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オウジサマってなんだ?
21.少女の指定席は、お膝の上?
しおりを挟む罪人の男が護送された後、使用人達はみな、既に持ち場に戻り、エントランスホールは静かであり、少女の泣きじゃくる声だけが響く。
泣き続ける少女を抱えたままのルーシェンフェルドと、預かった眼鏡を大切に胸元に掲げるルーティーシア、数歩下がった位置で一連の流れを見てたフィリシスティアーナの4人だけが残されている。
マーサが2人のメイドを伴って戻ってきた。
泣き止まない少女のために、蒸らしたタオルなどを用意しに行っていたようだ。
若いメイドの一人が、薄い手拭いで少女の真っ赤な鼻を拭い、洟をかむように促す。
《ありがとうございます》
恥ずかしそうに、おずおずとながら洟をかみ、通じないなりに掠れた小声で礼を述べた。
(やはり、育ちはよいようです。が、上級貴族の傲慢さはないみたいだし、ますますどういった育ちなのかわからないですねぇ)
食事の用意が整ったことを伝えに戻って来た家令フェルナンデスとメイド長マーサは、お行儀良く礼を述べる少女に、躾けや教養はあるものの、貴族らしい尊大さはないアンバランスな環境を推測する。
ルーシェンフェルドは、洟をかんだりメイドに礼を述べたり、少しは落ち着いたらしい少女を縦抱きのまま抱え直し、家令の先導で食堂へ入る。
昨夜と同じ奥の席に着くと、そのまま少女はまるで指定席であるかのように、自動でストンとルーシェンフェルドの膝の間に納められる。
給仕係がサラダとスープを配膳すると、ルーシェンフェルドは、まるで子育て中の親鳥のように、サラダを大きめのスプーンに掬い、せっせと少女の口へと運ぶ。
それを公爵家の面々に見られて恥ずかしいのか、少女は顔を赤く染めて俯く。
いつも通りに、フィリシスティアーナがルーシェンフェルドから見て右手の席に、ルーティーシアが左手の席に着き、時折話しかけながら朝食が進んでいく。
「クィルフ? このお嬢さんはお幾つくらいなのかしら?」
「母上、申し訳ありません。言葉が通じぬので、まだ、確認が取れておりません」
「そうなの、可愛らしい子ね?」
礼儀正しいはずのルーシェンフェルドが、膝の上の少女に食事させる事に集中して、質問する母の顔も見ずに、上の空で答えている。
それが、ルーティーシアには不思議で面白くて、笑い出しそうで、少し怖かった。
「今後、どうなさるの?
王城の流民・移民管理局や騎士団の犯罪被害者保護舎に連れて行くの?」
「言葉が通じぬので、どうしたものかと……
男に組み伏せられた恐怖もまだ残っているようなので、知らぬ大人に囲まれて不安な状況が続くのもストレスになってよくないかと……」
「そう、では、このまま屋敷に置いておくのね」
「……そうなるかと。ただ、男性の使用人達に……ほら、もっとお食べ……姿を見せないよう申しつけておかねば……昨夜と同じ、ベリーにするか?」
歯切れの悪い生返事を繰り返すルーシェンフェルドなど、ルーティーシアは生まれてこの方見た事などなかった。
それはフィリシスティアーナも同じである。
目も合わさず、よそ事をしながら生返事をするなど、母の勘気に触れるのではないかとヒヤヒヤしたが、むしろ母は楽しそうであった。
少女がチラッとルーティーシアの方を見る。
目が合うと、最初はやや硬い引き攣った笑顔だったが、ルーティーシアまで引き攣るのを堪え、爽やかに微笑んで見せると、釣られたのか、少女も花が咲くように笑顔を見せる。
ルーシェンフェルドは目を見張って、少女の満開の笑顔を見つめた。
(やっと笑った……)
先程まで聞いてる者の胸まで張り裂けそうな声で泣き続けていたし、出会った時も泣き濡れていた。
昨夜の食事の時の美味そうな様子は見たが、基本眠るまで泣き続けていたので、初めての笑顔に見入ってしまった。
(花が咲くようとはこういう感じなのか……)
少女は、ルーシェンフェルドの膝の上からもじもじと、俯き加減でワンピースの一部をつまみ上げ、ルーティーシアに微笑みかける。
《あの、このお洋服、貸してくださってありがとうございました。コーデュロイ生地なんて、洗って返す技術もないけど、感謝してます》
言葉は解らないなりに、少女が礼を述べている事はわかる。ルーティーシアが幼少の頃着ていた物だと解っているのだろう。
「よく似合っててよ? もう、私は着る事もないものだから、遠慮せずに着てくださいね。
サイズが合ってよかったわ。他にも何着か後でお持ちしますから、ぜひ着て見せてくださらない?」
姉妹も従姉妹も居ないルーティーシアには、身近な女性が母親しかおらず、服を見立てたり、ドレスアップを楽しんだりした事がない。
そういった事を楽しめる期待が僅かにあった。
(お兄さまに面倒を見るよう頼まれた事だし、ついでにそれくらい楽しんでも赦されるわよね?)
*** *** *** *** ***
ルーシェンフェルドには子供扱い、ルーティーシアには着せ替え人形代わり。
それなりに可愛がられてるとも言えなくもない?
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