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1【肉じゃが】

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「山田~、お前成績どうだった?」
「オール3。」
「よっ!流石ミスター平凡!」
「そういうお前はどうなんだ?」
「そりゃもうオール2よ!」
「そりゃやべえだろ常識的に。」

俺は山田太郎、どこにでもいそうな名前のどこにでもいる高校生だ。趣味は料理と釣り。苦手なものは幽霊とお金。理由はお金が絡むと余計なことがないからだ。
で、こいつは坂口輝さかぐちあきら。一言で言うと【アホ】だ。

「それより山田知ってるか?」
「なんだよ、またコンビニで可愛い店員見つけたとかか?それならもういいぞ。」
「ちがうちがう!実はな・・あのイギリスの有名な金持ちアダムズ家のお嬢様、エミリー嬢が日本に留学するらしいぜ!しかも長期の!」
「それがどうした。」
「だってあのエミリー嬢だぜ?世界一の美少女と言われる俺のタイプど直球のあのエミリー嬢だぜ?」
「知らないこともないが興味がない。それに日本留学とは言っても俺たちとは絶対会うことはないだろうし関係ないだろ。それといつまで付いて来る気だ?あと少しで俺の家なんだが。」
「うぉ!?まじか!もうここまで来ちまってたぜ!じゃあまた明日な!」
「おう。」

挨拶をすると坂口は夕日の方向に走っていった。あいつ青春してんな。

「さてと、今日の晩御飯は・・肉が余ってるし肉じゃがにするか。」

そんなことを考えながら俺も家に向かう。俺の家は父親は仕事で長い間家にいなく、母親は料理ができないので俺が料理をしている。あいにく、兄弟もいないので一軒家に母と二人暮らしだ。家賃や生活費は親父が仕送りしてくれるので困ったことはない。

「ただいま。」
「あらおかえり、そういえば何かあなた宛に届いていたけど大きいし邪魔だからあなたの部屋に運んでおいたわよ。とは言ってもあれ、重くて運ぶの大変だったんだから。感謝してよね~。」
「いや、まず俺何も頼んでないし。親父からなんか届いたんじゃないか?」
「もういいわよ。また運ぶの面倒だし。中に入ってるものあなたにあげるわ。どちらにせよ、あなた宛なんだし。」
「はぁ・・わかったよ。」

そういうと俺はそそくさと階段を上がる。うちの母はいつもソファに寝転びせんべいを食べながらテレビを見ている。だが、一応家事はしてくれるのでいつもサボってるわけではない。ちなみになぜか美人だ。
そして二階の一番端にある自分の部屋のドアを開けると、そこには長方形の大きなダンボールがあった。

「それにしても、でかいなこれ。しかも」

少し移動させようと持ち上げてみるがかなり重い。これ、母さんはどうやって運んだんだ。そういえば昔一回トラックを手で動かしてたっけ、もう怒らせてはいけないな・・。

「とりあえず開けてみるか。開けないと何かわからないし。」

机からカッターを取り出しガムテープを切り開けてみる。すると中に入ってたのはテレビでもなく生活用品でもなく、

「寝ているお、女の子・・だと・・。しかもめちゃくちゃ可愛いじゃないか・・。」

その容姿はまさに美少女。しかし一目見てわかることがひとつ、この女の子は日本人じゃない。それってつまり・・

「ゆう・・かい?」

(やべぇってこれ!明らかになんかの事件でしょこれ!じゃなきゃダンボールに女の子が入ってるなんてことがあるはずない!しかも外国の女の子となるともしや人身売買で売られて俺の家に・・とりあえず警察だ!警察!)

「いや待てよ・・この時点で警察に言ったら俺が誘拐犯になるんじゃないか?それは非常にまずい!一体どうすれば・・」
「あの、」
(ん?今女の子の声が聞こえたような?)
「あの、ここはどこですか?」

【・・・・】

「違うんだ!俺は断じて君を誘拐したわけじゃ!俺の部屋を開いたらダンボールがあって、それを開いたら君だったってだけで!」
「いえ、その、実は私、今日からあなたの家でホームステイすることになって。そうしたらこのダンボールに入っていてとこの家の女性に言われて、それで知らない間にここにいて・・。」

はかりやがったなぁぁあ!こんなことするなんてなんてひどい母親なんだ!今頃さぞ笑ってるんだろうなぁ!クソォ!

「と、とりあえず君の名前を聞いていいかな?」
「えっと、私の名前は・・エミリー・アダムズといいます。気軽にエミと呼んでください。」
「・・・え?それ、本当マジですか?」
「はい、本当です。」

・・・とりあえずあの母さんやろうを問い詰める必要があるな♪そして問い詰めた後に肉じゃがに身を捧げてもらうことにしよう♪

「あの、失礼ですが、貴方の名前は?」
「ああ、ごめん。俺の名前は山田太郎。この家に住んでいる女性の息子だ。」
「太郎さん、ですね。ちなみにお母様の名前は?」
「ああ、母さんの名前は山田麻里まりだ。」
「山田麻里さんですね。ありがとうございます。あの、それでなんですが・・」

その言葉の後に少しエミリーは少し顔を赤くして、

「ご飯、頂いてもいいでしょうか?お昼何も食べてないんです。」

か、可愛い・・改めて見てみると、流石世界一の美少女といったところか、自分の部屋が可哀想になる程の可愛さだ。

「ああ、もちろん。あと、敬語使わなくてもいいよ。」
「いえ、それは私が使いたいので。実は私、日本語があまり得意じゃないので敬語の方が喋りやすいんです。」
「なるほど、じゃあリビング行こうか。あまりこの場所にいてもらうと俺が恥ずかしいからさ。」
「あっそうですね!早く行きましょうか!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「仲良くやってる?太郎?」
「そのニヤニヤ顔やめてくれないか母さん。少し気持ち悪い。」
「もう、二階から降りてきたらすぐこれよ。酷いわね~。」

学校から帰ってきてすぐ部屋に美少女がいた時の心情を考えてくれ・・。

「あの、太郎さん。私も料理お手伝いしたいんですけど。」
「いや、大丈夫。エミリーさんは疲れてるだろうからリビングで母さんと休んでて。」
「じゃあ料理してるところを見せてくれませんか?日本の料理、少し興味があるんです。」
「まぁ見るだけなら・・あまり大した腕じゃないけど。」
「腕?!日本は料理の具材に腕を使うんですか?!それはダメです太郎さん!」

するとエミリーが俺の腕にしがみついてくる。ちょっ!当たってる!胸当たってるって!

「いや!これはなんというか例えというか!だから離して!」
「あぅ・・すみません。騒いでしまって・・。」

母さん、そのニヤニヤしながらこちらを見るのをやめてくれ。なんかとてもうざい。

「じゃあ今日は肉じゃがを作っていくか。」
「にく・・じゃが?それはなんですか?」
「ああ、肉じゃがは基本的にはじゃがいもと牛肉、玉ねぎ、にんじんをみりん、醤油、砂糖で味付けし煮込んだ料理のことをいうんだ。お好みでいろんな具材を入れるんだけどね。」
「なるほど、なんだかビーフシチューの具材に似てますね。」
「お、鋭いね。実は肉じゃがは昔に東郷平八郎がイギリスに留学した際、ビーフシチューを気に入って日本で作らせたのが肉じゃがと言われてるんだ。」
「おお!すごいです!私の国と日本がこんなところで繋がるとは!なんだか運命を感じます!」

肉じゃがでそんなキラキラした目で見ないでください。それと母さんもニヤニヤしながらこっちみんな。

「そ、それじゃあ作っていこうか。」
「はい!よろしくお願いします!」
「まずはジャガイモを一口大に切って水にさらし水気を切る。そして玉ねぎをくし切り、にんじんを乱切り、牛肉は食べやすい大きさに切る。しらたきは一回茹でてから切るんだ。」
「なるほど。ちなみにしらたきはなんで茹でてから切るんですか?」
「それはしらたきを固める時に使う石灰を茹でて取る必要があるからなんだ。」
「なるほど、そんな重要な理由が・・」
「というか・・何そのメモ帳。」
「これはイギリスに帰った時にまた作れるようにするためです!」
「ああうん。いいと思うよ・・」

自分的にはしょうゆやみりんが手に入らないと思うのでビーフシチューでいいと思うが・・まぁ味が全く違うしこれはこれでいいのだろう。それに日本の料理が世界に広まるのは嬉しいことだ。

「次に鍋にサラダ油を敷き、玉ねぎを炒める。それから牛肉を入れてさらに炒め、最後に残りのものを全て入れて炒めるんだ。」
「少しいい匂いがしてきましたね!」
「ああ、そしてここにカツオ出汁を注ぎ、沸騰したらアクをとり、しょうゆ、みりん、砂糖を加えて落し蓋をする。そして弱火で18分ほど煮るんだ。」
「落し蓋はただの蓋と何が違うのですか?」
「落し蓋は普通の蓋に比べて少ない煮汁でもムラなく煮ることができるんだ。さらに熱効率も非常によく、荷崩れや素材の匂いがこもるのも防いでくれるんだ。」
「では、なんでただの蓋はあるんですか?それだったら全ての料理に落し蓋を使えばいいのではないですか?」
「ただの蓋は完全に塞ぐことで蓋との間の空間全てに熱が行き届くんだ。だから火が通りやすいんだよ。だから例えば目玉焼きとかでは落し蓋はあまり意味がないんだ。落し蓋は味をつけるのが目的だからね。」
「太郎さんはすごいです!料理について色々なことを知っているんですね!」
「そんなにすごくないよ。案外知ってる人は多いし。ね、母さん?」

【ビクッ】

「え、ええそうね!常識よ常識!」

(太郎私が料理できないの知っててわざと・・!)
(さっきの仕返しだ!悔しかったら料理できるようになるんだな!)

「そして時間が経ったら・・はい、完成!」
「うわぁ!いい匂いです!イギリスにはない香りですね!」
「で、あとは盛り付けてと・・エミリーさん、これ、運んでもらってもいい?」
「もちろんです!あと、私のことは気軽にエミと呼んでください!」
「いいのか?今日会ったばっかりだし。」
「はい!大丈夫です!」
「じゃあエミ。これ運んでくれ。」
「はい!まかせてください!」

守りたい!その笑顔!なんて美しい笑顔なんだ!母さんの笑顔とは比べ物にならないや!

「それじゃ、頂きます。」
「イ、イタダキマス。」
「頂きまーす。」

【パクッ】

「ん?エミ?どうして動かないんだ?もしかして口に合わなかったとか?」
「いえ・・違います・・ただ、こんな味初めてで・・感動して・・。」

ちょぉぉおお!泣かないで!なんで肉じゃがで泣くの?!せめてお寿司で泣いて?!

「仕方ないわよ、だって太郎の料理美味しんだもん。」
「いや・・だからと言って泣くほどじゃ・・」
「それにこの米というもの!パンとは違う美味しさです!できればお箸で食べたかったのですが・・」
「まぁ仕方ないよ。外国の人は確かお箸は使えない人がほとんどらしいし。」
「でも、本当に美味しいです!ってもうなくなっちゃった。では自分の分は片付けておきますね。」
「ああ、ありがとう。」
「ああそうだ。お風呂もう湧いてるからどちらか入っちゃいなさい。私は最後でいいわ。」
「じゃあ先エミ入りなよ。疲れてるだろうしエミの部屋の準備とかしたいから。」
「すみません。ではお言葉に甘えさせてもらいますね。」

そういうとエミは自分のバッグからバスタオルなどを取り出してリビングを出ていった。

「あ、そういえば忘れてたけど。」
「?なにが?」
「お風呂に貴方の部屋にあった薄い本置き忘れてしまったわ。しまった~。」
「!?」

マジかよ!?てかなんでお風呂場?!それよりも早く取りに行かないと・・エミに見られてしまう!

「え、エミ!入るぞ!」
「え?!」

【バンッ!!】

「「・・・・」」

「は、早く出ていってください!!」
「ご、ごめん!!!!」

終わったぁぁぁあ!俺の人生終わったぁぁぁあ!あの母さんやろう!はかりやがったな!!

そして結局、お風呂から上がってきたエミと気まずくなってしまい、仲直りしたのはまた別の話である。
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