異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

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優しい大きな人達に、子供扱いされる私は中年女

雷獣王は砂煙の向こうへ……

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 もうもうと砂煙があがり、視界が悪くなる。

「ケホッけふっかふっかふっ……ぐっゴホッ」
 涙もだだっと流れるし、咳も止まらないし呼吸困難になる。
 申し訳ないけど、綺麗なレースを縫い付けた袖口を、涙と砂とはなでぐしゃぐしゃな顔を覆うのに使わせて貰う。
 急に背中が温かくなって、なんや?と思たら、ルーシェさんだった。

「頼むから、危ない事はしないでくれ」
 いつの間に背後にまわったのか、背中をぴったりくっつけて抱き寄せられてて、私の足は地に着いてなかった。

「クロちゃんは?」
 土煙が晴れてきたので、目をすがめながらクロちゃんが居た方を見ると、テーブルや椅子などのガーデンセットは砂埃を被ってるけどそのままで、クロちゃんが居た辺りだけ、綺麗だったタイル張りの床がえぐれて破壊されていた。

「クロちゃんは?」

 ルーシェさんも、驚くほど砂埃も被ってなくて綺麗なお母様とルーテーショアさんも答えない。なんで2人とも綺麗なままなん?

「ねぇ? クロちゃんは?」
「……わからん」
「わからない……の? どうして?」
「ヴァニラが傷つけられるんじゃないかと焦って、コントロールを誤った。
 雷獣……クロにはヒットしたはずだが、どの程度の効果が出たのかは確認できなかった。
 母達に加護シールドを張るのと君を確保するのに集中していて、ヤツの状態の確認はしなかった……が、手応え的に倒せてはいないと思う」


 ……すまない。ひと言だけ言うと、ルーシェさんは執事さんにテーブルやテラスの床のお片付けと清掃を命じ、私を抱き上げて、サンルームへ入っていく。お母様とルーテーシアンさんも続く。

 ルーシェさんの「すまない」は何に対してなのだろう?

 クロちゃんを傷つけて「すまない」?
 大丈夫だと言う私を信じなくて「すまない」?
 クロちゃんの状態を確認しなくて「すまない」?
 砂埃をたてて呼吸困難にさせて「すまない」?

 ルーシェさんは、私に与えられたお部屋への階段を上がりながら、砂埃で煤けた私の頰を伝う温かいものを拭ってくれた。
「君は、泣いてばかりだな……」

 泣かせてしまって「すまない」やったんかな?

「クロちゃんは、生きてるの?」
「君の言う、物質的な実体のないシャドーキャットの性質を併せ持った特殊な個体だと言うのなら、今も、私か君の影に潜んでいるのかもしれないな」
 浄化クリーンの魔法を使ってくれたのか、踊り場に飾られた額縁の硝子に、ぼんやりとしたブス子ちゃんな私の泣き顔が映っていたが(見たないわぁ)、袖口も襟元も、顔も砂埃の汚れはなくなっていた。

「じゃ、また会える?」
「案外、今夜にでも現れるかもしれないね」
「ホント? だったらいいな……」
 死んでないと聞いて、ほっとした。

「笑ったな。……いつもそうやって笑っててくれないか」
 溜まってた涙が、ポロッと溢れた瞬間、また、両手が塞がってたからかもしれないけど(さっきほっぺ拭ってくれた気もするけど)ほっぺちゅーで涙を拾ってくれた……くれ……くれんでええわ!
 地球の! 日本! やったら! セクハラやで!! んまに……

 この人のこの、人をどれだけ子供ガキ扱いしたらええねん! なところ、どうにかならんの?

 お部屋の前につくと、マーサさんが待ってて、扉を開けてくれる。
 ルーシェさんは目で労うと、私を抱えたまま中へ入り、リビングを抜けて、奥の寝室まで進む。
 寝室で待ってたオレンジ色の髪のメイドさんがくるみボタンを一つ一つ外し、砂埃が目に詰まったレースのブラウス?を脱がしてしまう。
 子供がお人形さんを高い高いする時みたいに脇腹付近を両手で摑まれて宙吊りにされ、そのままウェストのリボンも解き、スカートもストンと床に落ちてしまい、半透け状態のシュミーズとショーツだけになり、ルーシェさんの腕の中からベッドへ下ろされる。

 空色の髪のメイドさんが、足の裏の汚れや全体的な砂埃を風属性の浄化クリーン術で吸い取るように集め(人間掃除機か(笑))水属性の洗浄ウォッシュ術で全身をサーッと一気に洗ってくれる。
 メイドさんは汚れた服を回収すると、さっさと寝室を出て行ってしまった。

 マーサさんは、扉近くの壁際に控えて、黙って立っているだけだ。
 ちょっとぉ? ヒトの服ひん剝いてそのままにして行く? そりゃ、正確には私の物ではないけどさ、何か着替えのお洋服ちょうだいよ~

「ヴァニラ」

 自分でも笑っちゃいそうなくらい飛び上がる。心臓もめっちゃ跳ねてる。どうしよう?
 てか、コレ、どういう状況なの?
 ねえ、なんで下着姿でベッドに置き去りなの? どうして、ベッドのそばに、ルーシェさんが膝立ちのまま居るの? 出て行くのは、メイドさんじゃなくて、ルーシェさんだよね?

 ベッドの縁に座らされた私の太腿に、そっとルーシェさんの温かい両手が添えられる。

 膝の上で握られてた私の両の拳を、柔らかく包んで、しかししっかりと離さない。
 やや俯き加減だったルーシェさんがずいっと身を反らし、真正面から私と目を合わせようとする。
「ヴァニラ……」

 どうしよう、ヘンな場面じゃないよね? 今、ここでその展開は脈略ないし、ねえ、どういう状況なの~
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