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駅前から自宅まで約8分の間に迷子になりました
思えば遠くへ来たもんだ!? ★
しおりを挟む結局、私は、あのコスプレーヤー達3人に声をかけることは出来なかった。
山犬や巨鳥を倒し、興奮して爛々とした目が怖かったのもある。が、状況が更に整理しきれなくなった事が大きい。
今見たものは、特撮映画を彷彿とさせる大迫力だった。
恐らく、夢や幻ではない。だって、巨鳥の翼が焼ける臭いや、その後、3人で肉や骨などに解体して残った血と羽根と肉片が草原に散らばり、夢や幻ではないと主張している。
その殆どは槍のオニーサンが、穴を掘って埋めていたが、それでもまだ、強い血と肉の生臭い臭いが立ちこめている。
私は早々に、この場を離れる事にした。
巨鳥や山犬の仲間がいないとも限らないし、今は近くに居なくとも、臭いで集まってくるに違いない。血の臭いは風に乗って拡散している。
この壮大な迷子、ただ迷子になったという域を超えて、かなり危機的状況でないかい?
───── ◆ ◆ ◆ ───────
だいぶ丘を下り、小川も少し深く、川らしくなってきた。
そして、あの巨鳥襲来以降、小鳥は川向こうにはいるが、ヤマネやリスのような小動物は見かけなくなった。寂しい。
改めて、少し整理しよう。
まず、一日目──
① 駅前で買い物をして、ベンチで休憩、ネット小説を読む。
② 軽い熱中症か気分を悪くし、ふらふらと自宅へ帰る。途中川沿いの道を歩いていたのは覚えているが、その後がよく解らない。
③ ハッと正気に戻ると、見覚えのない林の中で、見た目妖精の環さながらのハーブとキノコで囲まれた空間に佇んでいた。
スマホは握ったまま。小銭入れとハンカチとティッシュなどの持ち物、買った物も、ポッケに入ったまま。ペットボトル飲料のみ不明。
④ 周りの様子を観察してみるが、状況は解らず、スマホの位置情報も不能。電波はそこそこ入るものの何処にも繋がらず。
⑤ 野良犬が山犬化したものか狼か、イヌ科の生き物に値踏みされるが、妖精の環のおかげで事なきを得る。
⑥ そのまま、暗くなってきて移動は危険と判断、妖精の環を出ずに、三角座りの姿勢で食事も排泄もなく就寝。
で、昨日、二日目──
① 妖精の環に生ってる実を啄む小鳥の声で目覚める。私が焦った声を上げても小首を傾げるだけで食べ続ける様子に和む。
風邪はひかなかった。田舎育ちだからか結構丈夫だよね。
② 無くしたと思ってたペットボトル飲料の内、まだ、未開封だった方のミルクコーヒーを、ハーブが濃く繁った陰に発見。
意を決して妖精の環から出て、朝一のトイレ事情の後、周りを改めて観察。
車の通る音や人が行き交う気配なし。
空をゆく飛行機ヘリコプターもなし。
空気が湿ってるからか飛行機雲もなし。
③ ずっと目を閉じて森林浴をしながら聴き耳をたてて、水音を感知、空腹でも数日は活動できるが、この時期に脱水症はヤバいので、第一目標を水場に定め、歩き出す。
幅1mほどの小川を発見。
濾過する手立ても無いので、口に含んでみるも、軟水なのか飲みやすかった。(硬水だと腹壊すのだ)
④ せっかくなので顔と手と眼鏡を洗う。せめて化粧水かオールインワンゲルが欲しいところ。
川が流れる以上、川下には街なり海なりがあるはずと、川沿いの道を下る事に。
途中、小鳥やヤマネかリスのような小動物を時折見ながら、マカダミアナッツ入りソフトクッキー一枚をお昼寝ごはんに。
⑤ 私の謎の迷子状況は、かなり壮大な迷子だとほぼ確定。白神山地を思わせる綺麗な景色と小鳥や小動物にほっこりしながらトレッキング気分で(つっかけだけども)いたが、風に誘われて林を抜けて明るい場所に出たら、霧ヶ峰とか大山(鳥取)とかかな?と思える、広い広い丘陵地帯に出た。
やたら広い上に、電線や高圧線などの鉄塔も、牧場や農園などの施設も、民家や鉄道などの人の暮らす気配はゼロだった。
⑥ あまりのショックに疲れもあってか、そのまま草地に倒れ込んで泣き寝入りでお昼寝。
くしゃみで目覚め、開き直って、丘陵地帯を小川沿いの林との境目を川下に向かって歩き出す。
薄暗くなり始めた頃に、チョコキューブ入りソフトクッキー一枚を夕食に。
真っ暗になる前、火を熾す手段を考えるが、山火事や他の危険を鑑み断念、眼鏡とペットボトル飲料を横に置いて、スマホを握って、三角座りで就寝。ポッケに入ったまま寝ると、踏み壊す可能性を回避、本やスマホを朝まで握ったまま寝るのは得意。
で、三日目本日──
① またもくしゃみで目覚め、痛んだ腰やお尻の底、肩等を伸ばしたりまわしたりして、深呼吸。
再び林の側の丘陵地帯を川下目指して歩き始める。
直射日光に負けて、林の中の小川沿いの道を根っこと闘いながら歩く。
② 川で水浴びする小鳥や木の陰から覗くヤマネかリスのような小動物にニヤニヤしつつ、ペットボトル飲料を口にするが爆死。まさかのミルクコーヒーご臨終。一気にテンション下がる。
③ ここで大展開だよね! 遂に第一村人発見!
但し、様子がおかしい。現在地が大芸大裏山なのかと疑うコスプレーヤー達。それが3人。見た目はRPGゲームの小パーティかファンタジーラノベの冒険者風。
しかも、何言ってるのか、全く解らない。英語は勿論、中国語やハングル、フランス語やイタリア語、ドイツ語でもいい、この情報社会、単語一つも知らない聞いた事ないなんて事はそうそう無い。にもかかわらず、名詞、動詞、他何も解らなかった。
④ 更に驚く事に、彼らは一昨日の山犬かな?と戦闘開始。マジか!?
もう一つ更に更に驚く事に、翼を広げて4~5mは超えてそうな大きな鳥が襲ってきた。
巨鳥(ルフとかロック鳥とか言うヤツかも?)に苦戦する剣士と槍持ちに加勢して、後ろの錫杖のオニーサンが、大声上げて巨鳥の片翼に、火をつけた。魔法か!? マジか!?
⑤ 巨鳥の怪音波にもめげず、なんとか倒した後、3人は羽根を毟り始め、解体して、良く見えなかったけど多分貴重だとか使い勝手良いところなんだろう部分を荷物に収め、大半のお肉や骨等を穴掘って埋めてた。
血の臭いで、凶暴な肉食野生動物が集まる可能性を恐れて、早々にその場を離れて、足早に林の中を川下へ下る。
巨鳥襲来以降、小鳥は川向こうにはいるが、ヤマネやリスのような小動物は見かけなくなった。…寂しい。
──以上が、この三日間の流れだ。
諸々の状況から、言葉も通じなさそうだったし、彼らに声をかけられなかった。
話しかけてれば何か変わったかもしれないが、もっとややこしい事態になる可能性も否定できなかったし、彼らも含め、目の前で繰り広げられた大怪獣合戦が恐かった。
ど迫力なんてものじゃない。臨場感溢れリアル過ぎて、逆に現実感なくて。
それでもどこかでコレは夢だと思いたい自分がいる事に、現実なのだと思い知り、林の中で、息を殺して、震えるしかなかった。
一歩踏み出して「あのー、ここは何処ですか?」なんて言える雰囲気でもないし、勇気が湧かなかったし、その後の展開が怖かった。
──私は今、どこにいるの?
───── ◆ ◆ ◆ ───────
今朝までは、早く人里に出なきゃ、なんとか家族や職場に連絡しなくちゃと思ってた。
でも、今は、このまま何の策もなしに人前に出て、大丈夫なのかと怖がっている自分がいる。
どこか遠くから自分を見てるような、ふわふわと足元が消えそうな…夢の中にいるのかな?
また、熱中症になりかかってるのかな。
林の中は涼しいけれど、昨日の熱が体内に溜まって、自覚無い状態で遅れてくる熱中症かも。…老人かい私は。
1人ボケ1人ツッコミも軽い。スベりそうだ。いや、スベってるのか。誰も聞いてないからサムいのは変わらないか。
少し精神的にヤバげになってきてるかも。落ち着いて、クッキー一枚食べようかな。
少し下ると、林の中の様子も少しづつ変わってきて、所々人の手の入っている様子が覗えるようになってきた。
茂みの低木が刈り取られていたり、小道に張り出して足元に危なそうな木の根がちょん切れてたり。
山小屋があったので、ガラスではない木の板の窓の隙間から中を覗くが、人は居ないようだ。
扉に鍵もかかってない。
こういう小屋は、山で休む人が誰でも使えるよう、毛布や水、薪等を用意して、鍵はかけずに措くものだ。
中に入り、木綿のタオルを一枚見つけ、お借りする。川へ行って濡らして、固く絞って、小屋に戻る。
シャツを脱ぎ、キャミソールの隙間から、体を拭く。少し垢が撚れた気がするがまあ当たり前だよね。
再びシャツを羽織って、スカートはそのまま、テロテロのレーヨンゆるゆるイージーパンツだけ脱いで、足もタオルで拭いた。
はぁ、人心地ついたね。
ガタッ
突然、後ろで物音がする。
振り返ると扉が開いていて、30歳手前くらいの青年が立っていた。
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