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保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?
あ、愛人? まさかぁ
しおりを挟むその時のルイヴィークの速さは、時速40㎏の軽自動車並みだったと思う。
林の低木の繁みから女の子が転げ出てきた。
正確には、飛び出したら、ルイヴィークに跳ねられそうになったので、腰が抜けて転がった、かな?
ルイヴィークは急停車(犬)した。止まれた。凄い。車は急に止まれない。
本来なら、私は、時速40㎏のまま、前に放り出される所だろう。
なんと、ルイヴィークは、たぶん魔狼だとか犬の姿の精霊だとかだろうとは思ってたが、風の魔法も使えるらしい。
ルイヴィークの背中から、肩、首、耳の後ろ、頭、鼻先の順に、でんぐり返しで転がりながら放り出されていく私を、風の魔法でフワッと勢いを殺し、地面と熱いキッスをかます直前で、牙が立たないようにそっと咥えて受け止めてくれた。
「……あーびっくりした、ルイヴィークありがとう、助かった」
汚れてもいないのに、気を落ち着かせるための本能的無意識の動作なのか、足や腰の辺りをパッパッと砂を払うようにはたきながら、振り返ると、口をパクパクさせながら、声も出せずに腰を抜かしている女の子と目が合った。
「ごめんね、大丈夫?」
「★**!!?!!☆★∅!!!!!!!!」
うん、ごめん、何言ってるか解んない。
でも、びっくりしてるのと、凄く怒ってるのは解るよ? だから、ごめんて。
でも、あんただって、繁みから飛び出して来たやん。おあいこデショ?
彼女の中ではおあいこにはならなかったらしい。
服装を見るに、公爵邸の、お洗濯とかお掃除とかをする人達の中でも、公爵一家や客室の担当は出来ない下働きの見習いさんのようだ。
メイドのお仕着せにも、色があって、濃紺のマーサさんはメイド達を統括する家政婦。
紫紺のロングドレスの人は、お母様やルーティーシアさんの直属の侍女で、深緑の娘さん達は侍女見習いの上級小間使いさん。
若草色のエプロンドレスは一般的なパーラーメイドさんで、えんじ色のエプロンドレスは、お掃除やベッドメイキングなどの家事担当のハウスメイドさん。
キッチンメイドや給仕さんはオレンジ色と決まっていた。
この子は真新しい臙脂色。働き始めて日の浅い、お掃除や雑用のハウスメイドの、胸にリボンがついてるから見習いさんのようだった。
まだ、喚き続けてる。う~ん、悪いけど、まったく解りません。
斜め上目遣いに睨み、文句を言う。たぶん文句。
よくこんだけ立て続けに言葉が出るなぁ。さっきは声もなく腰を抜かしてたくせに。
やっと立ち上がり、胸や腰を撫でるようにして、身をくねらせながら、なにか口汚く罵った(ように見えた)。
あ、これはアカンやつ?
自分のわりとあるなな胸を持ち上げ、腰を左右に揺すって罵られる。
これは、私はともかく、ルーシェさんを貶める言葉だと思った。
その証拠に、ルイヴィークが唸りだした。
ルイヴィークの牙を剝いて唸る様子に、少し怯む女の子。
ルイヴィークが本当に解っているのかは解らないし、もしかしたら、私の嫌な事だと感じるのに同調してるだけかもしれない。
言葉が今、通じたらいいのに……
「公爵様を馬鹿にするような事は、言っちゃダメだよ」
女の子はなおも喚く。私が何を言ったのか解らなくても、心当たりはあるのか、興奮の赤らみではなく、羞恥の赤面で、喚く勢いが落ちていく。
この子のためにもならないから、解って欲しい。
私を、小馬鹿にしても、ルイヴィークに轢かれそうになった驚きや恐怖、周りを確かめずに飛び出した事実はなくならないし、私を可愛がることで仕事の疲れを癒すルーシェさんをも批難する事になる。
だから、止めた方がいい。
公爵家に雇われたメイドさんなんだし、たとえ本当に私が愛人だったとしても、雇い主のプライベートに口出しするのは、自分の首を絞める事になる。
人の悪口を言う時の顔は、百年の恋も醒めるような、酷いものだよ? せっかく可愛く生まれたんだから、可愛く生きて?
女にしては大きめの、労働者の手のひらで、女の子の口を塞ぐ。
女の子はびっくりして停止した。
そして、私に何をされるんだろうと、だんだん血の気がひいていく。
頭をポンポン叩くように軽く撫で、
「怪我がなくてよかった。人の悪口は言っちゃダメだよ」
とだけ、解らないだろうけど伝え、伏せて帰還を促すルイヴィークの背に乗り直し、その場を去った。
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