猫がいない世界に転生しました〜ただ猫が好きなだけ〜

白猫ケイ

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24 遭遇

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「やめろって! テレシア!」
「……あとちょっとだけぇ……」
「ばっ! どこ触ってるんだ!」

 ギシッギシッとベッドが軋む。
 もこもこともつれ合う2つの身体ーー
 バッとレオンがベッドから飛び出した。

「折角今日はネラがいないのに~!」
「だからこそだろ! 俺は従者として朝やることが色々あるんだ!」

 ひょこりとベッドから身を起こして不満を口にすれば、尻尾をたぬきのように膨らませ真っ赤な顔をしたレオンが、怒りながら部屋から出ていった。

 目を開けるとレオンがベッドの中にいた。彼の背中から抱きしめるような形で。
 夢かと思って二人の間に挟まれた暖かくふわふわの尻尾を逆毛を立てるように撫でたり、また毛の流れを元に戻したり。
 そうやって堪能していたら起きろと引き剥がされ、もうちょっとだけ撫でさせて欲しいと頼んのが先程の話。
 どうやら寝ぼけて、レオンをベッドに引きずり込んだらしい。
 でもーー尻尾は中々触らせてもらえないんだもん!
 もっともふもふさせて欲しかった!


 ネラは、屋敷から連れてきたメイドだ。レオンだけでは講義への同行と私の身の回りのことと、色々ままならず、彼女には部屋のことをお願いしている。週末はお休みで、寮にはレオンと2人きりになる。



 私は12歳、レオンは15歳になった。



 制服ではなく比較的動きやすいシャツにパンツの乗馬服のような姿になり朝の支度を終える。私服姿のレオンを連れて寮内を歩けば、キャッキャッという囁き声と共に視線が刺さる。
 私の斜め後ろを歩く、レオンに。
 サラサラの黒髪がなびき、視線が合えば「どした?」と溶けそうに甘やかな笑顔で訪ねてきて、思わず顔が赤くなってしまう。
 本当に、カッコイイ。その顔は反則だってーー

 この6年で背がぐっと伸びたレオンは、可愛く綺麗だった美少年、から美しい男の人へと育ち、年頃の女の子たちから密かに人気を集めている。 
 獣人は一気に育つとは聞いていたが、ある日メキメキ背が伸び始めーーあの時は不思議だった。
 筍か! とツッコミを入れて周りから筍って何かと逆に突っ込まれた。


 学園を出て目深に帽子を被り馬車に乗り、若葉が輝く並木道を抜けると真っ白い建物についた。

「お待ちしていました、テレシア様」

 週末は神殿で、光魔法について教えてっもらっている。神殿長室へ着くと、べールを外した状態で待っていたカミーユ神殿長がキラキラした笑顔を向けてくる。私といるときは大抵、ベールを外していた。
 白い肌に一際目立つ赤い瞳。その瞳で見つめられると吸い込まれそうでベール被っててくださいと言いたい。
 1対1の指導ではこの大人の色気にあてられ耐えられない……
 いや、勉強にめげそうだからと、レオンも同席させてもらっている。
 治癒魔法は大分使えるようになり、まだ神殿長には及ばないが発動も早くなってきた。

 今日は神殿長の弟子として、服の上から神殿服に身を包み、べールを被って治癒に同行することになっている。
 レオンも見習いの服に尻尾を隠し、前髪の分け目を変えると白い帽子を目深に被り助手として共に行く。普段から、神殿長には神官や見習いが同行していてこの日もレオンの他に3人ついた。
 街の小神殿へ向かう途中、急に馬車が止まった。

「どうしました?」

 御者から返事があるより早く、馬の声とドアをノックする音が響く。

「第二騎士団のタイラーです。神殿長様、どうかお助けください!」

 ドアを開けると、馬に跨った第二騎士団の紋章の入った騎士がいた。

「どうなさいましたか?」
「この先の森で魔物の討伐をしておりましたところ、負傷者が……強力な治癒が必要です。急ぎご同行願えないでしょうか?」

 神殿長が御者に指示し、神官と見習い達の乗った馬車はそのまま小神殿へ、私達3人の乗った馬車は騎士の案内で急ぎ森へと向かう。

「申し訳ありませんテレシア様、レオン様。お二人のことは私がお守りしますので……」
「人命第一です。わたしも大分、魔法を使えるようになりましたので、微力ながらお役に立てましたら……」
「お二人ともすみません……剣を置いてきてしまいましてーー」

 神殿で不審に思われないように、レオンには剣を持たずに同行してもらっていた。
 何かあったら私が守る!

 ガタガタと急ぐ馬車に揺られながら森へと入ると、次第に血生臭い匂いが立ち込めてくる。

「あと少しです!」

 窓の外から騎士の緊迫した声が響き、手をギュッと握ると、隣に座るレオンがそっと手を重ねてきた。

「剣がなくてもこの身体が……! テレシアのことは、俺が守るーー」

 馬車から降りると、動ける騎士が負傷した騎士を手当をしていた。

「神殿長様! こちらです! 応援を頼んでいた公爵家の騎士の方々が……」
 公爵家と聞いて、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 そこには緑色の髪をした、耳の生えた人物が横たわり……

「マスカット! みんな!!!」

 私とレオンは思わず駆け寄る。どこまでが怪我なのか、返り血なのか、血まみれのマスカットを見て視界に涙が滲む。

「その声は……お嬢様!?」

 近くにいたグレープやドリアンが気付いて寄ってきた。かつて保護して前世の世界の果物の名前をつけた彼らは、背丈も大人程になり実力共に認められ、ポムエット公爵家の獣人騎士団として魔物討伐に行くことも少なくなかった。

 獣人かれらを騎士にできないかと、提案したのはこの私だ。
 その素早さからこれまで大きな怪我をすることもなかったけど、こんなことになるなんてーー。
 私のせいだーー

 はっはっと息が浅く早くなりかけたところにーー

「とにかく治療を!」

 神殿長が手をかざすと、無詠唱で即座に治癒魔法が発動する。
 深手を追っていたマスカットの外傷が瞬く間に消える。

「弟子よ、しっかりなさいーー! 」
「神殿長様、副団長が……! こちらもお願いします」

 神殿長の言葉にハッとした。

「取り乱し失礼しました。私は、大丈夫です。獣人騎士団の皆さんがいらっしゃいますしレオンもいます。近くのものに治癒魔法をかけますので、神殿長様もこちらはお気遣いなく」

 べールを被っているのでお互い表情はわからないが、カユミーユ神殿長はこくりと頷くと騎士と共に副団長のもとへと向かった。
「お嬢様、にレオンですよね? その格好は……? なぜこちらに?」
「お……お嬢様……来て、くださっ、あり……ございます」
「マスカット、助かってよかった……血を流しすぎました、喋らず安静にしていて。グレープ、話はあとです。今は名を呼ばず神殿長の弟子、レオンは見習いとして扱ってください。重症の方のところから案内を頼めますか」

「は、はいっ!」

 ハッと表情を引き締めたグレープの後をついて、怪我の度合いが重い騎士から治癒魔法をかけていく。四肢を欠損しているような人はいなくてよかった。まだ欠損の治癒はしたことがない。それにしてもーー

「一体何があったんですか?」
「……最近この森で強力な魔物を多数見かけるようになったと連絡を受け、第二騎士団と共に討伐へ来ておりました。本来なら治癒魔法師の同行を神殿へ依頼するべきでしたが、昨今王都から離れた地域で魔物被害が相次ぎ、国民の治癒もありますし人手が足りず……。第二騎士団と獣人騎士団がいれば事足りるであろうと、おごった結果がこのザマです。神殿長様の日程を把握しておりまして、望みをかけ……おじょ……神殿長のお弟子様には、大変ご迷惑をおかけし申し訳ございません。いらしていただき、助かりました」

 グレープは悔しそうに下を向き、拳を握りしめた。王国の第二騎士団に加えて獣人騎士団まで、ここまでやられることがあるなんてーー

「いえ……偶然こちらの近くの小神殿へ向かっていて、間に合って本当によかったです」

 次々と騎士、獣人騎士数名に治癒をかけたところで、神殿長と合流した。

「重症者の治療は粗方完了しました。後は動かせる状態のものばかりですので、直ちにここから避難しましょう。またいつ魔物が襲ってくるかわかりません」

 騎士たちもレオンも、バタバタと負傷者を運ぶ準備をしている。

「ええ。私達も急いでーー」

ーーキェェェェェェェェェェーー

 突如、耳を劈くような咆哮が聞こえた。

「な、なんだあれはッ!」


 ドシン、ドシン、という地響きと共に、木ほど背丈のある大型の魔物が現れたーー。
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