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6巻 春の嵐と新学期
マダートゥール
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ディアが部屋を出てしばらくしてから、セリクが「ん~~っ」と可愛い声を漏らしつつ大きく伸びをした。
まあ、ゴキボキと凝り固まった肩や背中が鳴る音は全く可愛くねーけどな。
オレはスマホで時間を見て告げる。
「そろそろ昼飯にするぞ、一旦切り上げろ」
折り畳みのローテーブルには一階から持ってきていた昼食が既に2人分セッティング済みだ。
「あ、そっか。アオイお昼まだだったの?」
「お前を待ってたんだよ」
「もっと早く言ってくれたらよかったのに」
「オレもちょい作業してたからな」
セリクがテーブルに着いたので、2人で手を合わせて「いただきます」と声を揃える。
こーゆーのもちょっと慣れてきたみたいだな。
ちなみに昼食は兄ちゃんが作ったパスタだ。
麺茹でた上からレトルトのミートソースかけただけだけどな。
オレ達は鍵っ子だったこともあり、ごく簡単な料理やレンジ調理程度ならできる。
けどどっちもイチからの料理ってのは作れねーんだよな。
異世界モノってさ、結構料理知識がチート展開になるパターン多いよな?
ここはオレがもうちょい料理の勉強をしとく方がいいのか……?
思考が横道にそれるオレに、セリクが声をかける。
「アオイ、服着替えたんだね」
「ん? なんだ、制服が気に入ったのか?」
「んー制服がっていうか……制服着てるアオイが、とってもかっこよかったから……ちょっと残念だなぁって」
こいつ……本当に可愛い事をサラッと言うよな。
「夏休みまで平日は毎日制服だから、嫌でもまた見るだろ」
「そっかぁ。楽しみだなぁ」
今すぐ制服に着替えよう。と一瞬思ってしまうほどに、セリクは幸せそうに微笑んだ。
オレは熱くなりそうな顔を誤魔化すように話を変えて、ベッド脇に置いていたビニール袋を引き寄せる。
「それよりほら、公園で石拾ってきたぞ。公園の周囲もぐるりと測りつつ歩いてきた。数はそれで十分だ」
「3つは予備な」と付け加えつつビニール袋の中に入った石達をセリクに見せる。
「あ、ありがとう。また1人で行かせちゃったね……」
セリクがしゅんと項垂れる。腕を伸ばしてテーブル越しにその頭をポンと撫でた。
「下校ついでだ、気にすんな。その石でいけそうか?」
魔術を入れやすい石の特徴は聞いていたし、それに沿うようなのを選んできたつもりではあるが。
「うん、大丈夫そう」
答えたセリクが、いつの間にやら食事を終えて「ご馳走様でした」と手を合わせる。
早食いだな……。そんなに時間が惜しいのか。
オレはセリクの口の周りについたミートソースを拭き取って、離してやる。
セリクは「ありがとう」と嬉しそうに笑ってからまた机に向かった。
キスくらいしたかったが、仕方ないな。
「無理すんなよ」
「してないよ」
……まさかこいつ、命懸けレベルじゃなきゃ無理じゃないとか思ってねーだろーな。
オレは内心で大きくため息をつく。
けどオレには、急ぐこいつを止めることができねーんだよな……。
兄ちゃんが腹を刺されたあの時、セリクが睡眠時間削ったり馬車酔いしながらも大急ぎで学んでいた治癒魔術の勉強がもし間に合っていなければ、今頃兄ちゃんは生きてない。
それと同じで、こいつが必死でやろうとしている事は、どうしても今早急にやらないといけない事なんだよな……。
しかも、それはこいつにしかできない事で、オレがしてやれることなんてせいぜい邪魔をしないことくらいだ。
無理するな、なんて、いくら言っても無駄なんだよな。
無理をしてでも、セリクは今これをやらなきゃならないんだから。
……もうやめるか。
こいつに「無理すんな」なんて言うのは。
無駄な時間を使わせちまうだけだろ。
オレはセリクの気を散らさない程度にそのふわふわした頭を撫でて、ベッドに転がった。
『クスノキ』からの返事は今朝来た。
一行目から返事が遅くなった事を謝っていたが、夜に気付いたメッセージをわざわざ朝に返してくる辺り、人に気を遣う奴なのかもしれない。
フロウリアはフロウリアと呼ばれる前は『マダートゥール』と呼ばれていたらしい。
すぐに検索してみたが、残念ながらそれらしい情報は無かったんだよな……。
「マダートゥールなぁ……」
思わずこぼしてしまったオレの呟きに、セリクが手を止めないまま答える。
「何それ古語? 罪の……壺って意味かな?」
「セリクお前、古語なんてわかんのか?」
「んー……魔術陣って、不思議と今出回ってるのよりも昔に作られてるのの方がずっと高度だったりするんだよね。でもそういうのってほとんど古語で書かれてるんだよ。だからそういう陣をいくつも解いてるうちに、覚えてた」
覚えてたってなんだ。覚えたんじゃなくて気づいたら覚えてたって事かよ。
お前の頭どーなってんだよ。
「確か、マダーが壺とかそういう深い入れ物を指してて、トゥールは罪とか罪人って意味だね」
そう言って、それきりセリクはペンを動かす方に集中したようだった。
しかしマダートゥールが、罪の壺……罪人の壺か?
聖女の側にって意味のフロウリアとは全然違うな。
同じ場所を示してんのに、まるで別モンじゃねーか。
罪の壺で地名って……。
まるで流刑地か何かを指してるような……。
――……いや、まさか、……そうなのか……?
外国を知らない国民。
外に出ることができない国……。
それって実質、規模が大きいだけの監獄なんじゃねーの……?
じゃあ……あの国の奴らは一体いつから、何の罪で閉じ込められてんだ……?
閉じ込めた奴らは、あの国の外で今も生活してんのか?
わかんねーな……。
つっても、もしあの場所が昔監獄として作られたんなら、少なくとも当時はそれを管理する奴らがいたはずだよな。
……今もいんのか?
……それが今の王様達……とか……?
ああくそっ! わかんねー事だらけだな!!
……しゃーねぇ。夕飯ん時に兄ちゃんと父さんに相談してみるか。
いや、1人で考えてても埒が明かねーから、仕方なくな。
セリクの時間を潰したくねーしさ。
別に、父さんにそんな期待はしてねーけどな?
その夜、オレの話を聞いた父さんは手を叩いて喜んだ。
「蒼はそれだけの情報からそこまで考えられるようになったのか。いやぁ子の成長ってのは早いな! おそらく、当初のフロウリアは罪人達を労働力として活用しつつ植民や開発を兼ねる場だったんだろうな」
楽しそうな父さんとは対照的に、兄ちゃんとディアは少なからずショックを受けているようだった。
「それがいつしか何かの理由で管理者の手が離れてしまった。と見るか、それとも今も管理者達は上流階級層としてあの国で生活していると見るか。残念ながら君達は教会側の人間で国の中心部からは遠いからね。君達が知らないだけで、国の上層部では外部と連絡を取ったり国から出入りしている者がいるのかもしれないよ?」
「あー……そっか。巡礼ん時、転移魔法とかねーのかよって思ったけどな。オレらが知らねーだけで、あんのかも知んねーな」
実際、召喚ゲートなんていうわけわかんねー代物も、結局は魔術陣で動いてるんだしな。
「いやぁ謎が謎を呼ぶねぇ。実に楽しい!」
ハッハッハと笑う父さんの楽しげな声だけが食卓に響く。
……別にオレ達はその話あんま楽しくねーんだけど。
まあ、父さんも同じ見解だってんなら、歴史的にはそーゆー可能性がたけーんだろうな……。
「つまり私達は、罪人の子孫という事でしょうか……」
「ふむ、ディアリンド君はともすれば管理者側の子孫である可能性が高そうだけれどね? それに計画当時に奴隷制度があったとしたら罪のある人ばかりではなかったかもしれない。そもそも我々には当時の罪人の定義すらわかっていないのだから、もしかしたら人種的な迫害だったのかもしれないしね」
はー。よくそんなにペラペラと可能性を山盛りにできんな。
「いやぁしかし、一般の国民には分からないように国が支配され管理されているという場合を除くと、フロウリアの周辺には人間が住んでいない可能性が高いなぁ」
父さんはしみじみとそう言って、缶ビールを口に運ぶ。
それはオレもずっと気になってた部分だ。
結局、結界柱の外は一体どうなってんのかって話だよな。
「まー普通に考えて、4800年もの間周辺国から交易も侵攻もないなんておかしーんだろうけどさ、そこはやっぱ周囲の瘴気がどこまでどんな濃度で広がってっか次第じゃねーの?」
「うむ、正にその通りだ。蒼はなかなか考え方の筋がいいな」
なんだその褒め方。
「そうなるとやはり、瘴気とは何なのか、どこからどのように発生するのか。どの程度溜まればどんな作用でどのように魔物が生まれるのか、という部分に俄然興味があるなぁ」
……何だか父さんならこの勢いでフロウリアまで現地調査に行きそうだな……?
そう思ったのは兄ちゃんもだったのか、食事の手を止めて「瘴気は触れるだけで穢れるから危ないよ、近寄る時は浄化ができる人と一緒じゃないと……」なんて父さんに慌てて説明している。
オレは、キッチンに回ってオレとセリクの分の夕飯が乗ったトレーを手に取った。
食卓の四人に「じゃ、オレは部屋戻るわ」と声をかけると、父さんがこちらを見る。
「アオイの相方はまだ見せてくれないのか?」
せめて『見せて』んじゃなくて『紹介して』とか言えよ。
お前がそういう態度だから会わせたくねーんだよ。
オレは苛立ちを抱えつつも、父さんにセリクを引き合わせることによる利点を考える。
「……父さんが、セリクから常に2m以上離れて、質問攻めにもしねーって約束すんなら、考えてやってもいーぜ」
父さんはオレの言葉に即答した。
「それは無理だな。何せ彼は魔法のエキスパートなんだろう? 彼に聞きたいことはそれこそ山のようにある」
こいつ……。もうちょい態度を改めようとか思えよな!?
「じゃー無理だな、諦めろ」
「ちょっ、蒼っ、つれないじゃないか!」
「こっちは精一杯譲歩してんのに、譲らねーのはそっちだろ!」
言い捨ててオレは2階に向かう。
後ろでは、まだオレに文句を言う父さんを兄ちゃんが宥めつつやんわりと諫めていた。
まあ目に余るようなら、ディアか母さん辺りがガツンと言ってくれるだろ。
まあ、ゴキボキと凝り固まった肩や背中が鳴る音は全く可愛くねーけどな。
オレはスマホで時間を見て告げる。
「そろそろ昼飯にするぞ、一旦切り上げろ」
折り畳みのローテーブルには一階から持ってきていた昼食が既に2人分セッティング済みだ。
「あ、そっか。アオイお昼まだだったの?」
「お前を待ってたんだよ」
「もっと早く言ってくれたらよかったのに」
「オレもちょい作業してたからな」
セリクがテーブルに着いたので、2人で手を合わせて「いただきます」と声を揃える。
こーゆーのもちょっと慣れてきたみたいだな。
ちなみに昼食は兄ちゃんが作ったパスタだ。
麺茹でた上からレトルトのミートソースかけただけだけどな。
オレ達は鍵っ子だったこともあり、ごく簡単な料理やレンジ調理程度ならできる。
けどどっちもイチからの料理ってのは作れねーんだよな。
異世界モノってさ、結構料理知識がチート展開になるパターン多いよな?
ここはオレがもうちょい料理の勉強をしとく方がいいのか……?
思考が横道にそれるオレに、セリクが声をかける。
「アオイ、服着替えたんだね」
「ん? なんだ、制服が気に入ったのか?」
「んー制服がっていうか……制服着てるアオイが、とってもかっこよかったから……ちょっと残念だなぁって」
こいつ……本当に可愛い事をサラッと言うよな。
「夏休みまで平日は毎日制服だから、嫌でもまた見るだろ」
「そっかぁ。楽しみだなぁ」
今すぐ制服に着替えよう。と一瞬思ってしまうほどに、セリクは幸せそうに微笑んだ。
オレは熱くなりそうな顔を誤魔化すように話を変えて、ベッド脇に置いていたビニール袋を引き寄せる。
「それよりほら、公園で石拾ってきたぞ。公園の周囲もぐるりと測りつつ歩いてきた。数はそれで十分だ」
「3つは予備な」と付け加えつつビニール袋の中に入った石達をセリクに見せる。
「あ、ありがとう。また1人で行かせちゃったね……」
セリクがしゅんと項垂れる。腕を伸ばしてテーブル越しにその頭をポンと撫でた。
「下校ついでだ、気にすんな。その石でいけそうか?」
魔術を入れやすい石の特徴は聞いていたし、それに沿うようなのを選んできたつもりではあるが。
「うん、大丈夫そう」
答えたセリクが、いつの間にやら食事を終えて「ご馳走様でした」と手を合わせる。
早食いだな……。そんなに時間が惜しいのか。
オレはセリクの口の周りについたミートソースを拭き取って、離してやる。
セリクは「ありがとう」と嬉しそうに笑ってからまた机に向かった。
キスくらいしたかったが、仕方ないな。
「無理すんなよ」
「してないよ」
……まさかこいつ、命懸けレベルじゃなきゃ無理じゃないとか思ってねーだろーな。
オレは内心で大きくため息をつく。
けどオレには、急ぐこいつを止めることができねーんだよな……。
兄ちゃんが腹を刺されたあの時、セリクが睡眠時間削ったり馬車酔いしながらも大急ぎで学んでいた治癒魔術の勉強がもし間に合っていなければ、今頃兄ちゃんは生きてない。
それと同じで、こいつが必死でやろうとしている事は、どうしても今早急にやらないといけない事なんだよな……。
しかも、それはこいつにしかできない事で、オレがしてやれることなんてせいぜい邪魔をしないことくらいだ。
無理するな、なんて、いくら言っても無駄なんだよな。
無理をしてでも、セリクは今これをやらなきゃならないんだから。
……もうやめるか。
こいつに「無理すんな」なんて言うのは。
無駄な時間を使わせちまうだけだろ。
オレはセリクの気を散らさない程度にそのふわふわした頭を撫でて、ベッドに転がった。
『クスノキ』からの返事は今朝来た。
一行目から返事が遅くなった事を謝っていたが、夜に気付いたメッセージをわざわざ朝に返してくる辺り、人に気を遣う奴なのかもしれない。
フロウリアはフロウリアと呼ばれる前は『マダートゥール』と呼ばれていたらしい。
すぐに検索してみたが、残念ながらそれらしい情報は無かったんだよな……。
「マダートゥールなぁ……」
思わずこぼしてしまったオレの呟きに、セリクが手を止めないまま答える。
「何それ古語? 罪の……壺って意味かな?」
「セリクお前、古語なんてわかんのか?」
「んー……魔術陣って、不思議と今出回ってるのよりも昔に作られてるのの方がずっと高度だったりするんだよね。でもそういうのってほとんど古語で書かれてるんだよ。だからそういう陣をいくつも解いてるうちに、覚えてた」
覚えてたってなんだ。覚えたんじゃなくて気づいたら覚えてたって事かよ。
お前の頭どーなってんだよ。
「確か、マダーが壺とかそういう深い入れ物を指してて、トゥールは罪とか罪人って意味だね」
そう言って、それきりセリクはペンを動かす方に集中したようだった。
しかしマダートゥールが、罪の壺……罪人の壺か?
聖女の側にって意味のフロウリアとは全然違うな。
同じ場所を示してんのに、まるで別モンじゃねーか。
罪の壺で地名って……。
まるで流刑地か何かを指してるような……。
――……いや、まさか、……そうなのか……?
外国を知らない国民。
外に出ることができない国……。
それって実質、規模が大きいだけの監獄なんじゃねーの……?
じゃあ……あの国の奴らは一体いつから、何の罪で閉じ込められてんだ……?
閉じ込めた奴らは、あの国の外で今も生活してんのか?
わかんねーな……。
つっても、もしあの場所が昔監獄として作られたんなら、少なくとも当時はそれを管理する奴らがいたはずだよな。
……今もいんのか?
……それが今の王様達……とか……?
ああくそっ! わかんねー事だらけだな!!
……しゃーねぇ。夕飯ん時に兄ちゃんと父さんに相談してみるか。
いや、1人で考えてても埒が明かねーから、仕方なくな。
セリクの時間を潰したくねーしさ。
別に、父さんにそんな期待はしてねーけどな?
その夜、オレの話を聞いた父さんは手を叩いて喜んだ。
「蒼はそれだけの情報からそこまで考えられるようになったのか。いやぁ子の成長ってのは早いな! おそらく、当初のフロウリアは罪人達を労働力として活用しつつ植民や開発を兼ねる場だったんだろうな」
楽しそうな父さんとは対照的に、兄ちゃんとディアは少なからずショックを受けているようだった。
「それがいつしか何かの理由で管理者の手が離れてしまった。と見るか、それとも今も管理者達は上流階級層としてあの国で生活していると見るか。残念ながら君達は教会側の人間で国の中心部からは遠いからね。君達が知らないだけで、国の上層部では外部と連絡を取ったり国から出入りしている者がいるのかもしれないよ?」
「あー……そっか。巡礼ん時、転移魔法とかねーのかよって思ったけどな。オレらが知らねーだけで、あんのかも知んねーな」
実際、召喚ゲートなんていうわけわかんねー代物も、結局は魔術陣で動いてるんだしな。
「いやぁ謎が謎を呼ぶねぇ。実に楽しい!」
ハッハッハと笑う父さんの楽しげな声だけが食卓に響く。
……別にオレ達はその話あんま楽しくねーんだけど。
まあ、父さんも同じ見解だってんなら、歴史的にはそーゆー可能性がたけーんだろうな……。
「つまり私達は、罪人の子孫という事でしょうか……」
「ふむ、ディアリンド君はともすれば管理者側の子孫である可能性が高そうだけれどね? それに計画当時に奴隷制度があったとしたら罪のある人ばかりではなかったかもしれない。そもそも我々には当時の罪人の定義すらわかっていないのだから、もしかしたら人種的な迫害だったのかもしれないしね」
はー。よくそんなにペラペラと可能性を山盛りにできんな。
「いやぁしかし、一般の国民には分からないように国が支配され管理されているという場合を除くと、フロウリアの周辺には人間が住んでいない可能性が高いなぁ」
父さんはしみじみとそう言って、缶ビールを口に運ぶ。
それはオレもずっと気になってた部分だ。
結局、結界柱の外は一体どうなってんのかって話だよな。
「まー普通に考えて、4800年もの間周辺国から交易も侵攻もないなんておかしーんだろうけどさ、そこはやっぱ周囲の瘴気がどこまでどんな濃度で広がってっか次第じゃねーの?」
「うむ、正にその通りだ。蒼はなかなか考え方の筋がいいな」
なんだその褒め方。
「そうなるとやはり、瘴気とは何なのか、どこからどのように発生するのか。どの程度溜まればどんな作用でどのように魔物が生まれるのか、という部分に俄然興味があるなぁ」
……何だか父さんならこの勢いでフロウリアまで現地調査に行きそうだな……?
そう思ったのは兄ちゃんもだったのか、食事の手を止めて「瘴気は触れるだけで穢れるから危ないよ、近寄る時は浄化ができる人と一緒じゃないと……」なんて父さんに慌てて説明している。
オレは、キッチンに回ってオレとセリクの分の夕飯が乗ったトレーを手に取った。
食卓の四人に「じゃ、オレは部屋戻るわ」と声をかけると、父さんがこちらを見る。
「アオイの相方はまだ見せてくれないのか?」
せめて『見せて』んじゃなくて『紹介して』とか言えよ。
お前がそういう態度だから会わせたくねーんだよ。
オレは苛立ちを抱えつつも、父さんにセリクを引き合わせることによる利点を考える。
「……父さんが、セリクから常に2m以上離れて、質問攻めにもしねーって約束すんなら、考えてやってもいーぜ」
父さんはオレの言葉に即答した。
「それは無理だな。何せ彼は魔法のエキスパートなんだろう? 彼に聞きたいことはそれこそ山のようにある」
こいつ……。もうちょい態度を改めようとか思えよな!?
「じゃー無理だな、諦めろ」
「ちょっ、蒼っ、つれないじゃないか!」
「こっちは精一杯譲歩してんのに、譲らねーのはそっちだろ!」
言い捨ててオレは2階に向かう。
後ろでは、まだオレに文句を言う父さんを兄ちゃんが宥めつつやんわりと諫めていた。
まあ目に余るようなら、ディアか母さん辺りがガツンと言ってくれるだろ。
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