【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

文字の大きさ
99 / 160
5巻 新生活の幕開け (2部ここから)

金塊と宝石

しおりを挟む
 翌日。
 俺の服を着たリンは、ちょっと窮屈そうだった。

 身長差は10センチもないんだけどなぁ。
 測ってみたところ、俺の身長は170センチで、リンの身長は178センチだ。

 それでも、俺の服を着たリンは服から手首と足首が見えていた。

 リンは俺より腕も脚も長いんだな。
 指もスラリと長いしなぁ……。
 と思った途端、リンの指の感触を体内に思い出してしまって、俺は思わず顔を覆った。

「ケイトさ…………っ、ケイト……?」
「いや、なんでもないよ……」

 相変わらずリンは俺を呼び捨てるのに一苦労しているけれど、それでも懸命に俺を呼ぼうとしてくれるところが、なんだか嬉しい。

 しかし、俺のLサイズの服でこれなんだから、リンにはXL以上じゃないとダメだな。
 リンは筋肉がしっかりついてるから物によってはXLでも小さいかもしれない。

 ちなみに、家には父さんの服もあるけど、父さんは俺より細い。
 この家で一番体格がいいのは俺だった。

 どこに買いに行こうかなぁ。
 ひとまずある程度の枚数が欲しいし、やっぱり安いとこだよね……。
 古着屋さんもありかな? いやでも、貴族出身のリンに古着を勧める勇気はないな……。

 悩む俺の前に、リンが小箱を差し出してくる。
「これらを換金することは可能ですか?」

 パカっと開かれた箱の中には宝石がぎっしりと詰まっていた。

「ええっ!?」

「こちらと向こうでは通貨が違うと聞いていたので、金と宝石は持てるだけ持ってまいりました」

「ちょ、ちょっと待ってね、調べてみる……」
 俺はスマホで検索してみる。
 宝石は鑑定書がないと安く買い叩かれることもあるらしいので、ひとまず金の方がいいのかな。
 ちょうど今は金の価値が上がっているとかで、売る人も買う人も多いらしい。

「金を売るのがいいみたいだね」

 リンを振り返った俺の前に、リンはキラキラと輝く金の塊を差し出してきた。
 待って? それ、大きすぎない?
 1リットルの牛乳パックの半分ほどはありそうな塊だ。

 2人で洗面所に移動して体重計に乗せてみると、ゆうに10kgを超えている。
 えーと、金が1gでこの値段だから、10kgで10000倍……ってこれ一つで一億円超えるのか……。

「……」

「ケイトさ……っ、ケイト……? 足りないようでしたら、後2つはありますが……」
「えっ、これと同じのが、後2つ……?」
「はい」
「待って待って、ちょっと待ってね?」
「はい」

 これだけ資金があるなら、家とか就職先はそんなに慌てて探さなくてもいいんじゃないかな?

 それどころか、金に宝石を合わせてしまうと5億円くらいありそうで、そしたらもうリン1人なら働かなくても一生暮らせる額なのでは……?

 俺とリンとの間には子供は生まれないわけだし、そうすると養育費とか学費もかからないわけで……。

「兄ちゃん達こんなとこで何してんの?」
 不意にかけられた声に振り返る。
 蒼が洗面所にしゃがみ込む俺とリンを不思議そうに眺めていた。

「うーわ、何それ金塊? すげーでけーな」
 いまだに体重計の上に乗せられたままの金の塊を蒼が覗き込む。

「うん、10キロ超えてた……、一億円以上の価値あるかも……」
「いちおく……。小遣いの額が半端ないな。流石は3大貴族ってやつか……」

 確かに、リンの家はあの国でも最高峰の貴族である3家の中の1つだったからなぁ。
 ……って、それなのに俺に付いてきて本当に良かったんだろうか……。

「ディアはひとまず兄ちゃんが大学出るまではその貯金崩して側にいればいーんじゃねーの? 社会人になってからじゃあんま会えねーだろうしな」

「ケイトさ……っ、ケイト、に、お会いできなく……なるのですか……?」
 リンが不安そうにこちらを見る。
「えーと……、まあその、俺も仕事を始めてしまうと、忙しくはなるかな……?」
「……そうですね……」

 何せリンは24時間365日、俺が死ぬまでずっと俺のそばにいる気でいるからね。
 そのつもりでこっちにまで来ちゃったんだから、ほんの少しだって離れるのは嫌なんだろうな。

「ひとまず、今日はその金塊を少しだけ削って換金してみようか。あんまり一気に換金すると税金もかかるみたいだからね」
「でしたら小さなものを持ってまいります」
 リンはそう言って金塊を布に包むと、颯爽と2階に戻ってゆく。
 ええ……、まだその金塊3つ以外に小さい金まで持ってるんだ……?
 本当にリンはこっちで働く必要ないんじゃないかな……?

「んー……。兄ちゃん、オレが株の勉強して、リンの資金を運用するってのどうよ」
「それで4人分の生活費を稼ごうって事?」
「おーよ」
「そしたら俺は何をしたらいいんだろう」
「兄ちゃんは兄ちゃんの好きなことすればいーよ」

 俺の好きなこと……か。

 俺は演劇の強い大学を選んで、受験勉強を頑張って、無事合格して。
 大学に入ったら、すぐ演劇部に入ろうって、それを楽しみにしてたんだよな。

 なのに……、大学入学までのほんの数日で、俺には演劇よりも大事な存在ができてしまった。

「ケイトさ……っ、ケイト、持ってまいりました」
 一番小さいものを持ってきたというリンの手の中には瓶の中に丸っとした金の粒がいくつも入っていた。
 1粒が大体1gほどなので、1粒で1万円以上はしそうだ。
 服代としては十分だな。

「ディアは兄ちゃんの事呼び捨てにするように言われたんだ?」
「はい」
「めっちゃ苦戦してんじゃん。ひとまず100回くらい唱えたらどーよ。もーちょい慣れんじゃねーの?」
「ご助言、ありがとうございます……」
「オレにも、これからは敬語禁止な」
「そ、それは……」

 蒼は狼狽える様子のリンを楽しそうに眺めてから「ま、おいおいでいーから」とハードルを下げている。

「んで、今日兄ちゃん達はその金を換金しに行くのか?」
「あ、うん。ちょっとリンの服を買いに行こうかと思って……」
「ああ、ディアが着れそうな服とかうちにはないもんな。ついでにオレの買い物も頼んでいい?」
「いいけど……」
 俺は、蒼の後ろを見る。やはりどこにもセリクの姿は無い。
「……セリクは……?」

 蒼が、すいっと視線を逸らす。
「……あー……その、昨夜ちょっとやりす……」
「ごめん! 今の質問は無かったことに!」

 ……やっぱり、聞かなきゃよかった……。

 なんでなの?
 なんでその2人っていつもそうなの?

 蒼ってそんな絶倫タイプには見えないんだけど??

 それともセリクがおねだり上手なのかなぁ。
 あー……確かにセリクって拾ってすぐの頃は、俺も毎晩……。

「兄ちゃんストップ」
 目の前に、ビシっと蒼が手を突き出してきた。

「ん?」
「今兄ちゃんセリクのこと考えてただろ」
「え……?」

 た、確かに考えてた、けど……。

「セリクのそーゆーの考えていいのはオレだけだから」

 怖っっっっ。

 待って?
 蒼それちょっと、……怖すぎない??

 独占欲? って言っていいのか分からないレベルじゃない?

「あ、蒼……?」

「オレさ、これまでは我慢してたけど、もうやめたから」

 えっ、待って、何を我慢してたの?
 今まで蒼がセリクに我慢してたようなことあったっけ?

 聖女の私室では2人が四六時中イチャイチャしててもう砂吐きそうって、ロイスが本気でぐったりしながら愚痴ってたけど??

「えっと……、我慢しなくなったら、どうなるの……?」
 どうにも想像が追いつかなくて、俺は蒼に尋ねてみる。

「セリクに、オレがどんだけ大事に思ってるか、思い知らせてやれる」

 うわぁ……。

 ……え、今まで以上に??

「蒼ってさ、結構愛が重いタイプ……?」

「当然」

 うわ、あっさり認めてきた……。
 これは、セリクも苦労しそうだなぁ……。
 まあでも、セリクもベッタリ依存したいタイプだしちょうどいい……のかな?

「わ、私も、ケイトさ……っ、ケイト、を大切に想っておりますっ」

 うん、いいから。
 リンはそこに対抗しなくていいからね。
 見上げれば、リンが青みがかった黒い瞳で俺をじっと見つめていた。
「ありがとう、分かってるよ」
 微笑んで応えれば、ホッとしたようにリンも微笑む。

「ディアは先に呼び捨てに慣れねーと、締まんねーだろ」
 蒼に言われて、リンがシュンと落ち込む。

「あ、そだ。ディアは外に出る時は剣置いてけよ、捕まるぞ」

「え」
 リンが驚いた顔をする。

 ああそっか、そうだよね。

 リンが腰に剣を下げてるのがあまりに日常過ぎて、危うくこのまま出掛けてしまうところだった。

 危ない危ない。

「どうして……ですか……」
 リンは愕然とした様子で声を震わせている。

「ま、くわしーことは兄貴から聞いて。兄ちゃん、買い物どこ行く? スーパーと薬局寄れそう?」
「あ、うん。寄るよ」
「んじゃ買って欲しいもんLINEで送っとく。送金はPayPayでいーか?」
「お金はリンの金があるからいいよ。要るのってセリクの物とかなんでしょ?」
「ん、まあそんなとこだな」

 そんな会話をして、蒼はリビングに向かった。
 リビングの向こうはダイニングキッチンだ。
 俺とリンは朝から母さんと一緒に食事をしたけど、2人はこれからなんだろうな。
 セリクが動けないんだとしたら、蒼が用意して、ベッドまで届けてやるんだろうか。
 ロイス曰く、蒼はセリクの世話なら嬉々としてやるらしいからな……。

「俺達は一度部屋に戻ろうか。銃刀法について確認してみよう」
 リンは俺の言葉に、少しだけ緊張した顔で「はい」と答えた。

 そうだよなぁ。
 自分の腕一つで俺を守り抜こうと覚悟してくれてるリンにとっては、見知らぬ土地で、騎士の命とも言える剣を手放して外を歩けと言われるのは酷なんじゃないだろうか……。

 布で包んだりとか、そういう感じでなんとかならないかなぁ……。



 なんて思った俺は、ハッキリ言って銃刀法を甘くみていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...