捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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「……クロエ様!」

 少しだけ慌ただしい靴音と芯の通った声に顔を上げれば、記憶にしっかり焼きついた瞳が私を見ている。

 目が合ったかと思えばすぐに何かに視線を遮られ、上質だが少しだけ固めの厚い生地の感触に、一拍遅れて彼女に抱きしめられたのだと理解した。

「よく、ご無事で……」

 その言葉は、深い緑の葉に溜まった雨水が先からぽつりと一粒落ちる音によく似ていた。まさか私も知らぬ間にこの身は死の淵をさ迷いでもしたのだろうかと疑ってしまうような空気を纏っている。

「……お前は主人を野生の獣とでも思っているのか?」

 呆れ混じりであることが声から察せられる。なるほど、こんな様子で迫られたならば部屋に入れないわけにもいかないだろう。強ばっていた体が納得で緩む。

「まさか。獣とまでは思っていません。ただ、女にとって体の大きな男というものはそれだけで恐怖の対象になりうるのです。その上、旦那様は人間よりも上背がある。クロエ様は人間の女性の中で至って平均的だというのに、旦那様と並ぶとまるで大人と子どもです。恐ろしくないわけがないでしょう。御自分の見え方を再度しっかり確認なさい」

 ――ぴしゃり、と場が凍ったような気がした。

 彼女が物怖じしないことは知っていたものの、ここまで強く咎めているのは初めて聞いた。

 いくらエリック様が寛容な主人であったとしても気を悪くするのではと、本能的な恐怖を呼び起こした威圧感を思い返す。この城に来た翌日に知った、あの嫌な重さ。

 しかし、それに備えて目を強く瞑っていても、何かが起こる気配は一向になかった。

「く、っはは、ははははッ!!!」

 代わりに飛び込んできたのは、ディミトリさんの大きな笑い声。

「どうやら我々の想像以上にクロエ様を気に入られたようですが、いかがなさいますか?」
「私は一度結んだ契約を反故にするほど向こう見ずではない。……一度クロエを放してくれ。お前こそ私の妻を窒息させる気か」

 いまいち状況も掴みきれぬ間に視界が開ける。針のような鋭さでエリック様を射抜く彼女の顔を見上げて、それからその眼光を辿り、ようやくいつも通りにきらきら輝くディミトリさんを見ることができた。愉快で仕方がないといった心境を全身に滲ませ、目が合うといっそう眩しい笑顔を浮かべる。
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