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🐾始まった魔法の特訓とまだ戻れない地上🐾
🐾6 泣かない神さまの泣き顔
しおりを挟む──熱い雫⋯⋯手に脚にお腹に染みていく
あの時は、冷たい雫が僕に降りかかり、染みていったのは古代の神さま。
じゃあ、この熱いものはなんだろう?
確かめたいのに眠くて、身体も重くて動かないし、気になるのに、まだ寝ていたい。
〔いいよ、まだ寝ててよ。人間は肉体が柔いんだから無理しちゃダメだよ〕
神さまの柔らかい声。額に何か温かいものが触れたような気がして、頑張って目を開けても、よく見えない。
でも、物理的な身体を持たない神さまだからか、そこにいると認識したら、肉眼とは別の魔素や霊気を視る眼で、神さま──ロスクラリスが視えた。
なんで泣きそうなの。
知識はあっても肉体はない神さまだから、ヒトの感情や心の機微は解らないと言っていたのに。
どうして、そんな泣きそうな顔してるの?
〔ボクは、解ってなかった。「ボクがついてるからさ」なんて言っておいて、脆弱な肉体の人間を保護しながらナビゲートするという事がどういう事か、ちゃんと解ってなかった! まさか、こんなに簡単に死んでしまうなんて⋯⋯〕
あれ? 僕、また死んだの?
〔正確には、心肺停止状態から蘇生させた感じ。死亡確認なんか、怖くて出来なかった〕
そっか。蘇生させてくれてありがとう。起きられるようになったらちゃんとお礼言うから、もう少し寝かせてね。
〔いいよ、いいよ。ゆっくり寝て〕
そんな顔させてごめんね。次からはもっと慎重にするから⋯⋯
僕は、再び意識を手放した。
結局、僕は一週間ほど寝込んだ。
意識が戻ったのは3日後で、その後も5日ほどは、意識はあるものの、動くことは出来なかった。
「よく解らなかったんだけど、何があったの?」
〔ヘルハウンドの火の吐息をまともに浴びたんだ。太陽神の光熱を使った〘洗浄一閃〙は、ボク達神が使えば何でも一掃できるけど、君たち人間では効果値に上限があるんだね。火の勢いに負けて、火だるまになったところをひと噛みに⋯⋯〕
「も、もういいよ、なんとなく想像するのも痛そうな話だから。意識なくてよかった」
どうやら、僕はヘルハウンドの猛攻撃に負けて、食べられちゃうところをロスクラリスに助けられたみたいだった。
本当に、何度感謝してもしきれないほど、恩恵を受けてるんだな。
「でも、神さまが、一個人の生死に干渉して大丈夫なの? 神としての理を捻じ曲げた事で悪神に堕とされるとか、他の神さまに叱責されるとかない?」
〔大丈夫だよ。理から外れたと言うのなら、とっくに創造神や管理神の制裁を受けてるよ。
今は、君を依り代としてこの現世で活動しているんだから、君を守ることは自分を守ることだもの〕
本当に、そうならいいけど。
「僕のために無理はしないでね?」
〔もちろんだよ。神として許容される範囲は越えないようにするさ〕
自分達から望んでそうなった訳じゃないけど、ロスクラリスと同調している僕らは、運命共同体。
神さまだからこそ、この世界での行動に制約のあるだろうロスクラリスのためにも、もっと僕がしっかりしないと。
〔そんなに気負わなくていいよ。君は君のしたい通りに生きていいんだ。君の人生を、誰にも、勝手にされていいはずはないんだ。
仲間なら協力し合って探索するんだから、分け前は平等であるべきだし、まして、生贄にしていいはずもない。
君はもっと怒っていいし、神の言う言葉じゃないけど、それこそ復讐したいって思ってもいいんじゃないの? 実行するかどうかは別として、そう思うのが人間の普通でしょう?〕
ふふふ。僕より、ロスクラリスの方が怒ってるみたいだね。
僕は、まわりにはひとりもいない獣相のない人間だからって、みんなの顔色を見て、魔力も隠して生きて来た。
「でも、もう止める。両親がどんな人かはわからないけど、せっかく人間に生まれたのだもの。堂々と人間の人生を満喫するよ」
〔うん。ボクも、君を通じて、ヒトの感情や生き様を体験することが出来るから、嬉しいよ。手伝えることは少ないけど、ずっとそばにいるから、長い人生を楽しんでね〕
神さまに比べたら、瞬きするほどの時間だろうけどね。
ロスクラリスに見守られながら、暫くはダンジョンの最下層の隠し部屋で安静に過ごした。
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