異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

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保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?

「うちの子」はムリ! お貴族様にはなれません

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 ルーシェさんが平謝りする姿を拝めるイベントも終え、とにかく、幾ら重役出勤が赦される身分とは言え、朝食から時間も経っているし、待っている護衛騎士の方にも悪いから、にっこり微笑みを浮かべるお母様と、苦笑交じりに私の手を握るルーティシアさんと、3人で並んでお見送りします。

「雨期も開けた事だし、寒くなる前に、緑風の森の調査を終えねばならぬので、またしばらくは戻れないと思うが、眠れないなら……」
「うん。ありがとう。
 でも、雷も最近は落ちなくなったし、虎落笛もがりぶえが物寂しい時期にはまだあるから、心配しないで、森の調査、頑張ってきてください」

 寂しいのはどっちなんや? と言われそうだが、ルーシェさんは行って参りますと、お母様とルーティシアさんの頰に、私の額に、「挨拶」をしてお馬さんで出勤していった。

「さて、ヴァニラちゃん? 仮にもうちの子になるからには、お習い事は再開してもらいますからね」

 お母様の笑顔が……怖いと思うのは、気のせいかな?


 *****


 話が通じているうちに、と、ルーシェさんがわざわざ出勤を遅らしてまで、言い出した内容。

「会話できている内に、双方の考えを訊いておきたいのだが」

 この「双方」とは、片方は応接セットの向こう側、3人掛けソファのお母様及びルーティシアさんと、もう片方がゆったり目の一人掛けソファに座るルーシェさんのお膝の上に、いつものようにちょこんとすわらされてる私。手は片方握られる。

 ルーシェさんの手のひらと私の手のひらになんか魔法陣みたいな模様を書き込み、接触させる事で、今の状態を強化維持しているとのこと。

「私が使ったどの魔術がどう効いて会話が出来ているのかまだ解らないので、この先再び会話できるとも限らない。
 で、ずっと保留になっていた、彼女の処遇です」

 ついに、私が王都の犯罪被害者の施設行きか、一人で生きていくように手配される時が来たのか!

「ヴァニラちゃんは、どうしたいの?」
 あくまで優しく、ご本人の意見は口にせずに訊ねてくる。

「え? えっと、元々、王都に行って、自由民株を買って、色んなお仕事をやってみるつもりで……」
「待て。言葉も通じなくてどうするのだ?」
「今も、マンガやゼスチャーでなんとか通じてるから……」
 ルーシェさんの待ったがかかる。ルーティーシアさんも同意してきた。

「どんなお仕事をするにしても、言葉が不自由では、仕事の説明も受けられないし、成否も解らないでしょう?
 悪意のある人に騙されたってきっと判らないわ」
「少なくとも、子供で言葉が不自由という事で、搾取されるのはあるでしょうね」
 お母様もため息をつく。

「自由民株を買うと言っても、元手もないだろう。なにも持たずに迷っていたと聞いたが……」
「うん。お金も換金出来るものもないよ。でも、ジュードさんの話だと、報酬からさっ引かれて借金で発行してもらえるって……」
「金を貸すのは構わないが、そもそも、この国の法や習慣は元より、言葉すら解らずにどうやって生きていくのだ」
「いずれ覚えないかな~と思ってたけど……」
「このお家に来て、ひと月ほど。幾つ覚えたのかしら?」
 お母様、厳しいひと言。殆ど覚えられてません。発音に至っては、壊滅的です。

「移民や貧困者、犯罪被害者などの救済制度とかないですかね……」
「勿論ある。が、あたり期待しないでくれ。言葉が通じている、この国の習慣が解っている、この国に住む者を基準に救済する制度で、ヴァニラが正常に応対出来るとはとても……
 犯罪被害や災害孤児などを集める施設もあるが、ある程度育った人間なのに会話能力は幼児並みでは、施設の職員も持て余すかもしれぬ」
 ルーシェさんもハッキリ言うねぇ……
 ぐうの音も出ないッスよ

「クィルフ。言いたいことははっきりおっしゃい。
 双方の考えを訊きたいとか言って、本当はあなたの中では決まっているのでしょう?」
「はい。私としては、乗りかかった船と言うか、ひとたび関わりを持ってしまった以上、このままどこかに預けるなりして強く生きていけよと手放すのはとても…… その、言葉も右も左も解らない子を見放すようで苦しいというか……」
「お兄さま、少しも「はっきり」じゃありませんわ。珍しいこと。
 とても可愛がっていらっしゃったもの、今更なかった事には出来ないのでしょう?」
「……そうなのだ。1度懐へ収めてしまったものを以前の関係に、魔道騎士団の一員と保護対象に戻せと言われても……
 母上、マリヴァには留守の間面倒をみさせて申し訳ないとは思っているのだが、このまま」
「うちの子にしろと?」
 お母様が真っ直ぐにルーシェさんと視線を合わせる。両者とも反らそうともせず、無言でなにかを語り合っているような様子だ。

 いや、私、貴族の子にはなれないよ? てか、この国の人間じゃないし、森の、あの妖精の環フェアリーサークルをみつけて、なんか魔法をかけたら、日本に帰れるんじゃないかとかもまだ思ってるんだけど……


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