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優しい大きな人達に、子供扱いされる私は中年女

モフリートはもふもふが大好き

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 はふはふはふ……

 そんな息づかいが聞こえてくる感じで、でっかいワンコが走ってきた。

 ハッハッ……はふはふ……

 やっぱり『犬』の息づかいが頭の上でする。

 デカいなんてもんじゃない。牛や馬ほどありそうだ。こんな犬は、地球には居なかった。チベタンマスティフやセントバーナード、ウルフハウンドなんかも相当大きいけれど、体高1メートル越さないよね? まあ、ギネスに載った過去のには1mちょいのも居たみたいだけど。
 これは、殆ど乗り物でしょう。

 地球産の大型犬をバイクに例えると、この子はミニバンとかステップワゴンではないか?

 お母様がデカワンコの前脚を優しく撫でる。と、ワンコは伏せの姿勢をとる。
 お顔もデカい。顔だけで一抱えほどだ。
 私がそろそろと手を出す間、ジッと見ている。円らな眼で。見ている。見ている。見られている。見られてる感半端ない。焦る。

「も、もふもふしていいですか?」

 私の言ったことを理解されてるのか判らないけど、お母様はにっこり微笑んで頷いてくれた。


 その後は、もう何が何だか覚えてません。

 ひたすらもふりまくり、首の鬣っぽいふさふさやお腹の柔らかい毛、もっさもさのおしっぽに、何度もダイブして、顎の裏撫で掻き回して、背中に乗ったり、ワンコには迷惑だっただろう。

 はあ~幸せな時間でした。このまま、デカワンコとお昼寝したい。
「この子とお昼寝したい! 出来ますか?」
 お母様もルーティーシャさんも首を傾げる。
 横からさっと、メイドさんがメモ用紙と細いチョークを出してくれた。
 さっそく、デカワンコが伏せてる姿に私に見立てた女の子が凭れて寝てる絵を描いてみる。
「ああ! ヴァニラ、ウォルティマディア……(以下略)」

 お母様もにこにこして頷いてくれる。伝わった?

 が、お母様が何かを話すと、デカワンコは庭園の奥へ去っていった。
「ええ~、オーケーしてくれたんじゃないのぉ?」

「ヴァニラ」
 ルーテーシヤさんが私の手を引き、サンルームへ入り、廊下を通って食堂へ連れて行く。
 ルーシェさんがいなくても、ルーシェさんの席の隣に足置きを取り付けられた高い椅子が用意されていて、私の指定席になっている。こう、ファミレスで見かける幼児用の高椅子みたいな。

 でも、周りも皆2m近い人ばかりで家具も大きいので、一五〇程度の私は仕方ない。

 ぐぐ~ きゅるるる

 私のお腹が空腹を訴える。
 執事さんの合図で、配膳係さんがサラダとスープを持ってくる。

 結局、今は何時なんだろ。

 もう定番となったベリー類が盛り合わされた小皿添えられ、サラダでも何でも、好きに足して食べろと言わんばかりに毎食出て来る。
 勿論、食べる。

 食事の後、ルーティーショアさんに歯磨きをして貰い、サンルームで少しだけ刺繍のおさらいをする。毎日しないと腕が鈍るってヤツかな?

 集中して細かいことをしていると眼が疲れる。ベリーを幾ら消費しても、中年にはツラひ。
 眠くなってくると、お母様が再びデカワンコを呼んでくれて、サンルームにゆっくりと入ってくると3人掛けソファの横に伏せた。
 勿論、私はソファではなく、デカワンコのお腹にダイブした。

 不思議と獣臭くなくて、私はすぐに毛に包まって眠りに落ちた。

 茜色の陽の眩しさに目を覚ますと、デカワンコは私の頰をひと舐めしてから立ち上がり、テラスへ出てまた庭園の奥へ去っていった。
「ヴァニラ、★⚪︎※(中略)メッヒ、ルイヴィーク、ウォルフガングルーティー(以下略)」

「ルイヴィーク!」
 そう、確かお母様は、デカワンコを呼んでくれた時、ルイヴィークと呼んだはず。
 お母様もルーティーシャさんも頷いてくれる。

 先ほど描いたデカワンコの絵を指さして、ルイヴィークと連呼して再確認。
 呼び出す呪文なのか種族名なのか、それとも個体名なのか。多分、あの子の名前だと思う。

忘れないように、デカワンコの絵の横に、カタカナでルイヴィークと書き込んだ。

 僅かな寝汗のあとをメイドさんが蒸しタオルで拭い、ルーティーショアさんにお部屋に連れて帰られる。
 すぐさま、本日二度目の入浴タイム。
 やはり小玉西瓜サイズの弾力ある真珠色の玉は浮いていた。

 ゆるふわの締めつけない夜着の上からナイトガウンを着せられ、下の食堂に集まってお夕飯。

 サラダとスープとベリーは定番だった。


 その日からやはり3日間、ルーシェさんは帰ってこなかった。

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