【まとめ版】⛓囚われの勇者⛓ -明日にかける鎖-

良音 夜代琴

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【囚勇01】幼い少年が、盗賊の青年に身も心も囚われるお話 -7~10歳

僕の気持ち*

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「どうして……」
 ぽつりと、男が呟いた。
 リンデルに背を向けたまま。

「……どうして、あいつらは『悪くない』んだ?」
 カースは振り返ろうとして、しかし振り返りきれず、続ける。

「教えてくれ、リンデル……」

 カースの苦悶の表情がちらと見えて、リンデルは自分の浅はかさを思い知った。

 さっきのカースは本気だった。
 僕が止めなければ、本当に、友達を皆、殺す気だった……。

 訳を問われても、ただの親切心だったなんて、そんな事実では、こんなに思い詰めてしまった彼の心は救われないだろう。

 どうすれば……。
 どうしたらいいんだろう……。
 少年もまた、途方に暮れていた。


 いつまでも静かなままの空間で、カースがようやく覚悟を決めたのか、じわりとリンデルを見る。

 カースの視線を感じて、慌てて少年は側に落ちていた服を拾い上げた。

 テント越しの月の光に照らされて、少年の白い肌が、まだほんのりと桃色に色付いているのが分かった。

 どうして……と、また男は痛烈に思う。

 少年にかけた術はもうとっくに解いてある。
 それなのに……それなのに、どうして。

 あんなやつらに、犯されて、お前は感じてたってのか……?

 ぐらりと音を立て、男の理性が揺らぐ。
 それに引きずられるように、男はその場に膝を付いた。

 床には数え切れないほどの液体が撒き散らされている。
 むせ返るその臭いに、男は吐き気を覚える。
 一体何度犯られたというのか、あれだけの人数、まさか……全員を相手にしたのだろうか。

 視線を上げると、少年が慌てて服を着ようとしている。
 その小さな手を掴むと、男は無言で歩き出す。

「え、ちょ、カース!? 僕まだ服……」
 ひとまず服を拾い集めたリンデルに、カースは自身の上着を羽織らせるとテントを出た。
 リンデルは、そのまま川岸まで引き摺られるように連れて来られ、そこで上着を引っ剥がされる。
 男は膝下までのズボンをさらにまくり上げると、リンデルを連れて川に入った。

 あの日と同じだ……とリンデルは思ったが、あの頃よりも川の水は冷たくなっていた。

 カースは黙ったまま、リンデルを向き合うように抱えるとその指を後ろへと伸ばす。
 少年がびくりと体を強張らせた。

「力、脱いとけよ」
 言われて、少年が少しだけほっとする。
 男の声は低く冷たい響きだったが、それでも、ずっと黙ったままだった男が話しかけてくれた事が嬉しい。

「うん……」
 リンデルの甘えるような声に、カースは喉の奥が焼けるように感じた。
 そんな甘い声を、あいつらに聞かせてたのか……?
 今なら、喉が裂けるまで大声で叫びを上げられそうだ。
 それほどに、男は先程の状況が許せなかったし、まだ今だってあいつらを全員切り刻みたい衝動は消えない。

 ギリっと歯を鳴らしながらも男が指を少年の入り口に這わせると、そこはぷっくりと腫れ上がっていた。
 こんなに、なるまで、……っどうして……。
 指は、抵抗なく中へと滑り込む。もう一本も難なく入った。
 少年は時折ぴくりと肩を震わせるだけで、黙ったまま男に身を任せている。

 ゆっくり丁寧に、男は少年の中へと注がれたものを外へ掻き出してゆく。

 男が激しい怒りを堪えているのは、少年にもよくわかっていた。
 だからもっと自分は乱暴にされるものと思っていたし、その覚悟もしていた。
 なのに、男はそれでも少年に優しかった。

 リンデルの瞳から涙が次々に溢れ出て、水面に幾重にも小さな輪を作る。

「ごめ……っ、ごめん、なさい……っ」
 声を震わせて嗚咽を上げる少年の頭を、男はもう片方の腕で抱いた。
「僕……カースを、あんな、に……嫌な気持ちに……させ……っ!」
 グイと指を奥に押し込まれ、少年が息をのんだ。

「……痛かったか?」
 男の声は、まだ冷たい。
「……え、と……」
「あいつらに犯られて、痛かったか?」
「ぅ……。うん……」
 リンデルが、しょんぼりと頷く。

「痛かったのに、ただ我慢してたのか?」
「……うん……」
 カースは動きを止めていた指をまたゆるゆると動かし始める。
 慰めるように頭を抱いていた腕は腰に回され、ぐいと上へ持ち上げられる。

「奥まで入れるぞ」
 男の声から、ほんの少し刺々しさが薄れている。
 それを少年が嬉しく思った途端、お腹の奥まで刺さるような刺激に、声を上げた。
「ぅ、あっ」
 水面と水平になる程持ち上げられた少年の腰。その向こうで、男の指が根元まで自身の中へと入っているのが、少年の目にも見えた。
 ぞくりと、熱いのか冷たいのか分からないようなものが少年の背筋を這う。

「あ……僕の、中に、カースの指が、全部入ってる……」
 上擦ったような声で少年が思わずこぼした呟きに、今度は男の方がびくりと反応する。

「お前……俺の事誘ってんのか?」

「さそ、う……?」
 潤んだままの金の瞳が、男の空色の瞳を見上げて尋ねた。
 拍子に零れた涙の粒が少年の頬を静かに伝う。
 それが酷く許せなくて、男はその涙を唇で拭った。

 そこでようやく、男は気付いた。
 リンデルが泣くところを見たのは、これが初めてだと。

 ゼフィアに弄ばれて涙の跡だらけになった顔を洗ってやった事はあったが、泣いているところを見た事はなかった。
 自分はこの少年の胸で大泣きした事があったにもかかわらず。だ。

 こいつはいつだって、なんでもないという風に、前向きに笑っていた。
 俺の前では、いつも笑顔だった。

 なのにどうして……。
「どうして、他の奴の前でばかり、泣くんだ……」
 今夜の少年の頬には、やはり、無数に涙の跡が残っていた。

「カース……」
 リンデルの宥めるような声に、男は黙って作業に戻る。
 リンデルは時折小さく声を上げ、何かに耐えているように見えた。

「これでいい」
 男はそう呟くと少年を腕から下ろし、顔も髪も全て洗って、川から上げた。
 されるがままに大人しくしていた少年を、男は自分の上着で拭き上げる。
 川岸の草の上にあぐらをかいた男の膝の上に、リンデルはちょこんと座っていた。
「僕、一人で拭けるよ……」
 恥ずかしそうにするリンデルに、男はぶっきらぼうに答えた。
「怪我がないか、確認してんだよ」

 少年の胸や腹には、あの時のような暴行痕は見当たらない。
 月の光に良く照らしながら、じっとリンデルの肌を眺めるカースの視線に、少年はどうしようもなくなる。

「あ、あんまりそんな……見られたら……恥ずかしい、よ……」

 そんな馬鹿な。と男は思う。
 あんな風に何人もの男達に見られて犯されて、それが平気でなんで俺に見られるのは恥ずかしいんだ。

 しかし、男が視線を上げてみれば確かに少年は頬を染めていて、男と目が合うと恥ずかしそうに金の瞳を伏せた。

「どう、して……」
 男から、何度も何度も胸中で繰り返された疑問の言葉が漏れる。
 カースの声は、震えていた。

「あいつらは良くて、俺はダメなのか……?」
「ち、違うよっ! そういう事じゃなくて、カースだから、恥ずかしいの!!」

 男の瞳が絶望を映しているのに気付いて、リンデルが焦りを浮かべる。
「だからっっそうじゃなくてっ! カースは僕の、特別なの!!」

 伝わって、どうか。この人を悲しませる気なんて、僕にはカケラもないって事。

 森の色と空の色がまだ濁っていて、彼の困惑を伝えている。

「んーっっ! つまり、僕はカースの事が大好きなんだよ!!」

「……え……?」

「大好きで大好きで、とっても大好きだから、そんなに見られたら、恥ずかしいの!」
「……っ」
 男の顔が、月明かりでも分かるほどに、真っ赤に染まった。
 湯気が出てきそうなほどの赤面っぷりに、少年は思わず微笑む。

 良かった。伝わった。
 僕の気持ち。

 ………………僕の、気持ち……ーーっ!?


 遅れて、少年も赤くなる。

 こんなはずじゃなかった。こんなつもりもなかった。
 この男にどうしようもなく惹かれていたのは確かだけど、それを男に押し付けようなんて、まったく思っていなかったのに。

 姉や両親を想うような、そんな『好き』ではない事は、もう少年にはわかっていた。
 けれど男にとって、僕はどうだろう。
 まだ今なら「お姉ちゃんと同じように」と言ってしまえば、なかったことにならないだろうか。

 少年がぐるぐると考えている間に、男の腕が少年をそっと抱き締めた。
 耳元に男の息がかかって、少年は息を詰める。

「なあ、嫌だったら言ってくれよ」
「んっ……、うん……」
 耳元で男に優しく囁かれて、リンデルは思わず声を漏らした。
「キスしていいか」
「い、いいよ……」
 答えた少年が、もじもじと恥ずかしそうに補足する。
「でも、僕初めてだから、どうしたらいいか分かんない……」

 言われて、ひょいと男が少年を胸から離した。
 森の色も空の色も、驚いたように丸くなってリンデルを見ている。

「した事ないのか……?」
「え、えっと、お口とお口のチューは、した事ない……」
 少年は恥ずかしそうに俯いてから、パッと顔を上げると、口を尖らせて言った。
「だって、それって、好きな人とするものでしょっ!?」

 丸くしていた目を細めて、カースが笑った。
「ふふ、ふふふっ、ははははははっ」
「……カースが声を上げて笑うのって、はじめて見たかも……」
「はははっ。そりゃそうだろ。俺だって久々に聞いたよ」

「なんでいつもは笑わないの?」
「世の中が面白くねぇからな」
 まだ笑顔を残したまま、カースがさらりと答える。

「だが、お前は最高だよ。リンデル」

「……っっ」
 初めて見るカースの煌めくような笑顔に、リンデルはまた赤面した。
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