死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する

オカさん

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生徒会

55話 彼女との契約

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「……突然立ち上がってどうしたんですか?」

 立ち上がった理由を尋ねる彼女だが、状況を理解出来ていないはずが無い。
 彼女が分からないふりをするのはただひとつ、俺の行動に確信が持てないからだ。

「もう一度聞きます。貴族制を廃止する理由を教えてください」

「先程も申し上げましたが、ここから先は王国の闇の部分です。それを知りたいということはその闇と戦う覚悟があるという認識でよろしいのですか?」

 口では物騒なことを言っているが、表情は軽い笑みを浮かべたまま。

「戦う覚悟なんてありません。俺はただ貴方がどんな革命を起こすのか知っておきたいだけです」

「……そうですか、では貴方に教える事は何もありま――――」

「いいや貴方に拒否権は無い」

 俺は廊下に人気が無いのを確認してから彼女に接近し、短剣を首元に突きつけた。

「これはいったい……」

 それでも彼女は表情を変えず笑みを浮かべ続ける。
 危機感がないのか、俺を舐めているのか、理由はどうあれ時間は掛けていられない。

「いつまでとぼけているんだ、痛い思いをする前にさっさと答えろ」

 俺は高圧的な口調で彼女を脅す。
 王族相手にこの物言いは完全にアウト。告げ口されれば、明日にでも断頭台に連れて行かれそうだが、そんな事は絶対にない。
 
「……手荒な真似は勘弁してくれませんか?」

 何故ならおれも彼女の弱みを握っているからだ。
 貴族制廃止を目論もくろんでいる事が知られれば、全ての貴族を敵に回すことは確実。
 勿論、平民の戯言ざれごとと思われる可能性もあるが、少数の貴族は彼女の目的に勘付いている、もしくは疑っている可能性は高い。
 仮に告げ口されて捕まったとしても、『貴族制廃止なんて馬鹿げた計画を止めたかった』と言ってしまえば死刑に掛けられることは無いだろう。
 少なくともこの状況では俺の言う事を聞くしかないのだ。

「手荒な真似は俺だってしたくない。素直に答えてくれれば王城おうちに帰れますから」

「素直に、ですか……信じられませんね、答えた後で殺される可能性もあります」

「約束は必ず守ります。しかし答えてくれないのなら身の安全は保障出来ませんがね……」

 刃先が首に触れられる距離まで短剣を近づける。
 決定権が無い状況に、余裕の笑みを浮かべていた彼女も困り果てた顔を見せる。

「確かに、そちらのほうが利口ですね」

 ようやく話す気になったようだ。
 暴力を用いなかったことに安心を覚えると彼女は制服の襟紐えりひもを解き始める。
 深刻な話だから窮屈きゅうくつな制服は息が詰まる、とおかしな解釈かいしゃくをして追求はしなかった。
 彼女は続いてブレザーを脱ぎ、白のワイシャツ姿を露わにする。

「では話を――――」

 シャツ越しから下着が透けていたため、彼女から一瞬だけ視線を外す。
 再び視線を戻した時にはワイシャツの脱いで白い素肌と下着姿を晒していた。

「な、何してんだあんた⁉」

 都合よく解釈はしたがそこまで脱ぐとは予想しておらず、声を荒げてしまう。

殿方とのがたを目の前にこんな姿を見せる理由なんて一つに決まっているでしょう?」

 女の子に言わせないでください、と言って顔を赤く染めた。

「俺はそんな事がしたくて脅したんじゃないぞ!」

 勘違いを正そうと口を動かすも不意に本音が出てしまう。
 彼女は俺の本音が聞けたことに満足したのか再び笑みを浮かべる。

「殺す気がないのは分かっていました。しかし依然いぜん貴方が有利なことに変わりはありません」

 そうだ、彼女の言う通りだ。
 手荒な手段を用いないと知られても俺が有利な立場であるのは変わらない。

 しかし脅しだとバレたし、どうやって彼女から聞き出そうか?

「……なにして――――」 

 聞き出す手段を模索する中、彼女は短剣を突きつけられている右腕を撫でた。
 その直後、右腕に電流が駆け巡り、彼女の首元に刃先が触れてしまう。

「――――あぶなァ!」

 咄嗟とっさに左手で右腕を押さえつけ、首から短剣を遠ざけた――――が、刃の軌道が左肩へ向き、彼女の身体を傷付けてしまう。

「ウッ……!」

「今すぐ回復薬ポーションを持ってきます!」

 深い傷ではないが、自然に血が止まるほどの軽傷ではない。
 生徒会室から出ようするも俺の手を掴んで離さなかった。

「……大丈夫です、ここに居てください」

「流石に逃げませんよ」

 怪我させた相手を放置できるほど俺も腐ってはいない。

「怪我のことは気にしないでください、仕向けたのは私なので」

「え……?」

「私は雷魔法を習得しているので人体に電流を流すくらいの事はできます」

「……そんな危険を冒して何がしたかったんです?」

 怪我を負わせて焦った俺の顔を見たかったとか?

「正直に話すまで解放してくれ無さそうだったので、怪我をさせて有耶無耶うやむやにしようと思いました」

「……嘘ですね」

 一理あるかもしれないが思惑おもわくは別にあるだろう。

「本当は交渉を有利に進めたかったんです」

「……交渉を有利に?」

 悠長に話しているがポタポタ血が垂れ続けていたため、止血できそうな布切れを探しながら彼女の声に耳を傾ける。

「お互いに弱みを握っている今、私が優位に立ち回るにはどうしたらいいかって考えたんです」

 その発言に背筋が凍るとともに胸の奥から焦りが生じた。

「……まさか!」

「形として残らない証言では相手を強請ゆするに少々心許こころもとないです。ですが形として残り、尚且なおかつ自分の手中に収められるものなら、格上を相手にも脅すことが出来ると思いませんか?」

 彼女は敵をあざむこうと仲間に作戦を伝えるようにおれに説明した。

 彼女は、カルティア=エンドリアスは脅している。
 自身の左肩の切り傷を見せれば、なにを主張しようと極刑に掛けられると……。 
 そしてそれはほぼ確実に起こってしまうだろうと混乱状態の俺でも理解できた。

「ッ……!」

「電流の動きは制御していたので計算通りの結果ですが、ここまで上手く行くとは思っていませんでしたよ」

「……本当に上手くいっているよ。俺の対応が間違っていたらあんたの首は飛んでいたんだぞ」

 一歩間違えば命を落とす状況だったにもかかわらず、成功を喜ぶ彼女には薄気味悪さすら感じた。

「確かに危険な賭けだったと思います。しかしその程度の運も無くして、王位継承二位の私が王の座に就くことは出来ませんから」

 真っ直ぐに見据える彼女の瞳には狂気さと同時に覚悟のようなものが伝わってくる。

「だからってそんな簡単に生死を他人に委ねるなんてまともな感性じゃ無いな……」

「ええ、それは同感です……」

 相槌あいづちを打つと俺たちの間に沈黙が訪れた。  

「……それで俺に何をさせたいんですか?」

 彼女の策にまんまと乗せられた俺は聞き出すのは諦め、話を進めることに決める。

「驚きました。てっきり逃げ出したり始末するのかと……」

「あんたの事だ、演習場の後片付けが終わったらここに来るよう役員たちに指示を出してんだろ?」

 それでは彼女を口封じしても真っ先に俺が疑われてお終いだ。

「ライタード君が諦めの早い人で助かりました」

「……良いから早く教えてください」

 あとで事の顛末てんまつをカルティアの口から聞かされるだろうが、この状況を役員たちに見られるのは厄介だ。
 さっさと王女様の命令を聞いて退散するのが合理的で、心労も少ない。
 
「その前にライタード君には認識を改めて欲しいのです。先ほど強請るとか脅すとか言いましたが、そんな主従関係を結ぼうとは考えていません。貴方とは友好的な関係を築きたいと考えていますから」

「はいはい、で俺は何をすればいいんですか?」

 全く信用できなかった俺はぶっきらぼうに答える。

「約一か月後に控える魔導大会で個人総合ポイントで一位を取った際には、何でもひとつだけ命令に従いましょう」

「……何でもひとつ、例えば何ですか?」

「貴族制廃止の理由でも良いですし、私が行える範囲であれば国家権力の行使でも、この肉体でも好きにしてください」

 下着姿のまま自身の大きな胸に手を当てて平然とした様子で答える。

 この王女様は自分が何を言っているのか分かっているのかな?

「……では逆におれが魔導大会で一位を取れなければ、カルティア先輩の命令に従うということですか?」

「その通りです。やりますか?」

 色々突っ込みたいところはあったが、交渉内容自体は悪くない。
 魔導大会の個人ポイント総合一位がどれほどの難易度かは分からないが、昨年のテイバンも八位くらいだったそうだし、割と簡単に達成ではある。

「どのみち今の俺に拒否権は無いので」

「賭けは成立ですね。不本意な形ではあると思いますが、お互いに頑張りましょう」

 契約成立と言わんばかりに握手を求められ、仕方なく応じた。

「では話は済んだのでお帰りになって結構です」

「じゃあおいとましま――――回復薬ポーションだけでも持ってきますよ?」

 ごく自然な形で治療の協力を申し出る。

「血は止まっていますので心配はご無用です。それに治癒ちゆしてしまったら契約を破棄するでしょう?」

「……そんな事はしませんよ。純粋にカルティア先輩を心配しただけですから」

 油断しきった今ならと思ったが、思った以上に彼女の警戒心は硬いようだ。

 俺たちは別れの言葉を交わして生徒会室を後にした。

 ***

「はぁ、最近は良い調子だったのにまんまとめれれた……」

 勝利を果たした帰路だというのに、晴れやかな気持ちで帰れなかった。
 交渉という形で公平性を保っているように見えるが、支配者は向こうであることに違いは無い。
 俺が賭けに勝っても第三者の強制力はない以上、無かった事にされる可能性もある。が、そこは『友好的な関係を築きたい』という彼女の言葉を信じるしかない。
 まあ彼女の豪胆ごうたんさと策を見抜けなかった俺の責任と言われればそれまでだ。
 あとは素直に魔導大会まで待つしかないな……。

「……しかしデカかったな」

 ふとカルティアの大きな胸を思い出した。
 特に好みの胸の大きさは無いが、人並みにあるほうが良いし、大きいことに越したことはない。
 無論、彼女の真意を聞き出すのが最優先だが……もし、万が一、限りなく可能性は低いが事情が変わったら――――。

 彼女に下す命令を考えていると突然、南門のほうから大きな爆発音が聞こえる。 

「……ったく、今日は一体何なんだよ!」

 おれは苛立ちつつも状況を確認しようと南門へ走って行った。 
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