだったかもしれないな…。
「とりあえず誰かに聞いてみるか…すまん。ちょっと聞きたいことがあるんだかいいか?」
俺はとりあえず近くを通りかかった黒髪の少女に声を掛ける。
「はい?なんでしょう?」
「冒険者ギルドに行きたいんだが」
「でしたらご案内しましょうか?ちょうど私も行くところだったんです。」
「それは助かる。」
「では行きましょうか。こっちですよ。」
そう言って親切な少女に案内されて着いたのは大きめだが少しぼろい建物だった。
「…ほんとにここは冒険者ギルドなのか?」
「はい。…まぁ外はぼろいですけど…中はちゃんと綺麗なんですよ?」
「そうか。案内助かった。」
「では改めまして…ようこそ!我がギルド、グランクロスへ!」
「我がギルド?」
「私はこのギルドでギルド長をやっているんです。」
「ここで一番偉いってことか」
「そうなりますね、あ、名前をまだ名乗ってませんでしたね。私の名前はエルアです。」
「俺はナギだ。」
「ナギさん!いいお名前ですね!それで今日はどのようなご用件でギルドをお探しになっていたんですか?」
「この国の王都に召喚された勇者の情報を集めている。その情報を探しに来た。」
「勇者の情報…ですか…それなら西側で見かげたという話を聞きましたよ」
「西側…ここから遠いのか?」
「そうですね…この街からだと数日は掛かると思いますよ。ちょっと待っててくださいね」
そういうとエルアは奥から地図を引っ張り出してきた。
「ここがこの街......レセンティアです。
勇者の目撃情報があったのはこのルクスタリアという街です。」
「......確かに遠いな」
レセンティアからルクスタリアまでの間は砂漠が広がっているらしい。
普通の準備じゃここは突破できなさそうだな......。
「ラクーラで移動するって方法もあるんですけどね......値段が高いから貴族様限定なんです。」
ラクーラって言うのはおそらく異世界のラクダのことだろう。
金がないから歩くしかないな…。
「依頼をこなせばお金が手に入るんですけどね…あいにくうちで仕入れてた初心者用の依頼は切らしてまして…」
難しい依頼しかないってわけか…。
まぁただいますぐ西側に行くってわけでもないからな…。
まぁ受けといても問題はないか…。
「西側でこなせる依頼をいくつか選んでくれないか?旅の途中での路銀は稼ぎたいからな」
「…いいんですか?西側の依頼はかなり難しいものばかリですけど…」
エルアは少し心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「問題ない。」
「では何枚か依頼を受注しておきますね。達成の報告はこれを使ってください。」
そう言ってエルアが渡してきたのは白い紙だった。
何も書いていない真っ白な紙だ。
「何も書いていないが…どう使うんだ?」
「これには私の魔力が込められていて倒した魔物の魔力を浴びせるとこちらにあるもう一つの紙にハンコが押されるようになってるんです」
「どういう仕組みか分からんがすごいな」
「まぁとりあえずそんな感じで戻ってこなくても達成の報告はできます。それとこれもどうぞ」
エルアはもう一つ袋みたいなものを渡してきた。
「これは?」
「それは報酬を渡すための小袋です。こうやって…こっちの袋に金貨を入れるとそっちに転送されるんですよ。私が頑張って作りました」
「…あんた。ほんとにただのギルドマスターかよ」
「さぁ…どうでしょうね…フフフ…」
絶対この人は何か隠している…が今はそのことを考えている場合じゃない。
「じゃあ…俺は行くから」
「はい。これからのあなたの旅路に幸多からんことを」
俺はエルアに別れを告げてギルドを出た。
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