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【囚勇04】盗賊が、騎士になった青年と偶然再会するお話 -27歳
翌朝
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翌朝、勇者を起こしに来たロッソが見たのは、部屋で一人佇むリンデルの姿だった。
「勇者、様……?」
あの男はどうしたのかと、尋ねて良いのかすら分からない。
何せあの男は特殊な力を持っていた。
もしかしたら、勇者様はまた……。
「ああ、ロッソ、おはよう」
くるりと振り返った勇者は、ほんの少しの影を残しながらも毅然とした勇者らしい顔をしていた。
じっと身動きできずに固まっているロッソを見て、リンデルが僅かに苦笑する。
「カースなら、あの村に帰ったよ」
「よ……よろしかったの……ですか?」
珍しく動揺を露わにしている従者に、リンデルは淋しげに笑って答える。
「本当はずっと傍にいて欲しかったけど。カースが、駄目だってさ」
「一体、何故……」
あんなにお互いを求め合っていて、それでどうして……と、ロッソは湧き上がる疑問を抑え切れずに聞き返す。
「俺が勇者らしくなくなるのが、俺にとって良くないって言われたけど……。俺、そんなに駄目な顔になってたか?」
「……それはもう」
「え、外でも?」
「緩んでましたね」
真顔でバッサリ即答してから、ロッソは内心で付け足す。
駄目な顔ではなく、とても幸せそうな顔をしていたと。
「う……、そうか……。それは確かに不味いな」
呟いて鏡を覗き込む彼の姿は、既に十分に歴代勇者のそれだった。
結局この勇者はまた、自身の幸せより他人の幸せを取ったのだ。とロッソは気付いて、正しい行動を選べた主人に対する誇りと共に、それを捨てなければならなかった事への無念を思う。
あの男はここまでついて来て……いや、連れてきたのは私だが、これで本当に良かったのだろうか。
と考えて、あの夜、何も告げずに去る事を選んだ男の後ろ姿が過ぎる。
そうだ。
初めからあの男はリンデルが勇者であり続けられるよう。いや、彼が彼らしく幸せであれるよう願っていた。
「カースが、腕を捨ててまで俺を勇者にしてくれたんだ。ちゃんと最後までやり通して見せないとな」
リンデルは決意を改めて口にする。
最終的にカースが失ったのは腕だったけれど、それは結果としてそうなっただけで、おそらく彼はあの時自分達のために全てを捨ててくれたんだ……。
カースの腕が、隊長の足が、勇者である自分を支えてくれている。
それを裏切る事は、何より自身が一番許せなかった。
リンデルの決意の籠もった声に、ロッソは勇者の横顔を見上げる。
その金色の瞳が、ほんの少しだけ淋しそうに瞬いた。
今のリンデルを形作っているものにどれだけ彼が関わっていたのか、ロッソには窺い知れなかったが、その影響が多大である事は間違いない。
資料には、七歳で両親を魔物に殺され、その後三年間は盗賊団に囚われていたとだけ記載されていたが、三年間をただ牢で過ごした訳ではなかったのだろう。
資料には何一つ残っていなかったが、両親も暮らしも失った彼を、支え、教え、導く者がいたのだ。
だからこそ、リンデルは優しくまっすぐに育った。
ロッソは静かに目を閉じると、今はもうこの場に居ない男へ心からの感謝を捧げる。
ふと、眼裏に浮かんだ一人きりの後ろ姿に、不安を感じたロッソが訊ねる。
「村まで、護衛も無しにお一人で……良かったのですか?」
「ん? ああ、カースは大丈夫だと言ってたから。心配しなくていいよ」
「……勇者様がそう仰るのでしたら……」
爽やかに笑顔を返されて、ロッソがその信頼に気圧される。
リンデルは元々素直な性格ではあったが、ことあの男の言う事はよく聞く。
それは、あの男がリンデルにとって第二の親のような存在だからなのだろう。
そう考えると、なぜかロッソは心が軽くなったような気がした。
「彼の、本当のお名前はなんと仰るのでしょうか」
気が緩んだ従者がふとこぼした疑問に、勇者がピタリと動きを止める。
「本当の……名前……?」
その反応に、ロッソが変わらぬ表情のままで焦った。
「そうだよな……。カースは、偽名だよな……」
勇者が、今初めて気が付いたという様子で愕然と呟く。
従者が固唾を飲んで見守る中、リンデルはくしゃっと笑うと少しだけ悔しそうに溢した。
「俺はまだまだ、カースの事を知らないんだな……」
落とした視線をスッと上げて、リンデルがロッソを見る。
「あの村の近くを通るときには、また寄ってもいいかな」
「ええ、そのように調整致します」
ロッソは、リンデルの心が安定している事に内心大きく安堵する。
「ありがとう」
優しく響く声に、ロッソはリンデルの顔を改めて見つめた。
ほんの数日でより大きく温かく広がった彼の心が、金色の瞳から窺える。
そこには、先週までの思い詰めたような、何処か何かを諦めてしまったような暗い影はもう見当たらなくなっていた。
まだ二十代にも関わらず、貫禄のようなものさえ感じさせるその佇まいに、ロッソは心酔する。
任期は残すところ五年だったが、叶う事ならば、この方に生涯の全てを捧げたいとさえ願ってしまう。
この青年には、そう思わせるだけの何かがあった。
「ロッソ……?」
心配そうに声をかけられて、従者は緩んでしまった……と言っても、傍目にはほとんど変わらないままの表情を引き締める。
「いえ、本日のスケジュールを確認致しましょうか」
そう言って、従者はいつものように手帳を開いた。
「勇者、様……?」
あの男はどうしたのかと、尋ねて良いのかすら分からない。
何せあの男は特殊な力を持っていた。
もしかしたら、勇者様はまた……。
「ああ、ロッソ、おはよう」
くるりと振り返った勇者は、ほんの少しの影を残しながらも毅然とした勇者らしい顔をしていた。
じっと身動きできずに固まっているロッソを見て、リンデルが僅かに苦笑する。
「カースなら、あの村に帰ったよ」
「よ……よろしかったの……ですか?」
珍しく動揺を露わにしている従者に、リンデルは淋しげに笑って答える。
「本当はずっと傍にいて欲しかったけど。カースが、駄目だってさ」
「一体、何故……」
あんなにお互いを求め合っていて、それでどうして……と、ロッソは湧き上がる疑問を抑え切れずに聞き返す。
「俺が勇者らしくなくなるのが、俺にとって良くないって言われたけど……。俺、そんなに駄目な顔になってたか?」
「……それはもう」
「え、外でも?」
「緩んでましたね」
真顔でバッサリ即答してから、ロッソは内心で付け足す。
駄目な顔ではなく、とても幸せそうな顔をしていたと。
「う……、そうか……。それは確かに不味いな」
呟いて鏡を覗き込む彼の姿は、既に十分に歴代勇者のそれだった。
結局この勇者はまた、自身の幸せより他人の幸せを取ったのだ。とロッソは気付いて、正しい行動を選べた主人に対する誇りと共に、それを捨てなければならなかった事への無念を思う。
あの男はここまでついて来て……いや、連れてきたのは私だが、これで本当に良かったのだろうか。
と考えて、あの夜、何も告げずに去る事を選んだ男の後ろ姿が過ぎる。
そうだ。
初めからあの男はリンデルが勇者であり続けられるよう。いや、彼が彼らしく幸せであれるよう願っていた。
「カースが、腕を捨ててまで俺を勇者にしてくれたんだ。ちゃんと最後までやり通して見せないとな」
リンデルは決意を改めて口にする。
最終的にカースが失ったのは腕だったけれど、それは結果としてそうなっただけで、おそらく彼はあの時自分達のために全てを捨ててくれたんだ……。
カースの腕が、隊長の足が、勇者である自分を支えてくれている。
それを裏切る事は、何より自身が一番許せなかった。
リンデルの決意の籠もった声に、ロッソは勇者の横顔を見上げる。
その金色の瞳が、ほんの少しだけ淋しそうに瞬いた。
今のリンデルを形作っているものにどれだけ彼が関わっていたのか、ロッソには窺い知れなかったが、その影響が多大である事は間違いない。
資料には、七歳で両親を魔物に殺され、その後三年間は盗賊団に囚われていたとだけ記載されていたが、三年間をただ牢で過ごした訳ではなかったのだろう。
資料には何一つ残っていなかったが、両親も暮らしも失った彼を、支え、教え、導く者がいたのだ。
だからこそ、リンデルは優しくまっすぐに育った。
ロッソは静かに目を閉じると、今はもうこの場に居ない男へ心からの感謝を捧げる。
ふと、眼裏に浮かんだ一人きりの後ろ姿に、不安を感じたロッソが訊ねる。
「村まで、護衛も無しにお一人で……良かったのですか?」
「ん? ああ、カースは大丈夫だと言ってたから。心配しなくていいよ」
「……勇者様がそう仰るのでしたら……」
爽やかに笑顔を返されて、ロッソがその信頼に気圧される。
リンデルは元々素直な性格ではあったが、ことあの男の言う事はよく聞く。
それは、あの男がリンデルにとって第二の親のような存在だからなのだろう。
そう考えると、なぜかロッソは心が軽くなったような気がした。
「彼の、本当のお名前はなんと仰るのでしょうか」
気が緩んだ従者がふとこぼした疑問に、勇者がピタリと動きを止める。
「本当の……名前……?」
その反応に、ロッソが変わらぬ表情のままで焦った。
「そうだよな……。カースは、偽名だよな……」
勇者が、今初めて気が付いたという様子で愕然と呟く。
従者が固唾を飲んで見守る中、リンデルはくしゃっと笑うと少しだけ悔しそうに溢した。
「俺はまだまだ、カースの事を知らないんだな……」
落とした視線をスッと上げて、リンデルがロッソを見る。
「あの村の近くを通るときには、また寄ってもいいかな」
「ええ、そのように調整致します」
ロッソは、リンデルの心が安定している事に内心大きく安堵する。
「ありがとう」
優しく響く声に、ロッソはリンデルの顔を改めて見つめた。
ほんの数日でより大きく温かく広がった彼の心が、金色の瞳から窺える。
そこには、先週までの思い詰めたような、何処か何かを諦めてしまったような暗い影はもう見当たらなくなっていた。
まだ二十代にも関わらず、貫禄のようなものさえ感じさせるその佇まいに、ロッソは心酔する。
任期は残すところ五年だったが、叶う事ならば、この方に生涯の全てを捧げたいとさえ願ってしまう。
この青年には、そう思わせるだけの何かがあった。
「ロッソ……?」
心配そうに声をかけられて、従者は緩んでしまった……と言っても、傍目にはほとんど変わらないままの表情を引き締める。
「いえ、本日のスケジュールを確認致しましょうか」
そう言って、従者はいつものように手帳を開いた。
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