90 / 138
第90話 不安を隠して微笑む
しおりを挟む隣国による貴族階級への工作が、国の予想を越えるペースで進んでしまっていたのだ。
ランシェル王子とその側近達の失態を晒してでも食い止めたかったのだろう。
むしろ彼等のサリーナを巡る醜聞を、今回の大捕物を成功させるための隠れ蓑に利用したとも言える。
(そうせざるを得ない事態だったとはいえ……陛下はこれから、第一王子殿下をどうなさるおつもりなのかしら……?)
シルヴィアーナは考え込む。
元々、国内でのランシェル王子の立場は磐石とはいえない。
現国王の王子は現在、公式には第一王子のランシェル殿下のみというのにである。
この国では、魔力が安定するといわれる十八歳で成人をむかえる。
それを鑑みると、まだ十七才の王子が正式に世継ぎだと公表されていなくても、決しておかしくはない。
しかし、伝統的に魔力の器の大きさ、そして保有魔力の質と高さが世継ぎの王子には求められており、帝国の姫君を母親に持つランシェル王子だと、純血の王族に劣っているのもまた、事実であった。
有力貴族の一部が強く反発しているのも、その為だ。
歴史こそ長いが強国とまでは言えないこの国の後継者とするには力不足ではないかと、不安視されているのだ。
周辺国への侵略を繰り返し大国へと急成長し、大陸の覇権を虎視眈々と狙う好戦的な隣国と、広大な領土から得られる潤沢な資源でもって圧倒的な軍事力を持つ帝国に挟まれて、身動きが取れない状態の国……それが、ハワード王国。
この国はとにかく、立地が悪すぎる。
そんな中でも生き残ってこれたのはひとえに、国王をはじめ、戦力となる強い魔力を持つ貴族が他国に比べて多かったからである。
国力増強のために国内貴族同士の婚姻が歓迎される一方で、他国の貴族との婚姻は王の許可がなければ許されなかった。
特に、国外へ嫁いでいく場合にはそれが顕著だった。
力ある者の流出が即、国力の低下に繋がるためだ。
(……このまま帝国に配慮して、予定通り立太子の儀を行うのでしょうか?)
国としては、ランシェル王子の不足分を、『癒しの聖女』と名高いシルヴィアーナを婚約者にすることで補う予定だった。
これには帝国の思惑も絡んでおり、二人が婚約破棄することは不可能だったと言ってもいい。
――そう、今までならば……。
(しっかりしなさい、シルヴィアーナ。願いが叶う時は、近いのよ……今夜を無事に乗り越える事さえできればきっと……)
想い人とは長らく連絡がとれず、反対派勢力の旗印にされてしまう可能性まであって心配事は尽きない。
シルヴィアーナの本当の目的を、共闘したダフネ達に黙っていなければならないことも心苦しい。
だがたとえ、親友と言えども軽々しく相談出来る類いのものではない、ということも分かっていた。
「さて皆様、反省はこのくらいにしておきません? せっかくですし、色々といただきましょうよ」
「そうですわね……では、少しだけ」
美味しそうな軽食の数々に、年相応の笑みがこぼれる友人達へ、同じように微笑みを返す。
泣き叫びたくなるような心細さを隠して……。
3
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる